憧れの世界でもう一度

五味

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32章 闘技大会を控えて

反省会は

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トモエが、強かに少年たちを打ち据えて。そして、トモエのそうした少しの熱、トモエにとっては僅かに試合に向けた圧を、精神にと調整をした結果周囲の者たちが当てられて。クレドは、人狼という種族の能力をいかんなく発揮することになった。アイリスにしても、近頃は毛先だけを常に輝かせているのだが、改めてトモエも見た覚えのある金に輝く毛を身に纏う。さらには、イリアまでもが、僅かに、毛先にだけ混ざっている黒の割合を変えて激突を。結果として、クレドが纏めて、まさに人狼という姿に己を変えて二人をねじ伏せて見せた。
対して、オユキのほうでもカリンに主導権を預けていたのだが、最早ここまでとばかりに舞とはまた違う動きに切り替える。流派の物かと言われれば、そうでもない。トモエ相手に見せる、トモエを相手取るための技、それを頭で
組み立てている時に、思いついた動き。カリンには止められているのだが、アイリスが度々己は本来こう動くのだと言わんばかりに我慢をしている動き。獣のように、跳ねまわり、相手を追い立てる様に動く。爪や牙の代わりなど、それこそ手に持っている鉄の塊で十分以上。以前、トモエが慣れぬ事だろうに、それを流派としては否定するだろうにテトラポダからの者達を、武国からの者達を威圧するために行ったことがある。それは、本来であれば口伝の類。しかし、オユキは確かにかつて義父から習っている。
己の内にある物を開放し、ある種の拘束を、同じ人相手だと効かせてしまう自制を取り払う。己の体が壊れないように、痛みを覚えたときに反射としてここまでと勝手に体が止めようとする。そうした動きの一切を取り払うために行う鍛錬。それを聞き、確かに習った。だからこそ、行える動きというのがある。そうしてみれば、急に動きの質が変わったからだろう。カリンが、はっきりとその視線に楽し気な色を浮かべて、表情がはっきりと笑みの形に変わる。結果としては、結局体力が完全に切れてしまったオユキが動けなくなり、そこで派手に転がって終わりとなりはする。
そして、その頃には、トモエが今度はしっかりと痛みを与えるための技を使い、合わせて体力もしっかりと奪っていく。そして、トモエが意識を切り替えて二分もする頃には、立っているのはクレドとカリン、トモエだけとなった鍛錬の場で改めて集めた上で。

「では、改めて反省会ですね」

そう話しながら、太刀を改めて鞘に納める。

「オユキさんは、改めて最後の動きについては反省しなければいけませんし」

そして、己の制御できぬものに、そもそも制御を手放す方法しか知らない己の伴侶を、改めて抱き起すためにと移動しながらも、こぼれる苦笑いを抑えきれず。
シグルドに、他との対戦を許さない理由。それを何故トモエが理解できているのか、そんなものは決まっている。シグルドがあまりにも過去のオユキに似ているのだ。見た目ではなく、その心根が。両親を追い求める、そうした部分ではなく、武に向かう部分と言う訳でもなく、負けん気の強さであり、勝つのだとそれだけを求める部分が。シグルドにしても、トモエに習っていることだけでなく、トモエやオユキが散々に見せている物を使おうと動く。かつてのオユキがそうであったように。そして、少年たちの間でシグルドがそのように動いてしまえば、その先に待っているのは対応が出来ないものが無理に動き、さらにシグルドがそれを望まぬというのに痛打を与え、下手をすればこちらでも数日は残る怪我に、下手をすればシグルドが致命的な物を選べば、相手が壊れる。奇跡を願えば、治るだろう。だが、それでもそこで覚えるだろう恐怖というのは、シグルドが覚える恐怖というのは取り払っておきたいと、それくらいにはトモエも考えるのだから。

「ええと、流石に」
「練武ですから、枠を超えるような動きはダメですよ」

流れる汗が、地面を転がった時にしっかりと土を体に張り付ける。今日は魔物の狩りに出たりはせずに、朝からしっかりと鍛錬としているため化粧なども最低限なのだが、それにしてもしっかりと汗で斑に落ちている。かつての様に、基礎化粧品として汗に強い物があればよいのにとは考えるのだが、そもそも利用する層が違う。
シェリアが鍛錬の流れとして理解をしていたのか、屋敷に一度戻った上できちんと汗を拭くための布などを持ってきており、それをエステールを経由して受け取って未だに寝転がっている少年たちの側にオユキを降ろして顔をぬぐいながら話を続ける。

「だからこそ、カリンさんを相手につけたと言う事もあるのですが」
「てっきり」
「ええ、そうしたこともあるかなと、考えての上です」

荒れる呼吸に、どうしてもオユキの言葉は切れ切れであるし、何よりもトモエがオユキの汗を拭いたりとしているために、言葉はどうしても切れ切れで。カリンのほうでも、エステールから受け取った布で、トモエがオユキにしているように、軽く押さえるようにしながら流れる汗をぬぐっている。体力としては、まだ残っている様子だが、最期のオユキの動きで肝を冷やしたと言う訳では無いのだろうが、攻守が逆転し見知らぬ動きであろうとも舞の中に取り込もうと動いたために余分に使ったと言う事なのだろう。

