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30章 豊穣祭
さておき
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周囲の者たちが元凶と考えている。そして、あながちそれも間違いではない。だが、当の本人たちに尋ねて、何かが得られるのかと言われれば、当然そんなはずもない。はっきりと言ってしまえば、トモエとオユキ、と言うよりもオユキが何かにつけて神々から申し付かるのはそれができるだけの素地があるから。使徒とされる者を両親として持ち、こちらに来た異邦人。さらには、トモエとの関係もあり、かつての世界の神からもどうにも目をかけられるだけの事があったらしい。基本的には、そうした流れに依る物。過去に積み上げた物が、その意思がなかったとしても、今もこうして。だからこそ、今回はトモエが決めたのだ。早々に他に投げるのが良いだろうと。
これまでであれば、オユキが神殿に話を聞きにと言った選択肢も確かにあった。だが、今度ばかりはそもそも納めるべきものが前回の残りと言っても良い物が多くあり、その用意も無いトモエやオユキが今神殿に行くわけにはいかないと断った。実態については、オユキはともかく他からの理解が得られたのは事ここに至っては良い物であるのだろう。
話し合いの途中で、トモエは昼食の用意があるからと席を立つこととした。本来であれば、上位者がそこにいる以上は許されるものではない。だが、そんな事は知らぬとばかりに。オユキに散々にトモエから伝えたことでもあるのだが、だからこそトモエもはっきりと自儘に振る舞うと決めた。どうにも、オユキにしてもトモエが大事にしなければ何処までも弱っていくのだとそれが理解もできたから。過去の後悔ともまた違う、という程でもなく。オユキが、己の両親を想う様に、トモエにも似たようなものはあるのだから。そして、そうした物がオユキの姿となった以上は、確かに其処には引き継がれている物があるらしい。全くもって、この世界と言うのはどこまでも。トモエはそんな事を考えてしまうものだ。
そこから先は、簡単に今後の予定が話し合われ、トモエの威圧が仄かに漏れたことに警戒してか、戻ってきたシェリアとユーフォリアが実ににこやかに圧をかけたからか。はたまた、公爵夫人にしてももう良いだろうと、他を急がねばならぬと圧をかけ始めたからか。とにもかくにも、事情だけを聴きとって訪れた者たちは去っていくこととなった。ついでとばかりに、公爵と公爵夫人の手によってカナリアとイリアは連れていかれる事となったが。
「オユキさんは、そうですね」
そして、昼食後にいつものようにと言う訳でもなく。オユキのほうでは、いつものようにとしたい事、それを叶えるためにと王都の外に出てきたはよい物の。何やらアイリスとアベルが付いてきた、そこまでは良いのだが随分と護衛が増えている、その状況に少々問題を感じながら。勿論、それについてはユーフォリアの手配と言う事もあるのだが。
「小太刀の型をまずは馴染ませる事を第一にと、そうしたいところではあるのですが」
「ええと、確かにここまで移動してしまうと」
「そうなのですよね」
そして、人数が増えたこともあり、アイリスの希望も兼ねてとなると流石に少々嵩の大きな魔物を狙う必要も出てくる。あとは、なかなか愉快な人数になっていることもあり、王都の周囲で生計を立てている者達から狩場を奪う事を避けなければいけないと、そういった理由もあるのだが。
「已むをえませんか」
「その、武技を使えばと思いますが」
「オユキさん」
刃渡り以上の長さを斬ることが叶う、そんな武技は既に互いに身に着けている。事によっては、意識せずとも発動できてしまうほどに。そして、それを抑えるためにと常々壁の中では身に着けている指輪にしても、流石に今身に着けるわけにもいかない。アイリスにしても、ここ暫くは外していることもある。
「太刀にしておきましょうか」
「ええと、鍛錬のためでも無くというのであれば」
「いえ、オユキさんも、ここ暫く使っていなかったでしょう」
「言われてみれば、そうですね」
トモエに言われて、こちらに来てからと言う者、それこそ太刀を振るう機会が限りなく少なくなっていたことを思い出す。確かに、鍛錬の折には、それこそ壁の中ではきちんと振っているのだが、それ以外となるととんと機会がない。こちらに来てから、すぐのころには達よりも短な武器。それから少したってからは、槍や薙刀。そのあとは、それこそオユキが頼んで用意してもらった武器を専ら使っていたものだ。
「一応、神授の太刀もあるにはありますし、場合によっては使いましたが」
それこそ、最後にきちんと鍛錬の場以外で振るったのは、いつ以来だっただろうか。それこそ、闘技大会でトモエに向き合ったとき。向き合うと決めたとき。そこから先の機会が、オユキとしても思い出せずにいる。確かに、過去に身に着けた物を、オユキにしてもないがしろにしているとそう感じはするのだが。
