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「おはよ。」
「ああ、おはよう。」
昨夜、預かった手紙と空になった容器を渡した後は、のんびりと湯船で温まって、そのまま眠りについた。
それこそ戻ってから祖父に出会ってはいないけど、きっと起きていたであろうというのに、こうして起き上がった足でそのまま庭に出てみれば、いつものように、それが当たり前だと盆栽と向き合っている。
そんな祖父の隣に並んで、自分の盆栽を眺めてみると、少し気になる事が有る。
「なんか、元気ない。」
「植え替えたばかりだからな。」
「えっと、もっと元気になるために、植え替えたんじゃ。」
「大きく変わる、それは人間じゃなくても、疲れる、そういう事なのだろうな。」
珍しく断定でも調べるでもなく、そんな事を祖父が言う。つまるところ、祖父もよく理由が分からないのだろう。それともそう言ったことを書いた本だったりがないのか。
「そっか。手を入れるのはやめたほうが良いのかな。」
「少し休ませたほうが良いだろう。」
「わかった。石とか、その辺を並べなおすだけにしておく。」
「ああ。」
そうして、いつものようにのんびりと手入れをする。これまでと比べて大きな鉢、家に置いてあるものはどうしたって小さな鉢になってしまうから、こうしてよりいろいろできる空間があるものを触るのは楽しい。
「これって、幹が太くなったりするのかな。」
「ああ。」
「そっか。」
どうやらそうなるらしい。だったらあまり詰めないほうが良いだろうと、程々に場所を開けながら苔の生えた石や、下ばえの草を入れ替えてみる。
どうにもこうしようと、その最終形を見失っている気はするけど。続けていれば見つかるかなと、楽観的に考えてひと段落付けて、ほかの物も手を入れていく。
「天体観測、楽しいか。」
そんな作業をしている中、ふと、祖父から珍しくそんな質問をされる。
「惑星を見るのはたのしかったかも。恒星は、うん、わざわざ望遠鏡使ってまでって、そんな感じ。」
「そうか。まぁそればかりはな。」
「じーさん、分かるの。」
僕の返しに何やら納得顔で頷く祖父に、質問を返す。
「昔な。興味本位に見たことはあるが、大きさ位しか変わらなかっただろう。」
「うん。」
「図鑑に載っているような、そう言った物が見えるかと期待してしまったからな。」
「そっか。僕も。」
「ただ惑星は図鑑で見るのと同じような、細かく見えるから、なおのことな。」
どうやら、それは祖父の失敗談、のようなものらしい。
そう言って話す祖父は何処か寂しげでもある。
「なんか、道具は進歩してるって聞いたけど。」
「限界はある。だからこそ電波式、そんなモノが作られたのだろうが。」
「えっと、色々種類があるんだっけ。」
「ああ、興味があれば調べてみるといい。」
どうやらそこから先はいつもの通りらしい。ならばと、僕も話題を変える。
「今日は星雲だっけ、それを見せてくれるって。」
「そうか。双眼鏡でも、銀河くらいは見えたはずだが。」
「え、そうなんだ。」
「ああ、何だったかな。前に秋ごろに見れると、そんな事を聞いた覚えがある。」
どこかはっきりしない知識であるらしい。とすると僕に星の名前や星座の名前を教えてくれたのがそうであったように、祖父も祖母から話を聞いただけなのかもしれない。
そして、祖父も僕と同じように結局あまり興味を持てなかったのかもしれない。
「僕はこっちのほうが好きかな。」
「そうか。」
「うん。はっきりと全部わかるし、こうやって自分の好きにできるし。」
そう言いながら、僕は鉢の中の石をああでもないこうでもないと、動かす。
「それに、思い通りにいかないのも楽しいよね。」
「ああ。」
そう、枝が何処からどんなふうに、それは実際にはえてみないと分からない。そしてその機会は一年に一回。そんな不自由と、好きに伸びるまるで違うこうなりたいと、そうい言っているかのような振る舞いが、なんだか見ていてとても楽しい。
こうしてちょっとした違いが日々出ているのも、見ていて飽きない。うっかり家に持って帰った鉢をベランダに置いておいて、学校から帰った時に葉が少し枯れていたのも、今となっては良い思い出だ。閉じは少し落ち込んだけど。
「今日はどうする。他のも移し替えるか。」
「えっと、こっちのは大きく育ててみたいかな。」
僕はそういって枝を曲げるくらいで、幹にはまったく手を入れてない物を指す。それを見て祖父は少し観察するようにした後、頷いてから提案をしてくれる。
「どうする。大きのにするか。」
「そのほうが良いの。」
「まっすぐ伸ばすならな。」
「そっか、でもまずは順番でいいかな。」
祖父の提案には、少し考えてそう答える。
いきなり大きい鉢植えにしてしまうと、どうにも全体でこうしよう、そんな事を思いつける気がしない。だから今はとりあえず、ちょっとずつでいいかなとそんな風に応える。
「そうか。」
「うん。」
そこでふと気になって聞いてみる。
「庭に植えたりは。」
「庭はないが山には数本植えたのがある。」
「あ、そうなんだ。」
「ああ、庭に一本だけというのもな。」
「そっか。」
祖父もどうやら一度は考えて、やめておいたらしい。確かに今はどの植物も垣根の高さを超えるようなものは、祖父の大きな鉢植えを覗いてない。そんななか、高く伸びるものが一つだけ、そうなったらバランスが悪いとそう考えたのだろう。
そうして祖父と珍しく、少しか岩の多い時間を過ごせば祖母に呼ばれる。
