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28章 事も無く
オユキから
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早速とばかりにシェリアを招き入れて、これからしばらくは朝食は別にしたいと話をすれば、当然とばかりに受け入れられた。どこかに報告をと、そういった必要もどうやら無い様でまさに上意下達といった形で。それこそ、シェリアがさらに外に控えている幾人かの使用人たち、そちらに決定事項だとばかりに伝えればそれで終わり。
「成程、午前中は外しておくと言う事ですか」
「ええ、ですがそれを行うとすると、こう」
「どう、なのでしょうか。そちらは製作者に改めてお伺いを」
ただ、そうして生活するとしてまず真っ先に問題になると見えるのが、オユキに与えられた護符。今も決して余裕のないオユキの体調を、それでもどうにか支えているそれ。常に身に着けていればこそ、実際に外して寝ている間にこそ消耗していると見て取れるそれ。
「身に着けることが前提となっているのであれば、確かに、外してしまうとその分余計にという物でしょう」
「オユキさん、自分が身動きがとれぬからと」
「いえ、そうした部分も確かに少しはありますが」
そして、オユキとしては、身に着けていない間に消耗が増える理屈、恐らくはと言う以上に納得がいくものとして、思い付きを話してみればトモエからは端的に返ってくる。しかして、そればかりが理由でも無いと。
「せっかく休むと決めたのですから、やはりこちらでも少し気になる物もありますし」
「一応、私のほうで手配のお願いだけはしておいたのですが」
オユキが、休むと決めた。政治や、今この場をどうにかすることに積極的に係わるのを辞めた。ならば、空いた時間でオユキとしても寝台でただ退屈を友とする気も無いのだと、そんなことを言うものだ。トモエとしては、そもそもオユキは工作と言えば少々簡便な印象をぬぐえはしないが、論理の支える仕組み、そういった物を見るのも作るのも好きであったのだとやはり記憶している。そして、魔国には魔道具と言うまさにそれそのものがあるのだ。だからこそ、事前にシェリアやタルヤにも声をかけておきはした。ついでとばかりに、人を使って今回のお礼としてもらえるものがあるのならば、そうした系統の物にしてくれとそうした要望も手紙にして渡している。
「いくらか、買い求めはしているのですが」
「おや」
そして、オユキは聞いていないのだが、既に用意があるのかと少し楽し気に。ただ、シェリアが珍しく言葉を濁すのが、一体どういった理由かと。
「カナリア様が事前に見分をと仰いまして」
「ああ」
そして、同好の士がいるのだと、実に分かりやすい言葉が。
一応は、と言えばいいのだろうか。日々の中では、確かにカナリアはオユキの客人として自身も振る舞ってはいるのだが、実態としてはマリーア公爵の麾下、要はオユキと立場はそこまで変わらない。神国内においては、確かに子爵家の当主としての肩書をオユキも得てはいるのだが、それを言えばカナリアは翼人種という神国の、マリーア公爵の取引相手。それも、種族の中で最上位とされている者の覚えがめでたい相手だ。カナリア本人はそれを言ったところで、別に気にしないとそう言い切るのだろうが、当然身分に詳しい者たちはそれができるはずもない。
「今は不在ですし、どうした物でしょうか」
「その、カナリア様の部屋なのですが」
トモエが、どうした物かと。それこそ、問答無用で等と考えているのがシェリアも理解ができるのだろう。実に言いにくそうに、またもや何かがあるといった態度をとる。
「カナリアさんも、古巣から色々と持ち込んでいるでしょうから」
そして、オユキとしてははっきりと理解が有る。と言うよりも、覚えがある。そんな様子に、トモエはただ眉間を軽く押さえて、ただうなだれる。
「本人の中では整理がついているでしょうから、あまり勝手に動かすのも障りがありますから」
「あれで、ですか」
「オユキさん」
