憧れの世界でもう一度

五味

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24章 王都はいつも

懸念を話し

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隣国の王妃が来るならば、釣り合いの為にも誰かがいるのではないか。そんな事をついついオユキは考え、カレンを頼んで公爵邸に向かって貰ったのが、少し前。そして、神国の王妃と公爵夫人までもがファンタズマ子爵邸に足を運んで総出でオユキの手入を行ったのがつい先ほど。

「やむを得ないとはいえ、大仰な事になりましたね。」
「ええ、本当に。」

二人の王妃を乗せた馬車のすぐ後ろ、そこでオユキは今公爵夫人と並んで敷物、中身は分からぬがかなり柔らかさのあるクッションに埋もれる様にして座っている。そして、周囲には当然と言わんばかりにシェリアとナザレアが侍り、二人がついでとばかりに確保してきたカナリアが医師として同行している。勿論公爵夫人の連れている侍女もいるには居るが、そちらが一人だけだという事を考えればオユキが実に過剰とそう感じるのも理解は出来るだろう。そして、覆われたいつもの馬車ではなく今回に関しては開かれた馬車に乗り、周囲を実に絢爛な装備に身を包んだ騎士達が囲んでいる事もあり、すわ何事かと住民たちの好奇の視線も当然寄せられている。

「本当なら、もう少し時間を使ってと考えていたのですか。」
「仕方がありません。明日に移してはと、そう言ったのを断ったのは。」
「ええ、私ですから。」

そこまで大々的に行動をするとなれば、流石に時間が足りないという話も出たのだが、オユキからは徒に時間をかければ要らぬ不安と疑念を煽ることになるからと、ただそう答えた。二台の馬車の後ろには、元より参加予定の武国の公爵にテトラポダからの使者もついて来ている。そちらに対して、不安をあおるような事をしても良いのかと、そうした脅迫じみた事をオユキが言えばこそ今こうなっているのだから。

「それにしても、また、ですか。」
「アベルさんの求めに応えるためにと、ええ、少々。」
「して、結果は。」
「必要な物は、既に。」

思えば報告をした記憶が無かったなと。朝起きて、そこから少しもしない間に実に速やかに此処まで事が進んだのだ。前日に至っては、事が終わってしまえばオユキは速やかに意識を失っていたこともある。カナリアの処置が無ければ、今日にしても目を覚ましたのか怪しいものだ。それこそ、マルコが戻っていなければもう少し他にもあったであろうし、呼び戻そうという話も出たりはしたのだが流石にそこまでする事は無いとオユキから言い切って。
マルコが戻るにあたって、始まりの町で色々とやらねばならぬ事があるからとそう本人が言い置いていたのだとそうしたことを聞いている以上は、やはり無理強いするような物でもない。

「ならば、良しとしましょうか。」
「ええ。私が確かな成果を得る事が出来た、そして、今ここにいる者達が本当に預けるに足るのか。」
「見極めは、貴方かしら。」
「いいえ。トモエが行う事でしょう。」

オユキが見極めをするのは、流石に色々と難しい。武力と言えばいいのか、今回の事で見える物はあるだろう。だが、そこにある研鑽と言うのは流石にトモエ程に一瞥して見て取れるようなものではない。だからこそ、出がけにセンヨウに跨るトモエに見極めを頼んだのだ。オユキの乗馬でもあるカミトキは他の馬と見事に轡を並べて今は実に優雅に並足で石畳の上を進んでいる。一応オユキの方でもトモエが用意した武器くらいはシェリアに預けてあるのだが、それを使う機会が来るかはいよいよ怪しいものだ。
そして、家宰として正式にファンタズマ子爵家を取り仕切るカレンに関しては、アベルの願いを受けて得た風翼の門をどう扱うのかそうした報告もしなければならないからと公爵家から戻ってくる事は無かった。恐らく、今頃は家宰としての心得も含めてしっかりと公爵家のまさに歴戦の者達にもまれている事だろう。

「それにしても、現状の評価くらいは聞きたいものですが。」
「神国から、今こうして私達を守ってくださる方がついてくれるのであれば、已む無くと。」
「オユキは、随分と騎士に信を置いているのですね。」
「これまで見てきた方々がいればこそ、です。」

再三繰り返しになるが、オユキからはやはりそう応えるしかない。確かに、あまりにも明確に差を作ってはいるのだがそればかりはオユキの性分とでも言えばいいのか。

「御眼鏡にかなう騎士がいたのだと、それをまずは喜びましょう。」
「近衛のシェリアにタルヤの振る舞いを見てきたことも大きいのです。」
「己のそばに置く者達がそうして信の置ける者達であるというのならば、ええ、私としても頼んだ甲斐があったというものです。」

てっきり、この二人に関しては元が別の流れでつけられた者達だ。そこに公爵夫人が更に何か、要は河沿いの町に配置換えを望むシェリアと何やら話をしたのは公爵夫人であるらしい。ならば、そこに確かに恩義はある。

「アベルさんから、魔国に向かうようにと王太子様からの書簡を受け取りました。」
「分かりました。確かに、其の方が色々と都合が良いのも事実。」
「となると、やはり。」
「ええ。貴方が良しとしたこともあり、政治色の強いものとなります。そして、当然参加を求められる者も。」
「王太子様のご子息ですか。一応は、譲位の前になるかと考えていたのですが。」

