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31章 祭りの後は
久しぶりに
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「さむっ」
「わー」
この部屋の主になるだろう相手、その人物の良人から許可を得たというよりも客人を迎えるために移動をしようにも、この部屋から離れられないだろうとそうした形で。そして、懐かしい者たちを招いてみれば、第一声がそれであった。何やら、少々緊張した様な気配も漂っていたのだが、それは扉が開かれるまで。
神国で雪が降る事も無ければ、氷室にでも入らない限りまず目にしないだろう風景。いや、氷室というには整った調度に雪が積もり、氷はそれらを避けている。しかし、天井からはしっかりと氷柱が伸びてまさに氷洞と言った様子。さらにはあちらこちらを薄い青に輝く光の球が飛び回って。そんな幻想的と呼んでも良い光景に、アナをはじめとした少女たちが感嘆の声を上げ。一方、シグルドが思わずとばかりに室内の温度に対してはっきりと。オユキは勿論の事として、トモエにしても正直少し肌寒いかくらいにしか感じていないのだが、他の者たちの様子を見る限り、というよりも室内の惨状を見る限り当然の反応ではあるのだろう。
トモエが寒さを感じない大きな理由は、間違いなく創造神に与えられた加護であるには違いない。ここ暫くの間に、というよりもフスカとの一件があって以降、オユキが火を苦手とするのはトモエも理解した。しかし、側にトモエがいても、炎獅子と呼ばれる種族が混じっているトモエが側に居ても、オユキは全く苦を感じていない。そこは、トモエも同様に。朝起きたときには、カナリアが用意した氷柱が影も残さず消滅している。寝ている間に、オユキがゆっくりと吸収したのだとして、その寒さをトモエは全くもって感じはしない。今にしても、特段寒いなどと感じる事は無いのだ。オユキにしても、セツナが言うにはこうした環境で生きるのが良いと示しているのだろう。さらには幼子などと呼ばれているのだ。尚の事、こうした空間から出る事は考えられぬとでも言わんばかりに。
「お久しぶりですね。皆さん、怪我無く、いえ、大過なく過ごせていたようで何よりです」
「あんちゃんもは、怪我してねーけどオユキは、まぁいつもの事か」
「こら、ジーク」
「構いませんよ。皆さんも忙しくしていたでしょうから、久しぶりとそうした感覚もなかなか難しいでしょう」
まさに、光陰矢の如しとそうした日々を少年たちも過ごしていたことだろう。オユキが、ついつい氷菓に没頭していたオユキが、ようやく少し外に意識を向けて、そこにいた相手に驚いて身を固めている。客人に対してもどうかと思うのだが、それに関してはまぁ相手も相応に醜態をさらしてはいる。だからといって己がというのも問題はあるのだが、それでもつい最近年齢に関して気が付いたオユキとしては取り繕っておきたい相手でもある。
「オユキちゃんは、えっと、色々聞いてたけど元気そうでまずは一安心かな」
「いえ、まぁ、元気かと言われれば」
「まぁ、こうしてあんちゃんに甘えて休むくらいはできるみたいだし、いいんじゃね。つか、そっちのばーさんってオユキによく似てるけど」
寒いと言いながらも、やはり久しぶりに見る顔だからか。ワイワイと許可を得たのだからそれが当然だとばかりに、アナを先頭に部屋に入ってくる。そのすぐ後にはシグルドとセシリアが。少し離れてアドリアーナとサキ、それから最後にパウとならんで入ってくる。そして、その脇からそっとミリアムが、寒さに完全に身動きが取れなくなったミリアムをそっとタルヤが連れ出している。
「フスカ様、ええと、翼人種の長、カナリアさんたちの種族の長の方ですね。そちらが、オユキさんの回復の為にとどこかからか」
「あのばーさん、どこでも好き勝手やってんなぁ」
「ね。メイ様も頭をよく抱えてたし」
「苦情は、是非ともマリーア公爵か、カナリアさんに宛ててほしい物ですが」