「ええと、私の太刀は」
「一応、私のほうで用意はしていますから」
「二刀のため、でしたか」
「そればかりではありませんが」
もとより、流派として至上としている武器ではある。オユキは知らないのだが、印状を得たときには、改めて贈るものでもある。流石に、そのための物ではないのだが、トモエとしてはやはりオユキには大事にして欲しい物でもある。
「では、改めてとしましょうか。この場合は、基本の型を使って、でしょうか」
「そうですね。オユキさんも、改めて晴眼からと」
「分かりました」
色々と、言葉にならないトモエの思いも改めて組んだオユキは、トモエが一先ずはとばかりに腰に佩いていた太刀を受け取った上で、それを改めて構える。
掌の怪我は、カナリアの願う奇跡によって、表面上は既にふさがっている。トモエが何やら疑問を感じていたのだが、確かにこれまでに比べても少し治りが早い。それは、オユキの考えでは改めてカナリアが水と癒しの位を己の物にしたから、そう考えている。実際にどうかと言うのは、それこそ今は祭祀の次第を整えるためにと連れていかれたカナリア本人に尋ねなければ、もしくは神殿で巫女であったり司教であったりに尋ねなければわからない。だが、トモエが疑問に感じていること、それにしても納得がいくだけの、正しいと思えるだけの理屈は既に用意されてはいる。トモエが、それ自体に疑念を覚えているのだとしても。
この辺りは、幾度か話し合っているのも事実。トモエの直感、これをオユキがないがしろにすることは絶対に無い。だが、それ以上に人間が考える者なのだとそうした思いがあるのも事実。基本として、創作物と言うよりも、設計が必要な物と言うのは基本を積み重ねて作るものだと、そうして作ったものなのだという信頼がある。トモエの言うような例外と言うのは、つまり他で付け加えた物なのだと。トモエに比べて、オユキが思い出せること、過去に間違いなく知っていたはずの事で今思い返すことが出来ないものと言うのは、やはり多い。それは、過去に一度偶然だと切り捨てたからか、それとも。
「構えについては、そうですね、オユキさん」
「ええと、ずれがありますか」
「いえ、少し変えましょう。やはり過去に引きずられている部分は多いですから」
「また、難しい物ですね」
トモエから渡された太刀を、それが自然と感じる様に構えてみれば、やはりトモエの納得がいくものではなくなっているらしい。
「それと、これまでは背丈を考えてとしていたのでしょうし、確かに力が無かったからと考えての事でしょうが」
これまでは、こちらに来て改めてオユキが考えて、トモエも少年たちにあれこれと教える傍らに、横目で見た上で良しとしていたもの。その通りに構えては見たのだが、やはりトモエから見れば実に不足が多い物として。
「加護もあります。働く位置、場所、それにしても考えなければなりませんが、少なくともこうした場では」
「あの、ここまでとなると」
改めて、オユキの構えをトモエが治すのだが、それにしてもオユキとしては随分と意外を感じてしまう。これまで、それが良いだろうと考えて、常よりも己の体の知覚に手を置いていたものを、かつてと同じ位置、ともすればそこよりも少し遠く。さらには、足幅についても、少し広げていたのだが、さらに縮めて。他にも、細かいところを徹底的に直されていくのだが、そうした物を受けて思い返すのは、やはりかつてのトモエの姿。それと比べても、今の己の構えは晴眼と呼ぶ者からは少し遠いとそう感じるものに。
「此処までとするのであれば」
「そうですね、変形で鶺鴒とするのも悪くはありませんが、今は」
オユキの構えをトモエが治した結果として、過去に見た物とはまた随分と違う構えに今はなっている。突きを放つ、もしくは相手の振り下ろしに対して、摺り上げる様に太刀を動かすことが肝要なのだろうと、そう感じるほどに。言ってしまえば、これまでに行っていた太刀を立てて構えるような構えとはがらりと変わって、後いくらかも下げれば、寧ろどちらが近いかと問われれば下段だと思えるほどの位置に太刀を下ろして。さらには、呼吸に合わせて切っ先を上下に動かせばトモエの語ったものになるだろう位置で。
「オユキさんでしたら、刺突に関しても問題はありません。そして、現状の間合い、これについてはやはり問題があるにはあります」
「確かに背丈であったり、手足の短さには自覚もありますが」
「そうですね。ですが、その自覚もこちらでは足かせになるといいますか。加護を改めて計算に入れるべきと言いますか」
トモエとしても、そのあたりは難しい。寧ろ相手がオユキだからこそ、こうして試すようなことを行おうと考える。あの少年たちでは、こうして離れている間にも、間違いなく教えてきた構えからずれて言っているだろう少年たち相手では難しい事でも、オユキであれば問題がない。トモエ自身、己の体を使ったうえで確認を行っているのは確かではあるのだが、やはりそれを他にまでとするには段階を踏む必要もある。
