憧れの世界でもう一度

五味

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28章 事も無く

意外でもなく

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オユキが王城に行くつもりになっていた。そのために、マリーア公爵夫人の助けを求めた。そこまでは確かに事実ではあったのだ。

「申し開きがあれば、まずはそれを聞きましょうか」

だが、現状はなぜ得てしまったのだろうか。
トモエが寝台の隣に腰掛けて、この結果は然も当然だと、甘んじて受け入れろと言わんばかりに。相も変わらずトモエの手によって、既に護符は取り上げられている。なんとなれば、それは今王太子妃の手に渡って、改めて見分などが行われていたりもする。何よりも、そうして眠るしかないオユキを問い詰める王妃その人と、マリーア公爵夫人。何故、揃ってこうして訪れたのだろうかと。

「一応、報告に上がるつもりだったのですが」

それこそ、報告に行くつもりはあったのだから、それを待ってくれていても良かったのではないかと。

「何を不思議そうにしているのです」

しかして、相手からは、そうされるだけの理由があるだろうとそう言われるものだ。特に心当たりがないのだがと、オユキからトモエに視線が流れれば、やはりこちらも苦笑い。

「オユキさん、言われていたこと、そのうちどれだけをあちらで」
「さて」

トモエに言われて、少し考えてみる。確かに療養を目的に、神国では難しい事も多いだろうからと、送り出された。だが、こうして返ってきたオユキが魔国でどれだけの事を行ったのかと言えば、療養などと言っていたのはいったい誰だとそういう話でもある。だが、それに対しては、オユキとしての言い分位はある。

「ですが、陛下のお考えもあったわけです」
「オユキ。陛下が、その方に直接王命としてそれを伝えましたか」

王妃に言われて、少し考えてみるのだが。そのような記憶は確かに存在していない。

「オユキ、貴女の得難い能力の一つとして、確かに陛下の悪癖として」
「他人の思惑をくみ取りすぎるのです。そして、それを知った上で放っておくことが出来ない」

言われて、要は女性陣としては言われていないのだから知らぬと、そうしろと言っているのだと確かに理解はできる。だが、それを行ってしまえば、あの哀れな存在はどうなっただろうかと、オユキとしてはやはり考えずにはいられない。

「その、オユキさん。向き合い方と言いますか、例えば、きちんと時間をとっていれば」
「そういう流れですか」

では、国王陛下その人ではなく。今、こうしてオユキに対して詰めかけた相手の思惑はと言えば、トモエは理解が及んでいた、と言うよりもそちらの流れをオユキが用意するのだろうと考えていたのだと。だからこそ、一度話し合う時間を持てと、そうした話をトモエからオユキにしたのだろう。だが、その場には初めからオユキが頼むと決めた存在もいてこそ。要は、オユキとしては、早々に決めてしまいたい、関わりたくないとそう決めて望んでしまったのだ。
ただし、それがオユキの瑕疵であるかと言われれば、それもまた難しい物ではある。

「ですが、それをするには正直なところ」
「先代アルゼオ公に、そのあたりは期待していたのですが」

つまりは、そちらに任せてしまえと用意された人員でもあったらしい。だが、そちらに対しては前回の事もあるため、魔国の問題となる人員を抑えるためにとオユキは使う事と決めてしまった。

「その、そのあたりの報告は」
「ええ、確かに」
「正直、私としてはありがたい事ではありました」

言ってしまえば、そのあたりの事が、オユキから王太子妃への心配りでもある。最も優先する相手、勿論身内と考えていない相手の中で。オユキとしては優先順位を置いているのが、王太子妃その人。マリーア公爵夫妻については、完全に身内扱い。少々粗雑な対応に、と言うよりも慣れとして、求められているからとして。

「それよりも、これまでのように振る舞うのは止めたのですね」

そして、問い詰められる形になり、トモエに対して甘えるようなそぶりを平然と見せるオユキに対して王太子妃から。揶揄い交じりと言う事ではなく、それが良い事だとそう考えているのだと分かる様子で。

「そう、ですね。やはり己が己のままでいられる場、それを己に許すと決めた場所では」
「ええ。良い傾向でしょう」
「気を張ってばかりでは、疲れますからね」

そして、これまでにも。先達として、要は貴族社会で生きる者としての先達として、それをオユキに示していた相手からも。ようやく、そうした割り切りができるようになったのかと。

「ええ、つくづく思い知りました」

そして、トモエとしてははっきりと理解していたこと、警戒していたことが今回起きてしまった。神国でも、一度そうした傾向は見えてきたため、どうにかそれを押しとどめてはみた。しかし、今度ばかりは色々と間が悪かった。どうにも、他の者たちにしても、それぞれの思惑があるからと動き。トモエとしても、それを許すことが出来ぬとオユキが向かう事が難しい場で何が起こるのか、そうした情報が欲しいからと別れて動くことが実に多かった。単に、トモエがおり、刺繍と言う面でトモエのほうがオユキよりも優れているのだとそうした様子を見せたくなかったのも一つ。トモエのおらぬ間に、アルノーと話して、生前の世界でよく作っていた、それこそトモエが存命の間は毎年どうにか用意していたものをもう一度と考えての事でもあった。

