憧れの世界でもう一度

五味

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33章 神国へ戻って

魔国から

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魔国の王妃からは、今回の件、武国の者たちの狼藉に関しては確かに腹に据えかねているとそうした話を改めて。オユキの要請があった、神国からの客人でもあり得難い人物でもあるオユキからのという事をお題目に、明確に制限をかけておくとそうした話がされた。そのあたりの理屈は、オユキとしてもどうにも納得がいかぬと首をかしげながらも、外交上は必要な事なのだろうと飲み込んで。

「魔国から、ですか。それは勿論、私は構わないのですが」
「であれば、明日にでも向かわせましょう」
「一応、今回神国に橋を使って戻るにあたって、計画を任せているものが居ますので」
「貴女から、こうせよと」
「いえ、流石にある程度の期間の移動になってきますと、私は知識が不足していますので」

遠征、移動。そのあたりに関しては、オユキはいよいよ門外漢。かつての世界での移動、それを基準としてどうしても考えてしまうため自分自身でも向いていないと理解している。かつての世界であれば、よほど人の生活から離れた場所に向かうのでも無ければ、食料などは簡単に調達が出来たのだ。飲み物に関しても、好みをとやかく言わなければ、対価を払う事を前提としていれば実に簡単に。物々交換、貨幣経済が浸透していない地域も確かにかつての世界には残されていたのだが、そもそもそのような場所には観光としていかなかったこともある。そして、こちらに来てから改めて学ぼうなどと考えて、それがあまりにも煩雑だからこそ早々に投げ出したこともある。馬車の積載量、人が乗るのならばその空間も空けた上で、馬が引くのだから馬の飼料までを考えて等と言うのはいよいよオユキの手には余ったものだ。

「人数は、どの程度を」
「今回は、我が国からの調査員でもありますので、二十人」
「あの、流石に、それは。私たちとほぼ同数となると」

王妃から気軽に言われた言葉に、オユキとしても流石に考えてしまう。

「同数、ですか。となると皆がと言う事でも無いのですね」
「ええ。流石に、借り受けている場の維持などもありますし、今回はアイリスがセラフィーナをこちらに残すと、そうした話をしていることもありますし交代の人員ですね、それを私たちの移動に併せて一度戻すだけとも聞いていますから」
「でしたら、こちらも半分ほどに減らしましょう。調査となると、希望者も多く」
「その、調査も勿論と言いますか、私たちにしても最低限は行いますが、目的そのものは」
「武国への抗議、我が国への物も含めてなのでしょう。神国に急いで、そのような道行きでは無いと私は考えていますが」

そもそも、神国に本気で戻りたいと、急いで戻るというのならば門があるのだからそれを使うだろうと。

「その、確かにそれもありますが、どうにもトモエが興味を持っていますし」
「成程」
「私にしても、橋を架けた以上は、報告を受けている身としても」
「確かに、こちらで聞いている話と、そちらから回ってくる話とでまた様相も違うようですからね。仕組みの解明、ええ、そのためには我が国の者達も役に立つことでしょう」
「その、私から確認しますし、正式に頼んでは見ますが急な増員、護衛対象の人数が増えたとして可能かどうか、その問題は残りますから」
「貴女が言えば、通るでしょう」
「そのあたりは、流石に明言できませんが」

王妃からの断言に、オユキとしてはあまり心当たりが無いと、ただそう首をかしげるしかない。実際に問題があるのならば、エステールから間違いなく何かがあるのだがそれが無いために、問題視されていないらしいと、そう判断して。

「流石に、対価も無しにとなると色々と難しいのですよ、私たちにしても」
「確かに、他国とのことですからね。その、例えばなのですが」
「かの国から来ている者たち、その中には一応責任者として挨拶を受けた物もいますが、どうにも我が国の気風には合わぬ者たちが多い様で。いえ、貴女に話すことではありませんね」
「それに関しては、正直私たちから改めてこうしてお願いをさせて頂いていますので」

それに関しては、オユキももはや閉口するしかない。

「今後、と言いますか、その神国に戻ってからは」
「オユキは、橋を渡るのに、どの程度かかると」
「これまでに聞いた報告を考えれば、二週ほどでしょうか。なんにせよ、計画をする者たちのほうで間違いなく間に合わせてとするでしょうが」
「それを信じられるというのは、ええ、良い事なのでしょう」

アベルにしても、能力については信頼がある。彼よりも、今回の移動を計画している人員の中にローレンツがいることがオユキにとっては大きかったりもするのだが。

「武国からの者たちが、このままであれば我が国としては」

そして、王妃が改めて居住まいを正して。

「あちらの国との関係は、難しいと考えざるを得ません」
「それに関しては、私に言われてもとしか言えないのですが。改めて神国からもとそうした話を、マリーア公爵とそこから経由して。大義名分としては、療養の邪魔と言うものがありますから」
「ええ、よく頼みます」
「正直、武国については創造神様の前にと決めているので、そこまでの間に向かううつもりが無いのですよね」
「そのあたりに関してもと、そういう事かしら」
「あくまで一部とは思いますが」

