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36章 忙しなく過行く
ローレンツとアベル
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「あれは、貴女達の良くないところを」
「いえ、よくないところと言われましても、決着の形など人それぞれではありますから」
トモエとガンヘルの戦いに関しては、いよいよ見どころの無いものではあった。一応、それまでの間は、決勝という舞台までの間は。トモエなりに、相手にも見どころを作る様にしている節があった。だが、彼についてはオユキが軽口をたたいてしまった事もある。
これまでの間で、トモエの技量に疑問を呈する声が上がってしまった。それを耳ざとく聞きつけたアイリスが、人よりも遥かに優れた聴力を持つその人物が。オユキの耳に入れたのだ。だからこそ、トモエに対してついつい口をさしはさんでしまった事もある。本来であれば、トモエに任せていたはずの事ではある。オユキは、事武における判断、そこでトモエに早々何を言う事も無い。だが、ついつい。トモエに、はっきりとした勝利が見たいと、そんな事を言ってしまったものだ。
その結果として、ガンヘルに関してはいよいよ何もできずに一刀のもとに切り伏せられた。
年齢としても、鍛錬としても十分。彼にしても、重装鎧を身に付けた上で十分に動くことが出来るほどの身体能力を身に付けていたのだ。そこに、盾を持つ事は無かったのだが、それでも長大な両手剣を携えて。そして、そんな相手に対して開始の合図とともにトモエがまずはとばかりに神授の太刀で相手の両手剣を半ばから断ち切った。そして、返す刀でそのまま首をはねて見せたのだ。相手は、己の身に何が起こったのかもわかるまい。あまりにも自然に、相手が開始の合図を聞き、さてとばかりに意気を見せたときに。それを、只何事もないかのように受け流して。結果として、相手はそこで間合いを外される。暖簾に対して、腕を強く押してしまったかのように。
そして、その結果がトモエの動きに、あまりにも自然な動きに対応できずに。両手剣の構えは、騎士団の物。体の前で、剣を立てて構える晴眼よりもかろうじて動き出しの早い構え。一度持ち上げるという動きを挟まずとも、体ごと前に突き出しながら、そのまま手首を回し腕を降ろしながらとすれば、それで十分な威力の出る構え。それでも、体を前に出すには、足を踏み出し、そのあとに腕を前にとする構え。
それでは、遅すぎるとばかりにトモエの刃が走った。
これまでの物では不安があり、不備が出たかもしれない。だが、トモエの手の内にあるのは神授の太刀。武器の、刃としての違いも当然そこにはある。ガンヘルが、伝来の、家宝と呼べるものを持ち出した可能性もあるのだが、それでも神々から直接下賜された物には及ぶまい。そして、操る人間の技が違う。トモエはオユキが望むならとばかりに、一切の遠慮なく技を振るって見せたのだから。
「それにしても、アベルさんはもう少し」
「あれで、十分だったんでしょうね、これまでは」
「ローレンツ卿にも、遠く及んでいないようですが」
「技は、貴女も理解が有るのでしょうけれど」
「確かに、練度の差があまりにもはっきりとしていますね」
騎士から傭兵に身をやつした、その流れがある以上はただ加護を求めた男。
己の願いの為にと、伸びとしてははっきりと遅いのだと分かっていながらも騎士としてその身を立て続けた男。
両者を比べたときに、どちらに軍配が上がるのか考えるまでも無い。費やした時間は、重ねた歳月が。如何にそこに才覚というどうにもならぬものが存在していようとも、確かに積みあがっていくものがある。オユキは、トモエから話しにしか聞いていただけのローレンツの技。それを、此処で初めて見る。
トモエが、ローレンツに敬称をつけるだけでなく、心から敬っているというのがオユキにはよく分かる。同類とでもいえばいいのだろうか、同じ道を志す相手ばかりと言う訳では無く。トモエが認めることが出来るだけの何かがあれば、トモエは間違いなく敬意を払う。それが、アベルにはなく、ローレンツにある理由。それが、よく分かる。
