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36章 忙しなく過行く
オユキの
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「まったく、あの場にせめてトモエさんがいてくださったなら」
「流石に、婦女子の着替えの場に私までも同席してというのは難しいですから」
「私だけ、だとしてもですか」
「あの、オユキさん。一応、教会の一室をオユキさんようにとしていたのだとしても、衣装合わせとしてアイリスさんもヴァレリーさんもおられたわけですから」
トモエが日課の狩りに加えて、レジス候の下にいる異邦人。カツナガに対して、オユキの行った奇跡。こちらでは、治らないとされていた、オユキだけと言う事も無いのだろう、他にできるものは間違いなくいるだろうこと、それに関する事を口止めするために。法と裁き、それを司る教会に向かう日取りと、実際にどうした文面にするのか、確認をマリーア公爵に頼む時間を過ごしてみれば。
屋敷に戻るのは、相応に遅い時間。そして、すっかりと今日一日、せっかく屋敷から、寝台の外にと出ることが出来たというのに、不満しかたまらなかったのだとオユキがこうしてぶつける不満を聞きながら。ついでとばかりに、枕元では、今もトモエがオユキ用にといくつかの果物をナイフを片手に皮をむき、切り出しながらもたまった不平不満を楽しく聞いて。
「私が頼んで用意していただいた装飾も、いくらかあったかと思いますが」
「そう、なのですか」
「ええ。常々同じ首飾りというのも流石に寂しい物ですし、簪にしてもいくつかの用意はありますが、そうした公の催しに参加をというのであればもう少し華美な物でも良いと思いまして」
トモエが、気が付けましたかと、そんな事を試すように問いかけてくるものだからオユキとしてはまた困ったもの。
何分、あれこれと合わせた物、その数が多いのだ。ただ、その中でも特にこれと思うもの、それをオユキが示したこともあるのだが其方は残念ながら他の物との取り合わせが宜しくなかった。
鞘を頼んだ、その流れもあっての事だろう。ここ暫くの流行だとでも言わんばかりに、朱塗りの施された簪。飾りにしても、大河から拾ってきたのだろうか。貝殻を、貝殻だろう物を加工したものがいくつか合わせて簪に取り付けられており、常々トモエがオユキの髪を結わうときについでとばかりに取り付ける飾り紐や功績、それらと合わせればよい物になるのではないかと、そう思えたのだ。首飾りに関しては、生憎と殊更これをと思う事は無かったのだが。
「トモエ様、オユキ様が特にと選ばれた物に関しては、当家で」
「そうなのですね。オユキさんが選んだ以上は、祈願祭まで教会でかとも思いますが」
「その、教会で改めて神々より頂いている衣装、そちらと合わせたときに、ですね」
そのオユキの言葉に、今度はトモエが首をかしげる。
オユキの記憶にあるよりも、かなり小さなリンゴを今は手に取って、皮をむき、オユキの口でも一口で食べられる大きさに加工しながら。なんとなれば、切り出したものをそのまま簡単に皿にのせたかと思えば、オユキの口元に、そのままピックフォークでさしては運びながら。
「今度の物は袴ではなく、ロザリア様が身に付けておられていたようなローブですし、色味が灰色といいますか」
「ああ。今度の物は、確か冬と眠りの神からというのが主体でしたか」
「はい。そうしたこともあって、どうにも色味が合わぬといいますか」
言ってしまえば、オユキがこれと示した簪に関しては、殊更に浮いてしまうのだ。確かに、戦と武技の示す色が刺し色としても使われている。だが、それにしても、かなり控えめな量になっているのだ。そこで、ほとんどがオユキの長い髪に隠れるかと思えば、取り付けてみれば、常々トモエが行っているようにと結い上げてみれば悪目立ちしたのだ。
