憧れの世界でもう一度

五味

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37章 新年に向けて

本題は

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オユキとしては、既に考えているだろうと考えて。
若しくは、アベルとの間で決まっているのだろうとばかりに口にした言葉ではあった。
その結果は、口は禍の元という言葉を存分にオユキに知らしめる結果になったとでも言えばいいのだろう。
部族の姫としての立場を持っているとはいえ、神国からは間に必ずどこかしらの国を挟まなければならぬほどに距離のある国に住まう人物。武国とは隣接しているとはいえ、そもそも没交渉と見えるテトラポダから。
方や己の父親、母親に関しては言及が、紹介がない以上はこちらも間違いなく武国の公爵家であり、その上に位置する王族の血を間違いなく引いている人物。
互いに戦と武技の巫女を冠するというのならば、そこに違いはなく考慮に値するのはそうした背景のみ。
国からは、さて何と言われているのか。
アベルという人物は、間違いなくそれを優先するのだろうなと、実に不機嫌に用意された、優にオユキの前に用意された物の十倍近い量の肉を食い散らかしている獣の姿をオユキは眺めて。
苦手意識は、確かにあるのだが、それよりも今は明確に苦手な炎の気配にこそ、疲労を感じながら。
さらに悪い事に、トモエからは先ほどまでは随分と上機嫌な視線が送られているというのに、今となってはすっかりと冷え切っているのが尚の事オユキの心胆を寒からしめている。
思い返してみれば、オユキが実に無遠慮に少年たちの関係に手を加えようとしたところをトモエは止めたのだ。
ならば、こうした関係性に関してはやはりオユキよりも遥かに気が付くのがトモエであり、勿論今回にしても言いたい事もあるという物だろう。

「その、そちらに関しては、是非とも」
「是非も無いわよ」
「ええと、差し出口となったことは、一応謝罪をしますが」
「本題と言う事かしら。それも含めて、なのだけれど」
「陛下、いえ、王太子様に伺いをと言う事ですか」

含むと言われたところで、やはりオユキには色々とどうしようもない範囲の話ではあるのだからと、他の適役に早々に任せる形を模索する。
現国王陛下であれば、現状の武国の者達への処遇を合わせて考慮したうえで、隣国との関係を強化することを間違いなく選ぶことだろう。
だが、王太子に関しては、間違いなく己の妻の生国へ対しての影響という物を決して無視せずにアイリスを上に置けというのだろう。
他人のそうした感情について、一切理解の及ばぬオユキだからこそ、そうした理屈で考える手合いの判断というのが得意でもある。
だが、そのあたりを口に出すのは流石にトモエの視線も手伝って、飲み込んで。

「新年祭の事があるでしょう」
「演舞をそれまでにと言う事でしたら、私も習う身ですので」
「そっちじゃないわよ」

オユキが教えるわけではない。
それこそ、アイリスも含めて三人でトモエに習うのではないかと、首をわずかにかしげるオユキにアイリスは不愉快な話題を選んだオユキに対しての不満を、食事と共に多くを飲み込み。
そもそもが、オユキが間違いなく喜ぶだろう食事の用意に合わせて、アベルの評価を落とさぬ様にと小細工を弄しているのはお前だろうと。トモエの視線が、あまりにも明確に突き刺さっているからでもあるのだが。
残ったものは、一度深い溜息と共に吐き出したうえで。
そうしてみれば、オユキよりもやはり遥かにマナの扱いに馴染んだ相手でもある。
オユキにも感じられるほどの熱が、周囲の風景をゆがめていた陽炎が、ようやく収まりを見せる。

「テトラポダから、新年祭に合わせて、私の部族からも色々と来るのよ」
「意外、ですね」
「そう、なのですか」
「はい。アイリスさんは、いえ、こうして他国に足を向けている方々は少し違うのでしょうが、それでも皆様各々の祭祀という物を大事にされているようにお見受けしていましたから」
「間違いではないのだけれど、重要なのは降臨祭のほうなのよ」

前にも言わなかったかしらと、それを言外に。

「いえ、殊更重要視しているというお話は確かに伺いましたが、比較してと言う事は」
「そういえば、そうだったかしら。降臨祭に関しては、また私もこの王都に置いた社で少しやらなければいけない事もあるのよね」
「日数に幅はありますが」

そう、降臨祭にしても実のところもう明後日には始まることになっている。

「祖霊様から言われているのは、四日後から三日間ね。それまでの間に、私ももう少し力をためて置かなければ、いえ、それはいいのだけれど」

そして、アイリスの視線がそのままヴァレリアに。

「私といたしましても、武国で重要視されている四祭の一つである以上は」
「はて、そうしたことであれば、特に私とは関係のない事かと」
「その、つきましては、同郷の者たちに、祭りの間だけでも、恩赦を頂ければと」

一体、何をオユキに言い出すのかと疑問を感じていれば、成程、確かにそれはオユキに話さなければならない事ではあるだろう。
未だに、軟禁が続いている手合いたち。
さらには、念のためにとばかりに、定期的に水と癒しの神殿に連れ出して、汚染の有無を調べている等と言う話とてオユキは聞いている。
そして、汚染を受けていたものは一人だけであったのだという報告も。
その人物が主導を行い、それに同調した愚か者たちだという報告すらも。

