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25章 次に備えて
変わらぬもの
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人の親とは、やはりどこの世界でも変わらぬ物なのだなと、オユキは長椅子にもたれたままそのような事を考える。ここに至るまで、色々と不安のある子供だったからだろう。王太子妃が己の務めに対して疑念を与える真似を好まなかったからだろう。漸くこの場で初めて己の孫とあったという訳だ。
そして、此処が公の場では無いと、それを示す為の行為としても都合がいいというのは分かるのだが。
「微笑ましい、ともまた違いますか」
「さて、私としても人の親、ああした心持は理解が出来るものです」
トモエから奪ったという訳では無く、部屋に入ってすぐに次なる話題に移るのかと思えばのらりくらりと。何を要求しているのか、直ぐに気が付いたトモエが王太子妃に軽く目線で問えば、直ぐに頷きが返ってきたため赤子を隣国の王妃に渡して。そうしてみれば、いよいよもって話が進む事は無く、暫く時が流れて今となる。
「お母さま」
「やはり、少し薄いようですが。それでも、こうして神々の恩寵も多く得て」
「お母さま」
王太子妃としては、どうにも子供扱いをされる気恥ずかしさとでも言えばいいのだろうか。客人を前に、トモエとオユキ、高々一子爵家を相手にそうして扱われることに不満を覚え、更にはオユキからトモエへと渡り、更に何某かを得た己の子供を返せと目が口ほどに物を言っているのだが。
「それにしても、こうしてみる事が出来るものなのですね」
「生憎と、此処まで行使が出来るのは極一部です。いえ、翼人種であったり、そうした相手であれば分かりませんが」
そして、孫を抱える隣国の王妃と、今となっては神国の王太子妃の間で奇妙な現象が起きている。魔術文字と、そう傍から見ても分かりはするのだ。それが、両者の中間では無く、王太子妃の方により近い位置で。それに対して、何やら歯噛みするような様子を王太子妃が見せているあたり能力の差を示す物なのだと理解は及ぶ。
「国が違えば、親子のじゃれ合いの形も変わるものです」
「さて、国を超えたその子供は、今後どうなるのか」
「ええ、かじ取りは変わらず難しく、多くの者達が多くの事をあの子に望むのでしょう」
それは、本人が選んだものでは無く。
ただ、そのように生まれたからと、容赦なく。
生まればかりは、やはりどうにもならぬ。そのように生まれたのだから、そのようにあれと。ただ、一切の容赦なく周囲の者達からの期待が寄せられる事だろう。応えられなければまた理不尽な感情が向けられる事だろう。神々が咎める事も出来ぬ、ただ一つの結果として。
「一助と、そうできる範囲で惜しむつもりはありませんが」
「ええ、それを為す為にもと、そう言う事なのでしょう」
トモエの負担は少なく見えるのだが、ではオユキでは無くトモエに頼むのかと言えばそれもまた違う。王太子妃から、では無く、王太子今年が終わるころには新たな王となる人物から頼まれてであれば良いのだが。
「王太子様からという訳には」
「生憎と、子に関わる時間と言うのは」
「それはそれで、随分と寂しく思うのですが」
トモエからしてみれば、確かにそのような物ではあるのだろう。だが、実態を知る者達からしてみれば、今後、と言うか今も王太子にかかる仕事と言うのは随分と冗談じみた量になっているというのは理解が出来ている。かつて、国王ですら顔を見るのに執務室の机、そこに置かれた書類の山をかなりどかさねばとそのような話を聞いたものだ。そして、そこから次に仕事を引き継ぐものがどれだけの量の職務を熟さねばならないのか。それは、オユキにとっては非常に想像に容易い。かつての世界でも、それはそれは時間を取られたものだ。
「あの子には、為すべき琴がありますから。勿論、それらを終えて己のこの元に、こうして隣国から迎えた己の伴侶の下に、それすらも」
「ああ。そうした扱いになりますか」