簪は、やはり相応の長さがあり、今度の物は少々複雑。これまでは、一本の簪で纏めていたのだがオユキがこれはと選んだ物は、オユキでも見覚えのあるもの、簪とオユキが考えている吉丁やバチ型ばかりではなく、他にも中差しと後差しまでも合わせた物。他と比べてしまえば、やはりそちらにばかり目が行ってしまうような、少々行き過ぎた物になってしまっていた。加えて、飾りにしても、オユキは殊更貝殻のようなものばかりを気にしたのだが、実際には珊瑚に鼈甲が利用されてもいる。それを使って、水と癒しに対しても配慮をという、素材単位での理解が有ればというものなのだろう。
「その、灰色ではあるのでしょうが」
「その中でも殊更くすんでいると言えばいいのでしょうか。私の見たところでは、より近いのは薄墨色のようにも」
「ああ、それは、確かに少々褪せたような印象を覚えそうな」
オユキの記憶にあるもので、一番近い色だろうか。実際の物は、もう少し恋色であるには違いないのだが、灰色と呼んで実際にその色が示す物よりも少々薄い色合いをしているのだ。そのあたりは、生地に依る物か、これまで上衣が白であったことに配慮してとなっているのか。そのあたりまで、オユキは流石に理解できている訳も無い。
「成程。そうだとすれば、似合うものも少々限られそうですね。オユキさんは、その中で例えば」
「いえ、いまエステールに言われるまで、選ばなかった物に関しては」
「それも、確かにそうですね」
そのあたり実際どうなのかと、トモエとオユキが揃ってエステールに視線を向けてみれば。
「今回の場合に限りといいますか、オユキ様に関しては、望まれたのであれば教会から持ち出すことに問題はありません」
「とすると、普段であれば」
「はい。祭祀で利用するものとなりますので、保管を行うのは神職の物か、儀典官となります。個人で、正確な知識をお持ちでない方々、後に遺すことが出来ない方々、そうした方々による保管ともなれば多くの方から、制止される事でしょう。翻って、オユキ様であれば簪、今回の物は間違いなく常用される、勿論日や衣装に合わせてとなるでしょうが」
本来であれば、首飾りにしても同様にと考えていたのだがと、エステールがため息交じりに。
「首飾りは、確かに無難な物が多いでしょうから」
「無難、ですか」
「ええ。オユキさん、過剰な装飾としての物は好まないでしょう。自身の前面にというのは」
「それは、そうですね」
トモエが簪を選んだ背景とでも言えばいいのだろうか、そこにはもとよりオユキにとっては無いと考えている場所だと言う事もある。己の首から、それに関しては生前にはネクタイというこちらも装飾としての要素が強い物があった。言ってしまえば、オユキにとっては慣れの存在する物であり、そちらを基準に首飾りを考えてしまう。つまり、貴金属として認められる範囲などせいぜいがタイピン、トモエに贈り物としてとオユキが言い出した範囲の物まで。だが、簪に関してはそもそもオユキが髪を纏めるようなことが生前なく、身の回りを見たときにそれこそシュシュやリボン、ゴムをはじめとして実にいろいろあったというものだ。
さらには、トモエが用意した姿というのが古来からの民話に根差していることもあり、こうしたものも似合うのだろうとそうオユキが考えて受け入れていることもある。受け入れやすいという部分がある。
「この辺りは、やはりトモエ様のほうが理解をされているのですね」
「流石に、高々一年程度側に侍っているだけの相手に負けるつもりはありませんよ」
そして、何やらそのあたりに関して侍女たちとトモエの間でまた諍いがあるようだと、オユキとしてはぼんやりと。
「それにしても、トモエさんからの贈り物と言う事でしたら」
「たまには、そうして手を変えるのも楽しい物でしょう」
「その、万が一が」
「恐らくは無いでしょう。そうですよね、エステール」
「はい。届けられたものは、間違いなくトモエ様がご用意されたものです。祭祀には向かぬ故、巫女様が気に入られたようだからと」
どうやら、己は正しくトモエからの贈り物を選べたようだと喜ぶ反面、それすらもトモエの掌の上にあったのかと、少々思う所が無いでもないのだが。
「こちらの職人の方々は、優秀といいますか、基本として注文を細かく受けてくださいますので、私としても楽しいといいますか」