「あの愚物どもであれば、祭りに合わせて武国へ送り返してしまえば良いのでは」

だからこそ、オユキからの応え等と言うのは、ヴァレリアの問いかけに対して何一つ斟酌するべきものが無いのだと示す物に。

「門の費用がと言う事でしたら、トモエさんと私でいかようにでもできそうではありますし」

人ひとり分でいくらか、確かにそうした決まりがあるというのはオユキも知っている。
だが、その程度といえるだけの能力とて、五十に満たない程度の相手を送りつけるくらいであれば、それこそあと数日もあれば十分に捻出できてしまう程度。
勿論、祭りまでの日を考えれば足りないのは事実。
調整にかかる手間を想えば、尚の事。
それを踏まえた上でも、オユキの元に届いている情報を確認している範囲であれば、金銭で方が付く程度。
他の子爵家であればいざ知らず、ファンタズマ子爵家であれば、もはやその十倍でも一度に捻出できる金額でしかない。
戻るというのであれば、追い返してもいいというのであれば、寧ろ喜んで負担をする心算があるのだと。

「その、オユキ様」

しかして、それはヴァレリアの求める物と違うのだと。

「謝罪を受けてと言う事であれば、少しは考えますが。いえ、これまで何度か頂いているのかもしれませんが、私の手元までに来ていない事を考えれば、推して知るべしと言う所なのでしょう」

そもそも、武国からの慮外者どもに対して、オユキはあまりにも明確に腹を立てている。
オユキに対しての非礼が問題ではないのだ、トモエに対しての非礼こそが問題なのだ。
トモエからも、それに関して許すなどという言葉は、一度たりとも出ていない。

「その、ヴァレリア様。まさかとは存じ上げますが」

オユキの視線が、アイリスからヴァレリアに流れる。
底冷えする色が、瞳に乗るだけではなく。先ほどまでの、トモエの手による料理を無邪気に喜んでいた時とはまた異なる、明確な冷気として。
万が一、ヴァレリアがこれ以上を、そのような愚物に対して配慮をしてくれといおうものならばと。
威嚇どころではなく、明確な脅迫と呼んでもいい圧をもって。

「オユキさん。送り返しても良いと言う事ですが、本当に」
「私は、その心算でいますが」
「いえ、でしたら、それをお伝えした方が良いのでは。ヴァレリア様にしても、入れ替えで身の回りに必要な人員を呼べるというのであれば」
「ああ、そちらに関する事、ですか。その、私からというのはなかなかに難しくはありますので、アベルさんに頼んで頂くか、いえ、勿論必要とあれば一筆認める事もやぶさかではありませんが」

トモエにしても、武国からの無法どもには容赦をする気が無い。
オユキをここまで不機嫌にさせている、それがただただ重たい。
こちらの者たちに対して、トモエは再三繰り返しているのだ。己の伴侶に対して、過剰な負荷を与えるようなものの一切を許す心算が無いのだと。
そして、武国からの者たちは、トモエというあまりにも分かり易い実績を持つ人間に対して挑発を行った。
それが、どれほどオユキの心をかき乱すかも知らずに。
それこそ、トモエだけの場で事を行ってくれたのならば、未だ色々とやりようはあったのだ。

「確かに、私たちの元に近寄らぬ様にと頼んだ記憶はあれど、本国への強制送還の依頼は出していませんでしたね」
「オユキさん、側に寄せない、側に置かないという事には」
「過去の世界では、出国命令でしたか、それに関しても明確に法制度などがありましたから、こちらでは同案緒でしょうか。それこそ、法と裁きの管轄かとは思うのですが」

オユキが、改めて着々と武国からの無法どもを本国へ強制的に、それこそ翼人種たちの手を借りる事を含めて考え始める。そして、それに気が付いた、一応はアイリスのためにも、アベルに頼まれたこともあるからと、一先ず合図を。

「話を戻すけれど、オユキは、降臨祭の間は」
「今のところ頼まれているのは、品評会と戦と武技の教会での洗礼、後はいくつかの食事会のようなものへの出席でしょうか。頼んでいた鞘は別としても、そちらから派生する形でいくつか並べるとのことですし」
「貴女も、意外と忙しいのね」
「どうにも、巫女としてと言う事で、戦と武技の教会だけでなく、水と癒しの神殿からの要望もあるようで」

これまでは、おらぬ中でもどうにかなっていたのだから。
その様な事を、一応オユキは口にしてみたものだが、返ってきた言葉はそもそもここまでに散々にオユキが引き起こしたことがあるだろうというにべもない物であった。
振り返ってみれば、そもそも因果はこの世界にあったには違いないのだろうが、それでも確かにオユキが切欠となったことも多いには違いない。
その様な、オユキ自身もどうにもならぬ理屈を、論理としては破綻しているには違いないのだが、己を納得させるための言葉を己に作って。

「後は、その、どうにも私以外の巫女、ええと、水と癒しの神殿の巫女へと言葉が届いたようで」
「まだ、何かあるのかしら」
「その、トモエさんようにと用意していたお酒なのですが、そちらを納めに来いと、そうした話も」
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