憧れの世界でもう一度

五味

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31章 祭りの後は

為すべきは

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「おー」
「良かった」

朝食の席に、此処までであれば夫婦の時間としていたのだが、少年たちもいるからと揃って出てみれば。オユキのというよりも、トモエのほうもかなり機嫌がよくなっていることに気が付いたのだろう。

「喧嘩ってわけでもなさそうだったし、なんかあったのか」
「ええ、ご心配をおかけしました。少々思う所がありまして。」

此処で、原因までを話してしまえば、パウとその両親にまで話が及んでしまう。オユキとしても、せっかくの親子の再開に水を差したいわけではないのだ。だからこそ、原因は濁したうえで。

「ここ暫くの疲れ、でしょうか。如何に大司教様に負担を頂けるとはいえ」
「そういや、俺らも少し疲れるもんな。教会の中で、別のところに行くと」

さて、そうした場所に案内された少年たちとしては、納得のいく理屈を選べたようだとオユキは考えて。少女たちのほうは、仕方がないから誤魔化されておこうとそうした視線の圧をオユキとしても感じるのだが、そればかりは勘弁してほしい物だと合図を送れば飲み込んでくれるらしい。
オユキが隠したい事を、少女たちにしても追及はしないとそうしてくれているのは、オユキとしても有難い事なのだ。それこそ、以前には彼女たちまで巻き込んで、大掛かりな事をした自覚もある。その時にも、似たような視線は少し前から受けていたものだが、今度ばかりはシェリアにしてもオユキの味方。オユキの両親の手がかかり、そんなものがまさか神殿に掲げられている等と言うのは、完全に想像の外。トモエが不安げにする近衛たちに酷く大雑把に説明をすれば、直近で思い当たるところが、何よりもローレンツに対して見せた配慮からも理解が及んでいたらしい。
トモエに見せている物については、異性の間、伴侶に対する物と考えることもできる。だが、ローレンツに対して、未だに己の麾下ともなっていない相手に対して、戦と武技の巫女等と言う仰々しい肩書までを使って時間を用意したのは、家族を、特に親子での時間を大事にするからだと。そのこともあって、今回だけでなくトモエまでもが王太子と王太子妃に対して殊更気を使っていることに理解が及んだ。
そして、今後の為にと何を考えているのか、それにまで。

「皆さんは、そういえばこちらではどれくらい」
「あー、王都で闘技大会が開かれるんだったら、その前までだな」
「ああ。あとは、神殿の事は終わったが、まだ他にも頼まれていることが」
「とすると、私たちが戻る時に、皆さんもとしましょうか」

少年たちも、当然メイが移動のための費用を用立ててこちらに来ている。教会からだけでなく、リース伯爵の麾下としての用事も色々と言いつかっていることだろう。

「それでは、皆さんの用事ですね、それにしても後でミリアムさんかシェリアに話しておいてください」
「こっちだと、オユキたちの予定って、誰が管理してんだ。その人に渡すようにって言われた手紙があんだけど」

さて、いかに気楽な朝食の席とは言えシグルドの言動については、しっかりと他の者たちから採点がなされてはいる。オユキは気にしないから、そう話したところで彼は、少年たちは今度ばかりはリース伯爵家から来た者たちとして扱われている。そのあたりは、そのままメイの能力に対しての評価につながる。そのあたり、理解をしているらしいアドリアーナが是非ともシグルドに話すのをやめて欲しいと、しゃべらせずに引き取りそうなものではあるのだが、今回に関してはオユキとトモエがおり、イリアとカナリアも同席しているとそちらに意識が傾いているのだろう。
一応は、客人でもあるクレドとセツナもおり、いま俎上に載せたミリアムにしても同じ席にいるには違いないのだが。

「エステールとユフィ、ユーフォリアに任せています。カレンは、こちらも色々と頼んでいることが多いですし、今は始まりの町に戻していますから」
「俺らと、入れ違いになってたっけか、そういや」
「カレンさん、しばらく会ってないけど、元気かな」
「仕事には徐々に慣れてきてくれているとは思いますし、ユーフォリアが色々と教えているので」

最後に顔を合わせたときには、祭りの後にファンタズマ子爵家へ、戦と武技の巫女であるオユキへと宛てた大量の手紙の整理と諸々も心づけの対応にまた顔色が悪くなってはいた。見かねて、魔国から呼び戻したカレンを改めて始まりの町へと避難させ、公爵に一時的な対応窓口を改めて頼むためにとそうせざるを得なかったのだが、しばしの休暇を与える事とした。今頃は、それこそ古巣に向かって、マリーア公爵の領都に一度足を運んで己の両親と、それこそアマリーアと色々と話をするためにと移動していることだろう。

「えっと、ユーフォリアってのは」
「私達の世界、生前で暮らしていた場で私の、執事のようなことをお願いしていた方です。今はまだ神国でしょうが、カナリアさんもこちらに来られましたし、明後日には改めてこちらに来るのではないでしょうか」
「となると、今はエステールだっけか」
「そうですね。私も、身の回りの方が増えましたから、後で改めて紹介しますね」