「さて、まずは皆さんで少し飲み物でも飲みながらとしましょうか」
「はい」
「オユキさんも、もう少し起きていましょうね」

いよいよ体力を使い切って、既に少し眠気を覚え始めているオユキに、もうしばらく我慢しましょうとだけトモエは声をかけて。流石に、食事を摂らせなければいけないと、そうした考えもあるにはあるのだが、そこまでは持つまいと判断している。少年たちのほうは、いよいよこの後話が終われば食事を摂って、オユキと同じく少し休めばまた次に。今からはなす反省点、それを改善させるためにと搾り上げればよい話。ファルコに関しては、流石に一日を訓練に使う訳にもいかず、彼に関しては走り込みが終わった後にほどほどに疲労をしたという様子でそのまま先代アルゼオ公爵の屋敷へと戻る事になった。そちらは、彼も色々と政治について考えて、己が今後任されると決まっていること、それを考えた上で色々と働きかけも行っている様子。
トモエではなく、オユキに助言を求めていたところを見れば、そしてオユキからせめてリュディヴィエーヌを呼んできて欲しいと、そうして退けられたこともあって、トモエとしてはそう判断している。

「老師は、私たちの動きは」
「目で追えたのは短い時間ですが、そうですね、凡そは把握をしていましたよ」
「そのあたりは、私としても改めて習いたく」
「こればかりは、その、経験と言いますか」

ただ、それに関しては、お互いに十分余力があるので後に回すようにと視線で訴える。

「さて、皆さん。此処までの数日は、これまで離れていた間にずれていたものを直すことに専念してきましたが、改めて、今後を考えて伝えようと思うものもあります。既に、シグルド君には一手伝えてはいますが、それ以外にも」
「あー」
「俺は、ローレンツ様からいくつか」
「そうですね、盾術をきちんと習うのも良いと思います。ですが、その場合はまた武器を選ばなければなりませんよ」

盾にしても、ローレンツ、元騎士である彼から習うのは大楯をいかに扱うのかとそれが主題になっている。腕にくくってつけるような、小型の円形盾とはわけが違う。
勿論、アベルやローレンツであれば優に四十キロを超えるような大楯を片手で問題なく振り回したうえで、両手で扱うべきサイズの武器ですら片手で取り廻すのだろうが、パウにはまだ早い。金砕棒を両手で振り回す。勿論、相応に無理な振り方をしていたとトモエには理解が出来ているのだが、そもそも誰かを守るために使うような物でも無かったというのが、問題として大きいのだが。

「そのあたりは、ローレンツ卿からは、なんと」
「確か、片手剣にと」

珍しくという程ではないのだが、体が大きく、筋肉もしっかりついているために、やはり長時間動くことが苦手なパウにしても、今はしっかりと地面に転がっている。トモエとしても、一先ずとばかりに軽く顔を拭いたオユキをシェリアに渡して、そのまま残らせておくようにと手で示したうえで、パウとシグルド、その前に腰を下ろす。こうして気軽に地面に膝をつくことに対して、子爵家のものとしてどうなのかと、エステールからの視線は黙殺しておき。

「ええ。私も、その方が良いと思います」
「それは、だが」
「改めてお渡ししても良いですよ。今後の目標と、そう考えておくだけでも良いのです」
「そうか」

パウが、長物を使って、叩きつけるように振るう。そうした使い方を好むのは、トモエとて理解している。だが、彼にとってはそれ以上に少年たちの間での約束が大事なのだと、それも分かる。結果として、彼に今できる事、今後やろうと思う事を選ぶときに、トモエとオユキがいない場での少年たちの振る舞いを考えたときに、彼が盾がとなるという選択肢があるのだとそれも理解しているからこそ。

「やはり、手札が多いのは重要ですから」
「あー、前に間合いの話されて、それで、今回のっていうのは、なんとなくわかった」
「ええ。間合いの内、そこに入られると、また難しいでしょう。セシリアさんは、長刀を回そうとしていましたし、サキさんはきちんと柄をという意識を見せてはいましたが」

シグルドの言葉に頷きながらも、反省会である以上当然ほめるべき部分は褒めなければならない。地面に大の字に転がる少年二人に比べて、オユキに対してトモエが抑える様に顔を当てながら汗を拭いて、そうした様子を見ていたのだろうが、こちらも年頃らしく己の姿を気にするそぶりを見せている。どうにも、簡単に水分補給が終われば、その時間が過ぎればオユキと同じく汗を流させに行く方が良い様子。気もそぞろで話しても、やはりよい事は無い。しっかりと追い込んで、そこで少なくとも二度はどうにかトモエを囲んで動くことは行ったのだ。

「明日からは、狩りに出て、戻って来てから同じ流れとしましょうか」

流石に、一日ですぐに身につく訳も無い。だからこそ、今後も変わらず行うのだ。日々の中で、生活の一環として。そうなる様に。
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