「日々、狩猟にばかりと」
「あら、それだけではありませんよ。こうして今オユキさんが食べている物にしても、帰り道に市場を冷やかしてついでにと選んだ物ですから」
「それは、そうなのかもしれませんが」
まったく、馬車での移動を互いに常にしているはずだというのに、この住んでいる場所への理解の差は度かから生まれてくるのかと。そんな不満をオユキとしては抱えてみるのだが。
「オユキさんは確かに基本として馬車の中ですが」
「そういえば、トモエさんは馬車の外にいることが」
「ええ。公爵様から頂いた鎧もありますし、それを身に付けてということも度々ありましたから」
「カミトキとセンヨウも、ここ暫くは」
「そうですね。センヨウには私も日々頼んでいますし、その時にカミトキにも話してはいますが」
そして、その馬車を引いている下賜された馬。すっかりと、オユキとしても己の乗馬として可愛がっている馬ではある。こうして、事あるごとに動けなくなってしまうために、なかなかに構う事も難しい。魔国に向かったときには、それこそ暫くの間は折に触れて庭先で共に過ごしていたものだが、それにしても武国の者たちの振る舞いが目立つようになってからはなくなっていた。
戻る時には、橋での移動をすっかりと任せていたこともあり、そこで期限は直してくれたものだが、今は相応にやはり不満をためているらしい。だが、オユキを乗せてとなるとそれが難しいというのもなかなか困りものではあるのだ。生き物である以上、移動の際にはやはりかなりの揺れというのが存在する。現状のオユキでは、やはりそれにはなかなか耐えられるものではない。
「四阿の側で、また一緒に過ごしますか」
「それで、機嫌を直してくれればよいのですが」
「それこそ、オユキさんがカミトキは本気でかける姿を見たいと望めばというのもありますが」
「王都の中であれば、それが叶いそうな場所もあるとは思いますが」
草原を駆け抜ける一筋の雷鳴のように。そのようにはならずとも。それこそ、己のあまりにも自由の効かぬ四肢の代わりに。トモエだけでなく、せめてと、そんなオユキからの訴えに、トモエとしてもどうにか叶えられはしないかと考えながら。
「流石に、婦女子の着替えの場に私までも同席してというのは難しいですから」
「私だけ、だとしてもですか」
「あの、オユキさん。一応、教会の一室をオユキさんようにとしていたのだとしても、衣装合わせとしてアイリスさんもヴァレリーさんもおられたわけですから」
トモエが日課の狩りに加えて、レジス候の下にいる異邦人。カツナガに対して、オユキの行った奇跡。こちらでは、治らないとされていた、オユキだけと言う事も無いのだろう、他にできるものは間違いなくいるだろうこと、それに関する事を口止めするために。法と裁き、それを司る教会に向かう日取りと、実際にどうした文面にするのか、確認をマリーア公爵に頼む時間を過ごしてみれば。
屋敷に戻るのは、相応に遅い時間。そして、すっかりと今日一日、せっかく屋敷から、寝台の外にと出ることが出来たというのに、不満しかたまらなかったのだとオユキがこうしてぶつける不満を聞きながら。ついでとばかりに、枕元では、今もトモエがオユキ用にといくつかの果物をナイフを片手に皮をむき、切り出しながらもたまった不平不満を楽しく聞いて。
「私が頼んで用意していただいた装飾も、いくらかあったかと思いますが」
「そう、なのですか」
「ええ。常々同じ首飾りというのも流石に寂しい物ですし、簪にしてもいくつかの用意はありますが、そうした公の催しに参加をというのであればもう少し華美な物でも良いと思いまして」
トモエが、気が付けましたかと、そんな事を試すように問いかけてくるものだからオユキとしてはまた困ったもの。
何分、あれこれと合わせた物、その数が多いのだ。ただ、その中でも特にこれと思うもの、それをオユキが示したこともあるのだが其方は残念ながら他の物との取り合わせが宜しくなかった。
