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「あ、ごめんね、気が付かなくって。」
こちらが声をかければ、彼女は天体望遠鏡から、目を離さずに、こちらに言葉だけで返事を返してくる。
覗き込みながら、手物とのハンドルを握り、僅かに、注意してみれば分かる、それくらいの動かし方を続けているけれど。恐らく、何か調整をしているのだろう、それくらいしか分からない。
「ま、気にしないで。」
僕はそうとだけ答えて、いつも通りに、食べ物の入った容器だけおいて、後は多分いつもと同じ切り株、その上に自分の荷物を置いてから、ギターを取り出す。
曲はともかく、音階を望んだように弾く、その練習くらいはしておきたいから。
予想通り、彼女の姿がそこに在ったからだろうか。僕はなんだか方から重さが消えたような、そんな感覚を覚える。ないと、そんなことは考えていたけれど、やっぱり不安に思っていたり。そんな事が有ったのだろうか。
「準備、もう少しかかるよ。ごめんね。」
「いいよ。ゆっくりで。えっと、僕は別に急いでないし。」
彼女は僕が頼んだ星、それが見えるようにと、準備をしてくれているのだろう。
それが嬉しいような、申し訳ないような。そこまで興味があるわけでもないのだけれど。彼女としては、僕が興味を見せたのが嬉しいからと、そんな理由なんだろうか。
そうして、僕のために、それとも彼女自身、何か他に目的があるのか、準備をしてくれている後姿を見ながら、いつものようにギターを鳴らす。
毎回ケースにしまう前に弦を緩めているから、調律をまず簡単にして、それからナイロンで出来たその弦を弾く。
家ではいつもエレキ、特に対策しなくても、音が小さいからそっちばかりだけど、こうして普段と違う弦をはじいてみると、なんだか気分も変わってくる。
そんなことに、この2日間、気が付かなったのかと今更ながらに驚いてしまう。
始めて夜を、祖父母の家から出て過ごして、そこで初めて会う人と、お互いにお互いの事をする、そんな不思議はあるけど、場所を共有して。そっちにばかり、意識が向いていたのだろうか。初日はともかく、昨日に関しては、まぁ頭を悩ませることが、確かに他にあったけど。
「うん、大丈夫かな。はい、見えるようになったよ。」
少しばかり、ギターの練習を続けていると、急にこちらを振り返った彼女が、そんなことを言う。
正直、後姿をぼんやりと見ながら、ギターの練習をする。ついでにあれこれと考えながら。そんな状況が心地よくて、うっかり何故彼女が作業しているのかを忘れかけていた。
「あ、そうなんだ。」
そして、指先が少し冷えだしている、それを考えれば、どうやらそれなりの時間がたっていたのだろうと、気が付く。
「ごめんね。結構大変みたいで。」
「私も、まだ慣れてないから。大きい、えっと、距離が近いとか、惑星だね、そう言ったのは割と早く準備できるけど。」
「そうなんだ。意外と、不便なんだね。」
「うん。どうしても遠くのものを拡大するから、きちんと対象を捉えるのって、大変で。」
「顕微鏡みたいな。」
「えっと、私が知ってる範囲だと、基本は同じだけど、対象が発光しているのかどうかっていう違いがあるからね。」
ぱっと思いついた、似た面倒がありそうな、これまで自分が使った装置を挙げてみると、渋い顔でそんなことを言われる。
遠くのものと、近くの物、その位の差かと思えば、意外と仕組みの違いがあるのかもしれない。
「えっと、直ぐに覗いてみるかな。」
「もう少し、練習しようかなって。」
「じゃぁ、その時にまた行ってね、調整するから。」
その言葉に、僕は思わず首を捻る。一度設定が終わったのに、なんでまたと。
そんなこちらの様子に気が付いたのか、彼女が簡単に、恐らく簡単に説明してくれる。
「自転があるから、時間がたてば星も動いてしまうの。だからここの素通しで確認して、その都度変えなきゃいけないし、対象によって倍率の調整もいるから。」
「そっか、じゃぁ、今見ようかな。」
それでも何か面倒があることくらいは分かったので、とりあえずギターを置いてから彼女の側に行く。
大きな、それこそ三脚の上に載っているけど、一抱えもあるようなそれに顔を近づけようとして、その前に聞こうと彼女に話しかける。
「えっと、春の一等星って。」
「あ、そうだね。そっちの説明が先だったね。」
そういって、彼女が僕の隣に立って、指をさす方向を見る。
そのあたりだと、星座としてはおとめ座がある位置だろうか。
「そのあたりって、おとめ座だったっけ。」
「うん、そうだよ。星座の形は覚えてる。」
「えっと、なんだかこう、イカみたいな。」
「身もふたもないけど、言いたいことは分かるかな。」
ぼんやりとした記憶をさかのぼって、そんなことを言えば、少し吹き出した彼女が、そんなことを言って来る。
「えっと、そのイカみたいなの、その一番南側にある。細かく言うと南東かな。そこに在るあの、青白い、綺麗な星。」
「ああ、そっか、明るい星ってことだもんね。」
そうして、彼女に言われてみた先には、他の星よりも、文字通り一等明るく輝く星がある。
「そう、春の一等星、スピカ。それが、あれ。真珠星、なんて呼ばれたことも有るみたい。」