まったく、神授の太刀迄、勿論折に触れて手元に戻してはいるのだが、それを預けて迄いるというのに。そんな事を考えて、オユキとしては本当に、アベルの件もあり本当に面倒を感じているのだ。武国という国に関しては。

「一先ず、あの国からもたらされるもの、それと本当にこうした面倒が釣り合うのかは是非とも考えて頂きたいものです。正直、神国からの者達で十分とは思うのですが」
「オユキは、今後までを考えたときに」
「さて、それについては何とも言えません。勿論、今は少々傾いているとだけ」

正直、今更ではある。既に、一度試しとして行ったこともあり、オユキの中では少々不要な取引相手に思考が傾いている。オユキにとっては、どうにも武国を名乗る割に、これまでの極僅かな期間におけるトモエとオユキの振る舞いで、アイリスも含めた振る舞いで戦と武技の神の力が回復した様子を見ている限り疑念のほうが大きい。そして、それを確かめようとすれば、結局足を向けなければならないという欠点がある。
どうにも、何度かアベルに尋ねる心算で軽く話を振ってみているのだが、彼にしても相応に幼い時分から神国に来たために色々と知らないことが多いとそうした話。

「正直、観光という面でも、以前の記憶をたどる限りは」
「話に聞くにつけても、どうにも貴女が好みそうなものはなさそうですね」
「そう、なのですよね。トモエさんも、神国の闘技大会で満足していただけていますし」
「オユキ」
「失礼しました」

すっかりと、寛いだ空気にはなっているのだが、流石に貴人の前と言う事もある。オユキが少々感情的になっている、政治としての振る舞いでは無くそれ以上の物として、個人としての感情が出ていると注意をされる。少なくとも、オユキとしてはそう考えているのだが、実際のところは己の伴侶に対して敬称をうっかりと着けるほどに、オユキが腹に据えかねているのだと、それが分かった以上はもう十分とそうしているのだが。

「何にせよ、一度戻ってからと言いますか」
「そうでしょうね。オユキは、改めて神殿にというのは」
「いつ、というのも難しいのですが、一先ず私が一度見て取り乱してしまった絵、その写しを頂いてトモエが良しとできてからでしょうか」
「かなりの慌てよう、どころかそのトモエが貴女を早々に連れ出すほどとか」
「その、かつての両親に関わる事でもありますし、そういえば、この辺りの説明をしていませんでしたか」

振り返ってみれば、オユキはかつての己の両親が、使徒としてこちらに等と言う話をしたことはあっても、そこで過去に何があったのかを話していなかったなと、そんな事を改めて思い出す。

「これに関しては、確かに私の落ち度でもありますね」

王妃が少々気にした素振りをみせるのだが、生憎とこの話は神国でもしていない事なのだ。それこそ、己の身の周りにいる者たちにも。勿論、これまでのオユキの振る舞いである程度は察しているのだろうが、それでも直接話していないのだとその引け目はオユキにもある。ならば、今回の移動、その目的の一つに加えてもいいかもしれないと。

「少なくとも、話すべき相手に話してからと、そうなるかと」
「貴女、まさかとは思いますが」
「ええ。その、言われて振り返って、改めて話すべき相手にも話していなかったなと」

オユキの言葉に、改めて王妃が深々とため息を。

「貴女、本当に側仕えは信頼しているのでしょうね」
「ええと、今回借り受けた人員や、貴国から派遣されている人員はともかく、そうですね、長く側にあって頂けた方については」

魔国からも、王太子妃の紹介もあったこともあり、ある程度まとまった人員が神国へと既に来ている。始まりの町で暮らしている、基本として暮らす場としている屋敷にしても幾人か、だが基本としては王都にあるファンタズマ子爵家として与えられた屋敷にはなっている。そちらで時間を使い、神国のやり方に馴染んだところで、そのまま王太子妃が改めてという人材がそちらにいるという形になっている。

「それにしても、改めて気が付かされることの多い物です」
「貴女も、生前の経験があるとはいえ考えるべきことも、改めてとしなければならないことも多い物でしょう」
「それは、ええ、そうですね」

差し当っては、王妃の招きに応じる形ではあったのだが、席を分けてそちらはそちらで出されるものをただただ口に運び続けている相手、その処遇もだろうか。どうにも、招かれた側、オユキから声をかけた段階で供されることが重要だとそう判断しての振る舞いには違いないのだが、門には翼人種を派遣するとそんな話もあったはずなのだから。

「今後について、それを考えるのであれば、私としても魔国から調査をという方たちは引き受けたくはあるのですが」
「ええ、よく頼みますよ」
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