「私たちの婚姻など、そのような物です。勿論、そこから積み上げたものは誰にも負けぬと、間違いなく誇れるものだとそう言いますが」
派手に惚気る物だと、そんな事を少し意外な心持でオユキはぼんやりと聞く。どうにも、先ほどから少し己の感覚が遠い。シェリアが、ナザレアが、何かを見過ごす事は無いだろう。この場にいる者達が、オユキを相手に何かをするとも今更思えない。であれば、やはり他かとも思うのだがそうであるならば、どうにもこうした遠さを感じさせる相手と言うのに、やはりなかなか心当たりも無い。
中空に浮かぶ魔術文字、恐らくは手習いとして行うせめぎ合い。そこで明らかに年長者として己の子供をあしらう隣国の王妃。今も腕の中でそうして浮かぶ魔術文字を随分と熱心に見る赤子。実にもの言いたげにしながらも、表面上はどうにか抑えながらも主導権を奪い返そうとばかりに肩に力を入れている王太子妃。そして、そんな様子を平和な事だとばかりに眺めるこの国の王妃。
「オユキさん」
「いえ、どうにも、先ほどから」
そして、違和感を感じるオユキに気が付いたのだろう。トモエから声がかかるのだが、どうにもそれに対しても直ぐに応える事が出来ない程度には、やはり違和感がある。
「遠い、そう感じるのです」
「よもや」
「いえ、そうした症状という訳では無いと思うのですが」
昨夜話した事、それが顕在化すればまさにそのようになるのだろうと、トモエが懸念を表に出す。だが、オユキとしてはやはり違うと言い切れるようなものだ。
「どう、言えばいいのでしょう。いつぞやに、こうした感覚を得た様な」
そう、それもこちらに来てから。どの程度の時期であったかは定かでは無く、それともまたわずかに違うと感じる物ではあるのだが。
「遠くから呼ばれて、そちらに近づいていくような」
根源などと言う話を聞いたからだろうか。じゃれ合いの中に浮かぶ魔術文字、その中のいくつかにオユキ自身が見覚えがあるからだろうか。
「ああ、成程」
しかして、そのオユキの反応に対しては、直ぐに隣国の王妃が心当たりがあるのだと。
「初めて見る物、と言う事ですか」
「初めて、ですか」
そして、王太子妃に向けた物とは別に、そこからいくつか浮かんでいるものと同じ文字を改めてオユキの方に。
浮かぶ文字が、どうにもオユキの意識を変わらず遠くに運ぼうと、そう働く。根源と、そうした話を聞いたからだろうか。複雑怪奇な、文字と呼ばれてはいるのだがあまりにも画数が、複雑なそれをもはやオユキにとっては文字では無く図案と呼ぶにふさわしいもの。それこそ、かつての世界では大陸の方でたびたび見られた絨毯の淵、衣服の裾などに連綿と、古くから家に伝わるものとして伝えられた図案とそれにしか見えない。
だが、どうだろうか。今こうして隣国の王妃が使っているものにしても、己の脳裏に浮かぶものとはどこか違う。比べてしまえば、やはりオユキの物よりも、こちらの方が遥かに複雑。
「特に親和性が高いものと言えばいいのでしょうか、扱えるようになる、己の知る物と近しい文字であれば、やはり惹かれるものですから」
オユキの属性を、以前触った時に感じた範囲の物であれば、要はこれらに心惹かれるのだろうと。
「直に得られるでしょうが、先に約束したこともあります。私が、これらの文字を魔石に込めておきましょう」
「魔石に、文字を込めるですか」
それは、短杖に行う物とはどの様に違うのだろうか。如何にも気軽に語られる物ではあるのだが、全く想像がつかぬとトモエとオユキが揃って首をかしげる。
「魔術師に課される物は、それこそ色々ですから」
「説明を望むのであれば、そうですね、こちらではなくまた私たちの国へ来た時にでも招いてとしましょうか」
「では、その時を心待ちにしておきましょう。ですから、今は」
「ええ、そうですね」
そして、王妃が示した文字をオユキの前から消す。合わせて王太子妃との間で何やら遊んでいたらしき文字も消せば、オユキもどうにか落ち着き始める。やけに周囲が遠いと感じていたのが、今となっては平素と変わらず。しかしながら、先ほどまでと比べれば僅かに体調も回復しているように感じられる。僅かな時間である事には違いなく、その程度でここまで劇的に変わるのかと。これまでであれば、僅かな回復ですら感じられるまでに相応の時間が必要であったと言うのに。