愚直と呼んでも良いほどではある、他にもっととオユキとしても考えないでもない。だが、騎士の行う剣術。己の体までを盾として考え、背後に守るものを背負うとなれば、他にはあるまいと思える動き。ああ、成程と、そうオユキをして思うのだ。トモエですらも、感心するほどの物が確かにあるのだと。
「ローレンツ様は、まさに騎士たる者なのでしょうね」
「そう、ね。私も、あれを抜こうと思うと」
「私はいよいよ相性の問題で、勝とうと思えばかなり無理をしなければなりませんね」
「それで、負けるとは言わないのね」
「その程度で負けるなどと口にすれば、トモエさんからお𠮟りを受けてしまいますから」
一日中でも、加護が無い場でさえ、一日中でもこのままでいられるのだと平然とそれを示すローレンツ。事実、アベルから動いては、その動きの一切を打ち払って見せる。そんな相手を崩すための方法、下手に動けば力でもってオユキ程度の軽い刃など暴風に呑まれるかのようになる事だろう。アベルは、未だ練度が低かったからこそ前回どうにか細かく気を使うだけで下すことが出来たのだ。深く集中をして、相手の動きを確実に見極めて、その程度で対処ができる相手では会ったのだ。だが、ローレンツはそうでは無い。下手な手を打てば、本当に崩しきるまでにかなりの時間を使わなければ。それこそ、いまアベルがそうなっているように、焦りに突き動かされてとしてしまえば、結果など語るまでも無い。容赦なく、ローレンツの手がオユキに届く事となる。その結果は、オユキの想像通りとなる事だろう。
「決着は、どれを選ぶのかしら」
「さて、ローレンツ卿はこの度の事は己の愛に捧げるとそう宣言されていましたから」
「あの、お二方は」
眼下で繰り広げられる、残された一つの試合。それを、のんびりと眺めながら評価をするアイリスとオユキにヴァレリーが震える子をかける。
「恐ろしくは、ないのですか」
「何がでしょう」
一体、この娘は何を訪ねてくるのかと。アイリスとオユキの言葉が異口同音に。実際には、口に出した音は異なれど、只返す内容は変わりはしない。
戦と武技、どうしようもなくそれに寄った内面を持っている者たちだ。獣の理屈、それに非常に馴染んでいる者たちだ。どちらが上か、それを己の爪牙でもって示し、さらにはどちらが上かを決めねばすまぬ、そんな性分をただ事実と受け止めている者たちだ。そんな相手に対して、一体お前は何を言い出すのかと、そう返ってくるに決まっている。
「恐怖が無いとは言いませんが、まずはそれを切り伏せるところから始まるものでしょう」
「相手のほうが強い、そうであっても挑まなければならない時なんていくらでもあるもの。そんな事で、いちいち怯んでなんていられないでしょう」
「それは、その、そうならないようにはと」
「一応、まずは言葉を選びますが、そもそもこの場では刃で語らうものでしょう」
ヴァレリーは、事ここに至って何を言っているのか。確かに、いくらかの惨状と呼んでよいものが繰り広げられた。未だに、ヴァレリーの目から見ても遅なさを残す者たちですら、相応の傷を負う事になった。先ほどの、セシリアとシグルドだけではなく、他の試合のいくらかでも。最も、そちらの参加者の多くが怪我に、傷に慣れてなどいないために、早々に心折れる物が多かった。だが、中にはそれこそ幾人か。
パウとアナの二人は、幾つか前に敗退してしまったのだが、それは相手がかなり思いつめて向かってきた結果でもある。シグルドのように、セシリアのように。相手の心を折るための戦いを選ぶ、それほどの差が空いていなかった。相手にしても、此処で名を上げようと、少なくとも貴族家でもない者たちに、新興の子爵家、戦と武技の巫女が興した家からの寵愛があるとはいえ。所詮は、己たちとは比べ物にならない程度の期間技を習っただけ。武の道に、実を置いただけだと言わんばかりの気迫でもって。
