憧れの世界でもう一度

五味

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31章 祭りの後は

食後の運動を

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メインについては、客人からもきちんと好評を博す出来であった。そのあたりは、今後も継続しての取引をとそう思わせることが出来たことが一つ。勿論、セツナの言葉には衣装をと、オユキやトモエが着替えている結果として、布や服を求める言葉が先に立っていた。だが、集落と彼ら自身が呼ぶような場であれば、量は正直クレドが運べる程度には収まるだろう。つまりは、食料が、消費の量、集落にいるだろう人数を支えるだけの食糧となると、難しいとそういった話になるには違いない。

「で、あんちゃんから見て、どうよ」
「どうかと言われれば、悪いとしか答えられませんが」

そして、今はオユキを四阿に置いたうえで、久しぶりだからこそ少年たちも連れ出して、型の確認をトモエは行っている。ただ、やはり結果は推して知るべしと呼んでも良いだろう。確かに、彼らなりに続けてくれていたとそれは分かる。だが、身長も伸びれば、筋力もついているのだ。直すべきところは、体形に合わせてやはり変えなければいけないところが多すぎる。それこそ、目録を得ているオユキですら、あまりに変わった体系に合わせることが出来ていなかったのだ。準備運動の終わりとして、太刀を与えただけの少年たちであれば尚の事と言うものだ。

「間合いも変わっていますし、何より力がついてもいますから。シグルド君とパウ君は、途中に何度か直そうとしたでしょう」
「あー、なんかやっぱ少し違和感感じてさ。良くないかなと思ったけど」
「いえ、悪くはありません。以前に私が直した、それを考えての事だったのでしょうから」

そう、前にも少し間が開いた時に、少年たちの構えを直したこともある。そして、今回も自分たちで今のままではあまり会わないと、そうした判断が出来たことは良い事だとそう評価できる。ただし、それが正当な物とトモエが判断できればなのだが。悪くはない、違和感を減らすように、体がこれまでの構えに比べて少し動きやすいようにと考えて、足幅は少し狭まり、刀を得物を己の体に近づけて。寧ろ足幅は逆とすべきではあるし、得物にしても持ち幅を変えたりとより細かいことが必要になる。腕も少し長くなっているようで、これまでに教えた間合い、魔物との距離を同じにしようとして、そうした選択肢を選んでいったのだろうが、それが結果として良くない方向に。

「少し前のあなた達では難しかったので、省いていたことなのですが」
「あー、でも、これくらいなら」
「構えを続けていれば、それなりに疲れますよ」

今は、それぞれに改めて足幅の開き方、それぞれの足にどれくらいの割合で体重を乗せるのかとそういった話をしながらも、腰を少し落として構えを取らせている。そうしてトモエが教えている姿を、何やらオユキがとてもうれしそうに見ているのだとそれを確かに感じながら。

「それなりにとは言うものの、騎士様方が最低限と呼ぶ、それだけの理由はあるわけですが」

そして、トモエはそう言いながらも次はパウだとばかりに姿勢を直していく。シグルドよりも、よほど根深いのがパウだ。恵まれた体躯を誇っている。だが、姿勢が直せないのであれば、とにかくそれも悪い方向に働く。気を付けなければ、身に付いた膂力が、十分以上を得られているその上背が容赦なく己の体にも牙をむく。事実、既にトモエから見ればよくないと思える兆候が多い。重量のある武器を使う事を好み、確かにトモエもオユキと相談のうえで用意した。先端に行くほどに太くなる、金属製の打撃武器。それを仲間を守ろうと、少しでも隙を作ろうと振り回せばやはり己の体を痛める。そして、体は自然とそれを庇うように動き始める。癖になるほどに。さらには、背中やひじにトモエが触れたときに、ここまでの無理がたたっているのだろう。痛みをこらえるような、そんな反応があるのだから。

「パウ君は、まずは改めて振り方を覚えるとともに、きちんと休憩ですね」
「いや、俺は」
「痛むのでしょう」
「分かるのか」
「わからいでか」

そう、分からないはずがない。それ故に指導する資格を持っている。

「前にも言いましたが、壊れそうなものを壊れないように。それが指導者の資格と言うものです。皆さんに隠してというのも構いませんが、アドリアーナさんに頼んだりとまでは言いませんが教会には奇跡をお持ちの方もおられるでしょう」
「少し、考えたのだがな」
「それで、戦場で致命的な事になれば尚の事です。オユキさんにも何度となく言っていますが、無理はやはりよくないのです」

パウが、何やらオユキに視線を向けたりもしているために、あれは悪い例なのだとはっきりと告げておく。トモエにしても、何度となくオユキには警告しているのだ。こちらに来てからも既に一度。過去の事では四度ほど。もはや併せて片手の指を超えるようなことになっているのだから。さらには、トモエにとってはもはや早々に決断を下そうなどと考えるほどに、オユキは無理を重ねている。回復が遅れている、過剰な物が用意されているのだとオユキの種族の長から言われるほどに、神々にしても無理を押してと言う事なのだろう。

