憧れの世界でもう一度

五味

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33章 神国へ戻って

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どの道とでもいえばいいのだろうか。
オユキは、暫く始まりの町に戻るつもりが、実のところない。この後は、一度少年たちを送り届けた上で、領都に避難しておこうと考えている。ならば、こうして前公爵から打診されていることについても、そちらで改めて話してもいいのではないのかと考えて。

「そちらについては、マリーア公に改めてご相談させていただきましょう」
「ほう。ファンタズマ子爵は、領都に向かう予定があるのかね」
「そういえば、私どもがこちらに来た理由については」
「一応、聞いてはおるのだがな。始まりの町に戻るのではないかと」
「私としても、流石にあちらに諍いを持ち込むような真似は望みませんから」
「手紙からは、今一つわからなかったのだが」

そうして、前公爵が深々とため息を。
今回の料理に関しては、オユキにはトモエが作ったものが。前公爵夫妻についてはアルノーの手によるものが並べられている。完成度という意味では、間違いなく比べるまでも無いだろう。さらには、料理の組み立てとでもいえばいいのだろうか。オユキの前に用意されている物は汁物、鍋から具材を拾い上げた上で盛り付けているためポトフともまた少し違う状態にはなっているのだが、そうした物が二品続き。メインにしても、魚が一品だけ。
対して、きちんとサラダから始まり、スープ、それに口直しとして果物が。そのあとにはメインが魚だけでなく、きちんと肉も用意されて。言ってしまえば、内容としては簡素な物にはなっているのだが、きちんとコースとして考えられている。盛り付けにしても、同様に。ソースを使って簡単に皿に模様を描き。模様が、ソースの色が主役を引き立てる様にとそちらもきちんと趣向が凝らされている。料理というのは、見た目に関しても妥協を許しはしないと、まさにそれを体現しているような品々が。
以前マリーア公爵と話したときには、アルノーがいなかったのだが老齢の前公爵夫妻を慮って、コース仕立てではあるものの、全体としては軽い仕上がりになる様に。ワインの発行がさらに進んだものとして、こちらにはワインビネガーも存在しているらしく、それらを使って程よい酸味を感じさせるようにと。

「私どもが、療養で向かったはずの他国から、こうして耐えかねて戻ってきた、その程度には」
「公爵から伺った話を考えれば、成程とは思うのだが」
「そう、ですね。私たちは、どうにも伝聞でしかあなたの事を知りませんから」
「確かに、そうですね。ただ、客人も相応にいる場ではありましたから、そちらへの配慮を欠いたといいますか」
「成程。氷の乙女、言葉の響きからも静寂を好みそうではあるな」
「ご本人は、嬉しい賑やかさであればと、そうした方ではありますが」
「そうですね。あちらでも、何やら楽し気に席を眺めておられる様子」

オユキから俎上に載せた相手、その人物が食事の為にとこの場に足を運んでいる。前夜は、オユキたちと同じく今目の前の人物の屋敷というよりも仮住まいで一夜を過ごし。それから、顔を合わせる時間は無かった。そんな相手が、今は少年たちを楽しげに眺めつつ、食事を楽しんでいる。どうにも、氷の乙女という話があり、火の気配が強い物は苦手だという話。だが、オユキもそうであるように、こうしたポトフやスープといった物は問題が無く口に運べるものであるらしい。
何やら、少年たちに乞われるままに纏めていくつかの樽を氷に閉ざしたりと、実に鷹揚に願いをかなえている。そして、クレドのほうは海産物が珍しいのだろう。トモエが好んでいることもあり、こちらはいよいよ人以外と分かる特徴をもって、殻ごとそのまま齧っている。そこで、音が響くのかと思えば、相応に硬い物をかむ以上は少しくらいは音が鳴るだろうというのに、距離があるからかオユキのほうにまでは届いてこない。

「問題としては、輪が領ばかりが新しい種族とと、そう言われそうなことくらいか」
「他領に向けてとするには、関係を結ぶ切欠となったこともありますわ」
「理解はできるのだがな」
「その、他領については一度通ったことのある先代アルゼオ公爵領くらいしか、覚えがありませんが」
「ほう」
「言葉は悪いかとは思いますが、各々、相応の努力をすればよいのではと」
「まぁ、その方はそう言うであろうな」

街中に関しては、それこそどこもそこまで変わりはしないのだ。トモエと、オユキと。どうしたところで移動の間は馬車の中に閉じ込められるオユキに比べて、トモエは基本的には馬車の外にいるのだ。そして、二人で話してみれば、色々な種族がいるのだとよく分かる。それこそ、こちらにいる人の多くは、かつての世界と変わらぬ者たちがいるかと思えば、一目でそうでは無いと分かる相手も多いのだから。

「難しい、困難があるというのも理解はできますが、あそこのシグルド君のように」
「花精との一件は聞いておる。確かに、街中で、各個人が、そうしたことは行われているだろう」
「そう、ですね。私たちの領内でも、始まりの町に移動したオルテンシア氏族の花精達とは、細々と交流はありましたもの」
「我のほうでもガトーのいくらかとは、交流があるな」
「ええ。ですが、それが表に出ていないというか、大きくならないのは改めて理由を考えた上でとして頂ければ。正直、私からはそれ以上に言いようも無いのです」
「最もではあるな。我らにしても、位を得たときには家督を継いだ時には、何分義務を果たすだけでも」
「そうですね。息子に後を押し付けて、ええ、それで少しは自由な時間も得られたというものです」
「あれも、まだまだ若いというのに、既に跡を探しておるからな」
「私たちが、今のあの子の年齢の頃にそうしたからでしょう」