「オユキさん、少し、良くなりましたね」
「はい。確かに、以前から考えれば数日分は」
「この短い時間で、そこまでですか」
トモエが気が付き、オユキの話にただ驚く。
「ただ、どう言えばいいのでしょうか」
「ああ、先ほどの」
最早副作用と呼んでも良いものが、確かにある行為にオユキとしてはやはり少しどころでは無い不満がある。文字を、誰かが周囲ではっきりと浮かべる度にオユキがこのような状態になるのであれば、それは隣国で暮らすのが途端に難しくなる。陸でも無い事を考えるものたちとて、いくらでも出てくるだろう。前回の滞在で、そうした機会が無かった事はまさに幸運ではあるのだが予想が立った以上は対策を考えなければいけない類の問題でもある。
「確かに、今のその様子では暫くは意識を取られるでしょうね」
「暫くは、ですか」
そして、オユキが懸念を示していれば、それに気が付いた魔国の王妃が腕に抱いていた孫を王太子妃に渡して、ゆったりと改めてトモエとオユキの側に。
「ええ、慣れが必要と言うのは事実。そして、馴染ませていけば、己の物になるのも事実」
曰く、魔術の習得とは、可能になった物が見せる兆候というのが、今まさにオユキの感じる物であるらしい。オユキとしては、マナの感知もままならぬ中、確かにそれらしいものを扱っている自覚はあるのだが。
「確か、自覚なく使っているのでしたか」
「はい。正直、己の内にある物に、こう、マナらしきものを流してと」
「その辺りは、我が国に来た折にでも、興味が、時間があるようなら改めて説明しましょう」
そして、改めてオユキの顔を覗き込み、軽く手首を取って以前と同じように調べた後に、一度頷いて。
「私に、何か話があるとそう聞いていますが」
「話せば長くはなるのですが、先に結論だけを」
冬と眠り、雷と輝き、その神に関して。逸話があれば、欲を言えば好む何かがあるのなら。それを是非とも聞きたいのだと。それが叶えば、月と安息の神殿に納める事が出来れば、オユキの快復に役立つ道具が授けられるのだと。
そして、此処が公の場では無いと、それを示す為の行為としても都合がいいというのは分かるのだが。
「微笑ましい、ともまた違いますか」
「さて、私としても人の親、ああした心持は理解が出来るものです」
トモエから奪ったという訳では無く、部屋に入ってすぐに次なる話題に移るのかと思えばのらりくらりと。何を要求しているのか、直ぐに気が付いたトモエが王太子妃に軽く目線で問えば、直ぐに頷きが返ってきたため赤子を隣国の王妃に渡して。そうしてみれば、いよいよもって話が進む事は無く、暫く時が流れて今となる。
「お母さま」
「やはり、少し薄いようですが。それでも、こうして神々の恩寵も多く得て」
「お母さま」
王太子妃としては、どうにも子供扱いをされる気恥ずかしさとでも言えばいいのだろうか。客人を前に、トモエとオユキ、高々一子爵家を相手にそうして扱われることに不満を覚え、更にはオユキからトモエへと渡り、更に何某かを得た己の子供を返せと目が口ほどに物を言っているのだが。
「それにしても、こうしてみる事が出来るものなのですね」
「生憎と、此処まで行使が出来るのは極一部です。いえ、翼人種であったり、そうした相手であれば分かりませんが」
そして、孫を抱える隣国の王妃と、今となっては神国の王太子妃の間で奇妙な現象が起きている。魔術文字と、そう傍から見ても分かりはするのだ。それが、両者の中間では無く、王太子妃の方により近い位置で。それに対して、何やら歯噛みするような様子を王太子妃が見せているあたり能力の差を示す物なのだと理解は及ぶ。
「国が違えば、親子のじゃれ合いの形も変わるものです」
「さて、国を超えたその子供は、今後どうなるのか」
「ええ、かじ取りは変わらず難しく、多くの者達が多くの事をあの子に望むのでしょう」
