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翌朝、いつものように祖父と肩を並べてそれぞれの鉢に手を入れる。
そんな中で、起きたときには忘れていたが、ようやく話すべきことがあると、一通りの手入れが終わって、これから先どう育てていこうか、そんなことを考えている時に思い出す。
「そういえば。」
そう切り出せば、祖父も自分の鉢から目をそらさず、ただ頷いて聞く構えがあると示す。
「昨日、山の上で人に会ったよ。」
「ほう。」
祖父にしては珍しく、声に不思議そうな響きがあった。
「なんか、天体観測かな。それをするために大荷物持って、反対側から登ってきたんだって。」
「ああ、向こう側にも道はあるからな。だが、今はだれも住んでいない家があるばかりと思っていたが。」
「借りてるっていてたかな。」
「そういえば、空き家などを貸し出す、そんな話があったか。」
「一応私有地だって伝えてるけど。」
「構わんさ。ああ、だが名前と保護者の連絡先だけは聞いておきなさい。
何かあった時、連絡しなければいけないからな。」
「分かった。でも、ここに来て初めて誰かにあったかも。」
「今は年寄りばかりで、それぞれあまり家から出ることもないからな。それに移動はやはり車が多い。」
「へー。あまり車も見ないけど。」
「少し買い物に行くのも遠いからな。それこそ二週に一度、月に一度、その程度だ。」
「そっか。」
そうして、話は終わりとまた鉢に意識を戻す。
石や草、そういった物を少しあしらうだけで、随分と雰囲気が変わる。
ただ、いくつかの鉢は、やはり草よりも苔を使ってみたい、そんなことを考えてしまう。
また水場で、苔の生えた石を拾って移すか、今あるものから分けるか、さてどちらにしようか、そんなことを考えていると、もう一つ聞くべきことを思い出す。
「それと。」
「どうかしたか。」
「うん、ギターの音。」
「ああ、聞こえなかった。少しくらい聞こえればと思ったのだがな。」
「練習が十分、そう思ったらね。」
「そうか。」
「あと、苔、どうしようかな。」
「拾いに行くか。」
「こっちのを少し移してもいいかなって、でもそれだと少ないし。」
「育てて増やすか。」
「それもいいね。でも、昼から少し探してくる。」
そんな話をした後、朝食に呼ばれるまでは、特に会話もなく鉢植えと向かい合う。
数年前までは、針金を使ったりといった作業は、祖父の手助けが必要だったが、今となってはそれも一人で行える。
なかなか成長したものだと、そんなことを思いながら、鉢植えを観察すれば、最初に祖父からもらった盆栽。
今は置かれた石に腰かける様なその姿。前に来た時は、これで完成、等と思ったものだが、また少し伸びれば、やはりそれに合わせて手を入れたくなる。
そうして、観察しては、ああしてみようこうしてみようと触っていれば、祖母に呼ばれる。
その食事中、昨夜祖父に用事がと、そういう事を言ったからか、祖母からそのことを確認され、祖父が説明をする。
「珍しいこともあるもんね。天体観測、確かにここらあたりは明りもないし、よく見えるでしょう。」
「ばーさんは、好きなの。」
「特別これと言っては。あなたが前に見ていた図鑑を買って、確認するくらいですね。」
「ああ、あれ。」
「興味があるのか。」
「僕もばーさんと同じかな。わざわざ詳しく見たくはないかも。見上げるだけで十分綺麗だし。」
「そうでしょうね。なんにせよ、今日もいくなら風邪をひかないようにね。」
「分かった。」
祖父母の家は、あまり会話の多い家ではないため、特別話したのはそれくらいで、後は食事が終われば課題を片付け、昼からは、石や草を探しに歩き回る。
すっかり昼からの行動は習慣となっているし、ほとんど散歩のようなものだ。
それに何時からだったか、恐らく危険な場所の説明を終えたからか、祖父がついてくることもなくなった。
別に一緒に歩き回ってもいいかと、そうは思うけれど、なんだかんだこちらが気にしているのを察してくれたのか、一人でふらりふらりと、気の向くままに歩けるようにしてくれた、そう有難く思う事にしている。
少し間が空いたからか、少しづつ変わっていたように見えた物も、随分と背が伸びたり、泉の側に新しく枝分かれして水が流れる道とその先にまた、水が溜まる場所ができていたりと、色々と変わっている。
所によっては人の手が入ったと、僕が見て分かるような場所もあり、此処で暮らす祖父の息遣いもなんとなく感じられる。
途中、山へと昇る道に差し掛かり、さて頂上にいるだろうかと、そんなことを考え、登ってみようかとも考えたけれど、どうせ夜に合うからと、その考えは採用せずに散歩を続ける。
そして、落ちている石を拾って、鉢植えに置いたらと考えたり、この草を植えてみよう、そう思った物を名から掘り返したりと。本当に気ままに歩き回る。
そして、今回は面白い形をした枝を見つけ、それも拾って帰ることにした。
鉢植えに飾れば、面白そうだ、良く似合いそうだ。そんなことを考えながら、少し疲れを覚えるまで。
少しづつ変わっているけれど、遠目に見れば何も変わっていないように見える、そんな場所を歩き回った。
