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五味

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「さてさて、これで三人目。いやー楽しいですよね。」

暗闇の中から、こちらに。本当に楽しそうに、そんな事を言いながら夢乃さんが近づいてくる。それに、3人目。僕入れて。だとしたら既に二人。
探し物で気が付かなかったけど、何処かから、音も無く開く自動扉だ、他に繋がっていた場所から入ってきたのだろう。未だに刀以外見えていないけど、彼女にしてみれば、明るい場所にいる僕はよく見えているだろう。

「いや、ほら。さっき話したでしょ。色々と調べたいこともあるからさ。」
「さっき。話。何を言ってるか分かりませんね。」
「いや、だからさ。」

なんというか、とても話ができる気がしない。

「ルールとか、調べるって。そう話したでしょ。」
「いやいやおにーさん、何を言ってるんですか。ルールなら分かり切ってますよね。」

そうして話している間にも、夢乃さんの姿がようやく見える位置に来る。
制服姿、それは変わっていない。表情も、少し前に話していたときに楽し気に笑ったいた、その表情と同じ。
変わっているのは、まだらに赤黒く染まっている事。それだけだ。つまり、ここに来るまでに、既に二人、彼女は斬っている。
とにかくここから逃げるにしてもと、見つけたルールが書かれたカード、それだけはポケットに放り込んでおく。まだ、そこに何が書いてあるのかも確認できていないのに。

「ルールは簡単。ここにいるのは私が斬ってもいい、そんな相手。まぁ、うっかりすれば抵抗されて、逆になんてこともあるっぽいですけどね。」

そんな事を話しながら、夢乃さんはただそれが当たり前のようにこちらに近づいてくる。そこまでの間に、ローテーブルなんかもあったはず、僕が足を引っかけて転がった物とか、色々あるはずだというのに。暗くて見えないはずだというのに、まるでそれが分かっているように避けながら。

「さてさて、おにーさんはどんなエネミーですかね。」

そして、もう距離があまりない。
とにかく、素手で刀相手にどうこうできるはずもないんだ、そして彼女が受付カウンターの向こうにいる。ここから抜けようと思えば、彼女にまずは向かっていかなければいけない。

「なんで、こんなことを。」
「いやいや、なんでそんな事を聞くんですか。こういうゲームだから、それで遊ぶ。それだけでしょう。」
「ほんと。どうかしてるよ。」

とにかくまずは時間を。そう考えてスタッフ用の部屋に入る。とにかく、そこにある物を適当に倒して、バリケードに。彼女は小柄だし、見た目以上の力があっても、扉をふさいでしまえば、大丈夫だろうと、そう考えて。

「あー、逃げるんですかー。おにーさん、さては面倒なタイプの敵ですね。」
「敵じゃない。」

そう叫んで部屋に飛び込み、直ぐに扉を閉める。そして、そこは先に空けなかったことを公開するほどに、明るい空間だった。
非常灯とディスプレイの明り。流石にその明りだけで探し物をしていた、その状況から、急に明るくなると目がくらむ。直ぐに何かドアをふさげるものを探して、蓋をして、そうしなければいけないのに。

「えーっと、スタッフオンリー。通路が有ったら嫌ですねー。」

閉めた扉の向こう、くぐもった夢乃さんの声が先に追いかけて来る。その程度の厚みしか、この扉には無いらしい。ならすぐに。部屋では無く、何処かに繋がっているなら。そう考えて周りを見回せば、休憩室、のような物らしい。
机に椅子、そう言った物がいくつか置かれているし、ロッカーもある。そして、いま入って来た場所とは違うところに繋がる扉が。
ならすぐに、せめてロッカーを倒して、それから、そう思って、体を預けていた、扉から離れようとする。
目がくらんだのもあるけれど、外から内に開ける、そんな扉だったから、体重をかけて夢乃さんが開けられないように、そのつもりでもあった。
でも、今は体が何故か離れない。不思議に思って視線を下ろせば、見慣れない物がお腹のあたりから突きだしている。

「お、手ごたえありですね。んー、案外どんくさい感じですか、おにーさん。扉の前にまだいたんですね。」

お腹から突き出ているそれは、さっき見た、鉄色の長い棒。それに濃い赤の液体。そして、外からは、夢乃さんのそんな声。

「ま、好都合なんですけど。」

そして、それがそのまま、当たり前のように僕の体の横に抜けていく。

「なんで、こんな。」
「いやいやゲームですからね、そりゃこのくらいできますよ。」

僕はと言えば、そのまま、意味もないのに色々と溢れるその切り口を抑えて、そこに倒れ込む。口元にも、なんだか、こう生臭いものが上がってきている。いや、もう溢れてるのかもしれない。

「うーん、扉、空きませんね、じゃ、仕方ないですよねー。」

そんな言葉が聞こえたかと思えば、また衝撃が体に。

「お、また手ごたえありですね。まぁ、何回か繰り返せば、大丈夫でしょうし。その前に扉が切れて、通れるようになるかな。」

そんな、訳の分からない言葉をただ聞いている。それから数回、ぼんやりとした意識の中で、自分が扉をまな板に、切り刻まれる間隔を、遠い事のように体感する。
僕は一体なぜ彼女は大丈夫、そんな事を考えたんだろう。皆での話し合い、そこで、はっきりと二人おかしい人がいたじゃないか。
この、夢乃さんと、水之江さん。
だって、当たり前のように殺した、殺された、そう口にしていたじゃないか。こんなにはっきりと感触が、感覚があるというのに、あまりにも平然と。
人を殺して、それが当然、そんな相手を何故信じてしまったのだろう、僕は。
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