こちらが声をかければ、彼女は天体望遠鏡から、目を離さずに、こちらに言葉だけで返事を返してくる。
覗き込みながら、手物とのハンドルを握り、僅かに、注意してみれば分かる、それくらいの動かし方を続けているけれど。恐らく、何か調整をしているのだろう、それくらいしか分からない。
「ま、気にしないで。」
僕はそうとだけ答えて、いつも通りに、食べ物の入った容器だけおいて、後は多分いつもと同じ切り株、その上に自分の荷物を置いてから、ギターを取り出す。
曲はともかく、音階を望んだように弾く、その練習くらいはしておきたいから。
予想通り、彼女の姿がそこに在ったからだろうか。僕はなんだか方から重さが消えたような、そんな感覚を覚える。ないと、そんなことは考えていたけれど、やっぱり不安に思っていたり。そんな事が有ったのだろうか。
「準備、もう少しかかるよ。ごめんね。」
「いいよ。ゆっくりで。えっと、僕は別に急いでないし。」
彼女は僕が頼んだ星、それが見えるようにと、準備をしてくれているのだろう。
それが嬉しいような、申し訳ないような。そこまで興味があるわけでもないのだけれど。彼女としては、僕が興味を見せたのが嬉しいからと、そんな理由なんだろうか。
そうして、僕のために、それとも彼女自身、何か他に目的があるのか、準備をしてくれている後姿を見ながら、いつものようにギターを鳴らす。
毎回ケースにしまう前に弦を緩めているから、調律をまず簡単にして、それからナイロンで出来たその弦を弾く。
家ではいつもエレキ、特に対策しなくても、音が小さいからそっちばかりだけど、こうして普段と違う弦をはじいてみると、なんだか気分も変わってくる。
そんなことに、この2日間、気が付かなったのかと今更ながらに驚いてしまう。
始めて夜を、祖父母の家から出て過ごして、そこで初めて会う人と、お互いにお互いの事をする、そんな不思議はあるけど、場所を共有して。そっちにばかり、意識が向いていたのだろうか。初日はともかく、昨日に関しては、まぁ頭を悩ませることが、確かに他にあったけど。
「うん、大丈夫かな。はい、見えるようになったよ。」
少しばかり、ギターの練習を続けていると、急にこちらを振り返った彼女が、そんなことを言う。
正直、後姿をぼんやりと見ながら、ギターの練習をする。ついでにあれこれと考えながら。そんな状況が心地よくて、うっかり何故彼女が作業しているのかを忘れかけていた。
「あ、そうなんだ。」
そして、指先が少し冷えだしている、それを考えれば、どうやらそれなりの時間がたっていたのだろうと、気が付く。
「ごめんね。結構大変みたいで。」
「私も、まだ慣れてないから。大きい、えっと、距離が近いとか、惑星だね、そう言ったのは割と早く準備できるけど。」
「そうなんだ。意外と、不便なんだね。」
「うん。どうしても遠くのものを拡大するから、きちんと対象を捉えるのって、大変で。」
「顕微鏡みたいな。」
「えっと、私が知ってる範囲だと、基本は同じだけど、対象が発光しているのかどうかっていう違いがあるからね。」
ぱっと思いついた、似た面倒がありそうな、これまで自分が使った装置を挙げてみると、渋い顔でそんなことを言われる。
遠くのものと、近くの物、その位の差かと思えば、意外と仕組みの違いがあるのかもしれない。
「えっと、直ぐに覗いてみるかな。」
「もう少し、練習しようかなって。」
「じゃぁ、その時にまた行ってね、調整するから。」
その言葉に、僕は思わず首を捻る。一度設定が終わったのに、なんでまたと。
そんなこちらの様子に気が付いたのか、彼女が簡単に、恐らく簡単に説明してくれる。
「自転があるから、時間がたてば星も動いてしまうの。だからここの素通しで確認して、その都度変えなきゃいけないし、対象によって倍率の調整もいるから。」
「そっか、じゃぁ、今見ようかな。」
それでも何か面倒があることくらいは分かったので、とりあえずギターを置いてから彼女の側に行く。
大きな、それこそ三脚の上に載っているけど、一抱えもあるようなそれに顔を近づけようとして、その前に聞こうと彼女に話しかける。
「えっと、春の一等星って。」
「あ、そうだね。そっちの説明が先だったね。」
そういって、彼女が僕の隣に立って、指をさす方向を見る。
そのあたりだと、星座としてはおとめ座がある位置だろうか。
「そのあたりって、おとめ座だったっけ。」
「うん、そうだよ。星座の形は覚えてる。」
「えっと、なんだかこう、イカみたいな。」
「身もふたもないけど、言いたいことは分かるかな。」
ぼんやりとした記憶をさかのぼって、そんなことを言えば、少し吹き出した彼女が、そんなことを言って来る。
「えっと、そのイカみたいなの、その一番南側にある。細かく言うと南東かな。そこに在るあの、青白い、綺麗な星。」
「ああ、そっか、明るい星ってことだもんね。」
そうして、彼女に言われてみた先には、他の星よりも、文字通り一等明るく輝く星がある。
「そう、春の一等星、スピカ。それが、あれ。真珠星、なんて呼ばれたことも有るみたい。」
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