憧れの世界でもう一度

五味

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25章 次に備えて

カナリア先生の講義

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「如何ともしがたい、正しくその言葉を思うものです」

オユキの体調は、やはり悪いまま。
既に二日は経ったというのに、未だに一人で立ち上がることも困難。何をするにしても、トモエかナザレアの介添えが必要な有様。それこそ、己が生を全うする間際でもここまででは無かったと忸怩たる思いを抱えて。

「ですが、今日はきちんと起きていますから」
「ええ。ここ数日は正直意識もどこか茫洋としていましたが」
「ならば、もう少しでしょうとも」

鬱屈とした思いを抱えるオユキが、トモエに対して甘えるように呟けば直ぐに応えが返ってくる。しかし、トモエの楽観的な言葉に対して、今日もオユキの側でトモエと並んで座って何やら書き物をしていたカナリアが疑問を呈する。

「どうでしょうか」

その言葉に、部屋の中にいる侍女二人からも剣呑な視線がカナリアに向かったからだろう。慌てながらも、一度筆を置いたうえで。

「あの、繰り返しますがオユキさんは今回器の損傷だけでは無く、根源から力を使ったので」
「根源、ですか」

アイリスの言葉に、オユキは思わず首をひねる。オユキが繰り返した言葉に、トモエの方で何か思い当たることがあると、そうした素振りがあるためオユキが首を巡らせば。

「オユキさんは、根源と聞こえたのですか」
「ああ、そうした話ですか。となると、また少し解釈が必要な話になりそうですね」
「あの、根源と聞こえているようですが、言うならば器に満たされているモノ、私達の魂と言うのはより上位の所に繋がっているわけです」

その言葉に、オユキはシェリアとナザレアはこの話を知っているのかと、そちらの様子を動かすのだがナザレアの方は特に興味がなさそうな振る舞い、しかしシェリアの方は数度目を瞬いて。

「例えば、私達翼人種であれば、かつての世界の創造神様ですね」

そして、そんなオユキ達の様子に気が付かず、カナリアが話しを続ける。

「こちらの人の多くは、やはり己の連なる神と言うのがそれぞれにいるんですよね。それが得意な属性として出てくるのですけれど、それ以外にも混ざっている要素と言うのが相応にありますから」

一応、以前にも説明をしたのですが、そう前置きをした上で。

「例えば、オユキさんは冬と眠りに連なる形なんですけど、そこに少し他の要素もやはり入ってきます。私も、流石に出会った事のない種族に関しては分からないのですが、氷精に近い気配も感じますし」

オユキの連なるものについて、カナリアははっきりと分からないとそう言うのだが。

「その、オユキさんにそうした気配があるというのであれば、以前マナの枯渇となったオユキさんの治療の時に」
「いえ、本来の氷精であれば自分で用意も出来ますし、不調の要因の解消には正直不足なんですよね」

曰く、高々この程度の氷柱如きでは、とてもではないが不足があるのだと。氷精の回復を望むのなら、さらに低い温度の氷で存在そのものを閉ざしてしまわない事には、足りないのだと。要は、カナリアがあったことのない種族は分からないとそう言っていた事と併せて考えれば、何処かで出会った事があるのだろう。

「話は戻しますけど、近い気配はあるので、少しは混じっているかとも思うのですが、他で言えばシェリアさんは華と恋の神ですし、少し花精と森猫の気配が混じっていますよ」

言われたシェリアにしても、実に意外だとばかりに。

「後は、トモエさんはいよいよよくわからないんですよね。以前調べた時には、確かに雷と輝きの神だったはずなのですが、どうにもそちらの気配が無いと言えばいいのか」
「気配が無い、ですか」
「他の神々ともやはり少し気配が違う、そう見えるんですよね」

カナリアが、その辺りはよくわからない、見覚えが無いとしてそこで改めて周囲を、このへにいる者達を見回して。マナの流れを見る事が叶うというカナリアたち翼人が持つ瞳。それには一体この世界がどのように映っているのか。根源と言う存在を、器の中にある物が確かに根源に繋がっているのだと。今の言葉を聞く限り、その後の様子を見る限り、間違いなくナザレアにも言及したはずだというのにそちらに関しては特に何かを言ったと聞こえもしない。

「ええと、そうそう根源の話ですね。マナもそうなのですが、色々とつながっているのですよね」

そこからしばらくの話は、カナリアが随分と長広舌を振るってくれたというのはその様子から分かる物ではあったのだが、オユキの聞き取れた範囲と言うのはあまりにも少ない。先ほどまでの話を総括する形で、器と根源というものがこの世界にはあるのだと。そして、器としての肉体は本当に見た目通りの物であり、器に満たされている魂が一体何処に連なっているのかが問題になってくるという事であるらしい。加えて、カナリアの瞳と言うのはその辺りまで見抜けるものであるらしく、実に便利な存在だとそれが改めて分かるばかり。
曰く、カナリアよりも遥かにかつての創造神に近いフスカはより色々と見えているとの事ではあるのだが。

「その、色々とお話をお伺いして少し疑問なのですが」

オユキがカナリアの言葉を、色々と考えている所にトモエから。シェリアにしても、色々と聞きたいことがあるとそうした様子を隠しもしないのだが、今はあくまで侍女としての振る舞いを。