思い返してみれば、少年たちとエステールに関しては初対面だったかもしれない。

「ローレンツの奥方でもあるので、皆さんにしても全く関係のない方と言う訳ではありませんから」

タルヤのほうも、既に第二子が居たりとこちらにしてもなかなか愉快な様相を呈してはいる。そのあたりも含めて、確かに説明がいるだろうとオユキは考えて。問題としては、では、そういった場が相応しいのかという話になるのだが、そのあたり何やらオユキとしても宜しくないとはっきりわかる視線をナザレアが向けている。要は、少年たちにしても、改めてそうした席に招いてきちんと行儀作法を勉強する機会を設けよと。
勿論、そこにはオユキも含まれているのだが。
そして、オユキがそんな事を話してみればシグルドのほうはそうなのかと言わんばかりに気の無い返事をしたうえで、朝食として用意されている少々分厚い燻製肉を切り分けて口に運んでいる。

「それにしても、オユキちゃんはあんまり食べる量増えないね」
「これでも、少しづつは増えているのですが」

食卓に並べられている内容というのが、これまた綺麗に異なっている。勿論、別で用意したとはっきりと分かるのはセツナとオユキの物だけ。他の者たちは、朝からしっかりと肉を主体としたものが並べられて、野菜に関してはいよいよ彩の華やかさを添える程度。勿論、栄養価という点では、計算されてはいるのだろう。焼きたてという程でもないのだろうが、ほんのりと温かいパンの積まれた籠がいくつかおかれ、それぞれが思い思いにそこからパンを。目の前に置かれたさらには、厚手の燻製肉、それもハムにベーコンに焼き上げた肉にと愉快な量が用意されている。それに対して、随分と野菜の量が、サラダとして用意されている服祭が少ないのではないかとオユキはそんな事を考えたりもするのだが。
他方、そうした物を好まぬ者たちに用意されているのは、色とりどりの果物を混ぜ込んだヨーグルト。加えて、刻んだジャガイモを摩り下ろしたものと混ぜた上で軽く焼いた、触感の差が楽しいもの。同じものについては、せいぜいがハッシュドブラウンによく似たそれに少し混ぜられたベーコンの欠片としっかりと用意されているサラダ位の物だろう。

「にしても、俺らはかなり食べる量増え経って自覚はあるけど」
「む。俺か」
「いや、狐のおば、ねーちゃんにしても良く食ってたし、そっちの猫のねーちゃんもさ」
「あんたには、自己紹介位はした気がするんだけどね」

名前ではなく、特徴で呼ばれたことにイリアが軽い反発を見せるのだが。

「あー、そうだっけか」

そのあたりは、未だにシグルドが少々薄い頃ではあったのだ。そして、そうした時期にはアナに忘れっぽいと言われていたこともある。つまりは、そういう事なのだろうと納得をしながらも。

「カナリアおばさんと、一緒にいたってのは覚えてんだけど」
「まぁ、あんたにしたら、間違っちゃいないんだろうけどね」
「あの、シグルド君。前から注意しようと考えていたのですが」

そして、アイリスに引き続きまたもシグルドがそうしたことを気にする相手から注意を受けている。
オユキにしても、このシグルドの持っている不思議な感覚とでもいえばいいのだろうか。一体何を根拠にしているのかは分からないのだが、年齢について敏感なこの少年が己を呼ぶときに、なんの継承もつけない事をもっと気にするべきではあったのだ。
トモエの事は、兄と呼んでいるのに、少なくとも年上だと判断して故障しているのに対して、オユキに対しては何の継承もつけていないのだ。そして、付き合いの長さゆえだろう。シグルドのそうした感覚というのは、少年たちの中でも共通の認識とでもいえばいいのだろうか、知られていることではあるのだろう。

「あー、気にしてるってんなら、俺も気を付けるけど」
「私は、種族の中では下から数えたほうが早いんです」
「つってもなぁ」

カナリアが、己は若いのだとそんな事を説明しようとしているのだが、シグルドは全くもって理解が及んでいない様子。この辺りは、種族というよりも、個としてどれだけの時を生きて来たのかと、そういった事なのだろうか。パンを軽くちぎって、口に運びながら、柑橘だろうか、さわやかな香りのするパンだなと、そんな事を合わせてオユキが考えていれば、トモエのほうでも気になっているのだろう。

「その、シグルド君、例えばカナリアさんとアイリスさんでは、どちらのほうがより強くその呼称を使おうと思いますか」
「それなら、カナリアおばさんだな」

注意されたばかりだというのに、呼称が戻っていることは後で改めてカナリアから言われるだろうとして。

「では、ロザリア様と、セツナ様では」
「ばーさんだな。そっちのオユキとよく似たのは、あー、でもそっちのじーさんと比べりゃ少しってところなのか」
「成程。ところで、私としてはてっきりオユキさんの見た目で、シグルド君は呼んでいると考えていましたが」
「いや、オユキ俺より下だろ」

何をそんな当たり前のことをと、そう言わんばかりのシグルドの言葉に、オユキが手に持っていたパンを取り落とす。
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