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28章 事も無く
街中を
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王妃と公爵夫人に連れられての川下り。ヴィルヘルミナと楽隊が揃って舟歌を演目とし、それを背景に聞きながら存分に楽しんだのが昨日の事。
「ではカミトキ」
「センヨウも」
トモエにちくりとやられたこともあり、今日は改めて王都の中を馬に乗って冷やかしてみようとそうした話をオユキから持ち出した。トモエのほうではそれがご機嫌取りと分かるからか、かつてもそうであったように仕方が無いとそうした素振りで頷いて。結局は、それがうれしい事には変わりないのだから。オユキにしても、トモエが喜んでいるのだと分かるからこそ。
「オユキ様、どうぞ」
「シェリアにも、苦労を掛けますね」
ただ、ここまでトモエがそれを言い出さなかったのは、やはりオユキの体調が問題だったから。一人で馬に乗る事は叶わない。カミトキのほうは、いよいよ久しぶりの事に嬉しそうではあるのだが、シェリアがまたも背に乗ると分かるや否や実に不機嫌そうにしてくれたものだ。それをどうにか宥めて、それこそ一時は背に乗らずに引いて歩こうかとそんな事をシェリアが言い出す程度に実に見事な抵抗を見せてくれたものだ。ただ、それを叶えるためには、結局オユキが着替えねばならないと、そんな話にもなり。では着替えるかと、そう言いだしたときには、実に渋々とシェリアに背を許すこととなった。
己の主が、かなりの不調を抱えているというのは、きちんと理解はしているのだ。
「センヨウばかりがと、そうした思いはわかるのですが」
「カミトキに着けるための輿も、持ち帰ればよかったですね」
「ええ。流石に積み荷がかなり多かったこともあるので、おいてきてしまいましたからね」
特に目的地などは、今回は決めていない。それこそ、遠乗りとするにはオユキの体調がよくないこともあるし、王都の外と言うのはかなり遠い。ファンタズマ子爵家として屋敷を構えている場所は、貴族たちが暮らす、屋敷を構える区画にあるため町の外までの門と言うのはそれこそ冗談のような遠さ。要があれば、それこそ以前のように数時間もかからずトモエとオユキの乗馬は駆け抜けるだろうが、オユキが今そのような真似をされようものなら以前の河沿いの町と同じような状態を得るには違いない。
「トモエさんは、昨日に聞いた」
「そう、ですね。そちらも面白いかとは思いますが」
オユキがそうした話をしてみれば、ただトモエとしても流石にと考えることではある。水路に向かうには、やはり相応の距離の移動が必要になるのだから。今、トモエとオユキが居を構えている場所はあくまでマリーア公爵が王都で与えられた屋敷、そこから連なる地区でしかない。水路はどちらに伸びているのかと言えば、クレリー家の方向だ。並足でそちらに向かえば、少しも見て回れないうちに日も沈むことだろう。トモエとしても、流石にそれは望んでいない。ちらりと視線をラズリアに投げてみれば、一つ頷きが返ってくる。そして、それにつられるようにと言うよりも、背に乗っている者たちが特に目的も無いのだと理解したのかラズリアと周囲にいる護衛たちが作る道をゆるゆると進み始める。
「カミトキも、私がもう少し体調が良ければ」
「オユキ様は、そうですね。通常の馬具では、難しい事もありますので」
今はシェリアに抱えられるようにと、そのような格好にはなっていない。だが、トモエと違ってまっすぐに座っているのではなくよくある様に横向きに。シェリアのほうは、片手で手綱をもって捌きながらも、もう片方の手でオユキを支えてと実に慣れた素振りで。それこそ、最初はトモエがそうするつもりではあったのだが、生憎と互いの乗馬がそれを許しはしなかった。
「かといって、各地にと言うのも」
「いえ、それも手の一つではあるかと」