鞘を頼んだ、その流れもあっての事だろう。ここ暫くの流行だとでも言わんばかりに、朱塗りの施された簪。飾りにしても、大河から拾ってきたのだろうか。貝殻を、貝殻だろう物を加工したものがいくつか合わせて簪に取り付けられており、常々トモエがオユキの髪を結わうときについでとばかりに取り付ける飾り紐や功績、それらと合わせればよい物になるのではないかと、そう思えたのだ。首飾りに関しては、生憎と殊更これをと思う事は無かったのだが。
「トモエ様、オユキ様が特にと選ばれた物に関しては、当家で」
「そうなのですね。オユキさんが選んだ以上は、祈願祭まで教会でかとも思いますが」
「その、教会で改めて神々より頂いている衣装、そちらと合わせたときに、ですね」
そのオユキの言葉に、今度はトモエが首をかしげる。
オユキの記憶にあるよりも、かなり小さなリンゴを今は手に取って、皮をむき、オユキの口でも一口で食べられる大きさに加工しながら。なんとなれば、切り出したものをそのまま簡単に皿にのせたかと思えば、オユキの口元に、そのままピックフォークでさしては運びながら。
「今度の物は袴ではなく、ロザリア様が身に付けておられていたようなローブですし、色味が灰色といいますか」
「ああ。今度の物は、確か冬と眠りの神からというのが主体でしたか」
「はい。そうしたこともあって、どうにも色味が合わぬといいますか」
言ってしまえば、オユキがこれと示した簪に関しては、殊更に浮いてしまうのだ。確かに、戦と武技の示す色が刺し色としても使われている。だが、それにしても、かなり控えめな量になっているのだ。そこで、ほとんどがオユキの長い髪に隠れるかと思えば、取り付けてみれば、常々トモエが行っているようにと結い上げてみれば悪目立ちしたのだ。
簪は、やはり相応の長さがあり、今度の物は少々複雑。これまでは、一本の簪で纏めていたのだがオユキがこれはと選んだ物は、オユキでも見覚えのあるもの、簪とオユキが考えている吉丁やバチ型ばかりではなく、他にも中差しと後差しまでも合わせた物。他と比べてしまえば、やはりそちらにばかり目が行ってしまうような、少々行き過ぎた物になってしまっていた。加えて、飾りにしても、オユキは殊更貝殻のようなものばかりを気にしたのだが、実際には珊瑚に鼈甲が利用されてもいる。それを使って、水と癒しに対しても配慮をという、素材単位での理解が有ればというものなのだろう。
「その、灰色ではあるのでしょうが」
「その中でも殊更くすんでいると言えばいいのでしょうか。私の見たところでは、より近いのは薄墨色のようにも」
「ああ、それは、確かに少々褪せたような印象を覚えそうな」
オユキの記憶にあるもので、一番近い色だろうか。実際の物は、もう少し恋色であるには違いないのだが、灰色と呼んで実際にその色が示す物よりも少々薄い色合いをしているのだ。そのあたりは、生地に依る物か、これまで上衣が白であったことに配慮してとなっているのか。そのあたりまで、オユキは流石に理解できている訳も無い。
「成程。そうだとすれば、似合うものも少々限られそうですね。オユキさんは、その中で例えば」
「いえ、いまエステールに言われるまで、選ばなかった物に関しては」
「それも、確かにそうですね」
そのあたり実際どうなのかと、トモエとオユキが揃ってエステールに視線を向けてみれば。
「今回の場合に限りといいますか、オユキ様に関しては、望まれたのであれば教会から持ち出すことに問題はありません」
「とすると、普段であれば」
「はい。祭祀で利用するものとなりますので、保管を行うのは神職の物か、儀典官となります。個人で、正確な知識をお持ちでない方々、後に遺すことが出来ない方々、そうした方々による保管ともなれば多くの方から、制止される事でしょう。翻って、オユキ様であれば簪、今回の物は間違いなく常用される、勿論日や衣装に合わせてとなるでしょうが」
本来であれば、首飾りにしても同様にと考えていたのだがと、エステールがため息交じりに。
「首飾りは、確かに無難な物が多いでしょうから」
「無難、ですか」
「ええ。オユキさん、過剰な装飾としての物は好まないでしょう。自身の前面にというのは」
「それは、そうですね」