言ってしまえば、過去にトモエが散々に手を入れた事。人が暮らす空間は、このような物であってはならぬと、そう判断したのと同じ状況がカナリアに与えられた部屋に存在しているらしい。オユキが何やら懐かしむような、何処か羨むようなそんな様子であるため、空いた片手で、ついでとばかりに頬を押したうえで。
「どうにも、研究者気質の方々は、そのような状態になるようですね」
「生憎と、私は詳しくなく。ですが、王城に勤めておられる魔術師の方々は」
「研究所、等があるのでしたらそこは最低限整えているでしょう。ですが、個人に与えられた部屋ともなれば」
はたから見れば、そこかしこに何かが書き記された書類が散乱し。研究成果と見える、何やらよく分からぬものがこれまた同様に。正直、門外漢にしてみれば、全くもって訳の分からぬものが、まさに雑然と置かれていることだろう。だが、オユキの言う様に。本人たちにしてみれば、それぞれのところに積まれた紙束と言うのは、きちんと故有っての事ではあるのだ。それを、記憶の中に止めておけるのならば。トモエが、そうした様子を見て、散らかっているのだと判断する一つの大きな理由として。
「オユキさんもそうでしたが、これは何ですかと聞いても見なければわからぬと応えるでしょう」
「その、整理をするつもりは。それに、先ほどの話では」
「ええ、本人たちはその状態が最も効率が良いなどと嘯くのが常です、しかし」
実態として、オユキにしても。そこらに書き散らかしたメモ、その内容までは把握できていなかっただろうと。度々、さて、あれは、以前に思い付きを書き残したものはどこにやったかと探していただろうと。そして、実に都合が悪いとばかりに、追及されるオユキは視線を逸らすしかない。トモエは確かに己の趣味を持っていた。刀剣の鑑賞がその最たるものであり、確かに一室に飾り立てはした。だが、飾るならばとこだわりもあり、それこそ誰が見てもその目的に従っていると分かるような状態ではあったのだ。シェリアにしても、基本は貴族令嬢であり、侍女としての教育も受けている身。室内を整えるのが最たる職分でもあるため、まさに理解が出来ないといった様子を隠しもしない。一応はタルヤなどもいるのだが、そちらはいよいよもって始まりの町でカナリアが持ち込もうとしたものを徹底的に整理していった人物その人。
「オユキ様」
「お任せできる間は、はい」
シェリアのほうでも、思い返してみればと言う所。要は、刺繍をここ暫くオユキは嗜んでいたのだが、道具の片付けなどはそれこそ最低限。使った物を箱に戻す、それくらいは行っていたのだがその他の事は興味を示していなかったと。そして、そんな様子にトモエにしても気が付くこともあるのだろう。ただ、そこからさらに何かがと言う前に、扉が叩かれる。わかりやすい気配、タルヤではなくエステールには違いない。そして、彼女にしてもこれまではシェリアであったり、タルヤであったり。それこそ主たちがさも当然とばかりに扉の外に来ることに気が付くからと、来客でもない限りはただ外で控えていることが多いのだが。
「シェリア」
「よもやとは思いますが、畏まりました」
つまりは、朝食の席にオユキが出ないのだとそんな話を聞きつけて。誰ぞが呼びに来たのかと、トモエが露骨に警戒すれば、もとよりゆるつもりもないシェリアが、それが当然として。
ただ、オユキとしても、そういえばと思うことくらいはある。相応に、ここまでの間に時間をかけて用意した物とてあるのだ。そして、朝を暫くゆっくりと過ごすことに決めたのだと、そうした話が間違いなく厨房の責任者に伝わったのだろう。ならば、少し前に用意の終わったものをこの機会にと、そうした話が流れたのか。
「申し訳ございません、オユキ様、トモエ様。アルノー様から、食事の内容について相談を受けまして」
「ああ、そういう事ですか。そうですね、コンチネンタルスタイル、いえ、それも伝わりませんか」
「いえ、アルノー様がそれで理解をするのであれば」
要は火を通さない類の物で構成されている、そんな料理と言うのか朝食と言うのか。トモエとしては、食事をとるための場所ではなく、寝室であるならと思いつくものを気軽に口に出しただけ。しかし、どうにもそれが伝わっていないようでと。