そうしてみれば、前回参加していたとはいえ、早々にトモエとオユキにあたった残りの二人とは違って、慣れない気迫にしっかりと体調も削られていったのだろう。そして、向けられた確かな刃が、しっかりと心を削ったことだろう。そのあたりも含めて、トモエは今回少年たちに、アドリアーナといういよいよ不向きな物以外を参加させたのだろう。
今夜のとなるかは分からないが、少なくとも明日の昼までには、トモエから改めてそのあたりの話がなされることだろう。
「私は、まぁ、状況次第かしら」
「アイリスさんは、その、激発する場面というのはそこまで見ていませんが」
「確かに、私よりは貴女のほうが多いわよね」
アイリスに、そのように言われてオユキとしては心当たりしかないために。
「ヴァレリー様は、目の前の光景を、己を通すための手段として、己の信仰に刃を置く者たち。それをして、野蛮だと、理解が出来ぬとそうお考えでしょうか」
「いえ、それは」
「その、勘違いしないでいただきたいのですが、単純な疑問としてお尋ねしているだけです。」
一応は、側に既にマルタ司祭にエリーザ助祭も控えている。そんな状況下で、戦と武技の巫女として、いよいよ飾り立てられたオユキに尋ねられたなら、同じ巫女として信仰の形に対する問答が始まると警戒するのも仕方のない事ではある。
「信仰の形は、それぞれでしょう。例えば、あのようにローレンツ卿が行っていること。己の背に戦えぬものを置き、隣には己と共になるものと。それも一つでしょうから」
別段、戦と武技、それの示す範疇をヴァレリーが良しとできるのならばそれでよい。
「彼の神は、かつて私達に向けて鍛錬をただ楽しいと、そう喜ぶ子供に向けてそれこそが未知の入り口であると、そう仰せでしたよ」
そして、オユキからは改めて他の形もあるのだと、それを示すために彼の神の言葉を、パウがかつて言われた言葉をヴァレリーにも。神々は、そこまで橋梁ではないのだとそれを示しながらも。決着までは、後十手程だろうかと眼下で繰り広げられるアベルとローレンツの試合に、オユキは思いを馳せながら。
確かに、アベルとアイリス、この二人は色々と似ているところがあり、決定的に違う所もあり。だからこそ、歪な形が綺麗にはまったトモエとオユキ、それと似た関係になるのだろうとそんな感想をオユキは抱きながら。
「いえ、よくないところと言われましても、決着の形など人それぞれではありますから」
トモエとガンヘルの戦いに関しては、いよいよ見どころの無いものではあった。一応、それまでの間は、決勝という舞台までの間は。トモエなりに、相手にも見どころを作る様にしている節があった。だが、彼についてはオユキが軽口をたたいてしまった事もある。
これまでの間で、トモエの技量に疑問を呈する声が上がってしまった。それを耳ざとく聞きつけたアイリスが、人よりも遥かに優れた聴力を持つその人物が。オユキの耳に入れたのだ。だからこそ、トモエに対してついつい口をさしはさんでしまった事もある。本来であれば、トモエに任せていたはずの事ではある。オユキは、事武における判断、そこでトモエに早々何を言う事も無い。だが、ついつい。トモエに、はっきりとした勝利が見たいと、そんな事を言ってしまったものだ。
その結果として、ガンヘルに関してはいよいよ何もできずに一刀のもとに切り伏せられた。
年齢としても、鍛錬としても十分。彼にしても、重装鎧を身に付けた上で十分に動くことが出来るほどの身体能力を身に付けていたのだ。そこに、盾を持つ事は無かったのだが、それでも長大な両手剣を携えて。そして、そんな相手に対して開始の合図とともにトモエがまずはとばかりに神授の太刀で相手の両手剣を半ばから断ち切った。そして、返す刀でそのまま首をはねて見せたのだ。相手は、己の身に何が起こったのかもわかるまい。あまりにも自然に、相手が開始の合図を聞き、さてとばかりに意気を見せたときに。それを、只何事もないかのように受け流して。結果として、相手はそこで間合いを外される。暖簾に対して、腕を強く押してしまったかのように。
