憧れの世界でもう一度

五味

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32章 闘技大会を控えて

闘技大会

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オユキに向けて、何やら強い感情を持つ者たちがいる。その者たちは、やはりオユキが参加したうえで、向き合わねば溜飲が下がらぬというのはトモエにも理解できる。だが、トモエこそが、オユキとの機会を求めている。結局収拾のつかぬままに、しかし、オユキのほうでは無事己の意見は通せたと、そう語られた席が終わりを告げて。

「オユキさんは、また、ですね」
「ええと、ここまでの事になるとは考えていなかったので」
「まったく」

そして、やはり派手な神降ろしなどすれば、結果など分かり切っている。
ここまでの間、しっかり休んで少しは回復したというのに元の木阿弥だとトモエがオユキの眠る寝台の横に腰を下ろしてため息一つ。しっかりと、今この場には特段負担を感じている様子の無いセツナまでも。カナリアのほうは、先ほどアベルからアイリスを見て欲しいと言われたこともあり、そちらに向かっている。アイリスのほうでも、途中で席を分けたこともあり、トモエを経由しながらかなりを徴収されたものであるらしい。

「その、今度は、途中で別れたこともありますから」
「こちらで、神が改めて幼子に名前を伝えたこともある。既に、幼子の力をわずかとはいえ使ったうえで門をご用意くださったわけじゃしの。その方も、対策は考えておかねばならんが、いよいよ戻った折に機会を見てとなるじゃろう」
「闘技大会が終わった後に、とは考えているのですが」
「それがいつかは分からぬが、その方がそこまでの間に体調を、マナの保有量を戻せるかと言われれば、妾からは何とも言えん」

こちらも、トモエと同じくしっかりとため息を。
セツナの伴侶であるクレドはどこかとオユキが軽く首を動かそうとしてみれば。

「幼子とはいえ、おぬしもクレドにとっては異性でもある。流石に、病床に連れてくるほどの無作法は妾もせぬよ」
「私は、気にしませんが」
「オユキさん」

別に、入室しても構いはしないとそうオユキが口にしてみれば、しかしトモエから否定が。さらには、まだまだだと言わんばかりに、セツナからもため息が。そして、二人そろって、オユキにはわからぬ何某かの確認を視線を交わして行うあたり、いよいよもって性別にまつわるものだろうかと、オユキとしてはそんな事を考えて。

「流石に、今度の闘技大会に関しては、私はいよいよ不参加となりそうなのです」

オユキとしても、この時期にここまで己が削れてしまえば、流石に無理だとそれくらいの自覚もある。何より、トモエがオユキは未成年の部門での参加しか認める気が無い様子でもあり。それを覆すには、己が万全だと示さなければならないのだが、それについてもこうした機会を得たからと、やはり無理を重ねてしまった結果として。己の頬に、そっと当てられているトモエの指に、少し頭を寄せて。

「トモエさん」
「わかっていますよ」

オユキが、珍しくという程でも無くトモエに甘えるそぶりを見せてみれば、トモエからはただ理解ばかりが返ってくる。それもそのはず、オユキがそもそも戦う回数を減らすために、オユキが望まぬ戦いを強いられて、そこで削られるのを望まぬのがトモエでもある。

「トモエさんの考えた通り、というのが私としても」
「ええ。それを汲みとって頂いたうえで、翌年を目指してくれる、それはやはり嬉しい事ですよ」

オユキが、トモエの判断に信頼を置いてくれるからこそ、それが分かるからこそ。今こうして、オユキが不機嫌に少しの嘆きを募らせたとして、その先を、トモエが望んだことを望んでくれることがやはりトモエには嬉しいのだから。

「少しの、とは言えませんが」
「忸怩たる思い、とでもいえばいいのでしょうか。正直、華と恋も併せて、そこで得るつもりだったのですが」
「他の機会を求めるしか無い物でしょう。それこそ、改めて私からとしても」
「トモエさんは、どうでしょうか」

オユキの率直な疑問として、トモエとオユキには明確に差があるのだと考えている。神降ろし、こちらに関しては、神々から何かを賜る事に関しては、どうにもオユキを経由してという場面ばかりを見ている。トモエとオユキが分かれて行動している時に、トモエのほうに直接何かがあった等と言う話は、やはり互いに知らない。それこそ、どうにも夢の中でオユキがそうであるように、トモエが戦と武技と向かい合っていそうだということくらいには、オユキも気が付いているのだが、それ以上とでもいえばいいのだろうか。トモエに対して、例えば、刀の一本たりとも戦と武技から下賜される様子も無いというのがオユキとしてはやはり引っかかっているのだ。
オユキよりも、よほどトモエのほうが戦と武技の望むところを体現している。なんだかんだと、オユキの望みを、オユキが伝えてというよりもトモエに教えを乞う者たちが改めて戦と武技に感謝を口にする機会が多いというのは、オユキも良く知るところではある。マリーア公爵領における、現マリーア公爵が優先したい者たち。その者たちに対して、散々にトモエが示したものがある。それが終わったこともあり、今となっては神国において望む者たちにトモエが折に触れて口を出すこともある。始まりの町に至っては、逗留することがあれば折を見て新人たちの教育にも顔を出したりしているのだ。そこで、トモエのほうでも散々に示している物がある。それに対して、トモエが明確に功績であったりを与えられることが無いというのが、やはりオユキとしても気にはなるのだ。
勿論、トモエの望みというのがオユキに向いている、これまで氷の乙女の補助も得られぬ状況で。カナリアや魔国の王妃といった助けは確かにあったのだが、それもどちらかといえば対症療法でしかないというのはトモエとオユキの共通認識。それを支える事を、少しでもいいから己の比翼をとトモエが願っただろうことは理解できているのだが。