オユキのほうは、背丈が足りない。真っ当に鐙などをつけてしまえば、オユキの体躯では足が届かない。だが、オユキに合わせてあまりにも詰めてとしてしまえば、今度ははたから見てもそれはどうかと思うような仕上がりになってしまう。かつての世界にいた馬とは、こちらの馬はやはり少々違う。かつての世界でよく見かけた軽種ではなく重種と比べてもまだ二回りほど大きいのだ。シェリアですら、それこそトモエと比べて僅かに背が低いだけのシェリアにしても、それこそどうにか体裁を取り繕えるといった様子。
「カミトキは、各地に馬具を置いて」
さて、では己の乗馬の意見はどうかと。それこそ、オユキが乗るには鞍ではなく輿が必要になるため使う予定も無い物をあちらこちらに用意することにどう思うかと尋ねてみれば、随分と分かりやすく機嫌がよさそうな嘶きが返ってくる。
「では、手配は任せても」
「ええ、お任せください」
カミトキに文句が無いというのならば、もはやそれで決まりだろうと。
「そういえば、王都でこうして貴族区とはいえ出歩くのは数える程ですが」
街並みは、やはり神国としてはどこも似たり寄ったり、と言うようなものではない。始まりの町では、木造の建築が目立っていた。マリーア公爵の領都にしても、石造りの部分は多かったのだがそれでも外周に出れば、始まりの町とどこか似たような風情。それどころか、貴族区画にしても所々に木造の屋敷もあったのだ。
「鉱山が二つ、いえ、実際には」
「ええ、領都の物と同じく、程度はあるでしょうが資源が回復する鉱山が二つとか」
要は、そちらから集めた物を使ってということなのだろう。森も確かにあるのだが、そちらはそちらで始まりの町や領都に比べて難易度が高い事もある。気軽に集めてくるのは、確かに難しいだろう。鉱山については、一時期必要なものを集めるためにとトモエが出入りはしていたらしいのだが、トモエにとって苦手な魔物も多い事もあり対応は別の者に任せてはいたらしいのだが、それでも目に入る事はままあったようでオユキもそちらはあまり聞いていない。現に、今にしても少々不機嫌な顔をしていることもあり、思い出しているのだと実に分かりやすい。
「こちらの森にしても、以前向かいましたが」
「確かに、大量に伐採して持ち帰るには」
どうにも、そうした話をする度に互いに脳裏に浮かぶことがある。この話は、恐らく続けるべきではないのだろうと。互いにどうしたところで苦笑い。どれだけ長くあったところで、たまにはこうしたことも起こるのだろうと、そんな事を互いに考えながら。そもそも、目的地も無くこうして出かけていることもある。であれば、何か話題をと互いに考えはするのだが、正直に言えばゆったりと話すのであればそれこそのんびりとできる場所で。そのような物でもある。
「少し、離れてはいますが」
「ええ、そうですね」
それこそ、かつてであれば互いに何を語るでもなく肩を並べて歩いていたものだ。こちらに来てからは、トモエに手を引かれるようにして歩く時間も長くなった。今となっては、互いに馬上の人になり、それぞれに侍従と呼んでもいい者たちが轡をとって。
「こちらでの買い物は、すっかりと任せることが増えていましたが」
「そうですね、こちらでも領都のように」
「マルシェは、貴族区画と言いますか、ここから近い場所にもあるのでしょうか」
互いに、互いが少し気落ちするような話には触れず、話題として手ごろな物を。
「では、そちらに向かいましょうか」
「ええ、お願いしますね」
そして、それに応えてというよりも初めから向かっていたのだろう。方向が特に変わる事無く、ただ目的地としてそれを目指すだけに。
「オユキさんは、まだ袖を通していない衣装も多いですが」
「追加は、正直当分は遠慮したいですね。下げ渡す当ても正直なところ」
着なくなった衣装は、取っておくのもとオユキはやはり考えている。手直しで済む程度の物であれば、そのようにと頼むことはあるのだが。多くはやはりそうでは無い。寧ろ、オユキに下賜されたものにしても、一度袖を通しておしまいとなることが多いのだ。
「オユキ様、それがあまり外出をしていないと、その証左に」
「とは言われましても」
出かければ、その都度着こむ予定もあるだろうとそうした話をされる。だが、オユキには基本的に仕事着と言えばいいのだろうか。巫女として表に出る時には、いよいよ戦と武技から与えられたものがある。それに合わせて作った千早であったり、形を似せて作ったものもいくつか。
