憧れの世界でもう一度

五味

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32章 闘技大会を控えて

参戦の可否

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散々に切り捨てた魔物。常よりトロフィーとして得られるものが少なかったのは、片手間だったからだろうか。オユキはそんな事を考えながらも、どうにか眠い目を開いていようと心がける。狩猟の後は、いつもの如く後の荷拾いは任せてしまって屋敷に戻る。そこから、昨日と同じようにトモエに追いかけられながら走り、しっかりと疲れがたまったところでまたカリンと向かい合う羽目に。
鍛錬として、それが必要だというのは理解ができる。寧ろ、懐かしさすら感じるというものだが、過去己の体というのはなんだかんだと無理が効く状態、少なくともこうして全力で動いた結果としてすぐに眠気を覚えるような状況では無かったのだなと、そんな事を考えるものだ。鍛錬の後に、雑と言う訳では無く寧ろ丁寧に洗われたこともあって、その時間に軽く眠ってとしてみたのだがその結果は寧ろ今もこうして食事の前だというのに、トモエから食事を摂らなければならぬとそのまま眠る事は許されず。

「オユキさん、自分で食べられそうですか」
「ええ、どうにか」
「その様子だと、私の報告は後に回した方がいいわね」

昼食位は一応他の者たちと揃って、そんな話をしていたこともあり、オユキも連れてこられている。トモエとしては、正直失敗したなと、こうしてうつらうつらと舟を漕ぐオユキに向けられる視線に関しても。他の者たちが、アイリスに対してオユキから朝方頼んだことが終わったのだから、一応報告位はと考えているというのに。何やら微笑まし気な視線が寄せられているものだし、少年たちにしてもほとんどが夢の中といった様子。持ち帰られた大量の食肉は、ミリアムの嘆願もあってある程度は、勿論この屋敷で暮らす者たちだけで消費しきれるものではないのだが、魔国の狩猟者ギルドに流れる事になっている。
ミリアムのほうでは狩猟者ギルドばかりに注意が言っているのだが、実のところそのあたりの流通を取り仕切るべき商業ギルドもしっかりと麻痺しておりこれはいよいよ領都からアマリーアを連れてこなければならないのかと、オユキの中ではそこまで思考が傾いている。始まりの町にも、王都にも勿論それぞれ慣れた者たちはいるのだが種族としての年齢もあり、能力に関してもやはり不足だと判断されている。そのあたり、マリーア公爵から、いい加減にアルゼオ公爵領から人員を供出させるようにと動いているらしいのだが生憎とそちらも何やら動きが鈍い。この期に及んで政治闘争かと、トモエとしては溜息しか出ないのだが。

「それにしても、この後は少し眠って、かしら」
「ええ。食べて、寝て。起きたらまた、鍛錬の時間です」
「分かり易くていいわね」
「此処までには、騎士団の鍛錬では新人たち位なのだがな」

そんな事をアベルが言うのだが、それについてはトモエの意見として追い込みが足りないとしか言えない。勿論、聞いた話ではまずは全身鎧を身に着けて走らせる、そんな話を聞いている。だが、それが熟せる体力が付いたというのなら、速度を上げるなりトモエがオユキにやっているように楽な走り方などをさせないようにと、方法はいくらでもあるのだ。恐らく、そのあたりを含めて一度トモエに見てくれと言う事なのだろうが。

「王城の鍛錬でしたら、カリンさんに一度見て頂くのも手だとは思うのですが」
「私、ですか。騎士様方の振る舞いとは、凡そ対極にいますが」
「基礎鍛錬という部分では、私たちの間でそこまで差があるようには感じません」

トモエの隣で、何やら自分で食事をどうにかとろうとしているオユキの様子を気にしながら。オユキのほうでは、いよいよ苦手な物をそれでも口に運ぼうなどと考える余裕が無いのだろう。常よりも、随分と外に分かり易く今の自分の体に、味覚に合うものをゆっくりと選んで食べている。そっと、苦手だからと避けている肉の類にしても体を作るためには必須であるため、トモエが切り分けた上でオユキが癖として手を伸ばす場所にそっと置いておく。
はたから見れば、介護と見えるのか、伴侶の世話を甲斐甲斐しくしていると映るのか。もはや、トモエにとっては区別がつくものでもない。特に、こうした振る舞いに関しては、互いに互いをとしていることもあった。

「なら、頼まれればとしましょうか」
「トモエの保証があるのならば、願っても無いはずだが」
「私が表立ってとなると、また障りがありそうですから」
「であれば、示すしかありませんね」

どうやら、本人の中ではかなりしっかりと固まっている意志であるらしい。だが、その視線が、熱量が向く先にいる相手は、これでトモエが隣にいなければ、トモエも疲労で眠りかけていればはっきりと起きるのだろうが、今は特に気にせずに。

「オユキさんに関しては、私からも一応公爵様にお願いはさせて頂いているのですが」
「それは、オユキからも言われていますけど、その、理由を聞いても」
「前回、トモエがやらかしたことがあってな」
「一度話をしたうえで、問題が無いとそうなったはずでは」