「トモエさんとしては、それで」
「こちらでは、自然な状態ですから」
「マナの枯渇と言いますか」
「それで命を落とす以上は、やはりある状態と言うのが、自然なのだと私はそう考えるようにしました」
これまでであれば、オユキが神殿に話を聞きにと言った選択肢も確かにあった。だが、今度ばかりはそもそも納めるべきものが前回の残りと言っても良い物が多くあり、その用意も無いトモエやオユキが今神殿に行くわけにはいかないと断った。実態については、オユキはともかく他からの理解が得られたのは事ここに至っては良い物であるのだろう。
話し合いの途中で、トモエは昼食の用意があるからと席を立つこととした。本来であれば、上位者がそこにいる以上は許されるものではない。だが、そんな事は知らぬとばかりに。オユキに散々にトモエから伝えたことでもあるのだが、だからこそトモエもはっきりと自儘に振る舞うと決めた。どうにも、オユキにしてもトモエが大事にしなければ何処までも弱っていくのだとそれが理解もできたから。過去の後悔ともまた違う、という程でもなく。オユキが、己の両親を想う様に、トモエにも似たようなものはあるのだから。そして、そうした物がオユキの姿となった以上は、確かに其処には引き継がれている物があるらしい。全くもって、この世界と言うのはどこまでも。トモエはそんな事を考えてしまうものだ。
そこから先は、簡単に今後の予定が話し合われ、トモエの威圧が仄かに漏れたことに警戒してか、戻ってきたシェリアとユーフォリアが実ににこやかに圧をかけたからか。はたまた、公爵夫人にしてももう良いだろうと、他を急がねばならぬと圧をかけ始めたからか。とにもかくにも、事情だけを聴きとって訪れた者たちは去っていくこととなった。ついでとばかりに、公爵と公爵夫人の手によってカナリアとイリアは連れていかれる事となったが。
「オユキさんは、そうですね」
そして、昼食後にいつものようにと言う訳でもなく。オユキのほうでは、いつものようにとしたい事、それを叶えるためにと王都の外に出てきたはよい物の。何やらアイリスとアベルが付いてきた、そこまでは良いのだが随分と護衛が増えている、その状況に少々問題を感じながら。勿論、それについてはユーフォリアの手配と言う事もあるのだが。
「小太刀の型をまずは馴染ませる事を第一にと、そうしたいところではあるのですが」
「ええと、確かにここまで移動してしまうと」
「そうなのですよね」
そして、人数が増えたこともあり、アイリスの希望も兼ねてとなると流石に少々嵩の大きな魔物を狙う必要も出てくる。あとは、なかなか愉快な人数になっていることもあり、王都の周囲で生計を立てている者達から狩場を奪う事を避けなければいけないと、そういった理由もあるのだが。
「已むをえませんか」
「その、武技を使えばと思いますが」
「オユキさん」
刃渡り以上の長さを斬ることが叶う、そんな武技は既に互いに身に着けている。事によっては、意識せずとも発動できてしまうほどに。そして、それを抑えるためにと常々壁の中では身に着けている指輪にしても、流石に今身に着けるわけにもいかない。アイリスにしても、ここ暫くは外していることもある。
「太刀にしておきましょうか」
「ええと、鍛錬のためでも無くというのであれば」
「いえ、オユキさんも、ここ暫く使っていなかったでしょう」
「言われてみれば、そうですね」
トモエに言われて、こちらに来てからと言う者、それこそ太刀を振るう機会が限りなく少なくなっていたことを思い出す。確かに、鍛錬の折には、それこそ壁の中ではきちんと振っているのだが、それ以外となるととんと機会がない。こちらに来てから、すぐのころには達よりも短な武器。それから少したってからは、槍や薙刀。そのあとは、それこそオユキが頼んで用意してもらった武器を専ら使っていたものだ。
「一応、神授の太刀もあるにはありますし、場合によっては使いましたが」
それこそ、最後にきちんと鍛錬の場以外で振るったのは、いつ以来だっただろうか。それこそ、闘技大会でトモエに向き合ったとき。向き合うと決めたとき。そこから先の機会が、オユキとしても思い出せずにいる。確かに、過去に身に着けた物を、オユキにしてもないがしろにしているとそう感じはするのだが。
「ええと、私の太刀は」
「一応、私のほうで用意はしていますから」
「二刀のため、でしたか」
「そればかりではありませんが」
もとより、流派として至上としている武器ではある。オユキは知らないのだが、印状を得たときには、改めて贈るものでもある。流石に、そのための物ではないのだが、トモエとしてはやはりオユキには大事にして欲しい物でもある。