客人もいる以上は、勧めてから席に着くのが当然の流れではあるのだが、何やらそれももどかしいとばかりにそれぞれが思い思いの場所に陣取るためにと動いている。オユキの側に行こうとそうした動きを見せるアナに、トモエはそのまま手に持っていた匙を渡して。知らない人がいると、視線は向ける物のそれよりもとばかりに賑やかな子供たちの為に軽く動いて場所を空けて。そうしてみれば、アナとセシリアがまずはとばかりにトモエの仕事を引き継いで。シグルドがトモエの前に座り。残りの三人は、流石に席を進められてからとばかりに立ったまま待っている。
其方には、軽く目線でクレドに確認をとった上で改めてそれぞれに責を進めて置く。客間ではある物の、そこは公爵家の令嬢に用意した客間。十分な広さもあれば、調度にしても相応の大きさの者がそこにはある。問題としては、氷や雪に覆われたりはしているのだが、そのあたりは自由にできると言う事なのだろう。腰を下ろした者たちがいれば、腰を下ろす者たちがいれば、その部分だけはしっかりと場所が開く。それこそ、座るその場に残された氷雪の冷たさばかりはすぐにどうなると言う訳でもないのだが。
「そういや、あんちゃん、いろいろねーちゃんから預かってるものもあるけど」
「そのあたりは、後でオユキさんが満足したころに、オユキさんにでしょうか」
「あー、オユキに渡してほしいって言われてんのと、あんちゃんにって言われてんので二つあんだよな」
それこそ、どっちに渡しても、間違いなく二人で確認するのだから、分ける意味などないだろうとシグルドが心底不思議そうに。
「流石に、内容によっては互いに少しは伏せますとも」
シグルドの感想に、トモエからはただ苦笑いと共にそう話すしかない。
「例えば、流派の事に限ってもオユキさんに伝えてない事は、多くありますよ」
「あー、そういや、そんなこと言ってたっけ」
「そのあたりが、他の相手に教えをうんぬんという所か」
「えっと、トモエさんが皆伝で、オユキちゃんが大目録なんでしたっけ」
さて、こうして客人のいる場になだれ込んできて。見知らぬ顔も多いだろうに、それでも久しぶりにと言う事で全てを置き去りにしているのか。この様子を、それこそメイや始まりの町の助祭あたりに伝えれば、それは実に愉快な説教が待っているのだろう。トモエのほうでは、その様な事をするつもりは一切ない。此処で、万が一セツナやクレドが話を他にもっていけばどうなるか分かったものではない。だが、案内された理由として、オユキの回復の為にと言うものがありその経過の如何によっては、ともすれば部族もろともにとなる以上は、オユキが悲しむようなことは住まいと、そうした不思議な確信もトモエにある。
「そうですね。印状を得ねばやはり内伝、そこから先の口伝や秘伝には勧めませんから」
「前から気になってたけど、実際、それってどんなもんなんだ。いや、あんちゃんが教えられるってのは分かるし、なんか分けてる以上は、理由があるんだろうなとかは分かんだけどさ」
そして、サキの言葉にシグルドが全くもって理解が出来ぬと、改めてトモエに話を強請る。確かに、ここで教えてというのが最も分かり易い物ではあるのだろう。何故分かれているのか、何故分けているのか。それは、あくまで皆伝に至るために、目的から見たときに踏むべき段階を置いているのだとそんな説明も、確かにトモエには出来る。
「目録を一つ得るまでは、準備運動ですから。そして、全ての目録を手に入れるころに漸く技の練習に必要な体が出来るのです」
「いや、前から準備運動ってよく言われてたけどさ」
そんな、それだけじゃわからないと、分からない事は分からないのだと。まっすぐにトモエに答えを求めるシグルドの視線に、やはりトモエにしても懐かしさを覚えて。
「そのあたりは、明日から改めてとしましょうか。本当に、久しぶりです。日が随分と空いてしまったこともありますから、また、構えからですね」
「おう」