トモエが簪を選んだ背景とでも言えばいいのだろうか、そこにはもとよりオユキにとっては無いと考えている場所だと言う事もある。己の首から、それに関しては生前にはネクタイというこちらも装飾としての要素が強い物があった。言ってしまえば、オユキにとっては慣れの存在する物であり、そちらを基準に首飾りを考えてしまう。つまり、貴金属として認められる範囲などせいぜいがタイピン、トモエに贈り物としてとオユキが言い出した範囲の物まで。だが、簪に関してはそもそもオユキが髪を纏めるようなことが生前なく、身の回りを見たときにそれこそシュシュやリボン、ゴムをはじめとして実にいろいろあったというものだ。
さらには、トモエが用意した姿というのが古来からの民話に根差していることもあり、こうしたものも似合うのだろうとそうオユキが考えて受け入れていることもある。受け入れやすいという部分がある。
「この辺りは、やはりトモエ様のほうが理解をされているのですね」
「流石に、高々一年程度側に侍っているだけの相手に負けるつもりはありませんよ」
そして、何やらそのあたりに関して侍女たちとトモエの間でまた諍いがあるようだと、オユキとしてはぼんやりと。
「それにしても、トモエさんからの贈り物と言う事でしたら」
「たまには、そうして手を変えるのも楽しい物でしょう」
「その、万が一が」
「恐らくは無いでしょう。そうですよね、エステール」
「はい。届けられたものは、間違いなくトモエ様がご用意されたものです。祭祀には向かぬ故、巫女様が気に入られたようだからと」
どうやら、己は正しくトモエからの贈り物を選べたようだと喜ぶ反面、それすらもトモエの掌の上にあったのかと、少々思う所が無いでもないのだが。
「こちらの職人の方々は、優秀といいますか、基本として注文を細かく受けてくださいますので、私としても楽しいといいますか」
「日々、狩猟にばかりと」
「あら、それだけではありませんよ。こうして今オユキさんが食べている物にしても、帰り道に市場を冷やかしてついでにと選んだ物ですから」
「それは、そうなのかもしれませんが」
まったく、馬車での移動を互いに常にしているはずだというのに、この住んでいる場所への理解の差は度かから生まれてくるのかと。そんな不満をオユキとしては抱えてみるのだが。
「オユキさんは確かに基本として馬車の中ですが」
「そういえば、トモエさんは馬車の外にいることが」
「ええ。公爵様から頂いた鎧もありますし、それを身に付けてということも度々ありましたから」
「カミトキとセンヨウも、ここ暫くは」
「そうですね。センヨウには私も日々頼んでいますし、その時にカミトキにも話してはいますが」
そして、その馬車を引いている下賜された馬。すっかりと、オユキとしても己の乗馬として可愛がっている馬ではある。こうして、事あるごとに動けなくなってしまうために、なかなかに構う事も難しい。魔国に向かったときには、それこそ暫くの間は折に触れて庭先で共に過ごしていたものだが、それにしても武国の者たちの振る舞いが目立つようになってからはなくなっていた。
戻る時には、橋での移動をすっかりと任せていたこともあり、そこで期限は直してくれたものだが、今は相応にやはり不満をためているらしい。だが、オユキを乗せてとなるとそれが難しいというのもなかなか困りものではあるのだ。生き物である以上、移動の際にはやはりかなりの揺れというのが存在する。現状のオユキでは、やはりそれにはなかなか耐えられるものではない。
「四阿の側で、また一緒に過ごしますか」
「それで、機嫌を直してくれればよいのですが」
「それこそ、オユキさんがカミトキは本気でかける姿を見たいと望めばというのもありますが」
「王都の中であれば、それが叶いそうな場所もあるとは思いますが」
草原を駆け抜ける一筋の雷鳴のように。そのようにはならずとも。それこそ、己のあまりにも自由の効かぬ四肢の代わりに。トモエだけでなく、せめてと、そんなオユキからの訴えに、トモエとしてもどうにか叶えられはしないかと考えながら。
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