憧れの世界でもう一度

五味

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37章 新年に向けて

新しい日々に向けて

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トモエとオユキの差とでも言えばいいのだろう。
そもそも、生前とは性別が逆だという事実がどうしたところで横たわっていると言う事もある。何よりも、各々の趣味嗜好の差とでも言えばいいのだろう。そうした物のほうが、より大きいのかもしれないが。

「えっと、その、私たちはやるつもりだったんだけど」
「いえ、新年祭も近いと言いますか、その流れの中での事ですから」
「つっても、お祭りが終わってからじゃね。ねーちゃんもそっちに参加するつもりがあるって聞いてるし」
「ね。司教様からも、お手伝いの為に練習しなきゃいけないって言われて、リーアなんかは特に。そういえば、アナも巫女様に」
「私は、そもそも神国にはというよりも、王都に神殿があるから持祭としては必ずって言われてるし」
「私は、巫女様から色々習っているけど、その一環としか言われてないかな」

トモエの言葉に、オユキがオユキの理解で話をしてみれば。それこそ、あの子たちはあくまで始まりの町、そこでの生活に重点を置いているのだとそうした話をしてみれば。では、せっかく王都にいるのだから確認してみようとトモエに言われることになった。
オユキとしては、そこで彼らに頼んでしまう事で過剰な負担を与えるのではないかと、特にトモエが教えているという関係性もある事から断れなくなうのではないかと考えてしまっていたものだ。だが、そうしたオユキの思考とは全く逆。まさか、頼まないつもりなのかとまさにその様に。
彼らにしてみれば、そもそもが教会が行う大事。それも、こちらに来てから、内縁ではあるものの互いにほぼ確定と考えていたこと。それも、以前からいつかはと考えていた二人の事でもある。その二人にしても、恩人だと読んで差支えが無いどころではない相手の話。望まれずとも、役割を果たすつもりはあるのだと、それを改めてオユキに言いつのっている。オユキとしては、隠していたい事、本番は始まりの町での事と考えていることもあり、日が近くトモエが気が付かないはずもないからと既に公然の秘密を改めて伝えて。
新年祭の後、実は改めて祝言を上げるのだとそうしたことをオユキからトモエに伝えた上で。

「その、こちらでの形という物が、今一つ理解が及ばず。かつての世界の形式でいえば、その、トモエさんが考えている物とはまた異なる形になるかとは」
「オユキさんは、こちらでの形に理解が」
「いえ、どうにも衣装の問題ですね。王妃様といいますか、王家の抱えておられる異邦人の中にも、どうやら同郷の者たちがいる様子で」
「今度は、流石に私も洋装の物にと考えていましたが、確かにオユキさんであれば白無垢も良くお似合いでしょう」

オユキの言葉に、トモエが何やら得心が言ったとばかりに頷きを作っているのは置いておき。

「その、皆さんは、本当に」
「ああ。こいつらも、前から言ってたしな。門もあるし、始まりの町で新年祭やって、それからになるけど」
「こちらでも、新年祭の後でしょうし、今の予定だと、シェリア」
「四日後、ですね。今回の事は、広く民にもあやかりたい者たちはと王太子様が仰せの事もあり」
「だとすると、皆さんは」
「新年祭終わって、すぐに移動だな。ま、門もあるし、寧ろ楽なもんじゃね」

少年たちを改めて王都の屋敷に招いて、今は四阿の一角でお茶を互いに口に運びながら。少年たちとしても、トモエがいる以上は色々と習いたい事もあると言わんばかりの様子ではあるのだが、生憎と今はトモエとオユキの大事の話をしなければならないからと。

「つーか、オユキ、その辺分かってないんだな。あんちゃんから言い出しそうなもんだと思ってたけど、オユキが言い出すってことは、今回はオユキから何だろ」

なにやら、シグルドの言葉が的確にオユキの心をえぐる物ではあるのだが。

「ええ。トモエさんにお伝えしたのは、つい先ごろです。その、この辺りに関しては、私からの我儘として王太子妃様にお願いしていたことではあるのです。こちらで、改めて祝言を上げるために神殿を利用できればと」

少女たちには、今も同席している少女三人と、ウニルの町で今も水と癒しの教会の為にと尽くしている子供たちにも伝えていたことだと、オユキからそう視線を向けてみれば。

「えっと、私たちはそうした話を事前にされたから、手伝うつもりだったんだけど」
「おや」
「あの、おゆきちゃん、もしかして、だけど」
「そう、ですね。王都での事でしたし、正直な所門が使えるかもわからない状況でしたから」

実のところ、トモエとオユキがというよりも、オユキが明確に手に入れる事の出来た明確な奇跡だとは言え。此処まで自由に使えるようなものではなかったのだ。それこそ、少年たちが異空と流離から明確に割引券を、メイに預けているとはいえ割引券を持っているというのも想定外の事。それによって、どの程度の消費で済むのか、それすらも分からないのだが彼らの口ぶりからずればオユキが考えるよりも遥かに手軽に利用できるような手段となっているのだろう。