ついつい、とでもいえばいいのだろうか。過去にも度々そうしていたように、中には自分から求めてくる子供もいたからだろうか。シグルドが、トモエが自然と頭に伸ばした手を受け入れながらも、何処か面はゆいと言わんばかりに笑っている姿を見て。過去に、かつての世界に置いてきた者の重さに、少しトモエにしても。トモエにしても、こみ上げてくるものがある。ただ、それもすぐに収まるというか、他から上がる声と客間の戸を叩く音と。そういった物で、すぐに引っ込むのだが。
「オユキちゃん、本当に大丈夫なの」
「ええ、その、自分で体が動かせぬ状態で、それを言ったところでとは思いますが」
「司教様から聞いたんだけど、今回もまた無茶したって」
「無理、無茶にはならない範囲でと考えていたのですが」
そんな、少女たちを相手に繰り広げる、純粋な疑問や既に聞いていたことの確認に対して、オユキがのらりくらりとかわそうと。しかし、数が多い、というよりも圧倒的に口の数が多い少女たちが矢継ぎ早にあれやこれやと尋ねて。ついでとばかりに、オユキの口にソルベやグラニテを運んだと思えば気になっていたのだろう。オユキに勧められるままに、入れ代わり立ち代わり少女たちも自分の口に運びながら。勿論、室内にいるシェリアとタルヤ、ナザレアといった基本的にトモエやオユキの側についている侍女では無い者たちが眉をしかめたりもしているのだが、それをもはやトモエもオユキも気にするつもりはない。
「そこの、先ほどセツナを、我が伴侶をばーさんと」
「あー、じーさんが気にするってんなら、そりゃ少し考えるけど、ってか、あのばーさんセツナっていうのか」
そういえば、こうして乱入してきた子供たちを紹介していなかったなと、トモエはシグルドのそんな言葉に改めて気が付いて。確かに、クレドが入室を許したのだとしても、それくらいは行ってしかるべきではあるだろう。
「確かに、お前らにしてみれば、そう呼ぶだけの齢を重ねているのかもしれないのだがな」
「あー、じーさんのほうは、名前というかどう呼べばいいんだ。俺は、シグルド。今はただのシグルド」
「クレドだ。狼の特徴を引くジュ人ではなく、狼の精霊としての特徴を併せ持つ人狼種の長、クレド」
「わー」
この部屋の主になるだろう相手、その人物の良人から許可を得たというよりも客人を迎えるために移動をしようにも、この部屋から離れられないだろうとそうした形で。そして、懐かしい者たちを招いてみれば、第一声がそれであった。何やら、少々緊張した様な気配も漂っていたのだが、それは扉が開かれるまで。
神国で雪が降る事も無ければ、氷室にでも入らない限りまず目にしないだろう風景。いや、氷室というには整った調度に雪が積もり、氷はそれらを避けている。しかし、天井からはしっかりと氷柱が伸びてまさに氷洞と言った様子。さらにはあちらこちらを薄い青に輝く光の球が飛び回って。そんな幻想的と呼んでも良い光景に、アナをはじめとした少女たちが感嘆の声を上げ。一方、シグルドが思わずとばかりに室内の温度に対してはっきりと。オユキは勿論の事として、トモエにしても正直少し肌寒いかくらいにしか感じていないのだが、他の者たちの様子を見る限り、というよりも室内の惨状を見る限り当然の反応ではあるのだろう。
トモエが寒さを感じない大きな理由は、間違いなく創造神に与えられた加護であるには違いない。ここ暫くの間に、というよりもフスカとの一件があって以降、オユキが火を苦手とするのはトモエも理解した。しかし、側にトモエがいても、炎獅子と呼ばれる種族が混じっているトモエが側に居ても、オユキは全く苦を感じていない。そこは、トモエも同様に。朝起きたときには、カナリアが用意した氷柱が影も残さず消滅している。寝ている間に、オユキがゆっくりと吸収したのだとして、その寒さをトモエは全くもって感じはしない。今にしても、特段寒いなどと感じる事は無いのだ。オユキにしても、セツナが言うにはこうした環境で生きるのが良いと示しているのだろう。さらには幼子などと呼ばれているのだ。尚の事、こうした空間から出る事は考えられぬとでも言わんばかりに。
