憧れの世界でもう一度

五味

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34章 王都での生活

揺れ落ちる

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トモエが、少年たちとクレドと連れ合って散々に魔物の狩猟を終えて。狩猟者ギルドに顔を出したときに、少々また厄介ごとが、つい先ごろクレドに対してトモエから見て少々過ぎた対応を行った職員に声をかけられた。また、何か面倒かと、トモエがさらにはクレドも警戒をあらわにし。
何よりも問題となるのは、此処で下手にトモエがこの職員の望むことを聞いてしまう事。子爵の伴侶としてというよりも、武国の者達との関係がある。狩猟者ギルドには、当然見知らぬ相手が顔を連ねている。その中の幾人かは、既に息がかかっているだろう。慮外者ばかりでは無いと、それに関しては神国で問題を起こしていないという事実からも分かるのだが、オユキの予想ではこちらに戻るのに合わせて間違いなく魔国にいたその考え違いの者どもが神国に対して彼らの行動の正当性を訴えているだろうと聞いている。
つまりは、此処でトモエが狩猟者ギルドという公の場で戦闘行為を行ってしまえば、付け入る隙を与えてしまうのだ。少なくとも、オユキがそうしたことを話したときに、トモエに自重をしてくれと言い含めているのだと気が付くくらいの能力は持ち合わせている。そして、トモエは要は疑っているのだ。こうしてしつこくトモエに話しかけてくるものが、そうした手合いではないのかと。
何より、トモエがそうした嫌疑を抱いているのだと伝えても構わないのだが、無為に時間を使ってという気にはなれない。こうして戻ってくるまでの間に、何やらオユキのほうで心乱されることがあったようでトモエのほうでも早く戻らねばと、オユキの側に行かなければならないと。虫の知らせよりも、遥かにはっきりとした意識が生まれているのだ。
そうしたトモエの心情を機敏に察した少年たちが、代わりに話を聞くからと。トモエとクレドを早々に送り出してくれた、これは喜ばしい事だろう。不安点を挙げるとすれば、海千山千の相手に少年たちが言いくるめられないかと言う事なのだが、そのあたりは結果次第というしかない。彼らが要望として聞いたのであれば、それはきちんと書状として受け取って来てくれることだろう。
それに対して、トモエでは無く、オユキが。はたまた、公爵からの対応を願うことが出来る。苦手なトモエでは無く。

「オユキさんは、私たちが狩に出ている間は、やはり刺繍ですか」
「はい」
「完成が、楽しみですね。私もいくつか道具を依頼して、オユキさん用にとこしらえたくは思いますが」
「トモエさんは、確か娘や孫娘たちと習いに行っていましたね」
「和刺繍ですので、どうにもこちらの物とは違うというのがまた難問ですね」

そして、トモエが戻ってみれば、なにやらオユキが慌てたようにトモエと共に武器をもって向かい合って。借り受けている屋敷に残っていたはずの、カリンやアイリスがではとばかりに顔を出してくるよりも早く。セツナやヴィルヘルミナと話しながら、刺繍を行っていたのだとそうした話は既に聞いた。そこで、何やら不安に思うようなことを改めて気が付かされたのだろうなとトモエは一人納得しながら。
これまで、オユキがトモエに対してここまではっきりと己の独占欲というのを向けた事は無かった。過去にしても、トモエを一人で置いて、それこそトモエが門下生と話していたところで何を想う様子でも無かったのだ。当時から、門下生となれば、トモエよりも年長の異性ばかりであったというのに。人によっては、ここまではっきりとした感情を向けられて食傷気味にもなるのだろうが、過去の事もありトモエとしてはやはり嬉しいのだ。
トモエが向けるのと同じだけ、それには到底及びはしないが同じ感情が相手からも返ってくるというのは、やはり心地が良い。

「トモエさんは、楽しめましたか」
「はい。十二分にとはいきませんが、己の身に着けた技が存分に振るえるのはやはり楽しい物ですね。過去のオユキさんが、それを感じていたように」
「それは、そうなのですが。誘いましたのに」
「ええ。今となっては、後悔も一入」

今日の立ち合いは、オユキにしては珍しくトモエの話を、トモエが教えるためにと武器を選ぶのを待たず。オユキがこちらに来てから、自分がトモエに勝つためにと用意したうえで、トモエがそこにいくらかの手を加えて形を変えた物。それをいそいそと手に取って、これまでのようにトモエを待つでは無く、ただただトモエを打ち倒そうととまではいかないが、それでも己を見てくれと、こちらで身に着け、さらには己が考えた物はこのような物であるとそれをただ示す。
トモエが、常のように構えてみれば、オユキはそれに対して同じように。トモエは、片方は上げた上でもう片方を自由だ効く様にと話したものだが、両手共に。そして、そこからきちんと間合いを図った上で、トモエの間合いよりも内。オユキの間合いに入る様にとじりじりと足を擦って進んだと思えば勢いよく。
跳ねる様に飛び込んできたかと思えば、それはあくまで見た目だけ。足を一つ残したうえで、上体を配分を大きく変えながら手打ちにならないようにとまずはトモエが構える側の刃を振るう。つまりは、トモエにとっては己の構えが対応しやすい側では無く、逆側から。成程と、一つ頷いてそちらに刃を合わせてみれば、やはり残った腕が今度はトモエの胴を狙って振るおうと。しかし、トモエがそれを許すはずも無く、間合いが近いからこそ、足を使ってとそうした素振りを見せれば、今度はそのまま残していた足に一息に体重を移して、そのまま後ろに。
トモエは、僅かにそちらを折ってみるかと考えるのだが、どうにもオユキの動きからしてこの先の流れがあるらしい。先ほど、刃を合わせたときに、まだ見せたいものがあるのだといわんばかりの視線であったため、改めてトモエは構えを戻してオユキを待つ。