「フスカのばーさんに頼むのは難しいけど、ピュルルラに頼めば送ってくれるってはなしだったしな」
「ピュルルラさん、ですか」

シグルドの口から出てきた、知らぬ名前にオユキは思わず首をかしげて見せる。

「そういえば、オユキちゃんはあったことなかったっけ」
「ジークが仲良くなった、翼人種の子なんだけど」
「つっても、あれはどっちかといえばセリーの手柄だろ。果物がどうしても食べたいって、そう言って降りてきてたのを、よく分かんねー果物見つけたのはセリーだし」
「おや、始まりの町の周りにナナカマドがありましたか」
「あの、トモエさん」

なにやら、オユキには全く分からぬ理解をトモエが得ているらしいと。

「その、学名でそうした種類がかつてにも」
「それを考えるのだとすれば、寧ろ鳥人になるのでは」
「いえ、カナリアさんに至ってはそのままですし、フスカ様、パロティア様もですがどちらも」
「カナリアさんは名前と見た目が揃って私もそのように考えていましたが」

そも、勘違いを助長するような名前をそれぞれに持っているのだとトモエからオユキに。だが、元よりそのあたりには詳しくないオユキにしてみれば、トモエの語る言葉はいよいよ首をかしげるしかない。

「そうそう、そのセルバルを探してさ。俺とパウじゃ見つけられなくって、セリーとリリアに頼んで森に入ったらすぐに見つかってさ」

普段とは違って、オユキがいよいよ首をかしげるばかり。
ヤマナンテンとでもいえば、意外と通じそうなものだがとトモエはそんな事を考えながらも、寧ろオユキにとってはこちらも良い植物かもしれないとその様な事も考える。もとよりバラ科とメギ科、科から異なる二種の植物ではあるものの、実の形は確かによく似ているとトモエには見える物。葉の形が違うのかもしれないが、生憎とトモエは其処迄覚えているわけでもない。
生前、オユキと足を運んだ先で見たあの可愛らしい鮮やかな真紅の実。鈴なりと言えば、まさにこのようなとそうしてなる実。雪の降り積もる中に、寧ろ雪を己の冠にと言わんばかりにそこにあった赤い実たち。白々とした雪、冬の高くどこか透明度を感じさせる青空。そこに、雪をかぶって赤が。その姿のなんと生えたことだろうか。

「つか、改めて頼むってことは、華と恋じゃ無くすってことか。もう、ローレンツのおっさん、出発してんだろ」
「いえ、そちらに関しては、次にと考えていたのは間違いではありませんから。私たちのこと以外にも、王太子様ご夫妻、ですね」
「そっちは、いよいよ大司教様と巫女様じゃね」
「そのあたりは、私たちにまで式次第が回っては来ませんから。私たちも主役とはいえ」
「えっと、でも、トモエさんとオユキちゃんの」
「今回は、どちらかといえば私達の物とは言えるかもしれませんが、そういえば、皆さんには話していませんでしたか」

そもそも、この神国で、水と癒しの神殿で挙式を上げると言う事をオユキが考えているのは、お礼も兼ねてと言う事を。王太子夫妻にも、間違いなく改めての機会があっても良い。それこそ、この二人が間違いなく耐え忍んだ期間がある以上は、それが報われたのだと、以前に確かに内々に神々から言われた言葉はあるのかもしれないが、それを改めて大々的に告知が出来る機会があればよいと。併せて、オユキがこちらに来てから何かと手を頼んだイマノルとクララ、この二人にしても改めて互いの気持ちを確かめたのだからとも考えているのだと。

「そういえば、レジス候とラスト子爵からは、何か」
「はて、言われてみれば、未だにそのあたりの話は」

トモエが、オユキのそうした子供たちへの説明を聞きながら、素朴な疑問を口にしてみれば。オユキはオユキで首をかしげて見せるばかり。

「えっと、オユキちゃん、その、もしもだけど」
「うん、もしもの話なんだけどね」

その様に、実に不穏を隠そうとしない少女たちからかけられた言葉に、オユキとしても非常に嫌な予感が頭をよぎる。よもや、万が一は無いと考えていたのだが、それこそ万が一の事が、あの翼人種の長が浄化したはずの場に、あの汚物の残滓でも残っていたのかと、そうしたことが頭をよぎるのだが。

「その、クララさんが、間に合わないかもしれないってなると」
「間に合わないというのは、移動が、でしょうか」
「えっと、その、リュディさんからも、すごく色々言われてるみたいなんですけど、婚礼の儀に臨むにあたって、必要な所作が全く身についていないって」
「そもそも、教える場面にしても限られていて、リュディさんはファルコ様の事もあって少し聞き始めてるんだけど、それにしてもクララさんはって」

どうやら、公爵麾下の子爵家として。それも、公爵家の次男を迎え、それを新たに子爵家の当主に据えるというのに必要な所作が何一つ身についていないという事らしい。
オユキの不安、少女たちが何やら難しい顔をしていたからとこちらもあれこれと考えていたのだが、どうにも思っていたものと違うらしいと。

「ちょうど良いですね」
「あの、トモエさん」
「どのみち、私たちも習わねばならない事ですから、呼びましょうか、お二方を、王都に」
「あの、トモエさん」

一度目と二度目、オユキがトモエの名を呼ぶ声は、実に大きく異なって。
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