「お久しぶりですね。皆さん、怪我無く、いえ、大過なく過ごせていたようで何よりです」
「あんちゃんもは、怪我してねーけどオユキは、まぁいつもの事か」
「こら、ジーク」
「構いませんよ。皆さんも忙しくしていたでしょうから、久しぶりとそうした感覚もなかなか難しいでしょう」
まさに、光陰矢の如しとそうした日々を少年たちも過ごしていたことだろう。オユキが、ついつい氷菓に没頭していたオユキが、ようやく少し外に意識を向けて、そこにいた相手に驚いて身を固めている。客人に対してもどうかと思うのだが、それに関してはまぁ相手も相応に醜態をさらしてはいる。だからといって己がというのも問題はあるのだが、それでもつい最近年齢に関して気が付いたオユキとしては取り繕っておきたい相手でもある。
「オユキちゃんは、えっと、色々聞いてたけど元気そうでまずは一安心かな」
「いえ、まぁ、元気かと言われれば」
「まぁ、こうしてあんちゃんに甘えて休むくらいはできるみたいだし、いいんじゃね。つか、そっちのばーさんってオユキによく似てるけど」
寒いと言いながらも、やはり久しぶりに見る顔だからか。ワイワイと許可を得たのだからそれが当然だとばかりに、アナを先頭に部屋に入ってくる。そのすぐ後にはシグルドとセシリアが。少し離れてアドリアーナとサキ、それから最後にパウとならんで入ってくる。そして、その脇からそっとミリアムが、寒さに完全に身動きが取れなくなったミリアムをそっとタルヤが連れ出している。
「フスカ様、ええと、翼人種の長、カナリアさんたちの種族の長の方ですね。そちらが、オユキさんの回復の為にとどこかからか」
「あのばーさん、どこでも好き勝手やってんなぁ」
「ね。メイ様も頭をよく抱えてたし」
「苦情は、是非ともマリーア公爵か、カナリアさんに宛ててほしい物ですが」
客人もいる以上は、勧めてから席に着くのが当然の流れではあるのだが、何やらそれももどかしいとばかりにそれぞれが思い思いの場所に陣取るためにと動いている。オユキの側に行こうとそうした動きを見せるアナに、トモエはそのまま手に持っていた匙を渡して。知らない人がいると、視線は向ける物のそれよりもとばかりに賑やかな子供たちの為に軽く動いて場所を空けて。そうしてみれば、アナとセシリアがまずはとばかりにトモエの仕事を引き継いで。シグルドがトモエの前に座り。残りの三人は、流石に席を進められてからとばかりに立ったまま待っている。
其方には、軽く目線でクレドに確認をとった上で改めてそれぞれに責を進めて置く。客間ではある物の、そこは公爵家の令嬢に用意した客間。十分な広さもあれば、調度にしても相応の大きさの者がそこにはある。問題としては、氷や雪に覆われたりはしているのだが、そのあたりは自由にできると言う事なのだろう。腰を下ろした者たちがいれば、腰を下ろす者たちがいれば、その部分だけはしっかりと場所が開く。それこそ、座るその場に残された氷雪の冷たさばかりはすぐにどうなると言う訳でもないのだが。
「そういや、あんちゃん、いろいろねーちゃんから預かってるものもあるけど」
「そのあたりは、後でオユキさんが満足したころに、オユキさんにでしょうか」
「あー、オユキに渡してほしいって言われてんのと、あんちゃんにって言われてんので二つあんだよな」
それこそ、どっちに渡しても、間違いなく二人で確認するのだから、分ける意味などないだろうとシグルドが心底不思議そうに。
「流石に、内容によっては互いに少しは伏せますとも」
シグルドの感想に、トモエからはただ苦笑いと共にそう話すしかない。
「例えば、流派の事に限ってもオユキさんに伝えてない事は、多くありますよ」
「あー、そういや、そんなこと言ってたっけ」
「そのあたりが、他の相手に教えをうんぬんという所か」
「えっと、トモエさんが皆伝で、オユキちゃんが大目録なんでしたっけ」
