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24章 王都はいつも
目が覚めれば
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翌朝、トモエが目を覚まして暫く。漸くオユキは目を覚ます。鈍い頭痛が残り、体も随分と覚えのある怠さ。マナの枯渇だと分かりたくも無いというのに、これまでの経験から分かってしまうあたりに、オユキは自嘲をしながらもどうにか体を起こす。
「おはようございます。」
「はい、おはようございます。」
寝台の横で、体を伸ばしていたトモエに声を掛ければ、動作を止めることなく声が返ってくる。
「いつもよりも、早いですね。」
「いつもとならないよう、そう考えてはいるのですが。」
「考えるだけでは、やはり足りませんよ。」
柔軟も終わり、それだけいつもよりオユキが目を覚ますのが遅かったのだろう、トモエはやんわりと窘めながらも眼に力が籠っているあたり、オユキに対してはっきりと悪癖だとそう考えているのだと分かる。
「オユキさん、体は動かせそうですか。」
「戦闘は無理そうです。」
「そうですか。残念、ですね。」
「はい。」
かけられる声に、今日はせっかくの機会であったのだと、昨日にしてもせっかくトモエがオユキの為にと拵えてくれた武器があり、その習熟の為の時間をアベルに奪われ。挙句、今日の本番にしても不参加が決まってしまったのだ。無念を、忸怩たる物が胸中に降り積もるのをやはり感じる。どうしても、トモエばかりに任せてしまう。こちらに来て、なるべくトモエの前に立とうと考えているというのにそれが叶う事が無い。かつて持っていた矜持、亡き義父との約束、大切にしたいというそういった想い。
「オユキさんは、変わらず気にしてくださるのですね。」
オユキの眼から零れる物を、トモエが布地で拭いながら。先ほどまでの柔軟は終わり、少し汗ばんだトモエがオユキの隣に腰かける。生前との頭の位置、それをどうしても記憶の中で互いに思い出してしまう為違和感ばかりが募る。ただ、それにしてもそろそろ慣れを覚え始めて。
「はい。勿論です。」
「嬉しくはあります。ですが、やはり少しは自分をと。」
「分かってはいるのですが。」
どうしても、難しいとオユキは訴えてみる。前とは逆というよりもさらに少し離れた位置関係。かつては己の肩より少し下にあったはずの伴侶の顔を、今は胸のあたりから見上げて。
「そうなのでしょうね。オユキさんは、私を大事にしてくださっているとよくわかりますから。」
「ええ。生前と変わらず。」
「ですが、どうでしょうか。やはり、まだ私の武に信は置いては下さいませんか。」
「信じています。加護なき場であれば、この世界の誰よりもと。あの、戦と武技にさえ間違いなく届くだけの刃をお持ちだと。」
オユキは、トモエという存在を信仰しているようなものだ。かつて見た武の冴えを、初めて目にしたときに感じた物を、今もただ己の大事として抱えている。そんなオユキの期待に応えようとかつてのトモエは応えてくれた、オユキはそのように感じているし、かつて晩年に語らったときにトモエにしても思い返してみれば、そのような所が己にあったかもしれないと、少し恥ずかしそうに笑っていた物だ。
「彼の神は、流石に少し手に余りそうなものですが。」
「トモエさん。」
「いえ、技だけであれば、間違いなく土俵には、勝負にはなるのですが。」
「ああ。」
あの神性は、字面通り加護を与える側。望むと望まざると、加減が出来たところでその身に秘めた物が無くなるわけでは無い。切りつけたところで、今のトモエでは届きはしないと、効果が無いとそう判断しての事なのだろう。あの場で向き合う存在は、本体かどうかすら怪しいのだが、その力の片鱗、極一部でしかない三狐神が振るう戦と武技の与えただろう刃ですら僅かに欠させる程度。その程度ではと。
「まぁ、そちらは置いておきましょう。時間は十分とは言えませんが、少なくともアベルさん程度が為しえたようです。私も、どうにかして見せましょうとも。」
「ああ、そうですか。アベルさんはどうにか。」
「ええ。オユキさんも望んだのでしょう。風翼の門を作るための箱が、今は客間に二つしっかりと置かれていますよ。」
トモエが、だから安心をとそうして語り掛ければ不安があったのだろう、恐らく最後の方は意識も朦朧とした状態で、己の刃は届かぬ以上はとアベルに任せて無理をしたのだろう。漸く少しの笑顔が、無理な、作った物でなく。sの様子を見て、トモエは改めてオユキの腕を覆う裾を軽くめくる。これまでそこは覗く事も無かったのだが、昨夜の内に己の腕に合った違和感の原因を確かめるためにと見ていた場所でもある。