「では、改めてとしましょうか。この場合は、基本の型を使って、でしょうか」
「そうですね。オユキさんも、改めて晴眼からと」
「分かりました」
色々と、言葉にならないトモエの思いも改めて組んだオユキは、トモエが一先ずはとばかりに腰に佩いていた太刀を受け取った上で、それを改めて構える。
掌の怪我は、カナリアの願う奇跡によって、表面上は既にふさがっている。トモエが何やら疑問を感じていたのだが、確かにこれまでに比べても少し治りが早い。それは、オユキの考えでは改めてカナリアが水と癒しの位を己の物にしたから、そう考えている。実際にどうかと言うのは、それこそ今は祭祀の次第を整えるためにと連れていかれたカナリア本人に尋ねなければ、もしくは神殿で巫女であったり司教であったりに尋ねなければわからない。だが、トモエが疑問に感じていること、それにしても納得がいくだけの、正しいと思えるだけの理屈は既に用意されてはいる。トモエが、それ自体に疑念を覚えているのだとしても。
この辺りは、幾度か話し合っているのも事実。トモエの直感、これをオユキがないがしろにすることは絶対に無い。だが、それ以上に人間が考える者なのだとそうした思いがあるのも事実。基本として、創作物と言うよりも、設計が必要な物と言うのは基本を積み重ねて作るものだと、そうして作ったものなのだという信頼がある。トモエの言うような例外と言うのは、つまり他で付け加えた物なのだと。トモエに比べて、オユキが思い出せること、過去に間違いなく知っていたはずの事で今思い返すことが出来ないものと言うのは、やはり多い。それは、過去に一度偶然だと切り捨てたからか、それとも。
「構えについては、そうですね、オユキさん」
「ええと、ずれがありますか」
「いえ、少し変えましょう。やはり過去に引きずられている部分は多いですから」
「また、難しい物ですね」
トモエから渡された太刀を、それが自然と感じる様に構えてみれば、やはりトモエの納得がいくものではなくなっているらしい。
「それと、これまでは背丈を考えてとしていたのでしょうし、確かに力が無かったからと考えての事でしょうが」
これまでは、こちらに来て改めてオユキが考えて、トモエも少年たちにあれこれと教える傍らに、横目で見た上で良しとしていたもの。その通りに構えては見たのだが、やはりトモエから見れば実に不足が多い物として。
「加護もあります。働く位置、場所、それにしても考えなければなりませんが、少なくともこうした場では」
「あの、ここまでとなると」
改めて、オユキの構えをトモエが治すのだが、それにしてもオユキとしては随分と意外を感じてしまう。これまで、それが良いだろうと考えて、常よりも己の体の知覚に手を置いていたものを、かつてと同じ位置、ともすればそこよりも少し遠く。さらには、足幅についても、少し広げていたのだが、さらに縮めて。他にも、細かいところを徹底的に直されていくのだが、そうした物を受けて思い返すのは、やはりかつてのトモエの姿。それと比べても、今の己の構えは晴眼と呼ぶ者からは少し遠いとそう感じるものに。
「此処までとするのであれば」
「そうですね、変形で鶺鴒とするのも悪くはありませんが、今は」
オユキの構えをトモエが治した結果として、過去に見た物とはまた随分と違う構えに今はなっている。突きを放つ、もしくは相手の振り下ろしに対して、摺り上げる様に太刀を動かすことが肝要なのだろうと、そう感じるほどに。言ってしまえば、これまでに行っていた太刀を立てて構えるような構えとはがらりと変わって、後いくらかも下げれば、寧ろどちらが近いかと問われれば下段だと思えるほどの位置に太刀を下ろして。さらには、呼吸に合わせて切っ先を上下に動かせばトモエの語ったものになるだろう位置で。
「オユキさんでしたら、刺突に関しても問題はありません。そして、現状の間合い、これについてはやはり問題があるにはあります」
「確かに背丈であったり、手足の短さには自覚もありますが」
「そうですね。ですが、その自覚もこちらでは足かせになるといいますか。加護を改めて計算に入れるべきと言いますか」
トモエとしても、そのあたりは難しい。寧ろ相手がオユキだからこそ、こうして試すようなことを行おうと考える。あの少年たちでは、こうして離れている間にも、間違いなく教えてきた構えからずれて言っているだろう少年たち相手では難しい事でも、オユキであれば問題がない。トモエ自身、己の体を使ったうえで確認を行っているのは確かではあるのだが、やはりそれを他にまでとするには段階を踏む必要もある。
「トモエさんとしては、それで」
「こちらでは、自然な状態ですから」
「マナの枯渇と言いますか」
「それで命を落とす以上は、やはりある状態と言うのが、自然なのだと私はそう考えるようにしました」
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