そして、その結果がトモエの動きに、あまりにも自然な動きに対応できずに。両手剣の構えは、騎士団の物。体の前で、剣を立てて構える晴眼よりもかろうじて動き出しの早い構え。一度持ち上げるという動きを挟まずとも、体ごと前に突き出しながら、そのまま手首を回し腕を降ろしながらとすれば、それで十分な威力の出る構え。それでも、体を前に出すには、足を踏み出し、そのあとに腕を前にとする構え。
それでは、遅すぎるとばかりにトモエの刃が走った。
これまでの物では不安があり、不備が出たかもしれない。だが、トモエの手の内にあるのは神授の太刀。武器の、刃としての違いも当然そこにはある。ガンヘルが、伝来の、家宝と呼べるものを持ち出した可能性もあるのだが、それでも神々から直接下賜された物には及ぶまい。そして、操る人間の技が違う。トモエはオユキが望むならとばかりに、一切の遠慮なく技を振るって見せたのだから。
「それにしても、アベルさんはもう少し」
「あれで、十分だったんでしょうね、これまでは」
「ローレンツ卿にも、遠く及んでいないようですが」
「技は、貴女も理解が有るのでしょうけれど」
「確かに、練度の差があまりにもはっきりとしていますね」
騎士から傭兵に身をやつした、その流れがある以上はただ加護を求めた男。
己の願いの為にと、伸びとしてははっきりと遅いのだと分かっていながらも騎士としてその身を立て続けた男。
両者を比べたときに、どちらに軍配が上がるのか考えるまでも無い。費やした時間は、重ねた歳月が。如何にそこに才覚というどうにもならぬものが存在していようとも、確かに積みあがっていくものがある。オユキは、トモエから話しにしか聞いていただけのローレンツの技。それを、此処で初めて見る。
トモエが、ローレンツに敬称をつけるだけでなく、心から敬っているというのがオユキにはよく分かる。同類とでもいえばいいのだろうか、同じ道を志す相手ばかりと言う訳では無く。トモエが認めることが出来るだけの何かがあれば、トモエは間違いなく敬意を払う。それが、アベルにはなく、ローレンツにある理由。それが、よく分かる。
愚直と呼んでも良いほどではある、他にもっととオユキとしても考えないでもない。だが、騎士の行う剣術。己の体までを盾として考え、背後に守るものを背負うとなれば、他にはあるまいと思える動き。ああ、成程と、そうオユキをして思うのだ。トモエですらも、感心するほどの物が確かにあるのだと。
「ローレンツ様は、まさに騎士たる者なのでしょうね」
「そう、ね。私も、あれを抜こうと思うと」
「私はいよいよ相性の問題で、勝とうと思えばかなり無理をしなければなりませんね」
「それで、負けるとは言わないのね」
「その程度で負けるなどと口にすれば、トモエさんからお𠮟りを受けてしまいますから」
一日中でも、加護が無い場でさえ、一日中でもこのままでいられるのだと平然とそれを示すローレンツ。事実、アベルから動いては、その動きの一切を打ち払って見せる。そんな相手を崩すための方法、下手に動けば力でもってオユキ程度の軽い刃など暴風に呑まれるかのようになる事だろう。アベルは、未だ練度が低かったからこそ前回どうにか細かく気を使うだけで下すことが出来たのだ。深く集中をして、相手の動きを確実に見極めて、その程度で対処ができる相手では会ったのだ。だが、ローレンツはそうでは無い。下手な手を打てば、本当に崩しきるまでにかなりの時間を使わなければ。それこそ、いまアベルがそうなっているように、焦りに突き動かされてとしてしまえば、結果など語るまでも無い。容赦なく、ローレンツの手がオユキに届く事となる。その結果は、オユキの想像通りとなる事だろう。
「決着は、どれを選ぶのかしら」
「さて、ローレンツ卿はこの度の事は己の愛に捧げるとそう宣言されていましたから」
「あの、お二方は」
眼下で繰り広げられる、残された一つの試合。それを、のんびりと眺めながら評価をするアイリスとオユキにヴァレリーが震える子をかける。
「恐ろしくは、ないのですか」
「何がでしょう」
一体、この娘は何を訪ねてくるのかと。アイリスとオユキの言葉が異口同音に。実際には、口に出した音は異なれど、只返す内容は変わりはしない。