「そうですね、アルノーさんであれば、ご存じでしょうから」
「畏まりました、では、そのように」
そして、そうした料理であれば、なんだかんだとオユキが時間を使っていたもの、それを頼もうと考えているオユキの様子から見て取れるのだとばかりに。
「一応、隠れての事としたはずなのですが」
「流石に、香りで気が付きますよ」
磨砕だけでは滑らかさが足りぬ。そこに行きついた時に、そういえば豆についている皮、カカオニブと呼ばれる果肉部分とそれを覆う物をより分けていただろうかとそんな話に行き着いた。そして、そこからは実に速やかに話が進んだものだ。成程、オユキの思いつく工業的手法など使わずとも、アルノーの記憶にある様にショコラティエが個人で行えたはずだとその記憶にある通り。より洗練していくのはこれから先になるのだが、それでも一先ずは十分と呼べるものが、アルノーもこれなら一先ずは問題が無いといえるものがきちんと用意できた。
「香り、ですか。ああ、それで」
「いえ、そればかりが理由と言う訳ではありませんが」
確かに、焙煎したカカオ豆、チョコレートへの加工。加えて、オレンジを乾燥させるためにと、それはそれはオユキにしても華やかな香りを持つ柑橘類を随分と手に持ったこともある。そうした、独特な香りを消すために、トモエが安息香を求めたのだろうかと、オユキとしてはそんなことを考えるのだが、トモエとしてはそれは見当違いだとそう返す。何も、香水と言うのは、香りづけと言うのはそのような物ではないのだと。
「ええと、エステール、そういう事ですから。アルノーさんに私が用意した物に合わせてくださいと」
「畏まりました、確かに」
そして、オユキの記憶ではもはやどれくらいぶりだろうかと。
「それにしても、アルノーさんに言われて知りましたが」
「そうですね、オユキさんが思う以上に、本職の方がとするなら手間がかかったでしょう」
生前のオユキが用意するものは、それこそアルノーにとってみればそれはオランジェットではなく、ただ輪切りのオレンジにチョコレートソースをつけるだけだとそう言われるものであっただろう。
「ですが、私はあちらも好きですよ」
オユキが、トモエの為にと用意してくれた初めての物がそうであったのだから。
「成程、午前中は外しておくと言う事ですか」
「ええ、ですがそれを行うとすると、こう」
「どう、なのでしょうか。そちらは製作者に改めてお伺いを」
ただ、そうして生活するとしてまず真っ先に問題になると見えるのが、オユキに与えられた護符。今も決して余裕のないオユキの体調を、それでもどうにか支えているそれ。常に身に着けていればこそ、実際に外して寝ている間にこそ消耗していると見て取れるそれ。
「身に着けることが前提となっているのであれば、確かに、外してしまうとその分余計にという物でしょう」
「オユキさん、自分が身動きがとれぬからと」
「いえ、そうした部分も確かに少しはありますが」
そして、オユキとしては、身に着けていない間に消耗が増える理屈、恐らくはと言う以上に納得がいくものとして、思い付きを話してみればトモエからは端的に返ってくる。しかして、そればかりが理由でも無いと。
「せっかく休むと決めたのですから、やはりこちらでも少し気になる物もありますし」
「一応、私のほうで手配のお願いだけはしておいたのですが」
オユキが、休むと決めた。政治や、今この場をどうにかすることに積極的に係わるのを辞めた。ならば、空いた時間でオユキとしても寝台でただ退屈を友とする気も無いのだと、そんなことを言うものだ。トモエとしては、そもそもオユキは工作と言えば少々簡便な印象をぬぐえはしないが、論理の支える仕組み、そういった物を見るのも作るのも好きであったのだとやはり記憶している。そして、魔国には魔道具と言うまさにそれそのものがあるのだ。だからこそ、事前にシェリアやタルヤにも声をかけておきはした。ついでとばかりに、人を使って今回のお礼としてもらえるものがあるのならば、そうした系統の物にしてくれとそうした要望も手紙にして渡している。
