憧れの世界でもう一度

五味

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30章 豊穣祭

装いも新たに

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「オユキさんは、公爵夫人の見立てですか」
「はい。生憎と、シェリアは未だにナザレアとの話し合いが終わっていないようなので」

トモエが王太子と公爵その人と話している場に、公爵夫人の侍女に抱えられてようやくたどり着いた。少し前から、トモエは早々にオユキが向かっていることには気が付いていたため、一先ずとばかりに簡単な事前の共有を終えて。そこで話したことと言うのも、凡そは月と安息に随分と重なるかつての世界の神とその使いの話ばかり。トモエの予想では、死をその権能に間違いなく含んでいる以上は、そちらの要素も持っているとそうした認識でしかないのだが、こちらで暮らしている人々にどの程度通じたのだろうか。今も、随分と難しい顔で悩んでいるようす。

「それよりも、お二方は」
「私の覚えている範囲で、主夜神の話を」
「まぁ、神国として神殿を擁する以上はそちらに連なる形の遣い、そこの眷属となればと言うものですか」
「オユキさんのほうでも、何やら公爵夫人が不満を覚えているようですが」

そして、互いに互いが簡単に事前共有をした相手、その複雑を俎上に載せる。

「オユキさんは、そうした装いも良くお似合いですね」
「トモエさん用の物を、私としては」
「オユキさんは気が付いていないかもしれませんが、私にしても日々色々と変えていますよ」

昔から、そのあたりは気が付かないのですねとこれまた随分とはっきりと。口にしていないだけの言葉が、確かにオユキに届く。

「その、髪であったりは」
「こちらでは、なかなか整髪の機会はありませんが、そうですね」
「ええと、衣類については、こう」
「他の子どもたちにしても、オユキさんに気が付いてほしいとそう考えていましたのに」

オユキが子供に向ける感情、それは勿論大きなものではあった。大切であったし、他と比べれば、あまりにもはっきりとしたものは持っていた。だが、そこでトモエと比較が発生してしまえば、やはりどうにもならないだけの差があるのだ。
そんな、いつも通りと言えばいつも通り。来客が無い時に、互いにじゃれあいとして度々行うやり取りを行ってみれば、公爵夫人から軽い咳払いが行われる。

「オユキから、少し聞きましたが何やら神々から新しく言われたことがあるとか」
「それか。こちらもトモエから少しは聞いたのだが」
「私からは、過去に見た物から改めて」
「私は、そうですね。私の予想も含んだうえでの事なのですが」

トモエは、オユキに説明した内容を基本的に話したのだと。オユキが、新しく門を作るための道具をこの機会で得ようと考えていること、それも勿論説明したとオユキに示しながら。そして、オユキのほうからは予想含みの話を改めて。トモエに話していなかったこともある。勿論、あの場でオユキがそうしたことを考えていた、警戒していたというのは伝わっているだろう。だからこそ、トモエは戦と武技に言われたように懸念を頭に作ったこともある。

「率直に尋ねるのだがな、トモエはオユキが持つと、本当にそう考えているのか」
「何故私ではなく、トモエさんにとは思いますが」
「大丈夫でしょう。今朝目を覚ましたときに、僅かに体調が悪くなっている様子でしたが」

ただ、トモエが思ったほどでは無かったのは事実だ。オユキが、公爵夫人に話したように、他に負担を向けるために巻き込んでいる。それが一応は事実なのだろう。そして、問題として、人が増えた以上はこれまでと違って確実に負担が出来るわけでもない相手を呼ぶ以上は、人の眼が増え、柱が増えたことによる負担は確かにあるだろう。だが、それにしてもと、そんな事をトモエは考えている。

「以前、王都の新年祭ですか。その時には、すっかりとマナの枯渇になったようなのですが」
「意識を失って、退席したわけだからな」
「その時に比べても、今回は少ないといいますか、思ったほどでは無かったといいますか」
「そのあたりは、こちらのお二方も負担があったようですから」

トモエが思わずと言った様子で首をかしげているのだが、オユキとしてはやはりと納得できることでもある。そもそも、トモエにとってはこの二人の様子など一目見ただけで気が付かない程ではある。オユキに対して注意をするトモエが、問題としてあまり他の人々。共に暮らしていない相手に対して、気を払っていないというのがよく分かる。そんな事をオユキとしても考えながら。

「ですので、他の祭りの時にも、確か次は収穫祭か、降臨祭か、どちらかだったと思いますが」
「そちらについては、まぁどちらもそれなりに日程が近い物だが降臨祭が先だな」
「しかし、降臨祭のほうは既に日程に幅があるだろう」
「幅が既にあるのだとしても、いえ、だからこそそこに色々と持ち込めそうではありませんか」

降臨祭等と言う言葉にしても、使徒がこの世界に。それこそ、この世界の創造主でもある、そうだとされている者たちが改めてこの世界に降りた日、それ以外の意味合いを持たせることが出来ないなどと言う訳も無い。そんな事を、オユキはつらつらと思考を纏めるためにも口に出す。