オユキの考えとしては、譲位に合わせて若しくはその前にとするものだとばかり考えていた。

「確かに、私達もそう考えて動いてはいたのですが、どうにも。」
「王太子様の方でも、引継ぎに向けて色々と立て込んでいますか。」
「と、言うよりもこの時期に他からの横やりがあまりにも多い事を懸念して、ですね。」
「つまりは、魔国側からもある程度の方を招きたいという事ですか。そうなると。」

流石に、長くいるにしても一年ほど、それくらいだとオユキは考えている。早ければ半年程度であろうとも。

「ええ。先代アルゼオ公も頼むことになるでしょう。」

となると、魔国での生活と言うのは基本的にあの好々爺然としながらも、侮れない相手と共にすることになるらしい。オユキとしても、軽く辟易とするような、そうした話ではあるのだが現在の魔国の内情を考えれば仕方が無い。結局ファルコに任せられていたことも陸に叶える事が出来なかったのだ。ならば、再度という話が出てきたとしてもそれを受け入れるしか無い物ではある。要は、暗に他にも同行者を付けるのだからと、そうした話だ。

「では、出立の日取りは。」
「こちらで取り計らいましょう。」
「よろしくお願いいたします。」

こうして実にのんびりと話が出来ているのは、すっかりと見覚えのある魔道具に加えてカナリアに頼んで簡単な魔術を行使してもらっているから。それこそ、公衆の面前である以上、オユキは難しいとしても公爵夫人はここまで崩すことも無い。それに、先々の予定などこのような場で話すような物でも無いのだ。周囲の騎士達にも聞こえてしまえばまずい話であるには違いない。それこそ、褒めそやす内容だけであればまだしも、公爵家と子爵家が共謀して彼らの仕える王家が下す命に対してあれこれと都合を捩じ込もうとそうした話をしているのだから。

「それにしても、マリーア公の分野ばかりと考えていましたが。」
「夫が忙しくしている時には、私が差配する必要のある事柄です。」
「そういうものですか。」

てっきりこうした話は、マリーア公爵が決める物とばかり考えていたのだが、公爵夫人は今その判断を待たずに彼女の判断としてオユキとこうして話をしている。ただ、それをしたときにオユキから見れば主家の人間が決めたのだと、決定として話した幾つかについては後から言われた時にマリーア公爵と夫人、その間での話し合いを求める事も出来る。若しくは、初めからそれが決まったこととして動いていたのだからと言い切ってしまっても良いだけの事ではある。

「ええ、そういうものです。何分、決めねばならぬ事も多く、かじ取りと言うのは本当に難しい。主人との間では、本当に頻繁に話し合いを持つものです。」
「それは、良い事ですね。」
「全く、貴方にしてもトモエにしても。良く時間を共にして、話し合いを重ねているのはお互い様でしょう。」
「私たちの場合は、ええ、どちらかと言えばいよいよ夫婦としての時間ですが。」

ただ、それにしても最近はすっかりと回数が減ってしまった。
こうして、公爵夫人に話しかけられ応える時に少し前に気にしたことがまた脳裏をよぎって、気分が沈んでくる。ただでさえ、慣れない事をしておりこうして話しながらも集まってくる民衆、群衆に向けて軽く愛想を振りまきながらの歩みなのだ。

「神国では難しい事も、魔国では叶えられるでしょう。」
「それは。」
「こちらでは、私達は五公、今となっては四公ですがその中の一つにすぎません。王家との約定も確かにあり、色々と調整を行わなければならない事も多いのです。」
「そこは、はい。勿論私も理解していますし、難しい中で色々と配慮を頂いていますので。」

そう、これまでの事は間違いなく多くの配慮を貰ったのだとオユキは理解しているし、感謝も当然している。だからこそ、今もこうしてマリーア公爵家を立てている。隣国の王妃と、この国の王妃が揃って狩猟を見るのだという場に他の貴族たちが間に合わないこの場に確かにマリーア公爵家があるのだと広く民に知らしめることも出来ている。また、ファンタズマ子爵家としてもこうして事あるごとにお披露目じみた事をされる理由も一応は分かる。

「向こうでは、王家が確かに保証をするようこちらで話を付けましょう。貴方方を魔国にと言う以上は、向こうでも色々と頼まれることでしょうから。」
「一応、一度足を運んで色々と見て回り思い当たる所と言うのはあります。」
「狩猟者たちの統率をと、その辺りでしょう。」

魔国がオユキに求めたいものがあるとなれば、実にわかりやすいものが一つ。そして、王太子が良しとする理由としても、まずはそれが。アイリスの与えた豊饒の加護を食いつぶす前に、あちらにも改めてマナを使い、淀みを生むばかりではない仕組みをとそう言う話なのだろう。

「分かっているのなら、良いのです。ルイス、でしたか。アベルの後任を務めているものがいましたね。」
「あの、それはあまりに酷では。」
「ええ。ですから、貴方からアベルに伝えておくように。」

アベルも間違いなく魔国に向かう。そして、ルイスというアベルの後任迄を傭兵ギルドから連れ出して狩猟者たちの統率であったり訓練であったりを行えと話せば、それはそれは実に荒れそうなものだ。
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