憧れの世界でもう一度

五味

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37章 新年に向けて

意識を変えて

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お茶を口に運びながら、そもそも同じ屋敷で暮らす者たちでもあるために、それぞれに用意されているお茶も違う上に、並べられるものもまさに様々。
かつての世界で、最も有名だったのはそれこそ英国におけるものなのだろう。
ティースタンド、下部にサンドイッチ、その上にスコーンなどの焼き菓子を並べるのだったであろうかと、その様な事をオユキは考えるものだが、今実際に行われているのはアフタヌーンティーではなく、食事も兼ねたハイティーに近い物。
セツナとアルノーを交えて、さらにはどこからともなく現れたヴィルヘルミナまでを交えて話し合った結果。此処までの間で、それぞれにオユキを観察した結果を共有しながらの話し合い。
さらには、トモエの時間、日々の事として、もしくはまとまった時間を使ったのだとしてオユキが口に運べるものをどのような形で、どの程度の量が用意できるのか。
そこまでを考えた上で、改めてこうした形にしてはどうかとして選ばれたのが、今まさに整えられているハイティー形式。
アフタヌーンティーとも違う。
かつての世界によく在ったような、ランチを兼ねたような形式。
言ってしまえば、食事と共にお茶を楽しむといった形。
トモエが用意するのは、軽食として数を並べる皿の内、半分にも到底届かないような数。
今回に関しては、事前に作って冷凍されていたガレットを温めなおして。さらには、薄く塗ったジャムをミルククリームで覆うようにして用意したヴィエノワをオユキでも食べやすく切り出して。勿論、きちんとアルノーの考える、トモエの考える栄養学という概念に従ったうえで、そうした甘味としてばかりではなくハムやベーコンといった苦手ではある物の、オユキがそれでも食べやすくと考えて用意されたものを軽いアクセントに。
セツナの言葉によれば、少なくともトモエの理解できた範囲では、氷の乙女と呼ばれる種族にとっては、常の状態では苦手とするものに関しても、長期保存を行うためにと加工されたものに関しては、そこまで苦手を覚えなくなるのだという話。特に、己の伴侶に選んだ相手、何やらそこに特別な共有を行うための目に見えない、だが確かにある経路が生まれるらしいのだが、そこをとって流れる物に関しては現状のオユキでも何ら苦も無く変換が、意識すらせずに変換を行えているという話でもある。
つまりは、セツナは積極的にトモエに対してオユキが口に運ぶものを用意せよと話。トモエ自身も確かにと考えながら。しかし、ファンタズマ子爵家の台所を預かるアルノーからはやんわりと拒否を。
ファンタズマ子爵家として、トモエが行うべき、行わねばならない業務、その筆頭でもある狩猟がある。オユキと時間をとらなければならないという、オユキの安定を図るためには尚の事重要な時間がある。
さらには、始まったばかりの闘技大会、そこで連覇をしたという現実から求められている些事が存在している。
そして、それらを行わないと言う事はオユキが喜ばない事でもある。
セツナをして、幼子は、オユキは度し難いと言われる所以がそうした部分。
側にトモエがあって欲しいと口では言うのに、トモエが己から離れて望みをかなえる事こそがオユキの望みでもある。オユキの側にあっては叶えられないのかと言われれば、実際のところそうでは無い。
こちらに来たばかりの頃には、勿論できている場面のほうが多かった。
今ある問題としては、ただただオユキが弱り果てている、それ以外の問題が無いというのも事実。
そして、こうして今の生活を享受するためには、必要なのかと言われれば、また考えなければいけないというのも大きいところではあるのだ。
精々変わることなど、借り受けている人員が増減するくらい。
結局のところ、オユキが巫女であるという事実は変わりないがために、周囲には必ず護衛が存在する。身の回りに侍女たちを置く必要が変わる事と、その場合は現状ファンタズマ子爵家というのが神国で出来上がってしまったためにエステールにそちらを渡す必要が出てくる。
そして、そうなってしまえば今のところセツナとの約束が子爵家に帰属しているがためにそちらに。
こうして、席を整えているアルノーにしても、同様に。
元より、トモエとオユキの手助けの為にと用意された人員でもあるため、エステールが子爵家の当主として、そこでトモエとオユキも暮らすことになるのだと考えれば今といよいよそこまで変わりもしない。

「オユキ様は、食卓での振る舞いにしても少し」
「一応、エステールから習ってはいるのですが」
「侍女たちから習えるものは、やはり貴族としての振る舞いですから。巫女に求められる振る舞いとは、また詳細が異なると申しましょうか。アイリス様も同様なのですが、こちらは祖霊を祀る役割に重きを置いていると言えば」
「私が祖霊様にというのなら、道具を使わないわよ」
「言われてみれば、三狐神は手づかみでとされていましたか」

流石にスープ類くらいはかの神にしても匙くらいは使っていたかと、トモエは考えながら口にしてみるのだが。

「祖霊様はそのまま器を掴むわよ」
「おや」
「どういえばいいのかしら、道具を使うとなると己の爪に、牙に自信が無いのかとそうした話にもなるのよ」
「相応に熱を持つ食材にしても、そういえば。木々と狩猟の柱にしても、基本としては」
「彼の女神が私たちの祖霊様の先にと言う事もある、そうは聞いているのだけれど私の祖霊様は、やっぱり戦と武技に連なっているわけでもあるし」
「狩猟の対象だと考えれば、相性が悪そうなものですが」

