憧れの世界でもう一度

五味

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33章 神国へ戻って

忙しく

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積まれていく魔物の収集品。トモエとオユキにとっては、食材以外の価値を見出せない大量の魚介たち。それを眺めている時に、オユキがぽつりと零した言葉が始まりだったのだろう。確かに言われてみれば、領都で一度、それこそパエリアの上にのっているのを見たくらい。こちらの国を考えれば、特産として確かに存在しているはずだというのに。そして、アルノーにしても頻繁に使うものには違いない、このんでいるに違いないというのに食卓に上らないなとトモエが考えて。
珍しく、とでもいえばいいのだろう。こちらに来て、オユキが己が口にしたいもの、それこそ食材単位でも口にしたのは、随分と久しぶりだからこそ。

「探しましょう」
「王都のメルカドでも、見た記憶がありませんが」
「領都で口にされたとのことですから、マリーア公爵領であればと思いますが」
「そちらの子達は」
「あー、なんか、たまに見るけど、あれ育ててるってよりは」
「えっと、始まりの町でも、森の浅いところとかにたまに見るけど」
「な。あれ、結構面倒な食材らしくって、あんま使うのいないしな」
「確かに、足が早い食材ではありますし、冷蔵か冷凍しなければというものではありますが」

大量に積まれていくカニの足、それを見たときにどういった連想化までは流石にトモエも分からないのだが、オユキがぽつりと零したのだ。アスパラが食べたいと。
そして、基本的に食事に対して熱意を見せないオユキ、それがはっきりと食べたい食材を口にしたのだ。まずは、トモエとシェリアが早々に動くことを決めた。今はまだ、魔物の領域だというのに、それこそオユキが行えば叱責を受けるというのに。すっかりと魔物に対しての興味を無くして、完全に片手間での処理を始めている。乱雑に武技を、それこそある程度近づいた魔物に対して遠間から容赦なく太刀を振るって魔物をただただ魔石へと還しながら。

「あれって、そんなうまいもんか」
「そのあたりは、好き好きだろう。お前が好きな物に関しては、オユキはどうにも苦手らしいからな」
「私も、そこまで好きじゃないけど」
「え、おいしいよ」
「セリーは、そうだよね」

さらには、こうして少年たちも巻き込んで。
散々に素振りを行って、改めて己の動きの調整を各自が終えてみれば。では早速とばかりに、オユキも含めて周囲にいる魔物に向かって。流石に、今同行している相手は騎士が多く、釣りを行ってくれとは頼めないこともありどうしたところで得られる種類は陸にまで上がってくる魔物からとなるのだが。それでも、そこらを跳ねる兎、カニをはじめとして、始まりの町でも翼人種が殊更好むサンショウウオをはじめとして他にもいくらかの魔物を狩っている時に。
オユキとしては、この後は先代マリーア公爵と話をしなければというよりも、始まりの町に戻る前に、そして領都へと向かう前に何か言われるだろうと考えてはいる。そして、そこでアルゼオ公爵とマリーア公爵、王太子妃を魔国から招くにあたって生まれた確執に関してなにがしかを言われるのだろうと考えて。そうして、僅かに気落ちしていたこともある。はっきりと、面倒を感じていたと言ってもいい。そして、そうしたことに気が付いていたトモエとシェリアが気を回してと言う事も無いのだろうが。

「あの、例えばですが」
「えっと、オユキちゃん」
「いえ、それこそタルヤ様に頼んでみてはと」
「あ、そっか」
「タルヤって、花精のばーさんだっけ」

そのタルヤにしても、魔国から己の子供二人を連れて、始まりの町に戻っているはずではある。橋を渡る、それについてきたのはローレンツとエステールの二人。タルヤについてはユーフォリア、カレンと共に先に始まりの町の屋敷を整える必要があるからと既に門を使って先に移動を叶えたはず。

「オユキ様が口にしたいと、そう仰せですから」
「そうですね、せっかくでもありますし、アルノーさんもいますので」

そして、言われて、オユキが珍しく口にしたいと言い出したものをすぐにでも用意するつもりの二人は、その心算が無い。特に、二人の懸念としてオユキは少しでも時間を置けば、僅かな食欲、こうして見せた食べたいもの等と言うのをすぐに忘れてしまうだろうと。オユキに関しては要望を口にした以上は、それを急いで叶えなければ、少なくともそうした姿勢を見せなければ我慢するのだとシェリアにしてもそうした認識が共有できている。これについては、何をそこまでとオユキが若干気後れし始めているのだが、そうした考えのもとに動く二人にしてみれば、珍しい事でもあり先の鞘の用意から続くオユキらしからぬとでもいえる物ではあるのだ。

「えっと、アスパラガスだっけ、オユキちゃんは緑と紫の、どっちが好き」
「ああ、原生となっているのなら確かに白は難しいですか。その二種類であれば、そうですね緑がかつては好みではあったのですが、今であれば紫もおいしく頂けそうな気もします」
「でも、紫のって数が少ないんじゃなかったっけ」
「そうでしょうね。かつての世界でも、収穫時期と言うものがかなり厳しい物だと聞いた覚えがありますし。いっそ当家で白をとも思いますが、そうなるとまた人手が必要にもなりますから」