そんな中で、起きたときには忘れていたが、ようやく話すべきことがあると、一通りの手入れが終わって、これから先どう育てていこうか、そんなことを考えている時に思い出す。
「そういえば。」
そう切り出せば、祖父も自分の鉢から目をそらさず、ただ頷いて聞く構えがあると示す。
「昨日、山の上で人に会ったよ。」
「ほう。」
祖父にしては珍しく、声に不思議そうな響きがあった。
「なんか、天体観測かな。それをするために大荷物持って、反対側から登ってきたんだって。」
「ああ、向こう側にも道はあるからな。だが、今はだれも住んでいない家があるばかりと思っていたが。」
「借りてるっていてたかな。」
「そういえば、空き家などを貸し出す、そんな話があったか。」
「一応私有地だって伝えてるけど。」
「構わんさ。ああ、だが名前と保護者の連絡先だけは聞いておきなさい。
何かあった時、連絡しなければいけないからな。」
「分かった。でも、ここに来て初めて誰かにあったかも。」
「今は年寄りばかりで、それぞれあまり家から出ることもないからな。それに移動はやはり車が多い。」
「へー。あまり車も見ないけど。」
「少し買い物に行くのも遠いからな。それこそ二週に一度、月に一度、その程度だ。」
「そっか。」
そうして、話は終わりとまた鉢に意識を戻す。
石や草、そういった物を少しあしらうだけで、随分と雰囲気が変わる。
ただ、いくつかの鉢は、やはり草よりも苔を使ってみたい、そんなことを考えてしまう。
また水場で、苔の生えた石を拾って移すか、今あるものから分けるか、さてどちらにしようか、そんなことを考えていると、もう一つ聞くべきことを思い出す。
「それと。」
「どうかしたか。」
「うん、ギターの音。」
「ああ、聞こえなかった。少しくらい聞こえればと思ったのだがな。」
「練習が十分、そう思ったらね。」
「そうか。」
「あと、苔、どうしようかな。」
「拾いに行くか。」
「こっちのを少し移してもいいかなって、でもそれだと少ないし。」
「育てて増やすか。」
「それもいいね。でも、昼から少し探してくる。」
そんな話をした後、朝食に呼ばれるまでは、特に会話もなく鉢植えと向かい合う。
数年前までは、針金を使ったりといった作業は、祖父の手助けが必要だったが、今となってはそれも一人で行える。
なかなか成長したものだと、そんなことを思いながら、鉢植えを観察すれば、最初に祖父からもらった盆栽。
今は置かれた石に腰かける様なその姿。前に来た時は、これで完成、等と思ったものだが、また少し伸びれば、やはりそれに合わせて手を入れたくなる。
そうして、観察しては、ああしてみようこうしてみようと触っていれば、祖母に呼ばれる。
その食事中、昨夜祖父に用事がと、そういう事を言ったからか、祖母からそのことを確認され、祖父が説明をする。
「珍しいこともあるもんね。天体観測、確かにここらあたりは明りもないし、よく見えるでしょう。」
「ばーさんは、好きなの。」
「特別これと言っては。あなたが前に見ていた図鑑を買って、確認するくらいですね。」
「ああ、あれ。」
「興味があるのか。」
「僕もばーさんと同じかな。わざわざ詳しく見たくはないかも。見上げるだけで十分綺麗だし。」
「そうでしょうね。なんにせよ、今日もいくなら風邪をひかないようにね。」
「分かった。」
祖父母の家は、あまり会話の多い家ではないため、特別話したのはそれくらいで、後は食事が終われば課題を片付け、昼からは、石や草を探しに歩き回る。
すっかり昼からの行動は習慣となっているし、ほとんど散歩のようなものだ。
それに何時からだったか、恐らく危険な場所の説明を終えたからか、祖父がついてくることもなくなった。
別に一緒に歩き回ってもいいかと、そうは思うけれど、なんだかんだこちらが気にしているのを察してくれたのか、一人でふらりふらりと、気の向くままに歩けるようにしてくれた、そう有難く思う事にしている。
少し間が空いたからか、少しづつ変わっていたように見えた物も、随分と背が伸びたり、泉の側に新しく枝分かれして水が流れる道とその先にまた、水が溜まる場所ができていたりと、色々と変わっている。
所によっては人の手が入ったと、僕が見て分かるような場所もあり、此処で暮らす祖父の息遣いもなんとなく感じられる。
途中、山へと昇る道に差し掛かり、さて頂上にいるだろうかと、そんなことを考え、登ってみようかとも考えたけれど、どうせ夜に合うからと、その考えは採用せずに散歩を続ける。
そして、落ちている石を拾って、鉢植えに置いたらと考えたり、この草を植えてみよう、そう思った物を名から掘り返したりと。本当に気ままに歩き回る。
そして、今回は面白い形をした枝を見つけ、それも拾って帰ることにした。
鉢植えに飾れば、面白そうだ、良く似合いそうだ。そんなことを考えながら、少し疲れを覚えるまで。
少しづつ変わっているけれど、遠目に見れば何も変わっていないように見える、そんな場所を歩き回った。
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