「やはり、まだ少し腫れていますね。」
そうしてトモエが持ち上げた腕は、皮膚が少し赤くなっている。目立つかどうかと言われれば、抜ける様な白さを持つ肌に差すその赤は本当に良く目立つ。
「この程度で済んだことを、良しとしましょうか。都合よくは仕えませんでしたが、視界を遮る程度は叶えてくれましたから。」
「ああ、そうした手段を選びましたか。」
「ええ。正直、急な事でしたし他の手段も余り思いつきませんでしたから。」
そして、オユキが誰かを探すように首を巡らせるのを見て。
「マルコさんは、昨日の内にフスカ様が。」
「手配が終わり、直ぐに戻るとしましたか。まぁ、それが良いでしょう。」
「こちらに残れば、マルコさんも面倒に巻き込んでしまうから、ですか。」
本当に、あれこれと気を回す事だとトモエが少し呆れたように。久しぶりにオユキの頬を、軽く指で突いて見せれば、オユキの緊張の糸も切れたのだろう。少し甘えるように、トモエに頭を預けて。
「巻き込むとはまた違いますが、王都でも始まりの町のように実に多くの方がマルコさんの薬を求めるでしょうから。」
「それは、また、ありそうな話ですね。」
「ええ。恐らく調合に必要な物などは引き渡しているのでしょうが、それにしてもこちらである程度の実証がなされてから広く渡されるでしょう。」
「始まりの町では疑われることなく。」
その辺りは、さてどういった理屈か分からない物だが、確かにトモエの言うようにあの町で暮らす者達は特に疑うことなくマルコから処方された物を飲んでいた。それよりも、彼の診断にしても疑う事が無かった。
「その辺りは、神に与えられたという眼に重きが置かれているのでしょうか。」
「いえ、私としても見て分かる物ではありませんが。」
「ですが、私達はカナリアさんに対して症状の説明は求めますが、マルコさんの診断に関しては疑う事がありませんでした。」
思い返してみれば、彼の言葉は自然と正しいものとそう扱われていた。
「言われてみれば、と言うところですか。」
「精神に作用する物か、眼を使った結果として神々からの何某かの後押しを得るのか。そうですね、また時間があれば、お伺いしましょう。」
「ええ。そうですね。後は、カナリアさんから魔国に一度と、そうした相談を。」
「でしたら、都合が良いものでしょう。私達も少しすれば、魔国で暫く生活をすることになりますから。」
トモエがカナリアから聞いたとそう話せば、オユキは特に何を言うでもなくアベルから頼まれたことをそのまま口にする。
「オユキさん。」
「相談もなく決めた事については、申し訳なく思いますが。」
「いえ、それが良いと、本当に考えての事であれば良いのです。ですが。」
無理に飲み込んだと、そう分かるだけの言葉はトモエにとって分かりやすい。本当にそれでいいのかと、それが良いのかと問いただすくらいは、やはりしたくなる物でもある。
「辛うじて、と言った所でしょうか。」
「苦渋の決断と、まさにその様子ですね。」
「はい。」
そして、トモエにやはりオユキは頭を預けたまま。
「これからしばらく、そうですね、私達の挙式を行うまでこの国はどうした所で少々荒れます。」
「それは、譲位があるからですね。」
「やはり、そうした節目には色々とある物ですから。王太子様からは、強いて言うならば温情として、どうしても側にいれば頼る気持ちが生まれるからとそうした部分もあっての事でしょう。」
「他にも、分かりやすい理屈は用意されている、そう言う事ですね。」
そちらは、アベルから説明された物を、ただオユキはそのままに並べ立てる。付け加える事、オユキの決断の最たるものとしてやはり王都と始まりの町、この二つが門で結ばれ、魔国にまでも。そして、王都ではダンジョンの運用も一応は考えているらしいのだが、得られた物を現状存在する物を加工するだけで手いっぱいとなっているこの王都の現状では、賄いきれぬからと。
トモエとオユキの為した事、マリーア公爵も乗って作り上げた一つの流れの結果として、王都では魔石の供給がかなり増えており、何となれば余剰も生まれ始めているという話だ。ここで魔石の価格が下がれば、また色々と面倒が生まれる。王都以外では、相も変わらず値段が下がらず、始まりの町では高騰の気配すらある。国の中で物価が違う、それに関しては生前からあったん序のには違いないが、冗談では済まない差が生まれ、それを防ぐためにはとそうした話に行きつくのだ。