「いくらか、買い求めはしているのですが」
「おや」
そして、オユキは聞いていないのだが、既に用意があるのかと少し楽し気に。ただ、シェリアが珍しく言葉を濁すのが、一体どういった理由かと。
「カナリア様が事前に見分をと仰いまして」
「ああ」
そして、同好の士がいるのだと、実に分かりやすい言葉が。
一応は、と言えばいいのだろうか。日々の中では、確かにカナリアはオユキの客人として自身も振る舞ってはいるのだが、実態としてはマリーア公爵の麾下、要はオユキと立場はそこまで変わらない。神国内においては、確かに子爵家の当主としての肩書をオユキも得てはいるのだが、それを言えばカナリアは翼人種という神国の、マリーア公爵の取引相手。それも、種族の中で最上位とされている者の覚えがめでたい相手だ。カナリア本人はそれを言ったところで、別に気にしないとそう言い切るのだろうが、当然身分に詳しい者たちはそれができるはずもない。
「今は不在ですし、どうした物でしょうか」
「その、カナリア様の部屋なのですが」
トモエが、どうした物かと。それこそ、問答無用で等と考えているのがシェリアも理解ができるのだろう。実に言いにくそうに、またもや何かがあるといった態度をとる。
「カナリアさんも、古巣から色々と持ち込んでいるでしょうから」
そして、オユキとしてははっきりと理解が有る。と言うよりも、覚えがある。そんな様子に、トモエはただ眉間を軽く押さえて、ただうなだれる。
「本人の中では整理がついているでしょうから、あまり勝手に動かすのも障りがありますから」
「あれで、ですか」
「オユキさん」
言ってしまえば、過去にトモエが散々に手を入れた事。人が暮らす空間は、このような物であってはならぬと、そう判断したのと同じ状況がカナリアに与えられた部屋に存在しているらしい。オユキが何やら懐かしむような、何処か羨むようなそんな様子であるため、空いた片手で、ついでとばかりに頬を押したうえで。
「どうにも、研究者気質の方々は、そのような状態になるようですね」
「生憎と、私は詳しくなく。ですが、王城に勤めておられる魔術師の方々は」
「研究所、等があるのでしたらそこは最低限整えているでしょう。ですが、個人に与えられた部屋ともなれば」
はたから見れば、そこかしこに何かが書き記された書類が散乱し。研究成果と見える、何やらよく分からぬものがこれまた同様に。正直、門外漢にしてみれば、全くもって訳の分からぬものが、まさに雑然と置かれていることだろう。だが、オユキの言う様に。本人たちにしてみれば、それぞれのところに積まれた紙束と言うのは、きちんと故有っての事ではあるのだ。それを、記憶の中に止めておけるのならば。トモエが、そうした様子を見て、散らかっているのだと判断する一つの大きな理由として。
「オユキさんもそうでしたが、これは何ですかと聞いても見なければわからぬと応えるでしょう」
「その、整理をするつもりは。それに、先ほどの話では」
「ええ、本人たちはその状態が最も効率が良いなどと嘯くのが常です、しかし」
実態として、オユキにしても。そこらに書き散らかしたメモ、その内容までは把握できていなかっただろうと。度々、さて、あれは、以前に思い付きを書き残したものはどこにやったかと探していただろうと。そして、実に都合が悪いとばかりに、追及されるオユキは視線を逸らすしかない。トモエは確かに己の趣味を持っていた。刀剣の鑑賞がその最たるものであり、確かに一室に飾り立てはした。だが、飾るならばとこだわりもあり、それこそ誰が見てもその目的に従っていると分かるような状態ではあったのだ。シェリアにしても、基本は貴族令嬢であり、侍女としての教育も受けている身。室内を整えるのが最たる職分でもあるため、まさに理解が出来ないといった様子を隠しもしない。一応はタルヤなどもいるのだが、そちらはいよいよもって始まりの町でカナリアが持ち込もうとしたものを徹底的に整理していった人物その人。
「オユキ様」
「お任せできる間は、はい」