「ああ、おはよう。」
昨夜、預かった手紙と空になった容器を渡した後は、のんびりと湯船で温まって、そのまま眠りについた。
それこそ戻ってから祖父に出会ってはいないけど、きっと起きていたであろうというのに、こうして起き上がった足でそのまま庭に出てみれば、いつものように、それが当たり前だと盆栽と向き合っている。
そんな祖父の隣に並んで、自分の盆栽を眺めてみると、少し気になる事が有る。
「なんか、元気ない。」
「植え替えたばかりだからな。」
「えっと、もっと元気になるために、植え替えたんじゃ。」
「大きく変わる、それは人間じゃなくても、疲れる、そういう事なのだろうな。」
珍しく断定でも調べるでもなく、そんな事を祖父が言う。つまるところ、祖父もよく理由が分からないのだろう。それともそう言ったことを書いた本だったりがないのか。
「そっか。手を入れるのはやめたほうが良いのかな。」
「少し休ませたほうが良いだろう。」
「わかった。石とか、その辺を並べなおすだけにしておく。」
「ああ。」
そうして、いつものようにのんびりと手入れをする。これまでと比べて大きな鉢、家に置いてあるものはどうしたって小さな鉢になってしまうから、こうしてよりいろいろできる空間があるものを触るのは楽しい。
「これって、幹が太くなったりするのかな。」
「ああ。」
「そっか。」
どうやらそうなるらしい。だったらあまり詰めないほうが良いだろうと、程々に場所を開けながら苔の生えた石や、下ばえの草を入れ替えてみる。
どうにもこうしようと、その最終形を見失っている気はするけど。続けていれば見つかるかなと、楽観的に考えてひと段落付けて、ほかの物も手を入れていく。
「天体観測、楽しいか。」
そんな作業をしている中、ふと、祖父から珍しくそんな質問をされる。
「惑星を見るのはたのしかったかも。恒星は、うん、わざわざ望遠鏡使ってまでって、そんな感じ。」
「そうか。まぁそればかりはな。」
「じーさん、分かるの。」
僕の返しに何やら納得顔で頷く祖父に、質問を返す。
「昔な。興味本位に見たことはあるが、大きさ位しか変わらなかっただろう。」
「うん。」
「図鑑に載っているような、そう言った物が見えるかと期待してしまったからな。」
「そっか。僕も。」
「ただ惑星は図鑑で見るのと同じような、細かく見えるから、なおのことな。」
どうやら、それは祖父の失敗談、のようなものらしい。
そう言って話す祖父は何処か寂しげでもある。
「なんか、道具は進歩してるって聞いたけど。」
「限界はある。だからこそ電波式、そんなモノが作られたのだろうが。」
「えっと、色々種類があるんだっけ。」
「ああ、興味があれば調べてみるといい。」
どうやらそこから先はいつもの通りらしい。ならばと、僕も話題を変える。
「今日は星雲だっけ、それを見せてくれるって。」
「そうか。双眼鏡でも、銀河くらいは見えたはずだが。」
「え、そうなんだ。」
「ああ、何だったかな。前に秋ごろに見れると、そんな事を聞いた覚えがある。」
どこかはっきりしない知識であるらしい。とすると僕に星の名前や星座の名前を教えてくれたのがそうであったように、祖父も祖母から話を聞いただけなのかもしれない。
そして、祖父も僕と同じように結局あまり興味を持てなかったのかもしれない。
「僕はこっちのほうが好きかな。」
「そうか。」
「うん。はっきりと全部わかるし、こうやって自分の好きにできるし。」
そう言いながら、僕は鉢の中の石をああでもないこうでもないと、動かす。
「それに、思い通りにいかないのも楽しいよね。」
「ああ。」
そう、枝が何処からどんなふうに、それは実際にはえてみないと分からない。そしてその機会は一年に一回。そんな不自由と、好きに伸びるまるで違うこうなりたいと、そうい言っているかのような振る舞いが、なんだか見ていてとても楽しい。
こうしてちょっとした違いが日々出ているのも、見ていて飽きない。うっかり家に持って帰った鉢をベランダに置いておいて、学校から帰った時に葉が少し枯れていたのも、今となっては良い思い出だ。閉じは少し落ち込んだけど。
「今日はどうする。他のも移し替えるか。」
「えっと、こっちのは大きく育ててみたいかな。」
僕はそういって枝を曲げるくらいで、幹にはまったく手を入れてない物を指す。それを見て祖父は少し観察するようにした後、頷いてから提案をしてくれる。
「どうする。大きのにするか。」
「そのほうが良いの。」
「まっすぐ伸ばすならな。」
「そっか、でもまずは順番でいいかな。」
祖父の提案には、少し考えてそう答える。
いきなり大きい鉢植えにしてしまうと、どうにも全体でこうしよう、そんな事を思いつける気がしない。だから今はとりあえず、ちょっとずつでいいかなとそんな風に応える。
「そうか。」
「うん。」
そこでふと気になって聞いてみる。
「庭に植えたりは。」
「庭はないが山には数本植えたのがある。」
「あ、そうなんだ。」
「ああ、庭に一本だけというのもな。」
「そっか。」
祖父もどうやら一度は考えて、やめておいたらしい。確かに今はどの植物も垣根の高さを超えるようなものは、祖父の大きな鉢植えを覗いてない。そんななか、高く伸びるものが一つだけ、そうなったらバランスが悪いとそう考えたのだろう。
そうして祖父と珍しく、少しか岩の多い時間を過ごせば祖母に呼ばれる。
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