「幼子よ、また何やら考えておるようじゃが」
「その、これまでのトモエさんが積み重ねた物ですね、それはどこに行ったのだろうと」
「そのことですか。一応、奇跡を得たという結果はありますが」
「それは、雷と輝きからですから」

それを口に出して、オユキとしては思わず首をかしげてしまう。何やら、トモエが苦笑いをしている物だから。

「オユキさん、忘れていませんか。アイリスさんが、父親の剣と呼んだ物が、一体どのように」
「はて」
「戦と武技の神、その権能にも含まれていますよ」
「ですが、それを良しとしてしまえば」

オユキの理解では、分けたはずなのだ。加護としても、明確な力としても。そうでなくては、特定の神に祈りを捧げてというのが、必然性の無い事になるのだと。

「オユキさん、やはりかつてとは違います。何も現世利益ばかりをと言う事もありますが、重なるものなどいくらでもありますから。その中で、勿論、それぞれに細かく見れば違いはあるのだとしても神々にもやはり上位と下位というのあるようですから」
「うむ。極論をしてしまえば、この世界で最も力を持つ創造神、その力を語れば凡そすべての柱がその内じゃ。裏層でいえば、法と裁きもおる。そうした特に力ある神、それらを基本として祭った上で、妾たちも己の祖たる神を祀るというものじゃ」

トモエと、のんびりと話しているうちに、口元にそっと食事を運ばれながら、時に飲み物も口に運ばれて。そんな状況で話していたために、すっかりオユキの認識から外れていた相手からも声がかけられる。トモエはともかくとでもいえばいいのだろうか。オユキの認識、向ける意識。シェリアでさえも、常々側にいる時はどこにいるのかを把握しようと動いているのだがどうにもこのセツナに対しては、それが働かない。
かつての、己の子供たち、長く暮らして、ああ、この相手は己の敵ではないのだとそうした感覚とでもいえばいいのだろうか。クレドは、きちんと警戒が働くのだが。

「幼子よ、そなたは巫女と呼ばわれるというのに、あまりにも神々を知らぬ様子なのじゃが」
「お恥ずかしながら、こちらに来て日が浅いとはもはや言えませんが」
「ふむ。戦と武技の巫女なのであろう。どうにも連れておる者たちにしても、他の神々を崇める者たちばかりであるし、どうにか連れてはこれぬのか。幼子にしても、己が位を頂く神についてそこまで何も知らぬでは色々と障りもあろう」

随分と、いたいところを突かれたものだと、トモエとオユキ、揃って苦笑いをするしか無い物だ。
こちらに来て、戦と武技の神に連なる相手というのは、いよいよ教会で勤めを果たす者たちにしか出会っていないのだ。それこそ、持祭とまではいわないのだが、常々求めているように助祭の動向が得られれば、そこから旅の間に色々と学んでなどともいえる。言えはするのだが、生憎とそれが許される相手ではないのだ。教会で勤めを果たす者たちというのは。持祭の少女たちが、アイリスとオユキが自由に動けているのは教会での勤めを行う以上に他をなす必要があるから。なんとなれば、位を得ている少女たちにしても常日頃は狩に出る時間も取れない程に、教会であれこれと習っているのだ。つまりは、旅から旅へ、あちらこちらへと移動する者たちと神職というのは、つくづく相性が悪いのだ。かつての世界であれば、伝道師等と言う位もあり、離れた地へと骨をうずめる心算で動き回る者たちに与えられる位もあったはずなのだが、戦と武技の髪がトモエをそう呼んだところで、対外的にその位を喧伝することが無い。つまりは、この世界においては、想定されていない事であり、仕組みの外だとよく分かる。

「巫女と呼ばれる位の者たちが、どうにもあちらこちらとしている様子は見えるのですが」

そして、その伝道師に近いとでもいえばいいのだろうか。その位は、まさに今オユキが与えられている物に違いない。実際に月と安息の巫女にしても、常は教会の無い町で過ごしているとも聞いているのだから。

「ところで、セツナ様は」
「妾たちは、また難しいのじゃが、我が良人にしても祖に近いとしてあがめられる立場ではある。というよりも、各種族の長とはそのような物でもあるしの」
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