ホワイトアスパラガスに関しては、日光に当てずに育てる物だとそれくらいの知識はオユキにもある。そして、カリンが大量に手に入れてくれた大豆にしても、こちらでもやしなどを久しぶりに口にしたいとそんな事をぼんやりと考えもする。

「日光を遮って育てる物として、後はもやしやマッシュルーム、茗荷などもありましたか」
「えっと、オユキちゃん」
「オユキは、農業やんのか」
「いえ、当家が頂いている屋敷と言いますか、土地ですね。いくらか余っていますから、その一角にそうした日光を当てずに栽培が可能な品種を育てる場所を作ってみるのも良いかと」
「でも、その辺育てるにしても元がいるだろ」
「そうですね、苗にしろ種にしろ、後はキノコなので菌ですか。そうした物は、どこかで都合しなければなりませんが」

オユキとしては、正直な所そのあたりの知識は本当に持っていないのだ。これに関してはトモエも同様。シェリアと共に、アスパラガスの入手を、先に戻ってウニルにそうした野菜が無いか確認するようにとの言伝を騎士の一人にしながらも、オユキと少年たちのそうした話を当然とばかりに聞いている。

「そういえば、オユキちゃん、前にキノコすきそうだったもんね」
「ええ。かつてから変わらず、そう言っても良い物ではあるかと」
「どうする。ウニルからも、少し歩けば歩きキノコ、出る様になってるらしいけど」
「おや、そうなのですか。昨夜の食事では、みませんでしたが」

少年たちに言われて、成程そういった変化がこちらでもと驚きながら。今は、特にアルノーもいるのだからと少し、オユキの思考がそちらに傾く。トモエにも、久しぶりに色々と無理を頼んでみてもいいかもしれないと、そんな考えがオユキにも浮かぶ。火を長く入れた物は、オユキにとってあまりよくないとそうした話は確かにセツナからもされた。それを話した本人は、これまでの疲労というよりも、始まりの町に戻った時に、領都でマリーア公爵と面会が叶えば色々と話さなければならないこともあるからと、今日は一日屋内でクレドと色々話すとそう言われたものだ。
言ってしまえば、今後の取引、神国で手に入るものがどのような物か。改めて確認の上で、今後ファンタズマ子爵家というよりも、オユキ個人に対して行う配慮と、それに対して求める物を決める事だろう。魔国に比べて、どちらかといえば食材が豊富でもある。こうして、色々と水産資源も存在している。魔道具に関しては、確かに魔国に遅れるのだがそれ以外、布にしても食事にしても神国のほうがやはり豊かなのだ。

「そうですね、少々、そちらを狙うのも良いですか」
「そういえば、オユキちゃん良かったの」
「はて、何がでしょう」
「えっと、魔国に向かうときに」
「ああ。そちらに関しては、私がというよりもトモエさんですし、その、分かり易くしたというのも大きい事でもありますから。一応、私たちの話し合いの中で、決着も見ていますから」
「あの、決着って」
「そう、ですね。そのあたりは、また難しい話と言いますか、この前に話した私たちの間での約束ですね。それを使って、私が押し通したといいますか」
「えと、その場合だと」

少年たちから、要はトモエが納得していない事なのだなと、そんな視線が送られる。実際に、その通りである以上は、オユキからそちらに対して何が言える訳も無い。彼らの懸念が、ただ事実なのだから。

「そのあたりは、ええ、皆さんが考える通りです。ですが」

そう、だが、事これに関しては互いの間の約束事がある。トモエは一度飲み込むと決めた以上、これに関しては二度目が無い。二人の約束とは、そうした物なのだから。故に、トモエはトモエで、また色々と機会をうかがっているというのも事実ではある。次にオユキが、それこそマナの枯渇どころでは無く、大きな怪我を、病気を、症状を。そうした物を出して、カナリアがこれでは持たないと判断した時には、その時にこそ再度オユキに言いつのるだろう。

「ですが、今は私としても歩きキノコですね、そちらをと」
「えっと、アスパラガスは、いいの」
「いえ、そちらはシェリアとトモエさんが人をやっていますから」
「ええと、オユキちゃん、よく見てるね」
「一応は、戦場でもありますから」

なんだかんだと、少年たちとこうして話している場は魔物の領域。今となっては、オユキにしても確かに無造作に処理ができる程度の魔物でしかないのだが、それでも気を抜いてとはならない。側に寄ってくる魔物を、きちんと切り捨て、時には少年たちのほうにも回しながら。己の背後、それから周囲に関してはしっかりと護衛がいるとはいえ、それでも河から上がってくる魔物に関しては護衛の範囲外でもある。流石に、水の中で活動できる訳も無し。浅瀬とはいえ、そこに長時間使ってというのも重装の騎士たちが行うような事でも無いのだから。

「さて、それでは一度戻って、改めてとしましょうか」
「そっか」
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