「そもそも、いえ、どういえばいいのでしょうか。この世界では、基本を支える神、柱そのものとしてあるのでしょうが。それでは、はっきりとあまりに不足が見えるといいますか。元来、八百万とまでは言いませんが、多くの神話体系でそもそも類似の神と言うのも存在していたわけです。分化、分けるだけの理屈は確かにありました。そして、そうした物をトモエさんが言うには、確かに引き継いでいる。そして、木々と狩猟、秋と豊穣が居てさらには五穀豊穣を司るアイリスさんの祖霊がいることもありますから」

オユキがトモエに言われたこともあって、抑えるのを止めたからだろう。思考を纏めるために、過去にもよくあった様にとめどなく。

「いえ、そのあたりは寧ろ過去に依る物でしょうか。確かに、過去の、かつての私達であれば、分かりやすい物があればそちらから早々にとできたわけです。成程。そう考えてみれば、思い当たる節も実に多くありますね。そもそも、調べればわかる。その程度の物を根幹に組み込むかと言われれば、確かに疑問もあります。だからこそ、トモエさんが読んだことに意味があり、こちらで時間を使えと言う事ですか。」

オユキにしても、眼を通すには通しているのだ。それこそ、両親が失踪したのだ。今となっては事故だと分かっているのだが、過去についてはあまりにも突然に。それこそ、藁にも縋る用に基本的な事は徹底的に確認した。家にあった蔵書、そちらは確かにほとんど手を付けはしなかったのだがどこか他とのやり取りをはじめ、そうした物はほぼすべて。

「オユキさん」

だが、一応はお茶会として整えた場であり、オユキが招いた側とそうとられるのだからとトモエが声をかける。こうして、己の思考に没頭するオユキを見ているのは楽しい物ではある。だが、どうにも招いたわけではなく押しかけてきた相手ではあるのだが、そちらが何やら困惑顔でもある。加えて、トモエにどうにかしろと言わんばかりに視線を向けているため、已む無くオユキに声をかける。
早々に追い返さなければ、この後オユキが間違いなく楽しみにしているであろう王都の外もそうだし、流石にここでトモエが中座してオユキの為にと料理を用意する時間も無くなる。既に、昼が近いと言う訳では無いのだが、流石にトモエはアルノーほどに優れているわけではない。特定の食材を使ってとなると、流石に時間もかかるという物だ。

「ああ、これは失礼を」
「構わん、とは今この場だから言えるが」
「正直なところ、その方の言葉の多くが聞き取れていなかったからな」
「おや、王太子様は、いえ、失礼しました」

聞き取れない、それが理解できるのか。それは、いかなる理由かとオユキの思考が進みそうになるのだが、流石に一度トモエに止められていることもある。オユキとしては、流石にトモエが何故と理由までは思い至ってないのだが、何かあるのだろうとそう考えて。基本的に、オユキは調理にかかる時間など分かるはずも無いのだから。

「ええと、一先ず置いておきまして」
「トモエから、少し聞いたのだが」

そして、トモエからもしっかりと圧が送られているからだろう。オユキも、それには気が付いているのだが王都の外で、もしくは屋敷の庭で。オユキと、オユキに鍛錬をとそういう事を考えているのだろうと。実際のところは、少しでもオユキの体調の為にと料理をまずは真っ先に考えているのだが。実のところ、オユキとしては、一日の内、それこそ夕食時でもいいのではないかとそんな事を考えているからこそ思いつかない。

「オユキ、その方今回も他国への物を考えているそうだな」
「ええと、そうですね。一応は、華と恋、美と芸術、どちらもとは考えていますが」
「それも含めた上で、持つのかとそう尋ねたのだが」
「今回は、私の中でも優先順位があるといいますか」

そう、元はオユキとしてもヴィルヘルミナとカリンもいるからと美と芸術を優先するつもりではいた。だが、色々と話が変わったといえばいいのだろうか。もとより、そちらの二人は。異邦から招かれたその二人は、オユキの為にと用意された人員であるようで、本人たちにもその納得があると分かった。ならば、まぁ、優先する必要がある場面と言うのも出ては来るだろうが、今はオユキが望むことを先に整える、その方がと考えて。

「華と恋、そちらが得られれば、私としては問題がありません。いえ、改めてとなりますが」
「騎士たちか。流石に、大掛かりな遠征をおこなうとなれば、少し人員が心もとないか」
「まぁ、そうだな。今回も既に三国に派遣をしている。無論、番号は違う所もあるのだが」
「デズモンド、確かに基本は第二の仕事のように見えるかもしれんが、事が事だ流石に第五を動かさねばならんのだが、生憎と」

今は、オユキの納得を得るためと言う以上に、物がものであるため、かなりの数が既に動員されてしまっている。さらには、国内に向けて国王の宣言もあり今はこの機会にと移動を望む者たちの為に方々に向かっていることもある。ありていに言って、残されている人員では少し心もとない。
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