「なぁ、あんちゃん、パウってそんなオユキと比べる程なのか」
「隠していたのでしょう。しかし、それもこうして私が触れる程度で痛みを覚える程です」
「あー、そっか。悪かった」

トモエが、はっきりと告げればシグルドがパウに頭を下げる。

「皆で怪我をしないように、そう決めてたろ。俺が気が付けなかった、散々に助けられてたってのはわかってる。だから、次からは言ってくれ。無理だってかんじたり、いたいって思うんなら」
「そう、だな。俺も少し考えすぎてたとそう思う」

すまなかったなと、パウもそう言いながらシグルドに頭を下げて。本当にこの子たちは、良い関係を築いている。そんな事をただトモエは思うのだ。何やら、オユキにしても何を話しているのかは既に眠気が勝ち始めているらしく、まさに夢うつつと言った中で聞いているのだろうが、それでもここまでに比べて気を張ってという部分が少し減っている。長く一緒に行動していた、そうした気安さが、それ以上の物がオユキからこの少年たちに向かっているのだろう。
そうした気づきを、トモエもようやく得る。
確かに、オユキは無理をしている。トモエの警告にしても、そう言われると分かっていたと言わんばかりに、苦笑いを返してとしていたのだ。では何故か。トモエのためだというのならば、過去も度々そうであったように、トモエが望まぬと言えば止めただろう。そんな選択は意味が無いと、早々にオユキは諦めたことだろう。だが、過去もよくよくあった様に、オユキはやはりトモエ以外にも心を割くのだ。勿論、最終的な判断は、トモエに依る。本気でトモエがそれを望まぬと言えば、オユキは決して行わない。だが、トモエにしても、こうして教えて、それを大事にしてくれているこの少年たちは大事なのだ。だから、オユキは、この少年たちの分まで、今後この世界に生まれてくる生命に向けて。ただ、まっすぐに道を敷くことを考えているのだろう。それを、確かにトモエも望んでいるのだから。

「後で、頼む。リーア」
「うん、任せてね。でも、一度こっちでもきちんと教会に、えっと、魔国はあまりなんだっけ」

じゃあ、また門を使って一回戻ろうか、そんな話を少年たちがし始めるのだが、それについてはトモエが一度手を打って止める。

「そろそろカナリアさんも来られますし、こうしたことであれば私も知識はあります。カリンさんもいますので、パウ君は一度きちんと休んで、そうですね、二、三日は休んでそれでとすればよいでしょう」
「休むのか」
「はい。それも訓練の内です」

実に渋々とでもいえばいいのだろうか。彼の中でも、シグルドと他の少女たちとに向ける視線に乗る物もある。負けたくないと、守るのだから、他を自分の背に庇えるだけの物を持っておきたいと常に考えているのだろう。だが、そうした気負いの結果が今なのだ。これは、パウとしても他に向けて話したくないと、彼の中の矜持として持っている部分でもあるのだろう。あとで、また少し話をしなければとそうトモエは考えて、一度方に置いた手に力を入れる。
相も変わらず、トモエはどうしたところでオユキ程口は上手くない。こうしたことで、少しでも伝わってくれとそんな事を考えながら。

「後は、サキさんからとしましょうか。他の子たちは、少し時間がかかりそうですから」
「えっと、みんなは教会でのお勤めがあって、それでも毎日」
「ええ、そうした物は見て取れます。ですが、やはり使える時間が短くなり、さらに他の動きを頭に入れなければいけないと、そうした状況が続けば。セシリアさんは少しはましなのですが、アナさんとアドリアーナさんは、ほとんど一から、ですね」

トモエとしては、苦笑いを零すしかない。そうして名前を挙げた二人、この二人に関してはきちんと背も伸びている。アナよりも少し背が高かったはずのセシリアは既にアナに抜かれてしまっている。この辺りは個人差としかいうしかないのだが、残念な事にもう身長が伸びたりはこれから先は期待できなくなるだろう。サキのほうは、少しは背も伸びたのだが、何よりもこれまでの劣悪な環境から抜け出してきちんとした生活を送り始めたために、年相応に肉付きも良くなってきている。少しは背丈も伸びたように見えるのだが、これから先は過去の事を考えれば、また少し難しいというしかないだろう。成長期というのは、男よりも女のほうが早く訪れ、そして終わるのだから。

「あー、久しぶりに、こっちでも魔物狩ってみたかったんだけどな」
「今日は、きちんとお休みしましょうか」

シグルドが、明日以降はそうしたいと、そんな事を言外に。

「明日は、そうですね。オユキさんも少し動けるようになっているでしょうから、また揃って少し狩に出ましょうか。皆さんは、色々と言われていることもあるでしょうから、こちらにそれなりに長くいるのでしょう」
「えっと、メイ様から収穫祭の二週前くらいまでは、一度他できちんと活動してきなさいって」
「ならば、三ヶ月以上はありますね」

合間合間で、それこそ神国に戻る事はあるだろう。王都に向かって、もしくは領都に向かって。そういう事もあるだろう。
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