「仕事として表に出る時には」
「それは、確かにそうなのでしょうが」
オユキの言葉に、シェリアがそれ以上を言いつのりはしないのだが。
「オユキさん、仕事以外で表に出ても良いのではと」
「いえ、こう、意図はわかるのですが」
トモエの言いたいことも、確かにわかる。だが、トモエと出かけようかとそんな事を言い出せば、どうしても大げさなものになってしまう。加えて。
「こう、ちょっとした買い物であったりは、呼んでと」
「そういえば、そうでしたね」
気軽に出かける、それ自体を目的にしても構いはしないのだろうが、オユキはそれを目的にはなかなかできない。それこそ、少々距離を移動するとそうした話でもあれば一応はと言う所なのだが、今の体調ではやはりそれも難しい。それに、町歩きをするにしても、こうして少々仰々しい移動が求められることもある。
見える範囲でも、十を超える人数に囲まれて。それ以外の場所にしても、オユキに向けられる意識を、気配を考えればその三倍は間違いなく。それが国法だと、オユキが巫女だからと言う以上に、どうにも周囲に多くつけられている。気が付かなければ、もう少し気楽にと思えるのだが気が付いてしまう以上はそれも仕方がない。
「数は、減らせないでしょうし」
「そうですね。公爵様と、王家から、後は私たちの様子をうかがいたい方からも」
トモエとしては、オユキが考えるよりもこちらに向いている意識と言うのが多いのだと。そんな事を考えながら口にすれば、それにしても伝わったのだろう。何処かオユキのほうもげんなりと。
「こうした視線を減らすために、屋敷にと言う話なのでしょうが」
「そちらにしても、結局は負担をかけるわけですから」
「それも仕事、そのように納得していただくしかありませんね」
屋敷に読んでしまえば、間違いなく一体どのような品を好んだのかと、それはそれは近づきたい、どうにか縁を持ちたい者たちが蠢動することだろう。それ以上の何かを返さねばと、オユキとしてもそれくらいは考えるのだが、分かった上でのことなのだからと、そういうしか無い物でもある。
「ではカミトキ」
「センヨウも」
トモエにちくりとやられたこともあり、今日は改めて王都の中を馬に乗って冷やかしてみようとそうした話をオユキから持ち出した。トモエのほうではそれがご機嫌取りと分かるからか、かつてもそうであったように仕方が無いとそうした素振りで頷いて。結局は、それがうれしい事には変わりないのだから。オユキにしても、トモエが喜んでいるのだと分かるからこそ。
「オユキ様、どうぞ」
「シェリアにも、苦労を掛けますね」
ただ、ここまでトモエがそれを言い出さなかったのは、やはりオユキの体調が問題だったから。一人で馬に乗る事は叶わない。カミトキのほうは、いよいよ久しぶりの事に嬉しそうではあるのだが、シェリアがまたも背に乗ると分かるや否や実に不機嫌そうにしてくれたものだ。それをどうにか宥めて、それこそ一時は背に乗らずに引いて歩こうかとそんな事をシェリアが言い出す程度に実に見事な抵抗を見せてくれたものだ。ただ、それを叶えるためには、結局オユキが着替えねばならないと、そんな話にもなり。では着替えるかと、そう言いだしたときには、実に渋々とシェリアに背を許すこととなった。
己の主が、かなりの不調を抱えているというのは、きちんと理解はしているのだ。
「センヨウばかりがと、そうした思いはわかるのですが」
「カミトキに着けるための輿も、持ち帰ればよかったですね」
「ええ。流石に積み荷がかなり多かったこともあるので、おいてきてしまいましたからね」
特に目的地などは、今回は決めていない。それこそ、遠乗りとするにはオユキの体調がよくないこともあるし、王都の外と言うのはかなり遠い。ファンタズマ子爵家として屋敷を構えている場所は、貴族たちが暮らす、屋敷を構える区画にあるため町の外までの門と言うのはそれこそ冗談のような遠さ。要があれば、それこそ以前のように数時間もかからずトモエとオユキの乗馬は駆け抜けるだろうが、オユキが今そのような真似をされようものなら以前の河沿いの町と同じような状態を得るには違いない。