トモエも、少しくらいは会話に混ざるのだが、やはり主体として話すのは巫女の三人。
その中でも、ヴァレリーがオユキに、アイリスに巫女としての振る舞いを習うという話をしたこともあり、少し自信をつけたとでも言えばいいのだろうか、己にも優れたところがあるのだと自覚が出来たからか。
気兼ねなく、これまでの様に卑屈だと分かる振る舞いではなく、あくまで己は正しく巫女として遇される立場にあるのだという自覚が生まれた振る舞いとして。

「私は、あまりその様な振る舞いは」
「正直な所、私もね」
「お二方とも、教会における正式な所作に対して、思う所があると」

オユキにしても、きちんとトモエが手を加えている料理が存在するからだろうか、もしくはこれまでの様にどうしたところで己が少々苦手な料理が主役として置かれる場ではないからだろうか。
飲み物に手を伸ばす時間が、口をつける回数が増えている様子は見受けられるのだが、それ以上にきちんと食べ進めている。

「ですが、彼の神の素性を考えれば」
「確かに、奉る神に合わせた振る舞いをというのが、至上とされるには違いありません。ですが、私のこうした振る舞いに関してもこれまでの間に巫女と呼ばわれる先人たち、教会にて勤めを行う方々から連綿と繋がれてきたものなのです」
「そのあたりは、私も少し興味があるわね」
「そういえば、アイリスさんは、いえ、種族としての魔術でしたか」
「そうね。私の振る舞いに関しては、祖霊様との生活の中で身に付けた物もあれば、勿論部族の物も多くあるけれど」
「話を逸らしませぬ様に」

ヴァレリーから、他の者たちからも、特にこの邸宅の主でもある公爵夫人からも改めて要請を受ける形にトモエとエステールが整えたこともあり追及は実に容赦がない。

「ヴァレリー様にしても、降臨祭での舞についてはまだトモエさんから合格点が頂けていませんのに」
「それは別の時間での事です。今、為さねばならぬ事ではありません」
「それは、まぁ、そうね。それを言うのならば、私のほうでも少しはトモエにとも思うけれど、今度ばかりは別だものね」
「アイリスさんのほうでは、準備は整ったのでしょうか」

思い返してみれば、此処までの間に明確にそのあたりを訪ねた事は無かったなと、オユキは考えたために。

「私のほうはセラとイリアを主体としてナミエラとホメロスに任せているからそちらを聞くだけなのだけど」
「いよいよ知らぬ名前が後に並びましたが、そちらは置いておきますが、現地の確認にはいかれないのですか」
「祖霊様から、今度ばかりは私が手を出すなと言われているのよ。王都での事は、流石にこの地で長く暮らしている部族もいれば力ある者たちもいるからそちらに任せなさいと」
「表情から見るに、後に続く言葉もありそうなものですね」

何やら苦虫でもかみつぶしたかのような、それだけではすまぬというよりもまさに責任を取らねばならぬような立場に据えられているのだと、明確に表情が語っている。

「その、アイリスさんは、私が心配することでは無いのかもしれませんが」
「それもあって、こっちに逃げてきていたこともあるのだけれど、まぁ、最低限はと言う所かしら」

降臨祭が終われば、新年祭まではいよいよオユキと同じような状態になるだろうと、自嘲を混ぜてアイリスが。

「私と同じ状態というのは」
「いつもの事でしょう」
「いえ、そう言う事ではなく、私のほうでは今度は其処迄ならないようにと気を使って頂けているはずなのですが」

トモエにしても、何処か気配に鋭さを交えて周囲を探っている。
此処にいる者たちの中で、何やら良からぬk十を考えているものが居るのかと。オユキが、己の伴侶をほしいままにすることをトモエも、トモエこそは絶対に良しとしないのだとそれを散々に示してきたのだと、その自負があるからこそ改めて周囲に対して警戒を向けている。
そして、正面からトモエの圧を、オユキが疑いを向ける先として選んだ筆頭とでも言えばいいのだろうか、そうした猜疑の目を受ける事になったヴァレリーの表情が途端に悪くなっている。

「あら、貴女も降臨祭では表に出るのでしょう」
「ええ。もとより私は公に巫女として立つことを決めていますから」
「なら、分かるでしょうに。触れる目の数が増えれば、私たちにかかる負担は増えるのよ」
「それは、いえ、そういった理屈ですか」

降臨祭という催し、その名が示すままに。
オユキの認識としては、使徒がこちらにといった由来かと考えていた。実際に、そういった説明をどこかで受けたはずだと言う事は考えるのだが、あくまでそちらは切欠という事でもあるのだろう。
そもそも、使徒等と言うものの、それを保証する存在が必要になるには違いない。かつて、オユキが己の立場を疑われたときに、戦と武技の柱を頼った様に。

「あの、トモエさん、どうやら」
「私たちの勘違いというよりも、不理解が由来とはいえ」
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