軽く笑いながら、談笑という言葉の通りに。会食らしくといえる形で。

「簡単には、理解したのだが、つまりファンタズマ子爵としては」
「どちらかといえば、武国への抗議という意味が大きいのです。私としても、始まりの町の屋敷は気に入っていますので」
「それは、まぁ、やむを得ぬか」
「オユキさん、貴女は、領都よりも」
「いえ、トモエさんは領都のほうが気に入ってはいますので、屋敷の用意が整えばと言う所でしょうか」
「ふむ」
「そういえば、土地の選定も未だに進んでいないと、そんな話でしたね」
「私たちからの希望はお伝えさせているのですが、都市計画とでもいえばいいのでしょうか」

領都にしても、南区の事もあり少し拡張してはどうかとそうした話が出ているらしい。つまり、町への出入り、実践として魔物の種量が行える領域に、簡単に出かけられる事。それが、此処が良いのではと話していた場所では少しずれる事になった。そして、門の位置が動くと言う事はそれに合わせて、各ギルドの移転も考えなければならない。狩猟者として今も働いている者たちは、ほとんどが徒歩で動き回るのだ。ならば、町の出入り口から近い場所に、やはり用意の必要がある。そして、公爵領の領都でもある広大な都、人口もかなり多く、それに比例して狩猟者も多い都市なのだ。当然、魔物の素材であったりを保管するための倉庫にしても、相応の大きさというのが求められる。
今のところは、西側が急ぎで拡張をしなければならないと、魔物の強度の低いそちら側が急ぎだとそうした話を聞いてはいるのだが。

「そちらに関しては、息子が、現公爵が決める事となるからな。生憎と、我にまで情報は回ってこぬが、そうか。量との拡張となれば、百四十二年ぶりか。その時には、確か南を少し広げてとなったが」
「今回は、釣り合いを考えれば北側となるのかもしれませんが、あちらは」
「そうだな。基本は鉱山ばかりではあるのだが、こうして我が領の特産を求められる以上はそちらへのテコ入れも必要にはなるだろうな」
「ファンタズマ子爵家に狩猟者の事を頼むのであれば」
「西となるだろうが、この町からの移動を考えれば」
「そうですね。私としては、東側がと考えていますが」

どの位置にするのか、それに関してはオユキに対して確かに打診はあった。そして、今前公爵夫妻が話している通りの事を、伝えてある。
鉱山のある北側については、そもそも虫がというよりも巨大な節足動物でもあるムカデが鉱山内に出るために、トモエが二度とは要らないと言い切っている。オユキとしても、改めて入りたいかと言われればただただ首を横に振る。
トモエほど、明確に苦手と言う訳では無いのだが、オユキも好きではない。寧ろ、嫌いと言ってもいい部類ではある。

「領都で、暫くといいますか闘技大会までは時間を使わせていただければと」
「ふむ。ならば、その間のことはリース伯に任せるか」
「そう、ですね。息子夫婦でも良いかとは思いますが」
「公爵夫人は、今も王都にいたはずだが」
「ファンタズマ子爵が、領都で暫くとなれば、いえ、寧ろ領都で過ごす心算があるのならと」
「それもそうか。だが、デビュタントもまだ終わっていない子爵家当主となるが」
「だからこそ、です」

何やら、少々思わぬ方向に話が進んでいるなと、そうオユキとしては感じながら。
王都での暮らし、そこにどういった不満があるのかと言われれば、借りられる屋敷が、門まで遠い。これに尽きるのだ。領都であれば、まだ昼食については壁の内側に戻っていうのが可能になる。それも、馬車で軽く揺られたうえで。だが、王都でとなると少々早めに屋敷を出たのだとしても、昼食を食べるのは外になる。どうしたところで、移動に時間がかかるのだ。

「ふむ」
「そうですわね、確かにファンタズマ子爵の求めとは、当家から貸せる屋敷となると」
「いや、門からの距離が近い場所にもいくらかある」
「ですが、そちらでとなると」
「確かに、遠ざけたいと考えている相手が、少々難しいか。いや、護衛を受け入れてくれるというのであれば」
「どうでしょう。こうして話している限りでは、それを考えたときに武国の者たちが我が国との関係が難しくなることを」
「そればかりは、陛下に直接とするしかあるまいよ。そのための王兄殿下でもある。既に門が開いた以上は、改めて国同士の話を密にとして頂くほかあるまい。一応は、ユニエス公爵も」
「ですが、あちらは」
「そうであったな」

さて、オユキに聞かせられない事、それもあってどうにも色々と伏せた上で話が進んでいる。それでも、互いの間で理解をするためにと出てくる単語もある。それらを拾い集めて、推測だけはオユキもしてみるのだが、どうにも結論としては望まぬ方向にまとまりそうなものだ。
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