「シェリアから、受け取った報告にもありましたが」
「分けぬほうが良い、それを示すためにとわざとそうした部分もあるのでしょう」

そして、オユキとしてもトモエと分けてしまえば良いのではないか、そうした声が上がらぬ様にと考えての振る舞いであったのも事実。確かに、こちらの高位貴族、王族教育をやり遂げた者はかつてオユキが学んだ物等当然としている相手。得難いと言われているのは、要は今の見た目とそぐわぬ能力でもあり、異邦人だというのに珍しいとそう言った評価でしかない。

「その、外向きにですね」
「ええ、それが功を奏す場面は多いでしょう。特に今回は、実態を知らぬ者たちも多かったわけですから」

要は、トモエと話してしまえば、途端にオユキが不安定になるのだぞと、それを知らしめる効果は十分以上に発揮したのだとそうした保証がようやく得られる。

「今回は、トモエとオユキに慣れた者をあまり多くつけられませんでしたからね」

そう。側に居る相手は、きちんと慣れた相手をとされてはいた。だが、それ以外の者たちが違う。ローレンツも、アベルも。今回は、これまでとはまた別の騎士たちを率いて魔国にとなったのだ。主体となっているのは、それこそアルゼオ公爵領の戦力。加えて、王都から一部が抽出されて。今回については、いよいよ外交でもあるため、これまで顔を合わせたことがない舞台の者たちから戦力が抽出されたのだ。理解はある。そうなる理由は、勿論理解している。だが、その理解が負担にならないのかと言われればまた違う。

「シェリアからは、機能不全一歩手前、そのように」
「そこまで、でしたか」

ただ、オユキとしてはやはりもう少し違う評価。

「その、こちらの求めた事と言いますか」
「ですが、これまでと異なって、それ以上が無かったのでしょう」
「流石に、他国においてそうした振る舞いは難しいのでは」

だが、今回ばかりはそれが叶う環境ではなかったのではないかとオユキが言えば。

「いえ、許されますよ」

しかして、返ってくる言葉は実に意外な物。

「特に今回は、もとより約定があっての事と言う訳でもありません」
「あの、王太子妃様の輿入れ、それに対しての物では無かったのですか」
「オユキ、貴女は気が付いていませんでしたか。そちらの対価は、既に一度払われています」

つまりは、あちらで出会った、神国に戻れないという状況を抱えてしまった者達。それを一度は派遣した。寧ろ、王太子妃の輿入れこそ、そちらに対する、神国の戦力が取り返しのつかない状況に陥ってしまった事に対しる対価。

「かつて、神国の窮状をアルゼオ公爵が、神国に届けました」

そして、そこからは少し歴史の話が為されることになる。
基本的には、オユキの想像が正しい物として。要は、そうした流れが確かにあったのだと、それに間違いはなかったのだとそうした話が。しかし、問題として、かなり大きな部分として。戦力の抽出、必要な戦力として神国が選んだのがマリーア公爵領でした。王領では無いというのに、神殿を抱えるマリーア公爵領。それも、月と安息と言う実にらしい神殿を抱えているではないかと。先代アルゼオ公爵と、現マリーア公爵。そこに不和があるようには見えないのだが、事ここに至って、先代マリーア公爵が出てこないのは、アルゼオ公爵との協同を良しとできない理由は確かにあるのだと。

「とすると、領都の南側は」
「ええ。遠因は、そこにあります」

領主への不信、それが募るだけの事件があった。それが、醸造されて、悪意の種を呼び込んで。そうするだけの流れは、確かにあったのだと。

「対価は、確かにありました」

そして、そこまでして一体何をマリーア公爵領として求めなければならなかったのかと。そんなオユキの疑問を、表情に全くもって理解できぬ流れだと、そうした物が浮かんでいるのを公爵夫人がくみ取って。

「当時も、いえ、初代マリーア公爵が領を立ててから」

それがいつの事なのか、未だにはっきりと理解が及んでいるわけでもない。

「当代で、八百年しか歴史を持たぬ家でもあります」
「それは、いえ、あり得るのでしょうが」
「王家から、木精としての特色の強い初代陛下のご息女が出る切欠と言うのも確かに存在していたのです」
「確かに、当時を知る人物がいれば、そちらにまずはとそういう話も出てくるでしょう」

それこそ、世襲を是としてはいたのだろうが、それでも王祖から最も近い相手は誰かと言えば。そう考える者たちも、難しい中でのかじ取り、その話が出るたびに過去から今までを間違いなく知っている相手に頼りたいと考える者たちも出てきたのだろう。

「いえ、だからこそ、消した歴史があるとそういう話ですか」
「ええ。マリーア公爵領の興り、その歴史は無い物とされていました。ですが、気が付くものと言うのはやはり出てくるのです」

そして、それを使って言い出したものが居たのだろう。今回、オユキがやったような事を、過去にマリーア公爵領で散々に行われたことがあるではないかと。
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