「どうにも、こう、私の感覚では圧と言えば良いのでしょうか。近頃、魔物ばかりでは無くある程度の範囲であれば人からも感じる様に」
「圧、ですか」
「マナとは、また違うのではないかと。カナリアさんの以前の説明であれば、私達よりも遥かに多いと、そうした話でしたが」

トモエの疑問に、カナリアが一つ頷いて。

「ええと、これで」

そして、カナリアが一度翼を広げる。
オユキからしてみれば、以前に、それこそ河沿いの町に向かうときに初めてカナリアからマナの講義を受けている時に感じた様な感覚が。しかし、トモエの方は実に激しい反応を。椅子をけって立ち上がり、オユキとカナリアの間にすぐさまトモエが体を入れる。ここでカナリアに対して、武装はしてないとはいえ徒手の心得はある以上仕留めることは出来るだろうにそれをしないのは、辛うじて残っている理性か。

「あ、あの」
「いえ、申し訳ありません」

オユキを完全に背後に隠して、シェリアの方では何があったのか分からないとそういった様子。だが、それでもトモエがただ事ではないからとカナリアの背後に立って首元には短刀を添えている。そして、ナザレアはそれが当然とばかりに扉の前に。

「トモエ様」
「敵意が無い事は、分かっていますから。ただ、あまりにも急だったので」
「その、これでもまだ抑えてはいるんですけど、マナと言うよりも普段は閉じている物を開いたので」
「ええと、閉じているですか」

今の話の流れであれば、マナの保有量とは全く関係の無い物をトモエは圧と感じているらしい。

「根源との繋がり、ですね」

色々と、そう、色々とカナリアは言葉を尽くしてくれたには違いない。ただ、聞こえたのは、トモエとオユキの耳に届く言葉はそれだけ。トモエとしては、己が実際に感じている物である以上、もう少し何か情報が得られても良いのではないかと。それこそ、トモエが得た情報と言うのは、簡単にオユキと共有ができる。言語の壁も無ければ、互いに共有する、その一点に置いて確かに創造神から許されている功績が存在している。オユキとしては、気軽に行う、行われるのだと憤りも抱えてはいるのだろう。だが、トモエに言わせればこのような功績を与えられ、それぞれが互いに異なる分野で知識を得る事が出来る。共有できてしまう。恐らく、それでおこるだろう不都合が行き過ぎている時に、見過ごせないと判断された時にそれが起こる。

「その、お話しいただいて申し訳ないのですが」
「ええと、その、やはり」
「はい」

今聞こえた部分、聞こえたと認識している部分をそのまま伝えれば、カナリアには彼女が語っただろう言葉がそのまま聞こえると、そうした仕組みがあるらしいとオユキが考えて、ただそう返す。だが、トモエはそうでは無い。

「根源との繋がり、そこだけは理解が出来ました」
「そこだけですか、となると、他にもお話ししなければならない事が多そうですね」

そして、今度はオユキが驚く番だ。

「あの、トモエさん」
「ここ暫くの事ですね、制限が緩くなったのだと、そうした話があったかと」

そう。トモエは覚えている。幾度か、はっきりと神々は口にしたはずだ。これまでにあった制限、それが今は無くなってきているのだと。それが完全に解消されてしまえば、また言語の問題が生まれるのかもしれない。若しくはここまでの経験の中で、交流を持った種族、相手が使う言語に関してはそのまま知識として残るのかもしれない。言語の習得に関しては、正直な所身近にサキというあの憐れな少女が来てくれたことが大いに助けになった。おかげで、トモエの方でも色々と考えが、思考が進んだものだ。

「そう、ですが」
「直近では、魔国の王妃様ですね」

恐らく、何某かの奇跡を使ったのだと分かる。

「奇跡というのは、一過性の物なのか、そうでは無いのか」
「ああ、確かに。ですが、そうなると」
「魔国の王妃様が、奇跡を、ですか。だとすれば知識と魔に関わる教示の奇跡でしょうか」

カナリアの方では、何やら思い当たるところがあるのだとしたり顔で頷いたりしている。

「教示の奇跡、ですか。それは、またなんともらしいと言いますか」
「そうですね。必要な事を、その前段階を理解していなければ伝わらない、だとすれば学習と言うのはあまりに迂遠なものになりますし」
「いえ、基礎を疎かにして応用というのも色々と問題があるのですが」

まぁ、その辺りは互いの理解手順の違いとしか言えない物だ。トモエに至っては完全に見て覚えろと、幼少の頃より学ぶ方法はそれに偏っていた。オユキの方は両親の教えと言うのが基本的には基礎から積み上げていくものであったこともあり、事こうした部分に関してはいよいよと真逆。

「いえ、基礎と言うのはそれこそ応用と言いますか、完成系を先に用意して」
「確かに体を動かす、その一点を考えれば」

言い合いと言う程では無い、単に互いにじゃれているだけ。位置関係としては、変わらずトモエがオユキをカナリアから隠すようにしているために、さて、カナリアからはこうして話している姿がどう映る物か。
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