さて、こうして客人のいる場になだれ込んできて。見知らぬ顔も多いだろうに、それでも久しぶりにと言う事で全てを置き去りにしているのか。この様子を、それこそメイや始まりの町の助祭あたりに伝えれば、それは実に愉快な説教が待っているのだろう。トモエのほうでは、その様な事をするつもりは一切ない。此処で、万が一セツナやクレドが話を他にもっていけばどうなるか分かったものではない。だが、案内された理由として、オユキの回復の為にと言うものがありその経過の如何によっては、ともすれば部族もろともにとなる以上は、オユキが悲しむようなことは住まいと、そうした不思議な確信もトモエにある。
「そうですね。印状を得ねばやはり内伝、そこから先の口伝や秘伝には勧めませんから」
「前から気になってたけど、実際、それってどんなもんなんだ。いや、あんちゃんが教えられるってのは分かるし、なんか分けてる以上は、理由があるんだろうなとかは分かんだけどさ」
そして、サキの言葉にシグルドが全くもって理解が出来ぬと、改めてトモエに話を強請る。確かに、ここで教えてというのが最も分かり易い物ではあるのだろう。何故分かれているのか、何故分けているのか。それは、あくまで皆伝に至るために、目的から見たときに踏むべき段階を置いているのだとそんな説明も、確かにトモエには出来る。
「目録を一つ得るまでは、準備運動ですから。そして、全ての目録を手に入れるころに漸く技の練習に必要な体が出来るのです」
「いや、前から準備運動ってよく言われてたけどさ」
そんな、それだけじゃわからないと、分からない事は分からないのだと。まっすぐにトモエに答えを求めるシグルドの視線に、やはりトモエにしても懐かしさを覚えて。
「そのあたりは、明日から改めてとしましょうか。本当に、久しぶりです。日が随分と空いてしまったこともありますから、また、構えからですね」
「おう」
ついつい、とでもいえばいいのだろうか。過去にも度々そうしていたように、中には自分から求めてくる子供もいたからだろうか。シグルドが、トモエが自然と頭に伸ばした手を受け入れながらも、何処か面はゆいと言わんばかりに笑っている姿を見て。過去に、かつての世界に置いてきた者の重さに、少しトモエにしても。トモエにしても、こみ上げてくるものがある。ただ、それもすぐに収まるというか、他から上がる声と客間の戸を叩く音と。そういった物で、すぐに引っ込むのだが。
「オユキちゃん、本当に大丈夫なの」
「ええ、その、自分で体が動かせぬ状態で、それを言ったところでとは思いますが」
「司教様から聞いたんだけど、今回もまた無茶したって」
「無理、無茶にはならない範囲でと考えていたのですが」
そんな、少女たちを相手に繰り広げる、純粋な疑問や既に聞いていたことの確認に対して、オユキがのらりくらりとかわそうと。しかし、数が多い、というよりも圧倒的に口の数が多い少女たちが矢継ぎ早にあれやこれやと尋ねて。ついでとばかりに、オユキの口にソルベやグラニテを運んだと思えば気になっていたのだろう。オユキに勧められるままに、入れ代わり立ち代わり少女たちも自分の口に運びながら。勿論、室内にいるシェリアとタルヤ、ナザレアといった基本的にトモエやオユキの側についている侍女では無い者たちが眉をしかめたりもしているのだが、それをもはやトモエもオユキも気にするつもりはない。
「そこの、先ほどセツナを、我が伴侶をばーさんと」
「あー、じーさんが気にするってんなら、そりゃ少し考えるけど、ってか、あのばーさんセツナっていうのか」
そういえば、こうして乱入してきた子供たちを紹介していなかったなと、トモエはシグルドのそんな言葉に改めて気が付いて。確かに、クレドが入室を許したのだとしても、それくらいは行ってしかるべきではあるだろう。
「確かに、お前らにしてみれば、そう呼ぶだけの齢を重ねているのかもしれないのだがな」
「あー、じーさんのほうは、名前というかどう呼べばいいんだ。俺は、シグルド。今はただのシグルド」
「クレドだ。狼の特徴を引くジュ人ではなく、狼の精霊としての特徴を併せ持つ人狼種の長、クレド」
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