それは、本人が選んだものでは無く。
ただ、そのように生まれたからと、容赦なく。
生まればかりは、やはりどうにもならぬ。そのように生まれたのだから、そのようにあれと。ただ、一切の容赦なく周囲の者達からの期待が寄せられる事だろう。応えられなければまた理不尽な感情が向けられる事だろう。神々が咎める事も出来ぬ、ただ一つの結果として。
「一助と、そうできる範囲で惜しむつもりはありませんが」
「ええ、それを為す為にもと、そう言う事なのでしょう」
トモエの負担は少なく見えるのだが、ではオユキでは無くトモエに頼むのかと言えばそれもまた違う。王太子妃から、では無く、王太子今年が終わるころには新たな王となる人物から頼まれてであれば良いのだが。
「王太子様からという訳には」
「生憎と、子に関わる時間と言うのは」
「それはそれで、随分と寂しく思うのですが」
トモエからしてみれば、確かにそのような物ではあるのだろう。だが、実態を知る者達からしてみれば、今後、と言うか今も王太子にかかる仕事と言うのは随分と冗談じみた量になっているというのは理解が出来ている。かつて、国王ですら顔を見るのに執務室の机、そこに置かれた書類の山をかなりどかさねばとそのような話を聞いたものだ。そして、そこから次に仕事を引き継ぐものがどれだけの量の職務を熟さねばならないのか。それは、オユキにとっては非常に想像に容易い。かつての世界でも、それはそれは時間を取られたものだ。
「あの子には、為すべき琴がありますから。勿論、それらを終えて己のこの元に、こうして隣国から迎えた己の伴侶の下に、それすらも」
「ああ。そうした扱いになりますか」
「私たちの婚姻など、そのような物です。勿論、そこから積み上げたものは誰にも負けぬと、間違いなく誇れるものだとそう言いますが」
派手に惚気る物だと、そんな事を少し意外な心持でオユキはぼんやりと聞く。どうにも、先ほどから少し己の感覚が遠い。シェリアが、ナザレアが、何かを見過ごす事は無いだろう。この場にいる者達が、オユキを相手に何かをするとも今更思えない。であれば、やはり他かとも思うのだがそうであるならば、どうにもこうした遠さを感じさせる相手と言うのに、やはりなかなか心当たりも無い。
中空に浮かぶ魔術文字、恐らくは手習いとして行うせめぎ合い。そこで明らかに年長者として己の子供をあしらう隣国の王妃。今も腕の中でそうして浮かぶ魔術文字を随分と熱心に見る赤子。実にもの言いたげにしながらも、表面上はどうにか抑えながらも主導権を奪い返そうとばかりに肩に力を入れている王太子妃。そして、そんな様子を平和な事だとばかりに眺めるこの国の王妃。
「オユキさん」
「いえ、どうにも、先ほどから」
そして、違和感を感じるオユキに気が付いたのだろう。トモエから声がかかるのだが、どうにもそれに対しても直ぐに応える事が出来ない程度には、やはり違和感がある。
「遠い、そう感じるのです」
「よもや」
「いえ、そうした症状という訳では無いと思うのですが」
昨夜話した事、それが顕在化すればまさにそのようになるのだろうと、トモエが懸念を表に出す。だが、オユキとしてはやはり違うと言い切れるようなものだ。
「どう、言えばいいのでしょう。いつぞやに、こうした感覚を得た様な」
そう、それもこちらに来てから。どの程度の時期であったかは定かでは無く、それともまたわずかに違うと感じる物ではあるのだが。
「遠くから呼ばれて、そちらに近づいていくような」
根源などと言う話を聞いたからだろうか。じゃれ合いの中に浮かぶ魔術文字、その中のいくつかにオユキ自身が見覚えがあるからだろうか。
「ああ、成程」
しかして、そのオユキの反応に対しては、直ぐに隣国の王妃が心当たりがあるのだと。
「初めて見る物、と言う事ですか」
「初めて、ですか」
そして、王太子妃に向けた物とは別に、そこからいくつか浮かんでいるものと同じ文字を改めてオユキの方に。