「では、次です」
「ええ。どうぞ、思うように」

そうしてみれば、先ほどと違い今度は、体を大きく回しながらトモエの側面、構えている太刀の側に入り込もうと動く。先ほどとの違いは体を回していること。つまり、その勢いがオユキの刃に乗ることになる。だが、どうだろうか。互いに戦と武技から与えられている加護を抑えるための指輪を身に着けているとはいえ、体重に筋力に、かなり起きなさがある。かつてであれば、練習用脳武器というのは打ち合わせる事を前提としていないものが多かった。技物にしても、金属同士で撃ち合えば当然刃が欠ける。そして、そこから確実に痛んでいくのだ。それを避けるために、オユキの頭にも、トモエが避けると考えているのだろうが。

「オユキさん、先ほども私は刃を合わせましたよ」

こちらであれば、何ら問題は無いのだ。
太刀が痛んだとしても、頼める職人がいる。かつてと違って、こちらでは武器を使う人間が非常に多い。つまりは、簡単に手に入る。トモエにしても先の事があり、なんだかんだと狩った魔物の一部はやはり次なる武器の為にと取っているのだ。さらには、オユキも数字の上では把握しているには違いないのだが、それでも、考えていなかったといわんばかりに何やら慌てている。

「こちらであればこそ、それを考えないのは、如何な物かと」

体を回し、トモエが避けると考えての事だろう。回した結果として、トモエに近い側。トモエの構える手と、同じ手に持った刃がオユキが考えているよりも間違いなく近い位置でぶつかり合う。そして、トモエは容赦なくそこから力を通してオユキの動きを止めようとするのだが。

「成程、それも悪くありませんが」

遺されたもう片方の武器を、体重が乗っていない手打ちとして。それでも、オユキの手に有る蛮刀には十分以上の鋭さがある。それを、トモエとオユキの武器がぶつかり合っている陰に隠すように。だがそちらに対しても、トモエは当然手を遺している。何故、オユキが思うよりも早い位置でオユキの動きを止めたのか。それを、考えていないのかと言わんばかりに、トモエはそのまま己の体をオユキの背に運ぶ。こうしてしまえば、オユキの放った刺突はトモエにあたる事は無く、トモエは己の武器を未だにオユキの刃に沿わせたままに。しかし、オユキにとっても、トモエの動きは想定無いとでもいえばいいのだろうか。そう動く様に、誘導しているのだとばかりに次の動きを作る。
深い曲線を描くオユキの持っている武器。それはこうした状況を想定しているのだとばかりに手首の動きだけを使って回す。トモエの太刀が滑るようにと。
成程、こうして正面から向かい合って留めるのとは違い、少し離れた位置でとなってしまえばトモエが常々発揮する合わせた刃による支配というのは難しくなる。だが、トモエにしてみればオユキのほうこそトモエの技量を、かつて力では到底かなわぬ相手となったオユキに対して優位を築くためにと研鑽を積んだトモエの技を見誤っているのだと。
オユキの動きに合わせて、そのままトモエは己の太刀を柄本に滑らせて少々の動きではどうにもならぬ箇所に動かして、そこからオユキの次なる動きを縛るために力を加える。今オユキに残されているのは、間違いなくトモエから逃れるために、今のオユキの正面に動く事。もしくは体を回して、己の肘や手に持つ得物の柄頭につけられている金属の石突で打撃を加える事。その選択肢を、どちらも潰す点にとさらにオユキに対して空いている手で首を狙って掌打を放つ。

「ええ、トモエさんは、そうする物でしょう」
「おや」

しかし、こうした一連はオユキの想定内でもあったらしい。トモエにしても、この程度はやってくれと考えての事でもある。
当然のように、オユキは己の手に持っている武器を手から離し、体を前に倒したうえで、そのままの勢いで足を使ってトモエの顎を狙う。

「ですから、オユキさん。体格差というのは、やはり大きいですから」

此処で、トモエが上体をそらして一度距離を空ける事を望んだのだろう。足の力というのは、腕の力とは比べるべくもないというのは事実。だが、オユキの考え違いというよりも気が付いていないことがここで出てくる。トモエは、オユキの首を狙ってはなった掌打を、そのままオユキが蹴り上げる足に向けて、そのまま力を通す。そうしてみれば、オユキは前に倒れて体を回そうとしているはずが、それも叶わず。急激にかかる力に、トモエが加えた力に大きく動きを乱されて。
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