その話を、また蒸し返すのかと。トモエとしては、前回確かにオユキの喉を刺したし、半ばから引いて戻さずに斬ってとしたのは確か。決着の形として、オユキにとっても、トモエにとってもそれが正しい物として互いに理解していたのだ。だというのに。一度は確かに決着を見たはずだし、問題が無かったのだと一応の理解は得られたというのに。それが今になって、トモエとオユキが再び舞台を得る事に問題があるのだと、そんな話が戦いから遠い者たちから上がっているのだ。
オユキが、何やら自分についての話がされているらしいと、少し意識をはっきりさせようと軽く頭を振ったりとしているのだが、それをするという事はつまり今もまだ頭に入っていないと言う事。ここで、勿論オユキも知っていることではあるのだが、それを改めて俎上に載せるとなれば特に今はかなりはっきりと不快をあらわにすることだろう。アベルまでもが、何やら随分と否定的なのだ。それに対しては、アイリスがにらみつける様に視線を向けているため、はっきりと分かる。

「その、私への挑戦権の様にオユキさんが扱われるのは、確かに私も納得はいきませんが」

一応、そうした随分と熱量の高い視線を向けている二人に対して、きちんとトモエから釘を刺して。

「だけど、オユキはトモエよりも弱いのでしょう。オユキ自身が、あなたを上に置いているんだもの」
「それは、間違ってはいませんし、流派として区切った時には間違いのない事なのですが」
「まぁ、オユキにも言われた事ではあるけれど、その時に私からもはっきりと言っているのよ。トモエはオユキの後だと。オユキも、否定はしていないわよ」

トモエにとっては嬉しい事であるには違いないし、師を立てるオユキの姿勢をカリンが改めて評価して何やら頷いているのを見ながらも。此処にオユキがいる以上は、トモエが謙遜するというよりも、はっきりと才覚という面での明確な評価を返すのも違う。オユキが気が付いていて、それでも自分自身を無理にだましていることの一つでもあるのだ。それをトモエが話してしまい、はっきりと自覚を持たせてしまえば、というよりもトモエがその様な事を話してしまえばかなり慌てて、新しい嘘を、理屈を自分の中で作って。今後の事に関しても問題が出てくるだろう。
どうにも、オユキはそのあたりに関しても頑固なのだ。
トモエとしては、そうした部分も、そうした部分が可愛らしいのだが。

「それは一度おいておきましょう。ここではっきりとさせておきたいのですが、アベルさんは否定をしたいのですね」
「私の職責を、立場を考えてくれるとありがたいのだがな」
「その理解はある、とは言えませんが、期待はしたいのですよね。一応はアイリスさんもいますし、私たちのありようとでもいえばいいのでしょうか、その理解はしてくれるのでしょう」

そして、トモエが告げた言葉に、今度は眠たげにしている年少者たちから一気に視線がアベルに向かう。誰も彼もが、尋常な勝負の場を求めているのだ。アベルについては、どうにも熱量が低いと、この場にいる人間の共通認識として、確かに存在している。だが、少年たちにしても、はっきりと願っているのだ。その場で、間違いなく認められるだけの成果を残すことを。

「一番難しいところは、お前の伴侶の年齢にあるんだよ」
「そういえば、その問題がありましたか」

闘技大会の開催にあたって、年齢を分ける事は決まっているらしい。確かに、トモエもそこに異論が無いのは事実でもある。体が出来上がっている物と、年齢としてこれ以上の成長が少ない者たちとそうでは無い者たち。その差は確かに歴然としてそこにある物だし、培うために、己の武を確かにするためにと使う時間もはっきりと差がある。そうした部分を考慮して、年齢を分ける事に確かにトモエも賛成の立場をとるのだと、持ち掛けられた話に応えている。
だが、年齢を分けるとなった時に、最たる問題に、オユキ自身がなるのだ。

「その、異邦人でもあるのだし」
「法と裁きは甘くない。年齢でと、そうしてしまうのならば、そうなるからな」
「その、異邦から来た者たちという区切りは」
「これは一応歴史から消えている話でもあるのだがな、結論だけを言うのならば、成立しなかった。こちらに馴染んでしまった、それをもって判定が出来なくなる」

そして、改めて今は舟を漕ぐどころではなく、瞼もおり始めているオユキに視線が戻ってくる。
本人が、年齢の自覚が無いうちはまだ良かった。しかし、今は出来てしまった。法と裁きの範囲が何処までかは分からないのだが、少なくとも本人が自覚をしてしまった以上は難しいのだとそんな理屈もいやいやではあるのだが、理解が出来てしまう。
そして、残りの二人にしても、そういえばとばかりに。

「流石に、オユキが年少者だったかしら、そちらの枠で出るのは」
「そうよね。私達を考えれば、それ以外は青天井でしょうけど」

そして、話題に上がった本人がいよいよ限界とばかりに、トモエのほうに体を傾けて。
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