「トモエさんは、昨日に聞いた」
「そう、ですね。そちらも面白いかとは思いますが」
オユキがそうした話をしてみれば、ただトモエとしても流石にと考えることではある。水路に向かうには、やはり相応の距離の移動が必要になるのだから。今、トモエとオユキが居を構えている場所はあくまでマリーア公爵が王都で与えられた屋敷、そこから連なる地区でしかない。水路はどちらに伸びているのかと言えば、クレリー家の方向だ。並足でそちらに向かえば、少しも見て回れないうちに日も沈むことだろう。トモエとしても、流石にそれは望んでいない。ちらりと視線をラズリアに投げてみれば、一つ頷きが返ってくる。そして、それにつられるようにと言うよりも、背に乗っている者たちが特に目的も無いのだと理解したのかラズリアと周囲にいる護衛たちが作る道をゆるゆると進み始める。
「カミトキも、私がもう少し体調が良ければ」
「オユキ様は、そうですね。通常の馬具では、難しい事もありますので」
今はシェリアに抱えられるようにと、そのような格好にはなっていない。だが、トモエと違ってまっすぐに座っているのではなくよくある様に横向きに。シェリアのほうは、片手で手綱をもって捌きながらも、もう片方の手でオユキを支えてと実に慣れた素振りで。それこそ、最初はトモエがそうするつもりではあったのだが、生憎と互いの乗馬がそれを許しはしなかった。
「かといって、各地にと言うのも」
「いえ、それも手の一つではあるかと」
オユキのほうは、背丈が足りない。真っ当に鐙などをつけてしまえば、オユキの体躯では足が届かない。だが、オユキに合わせてあまりにも詰めてとしてしまえば、今度ははたから見てもそれはどうかと思うような仕上がりになってしまう。かつての世界にいた馬とは、こちらの馬はやはり少々違う。かつての世界でよく見かけた軽種ではなく重種と比べてもまだ二回りほど大きいのだ。シェリアですら、それこそトモエと比べて僅かに背が低いだけのシェリアにしても、それこそどうにか体裁を取り繕えるといった様子。
「カミトキは、各地に馬具を置いて」
さて、では己の乗馬の意見はどうかと。それこそ、オユキが乗るには鞍ではなく輿が必要になるため使う予定も無い物をあちらこちらに用意することにどう思うかと尋ねてみれば、随分と分かりやすく機嫌がよさそうな嘶きが返ってくる。
「では、手配は任せても」
「ええ、お任せください」
カミトキに文句が無いというのならば、もはやそれで決まりだろうと。
「そういえば、王都でこうして貴族区とはいえ出歩くのは数える程ですが」
街並みは、やはり神国としてはどこも似たり寄ったり、と言うようなものではない。始まりの町では、木造の建築が目立っていた。マリーア公爵の領都にしても、石造りの部分は多かったのだがそれでも外周に出れば、始まりの町とどこか似たような風情。それどころか、貴族区画にしても所々に木造の屋敷もあったのだ。
「鉱山が二つ、いえ、実際には」
「ええ、領都の物と同じく、程度はあるでしょうが資源が回復する鉱山が二つとか」
要は、そちらから集めた物を使ってということなのだろう。森も確かにあるのだが、そちらはそちらで始まりの町や領都に比べて難易度が高い事もある。気軽に集めてくるのは、確かに難しいだろう。鉱山については、一時期必要なものを集めるためにとトモエが出入りはしていたらしいのだが、トモエにとって苦手な魔物も多い事もあり対応は別の者に任せてはいたらしいのだが、それでも目に入る事はままあったようでオユキもそちらはあまり聞いていない。現に、今にしても少々不機嫌な顔をしていることもあり、思い出しているのだと実に分かりやすい。
「こちらの森にしても、以前向かいましたが」
「確かに、大量に伐採して持ち帰るには」
どうにも、そうした話をする度に互いに脳裏に浮かぶことがある。この話は、恐らく続けるべきではないのだろうと。互いにどうしたところで苦笑い。どれだけ長くあったところで、たまにはこうしたことも起こるのだろうと、そんな事を互いに考えながら。そもそも、目的地も無くこうして出かけていることもある。であれば、何か話題をと互いに考えはするのだが、正直に言えばゆったりと話すのであればそれこそのんびりとできる場所で。そのような物でもある。