シェリアのほうでも、思い返してみればと言う所。要は、刺繍をここ暫くオユキは嗜んでいたのだが、道具の片付けなどはそれこそ最低限。使った物を箱に戻す、それくらいは行っていたのだがその他の事は興味を示していなかったと。そして、そんな様子にトモエにしても気が付くこともあるのだろう。ただ、そこからさらに何かがと言う前に、扉が叩かれる。わかりやすい気配、タルヤではなくエステールには違いない。そして、彼女にしてもこれまではシェリアであったり、タルヤであったり。それこそ主たちがさも当然とばかりに扉の外に来ることに気が付くからと、来客でもない限りはただ外で控えていることが多いのだが。
「シェリア」
「よもやとは思いますが、畏まりました」
つまりは、朝食の席にオユキが出ないのだとそんな話を聞きつけて。誰ぞが呼びに来たのかと、トモエが露骨に警戒すれば、もとよりゆるつもりもないシェリアが、それが当然として。
ただ、オユキとしても、そういえばと思うことくらいはある。相応に、ここまでの間に時間をかけて用意した物とてあるのだ。そして、朝を暫くゆっくりと過ごすことに決めたのだと、そうした話が間違いなく厨房の責任者に伝わったのだろう。ならば、少し前に用意の終わったものをこの機会にと、そうした話が流れたのか。
「申し訳ございません、オユキ様、トモエ様。アルノー様から、食事の内容について相談を受けまして」
「ああ、そういう事ですか。そうですね、コンチネンタルスタイル、いえ、それも伝わりませんか」
「いえ、アルノー様がそれで理解をするのであれば」
要は火を通さない類の物で構成されている、そんな料理と言うのか朝食と言うのか。トモエとしては、食事をとるための場所ではなく、寝室であるならと思いつくものを気軽に口に出しただけ。しかし、どうにもそれが伝わっていないようでと。
「そうですね、アルノーさんであれば、ご存じでしょうから」
「畏まりました、では、そのように」
そして、そうした料理であれば、なんだかんだとオユキが時間を使っていたもの、それを頼もうと考えているオユキの様子から見て取れるのだとばかりに。
「一応、隠れての事としたはずなのですが」
「流石に、香りで気が付きますよ」
磨砕だけでは滑らかさが足りぬ。そこに行きついた時に、そういえば豆についている皮、カカオニブと呼ばれる果肉部分とそれを覆う物をより分けていただろうかとそんな話に行き着いた。そして、そこからは実に速やかに話が進んだものだ。成程、オユキの思いつく工業的手法など使わずとも、アルノーの記憶にある様にショコラティエが個人で行えたはずだとその記憶にある通り。より洗練していくのはこれから先になるのだが、それでも一先ずは十分と呼べるものが、アルノーもこれなら一先ずは問題が無いといえるものがきちんと用意できた。
「香り、ですか。ああ、それで」
「いえ、そればかりが理由と言う訳ではありませんが」
確かに、焙煎したカカオ豆、チョコレートへの加工。加えて、オレンジを乾燥させるためにと、それはそれはオユキにしても華やかな香りを持つ柑橘類を随分と手に持ったこともある。そうした、独特な香りを消すために、トモエが安息香を求めたのだろうかと、オユキとしてはそんなことを考えるのだが、トモエとしてはそれは見当違いだとそう返す。何も、香水と言うのは、香りづけと言うのはそのような物ではないのだと。
「ええと、エステール、そういう事ですから。アルノーさんに私が用意した物に合わせてくださいと」
「畏まりました、確かに」
そして、オユキの記憶ではもはやどれくらいぶりだろうかと。
「それにしても、アルノーさんに言われて知りましたが」
「そうですね、オユキさんが思う以上に、本職の方がとするなら手間がかかったでしょう」
生前のオユキが用意するものは、それこそアルノーにとってみればそれはオランジェットではなく、ただ輪切りのオレンジにチョコレートソースをつけるだけだとそう言われるものであっただろう。
「ですが、私はあちらも好きですよ」
オユキが、トモエの為にと用意してくれた初めての物がそうであったのだから。
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