戦と武技、どうしようもなくそれに寄った内面を持っている者たちだ。獣の理屈、それに非常に馴染んでいる者たちだ。どちらが上か、それを己の爪牙でもって示し、さらにはどちらが上かを決めねばすまぬ、そんな性分をただ事実と受け止めている者たちだ。そんな相手に対して、一体お前は何を言い出すのかと、そう返ってくるに決まっている。
「恐怖が無いとは言いませんが、まずはそれを切り伏せるところから始まるものでしょう」
「相手のほうが強い、そうであっても挑まなければならない時なんていくらでもあるもの。そんな事で、いちいち怯んでなんていられないでしょう」
「それは、その、そうならないようにはと」
「一応、まずは言葉を選びますが、そもそもこの場では刃で語らうものでしょう」
ヴァレリーは、事ここに至って何を言っているのか。確かに、いくらかの惨状と呼んでよいものが繰り広げられた。未だに、ヴァレリーの目から見ても遅なさを残す者たちですら、相応の傷を負う事になった。先ほどの、セシリアとシグルドだけではなく、他の試合のいくらかでも。最も、そちらの参加者の多くが怪我に、傷に慣れてなどいないために、早々に心折れる物が多かった。だが、中にはそれこそ幾人か。
パウとアナの二人は、幾つか前に敗退してしまったのだが、それは相手がかなり思いつめて向かってきた結果でもある。シグルドのように、セシリアのように。相手の心を折るための戦いを選ぶ、それほどの差が空いていなかった。相手にしても、此処で名を上げようと、少なくとも貴族家でもない者たちに、新興の子爵家、戦と武技の巫女が興した家からの寵愛があるとはいえ。所詮は、己たちとは比べ物にならない程度の期間技を習っただけ。武の道に、実を置いただけだと言わんばかりの気迫でもって。
そうしてみれば、前回参加していたとはいえ、早々にトモエとオユキにあたった残りの二人とは違って、慣れない気迫にしっかりと体調も削られていったのだろう。そして、向けられた確かな刃が、しっかりと心を削ったことだろう。そのあたりも含めて、トモエは今回少年たちに、アドリアーナといういよいよ不向きな物以外を参加させたのだろう。
今夜のとなるかは分からないが、少なくとも明日の昼までには、トモエから改めてそのあたりの話がなされることだろう。
「私は、まぁ、状況次第かしら」
「アイリスさんは、その、激発する場面というのはそこまで見ていませんが」
「確かに、私よりは貴女のほうが多いわよね」
アイリスに、そのように言われてオユキとしては心当たりしかないために。
「ヴァレリー様は、目の前の光景を、己を通すための手段として、己の信仰に刃を置く者たち。それをして、野蛮だと、理解が出来ぬとそうお考えでしょうか」
「いえ、それは」
「その、勘違いしないでいただきたいのですが、単純な疑問としてお尋ねしているだけです。」
一応は、側に既にマルタ司祭にエリーザ助祭も控えている。そんな状況下で、戦と武技の巫女として、いよいよ飾り立てられたオユキに尋ねられたなら、同じ巫女として信仰の形に対する問答が始まると警戒するのも仕方のない事ではある。
「信仰の形は、それぞれでしょう。例えば、あのようにローレンツ卿が行っていること。己の背に戦えぬものを置き、隣には己と共になるものと。それも一つでしょうから」
別段、戦と武技、それの示す範疇をヴァレリーが良しとできるのならばそれでよい。
「彼の神は、かつて私達に向けて鍛錬をただ楽しいと、そう喜ぶ子供に向けてそれこそが未知の入り口であると、そう仰せでしたよ」
そして、オユキからは改めて他の形もあるのだと、それを示すために彼の神の言葉を、パウがかつて言われた言葉をヴァレリーにも。神々は、そこまで橋梁ではないのだとそれを示しながらも。決着までは、後十手程だろうかと眼下で繰り広げられるアベルとローレンツの試合に、オユキは思いを馳せながら。
確かに、アベルとアイリス、この二人は色々と似ているところがあり、決定的に違う所もあり。だからこそ、歪な形が綺麗にはまったトモエとオユキ、それと似た関係になるのだろうとそんな感想をオユキは抱きながら。
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