浮かぶ文字が、どうにもオユキの意識を変わらず遠くに運ぼうと、そう働く。根源と、そうした話を聞いたからだろうか。複雑怪奇な、文字と呼ばれてはいるのだがあまりにも画数が、複雑なそれをもはやオユキにとっては文字では無く図案と呼ぶにふさわしいもの。それこそ、かつての世界では大陸の方でたびたび見られた絨毯の淵、衣服の裾などに連綿と、古くから家に伝わるものとして伝えられた図案とそれにしか見えない。
だが、どうだろうか。今こうして隣国の王妃が使っているものにしても、己の脳裏に浮かぶものとはどこか違う。比べてしまえば、やはりオユキの物よりも、こちらの方が遥かに複雑。
「特に親和性が高いものと言えばいいのでしょうか、扱えるようになる、己の知る物と近しい文字であれば、やはり惹かれるものですから」
オユキの属性を、以前触った時に感じた範囲の物であれば、要はこれらに心惹かれるのだろうと。
「直に得られるでしょうが、先に約束したこともあります。私が、これらの文字を魔石に込めておきましょう」
「魔石に、文字を込めるですか」
それは、短杖に行う物とはどの様に違うのだろうか。如何にも気軽に語られる物ではあるのだが、全く想像がつかぬとトモエとオユキが揃って首をかしげる。
「魔術師に課される物は、それこそ色々ですから」
「説明を望むのであれば、そうですね、こちらではなくまた私たちの国へ来た時にでも招いてとしましょうか」
「では、その時を心待ちにしておきましょう。ですから、今は」
「ええ、そうですね」
そして、王妃が示した文字をオユキの前から消す。合わせて王太子妃との間で何やら遊んでいたらしき文字も消せば、オユキもどうにか落ち着き始める。やけに周囲が遠いと感じていたのが、今となっては平素と変わらず。しかしながら、先ほどまでと比べれば僅かに体調も回復しているように感じられる。僅かな時間である事には違いなく、その程度でここまで劇的に変わるのかと。これまでであれば、僅かな回復ですら感じられるまでに相応の時間が必要であったと言うのに。
「オユキさん、少し、良くなりましたね」
「はい。確かに、以前から考えれば数日分は」
「この短い時間で、そこまでですか」
トモエが気が付き、オユキの話にただ驚く。
「ただ、どう言えばいいのでしょうか」
「ああ、先ほどの」
最早副作用と呼んでも良いものが、確かにある行為にオユキとしてはやはり少しどころでは無い不満がある。文字を、誰かが周囲ではっきりと浮かべる度にオユキがこのような状態になるのであれば、それは隣国で暮らすのが途端に難しくなる。陸でも無い事を考えるものたちとて、いくらでも出てくるだろう。前回の滞在で、そうした機会が無かった事はまさに幸運ではあるのだが予想が立った以上は対策を考えなければいけない類の問題でもある。
「確かに、今のその様子では暫くは意識を取られるでしょうね」
「暫くは、ですか」
そして、オユキが懸念を示していれば、それに気が付いた魔国の王妃が腕に抱いていた孫を王太子妃に渡して、ゆったりと改めてトモエとオユキの側に。
「ええ、慣れが必要と言うのは事実。そして、馴染ませていけば、己の物になるのも事実」
曰く、魔術の習得とは、可能になった物が見せる兆候というのが、今まさにオユキの感じる物であるらしい。オユキとしては、マナの感知もままならぬ中、確かにそれらしいものを扱っている自覚はあるのだが。
「確か、自覚なく使っているのでしたか」
「はい。正直、己の内にある物に、こう、マナらしきものを流してと」
「その辺りは、我が国に来た折にでも、興味が、時間があるようなら改めて説明しましょう」
そして、改めてオユキの顔を覗き込み、軽く手首を取って以前と同じように調べた後に、一度頷いて。
「私に、何か話があるとそう聞いていますが」
「話せば長くはなるのですが、先に結論だけを」
冬と眠り、雷と輝き、その神に関して。逸話があれば、欲を言えば好む何かがあるのなら。それを是非とも聞きたいのだと。それが叶えば、月と安息の神殿に納める事が出来れば、オユキの快復に役立つ道具が授けられるのだと。
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