「少し、離れてはいますが」
「ええ、そうですね」
それこそ、かつてであれば互いに何を語るでもなく肩を並べて歩いていたものだ。こちらに来てからは、トモエに手を引かれるようにして歩く時間も長くなった。今となっては、互いに馬上の人になり、それぞれに侍従と呼んでもいい者たちが轡をとって。
「こちらでの買い物は、すっかりと任せることが増えていましたが」
「そうですね、こちらでも領都のように」
「マルシェは、貴族区画と言いますか、ここから近い場所にもあるのでしょうか」
互いに、互いが少し気落ちするような話には触れず、話題として手ごろな物を。
「では、そちらに向かいましょうか」
「ええ、お願いしますね」
そして、それに応えてというよりも初めから向かっていたのだろう。方向が特に変わる事無く、ただ目的地としてそれを目指すだけに。
「オユキさんは、まだ袖を通していない衣装も多いですが」
「追加は、正直当分は遠慮したいですね。下げ渡す当ても正直なところ」
着なくなった衣装は、取っておくのもとオユキはやはり考えている。手直しで済む程度の物であれば、そのようにと頼むことはあるのだが。多くはやはりそうでは無い。寧ろ、オユキに下賜されたものにしても、一度袖を通しておしまいとなることが多いのだ。
「オユキ様、それがあまり外出をしていないと、その証左に」
「とは言われましても」
出かければ、その都度着こむ予定もあるだろうとそうした話をされる。だが、オユキには基本的に仕事着と言えばいいのだろうか。巫女として表に出る時には、いよいよ戦と武技から与えられたものがある。それに合わせて作った千早であったり、形を似せて作ったものもいくつか。
「仕事として表に出る時には」
「それは、確かにそうなのでしょうが」
オユキの言葉に、シェリアがそれ以上を言いつのりはしないのだが。
「オユキさん、仕事以外で表に出ても良いのではと」
「いえ、こう、意図はわかるのですが」
トモエの言いたいことも、確かにわかる。だが、トモエと出かけようかとそんな事を言い出せば、どうしても大げさなものになってしまう。加えて。
「こう、ちょっとした買い物であったりは、呼んでと」
「そういえば、そうでしたね」
気軽に出かける、それ自体を目的にしても構いはしないのだろうが、オユキはそれを目的にはなかなかできない。それこそ、少々距離を移動するとそうした話でもあれば一応はと言う所なのだが、今の体調ではやはりそれも難しい。それに、町歩きをするにしても、こうして少々仰々しい移動が求められることもある。
見える範囲でも、十を超える人数に囲まれて。それ以外の場所にしても、オユキに向けられる意識を、気配を考えればその三倍は間違いなく。それが国法だと、オユキが巫女だからと言う以上に、どうにも周囲に多くつけられている。気が付かなければ、もう少し気楽にと思えるのだが気が付いてしまう以上はそれも仕方がない。
「数は、減らせないでしょうし」
「そうですね。公爵様と、王家から、後は私たちの様子をうかがいたい方からも」
トモエとしては、オユキが考えるよりもこちらに向いている意識と言うのが多いのだと。そんな事を考えながら口にすれば、それにしても伝わったのだろう。何処かオユキのほうもげんなりと。
「こうした視線を減らすために、屋敷にと言う話なのでしょうが」
「そちらにしても、結局は負担をかけるわけですから」
「それも仕事、そのように納得していただくしかありませんね」
屋敷に読んでしまえば、間違いなく一体どのような品を好んだのかと、それはそれは近づきたい、どうにか縁を持ちたい者たちが蠢動することだろう。それ以上の何かを返さねばと、オユキとしてもそれくらいは考えるのだが、分かった上でのことなのだからと、そういうしか無い物でもある。
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