「魔国では、オユキさんに楽しみはありますか。」
「どう、でしょうか。あちらには書籍も多く有るでしょうし、私の知らなかった魔道具と言うのもかなり研究がなされているようですから。」
「そうですか。なら、良いのです。」
「トモエさんは、そうですね、あちらにいるのは神国とはまたかなり趣の違う魔物ばかりですが。」
オユキの言うように、先の旅路の間で魔国にいる魔物と言うのは散々に見てきた。神国に多い、過去の世界の動物を大型化したような物だけではなく明らかに幻想的な生き物と言うしかない魔物がそれは実に多くいたものだ。ただ、それらの大部分は、物理的な物にめっぽう弱く、トモエとしては正直な所物足りないとそう感じる魔物であるには違いない。
「おや。」
「あら。」
そんな二人の時間を楽しんでいる所に、シェリアが部屋の戸を叩く音が響く。
これまでであれば、それこそ声を掛けるまでは外でただ静かに、気配だけはトモエとオユキに分かるようにとしながらもたたずんでいることが多いのだが。
「申し訳ございません。」
「いえ、構いません。なにか、ありましたか。」
部屋の外からは、謝罪の言葉が。しかし、それを遮ってオユキが尋ねれば。
「当家に、魔国の王妃様が足を運んでくださると先触れが。」
さて、本当につくづく色々とある物だと。
「おはようございます。」
「はい、おはようございます。」
寝台の横で、体を伸ばしていたトモエに声を掛ければ、動作を止めることなく声が返ってくる。
「いつもよりも、早いですね。」
「いつもとならないよう、そう考えてはいるのですが。」
「考えるだけでは、やはり足りませんよ。」
柔軟も終わり、それだけいつもよりオユキが目を覚ますのが遅かったのだろう、トモエはやんわりと窘めながらも眼に力が籠っているあたり、オユキに対してはっきりと悪癖だとそう考えているのだと分かる。
「オユキさん、体は動かせそうですか。」
「戦闘は無理そうです。」
「そうですか。残念、ですね。」
「はい。」
かけられる声に、今日はせっかくの機会であったのだと、昨日にしてもせっかくトモエがオユキの為にと拵えてくれた武器があり、その習熟の為の時間をアベルに奪われ。挙句、今日の本番にしても不参加が決まってしまったのだ。無念を、忸怩たる物が胸中に降り積もるのをやはり感じる。どうしても、トモエばかりに任せてしまう。こちらに来て、なるべくトモエの前に立とうと考えているというのにそれが叶う事が無い。かつて持っていた矜持、亡き義父との約束、大切にしたいというそういった想い。
「オユキさんは、変わらず気にしてくださるのですね。」
オユキの眼から零れる物を、トモエが布地で拭いながら。先ほどまでの柔軟は終わり、少し汗ばんだトモエがオユキの隣に腰かける。生前との頭の位置、それをどうしても記憶の中で互いに思い出してしまう為違和感ばかりが募る。ただ、それにしてもそろそろ慣れを覚え始めて。
「はい。勿論です。」
「嬉しくはあります。ですが、やはり少しは自分をと。」
「分かってはいるのですが。」
どうしても、難しいとオユキは訴えてみる。前とは逆というよりもさらに少し離れた位置関係。かつては己の肩より少し下にあったはずの伴侶の顔を、今は胸のあたりから見上げて。
「そうなのでしょうね。オユキさんは、私を大事にしてくださっているとよくわかりますから。」
「ええ。生前と変わらず。」
「ですが、どうでしょうか。やはり、まだ私の武に信は置いては下さいませんか。」
「信じています。加護なき場であれば、この世界の誰よりもと。あの、戦と武技にさえ間違いなく届くだけの刃をお持ちだと。」
オユキは、トモエという存在を信仰しているようなものだ。かつて見た武の冴えを、初めて目にしたときに感じた物を、今もただ己の大事として抱えている。そんなオユキの期待に応えようとかつてのトモエは応えてくれた、オユキはそのように感じているし、かつて晩年に語らったときにトモエにしても思い返してみれば、そのような所が己にあったかもしれないと、少し恥ずかしそうに笑っていた物だ。
「彼の神は、流石に少し手に余りそうなものですが。」
「トモエさん。」
「いえ、技だけであれば、間違いなく土俵には、勝負にはなるのですが。」
「ああ。」
あの神性は、字面通り加護を与える側。望むと望まざると、加減が出来たところでその身に秘めた物が無くなるわけでは無い。切りつけたところで、今のトモエでは届きはしないと、効果が無いとそう判断しての事なのだろう。あの場で向き合う存在は、本体かどうかすら怪しいのだが、その力の片鱗、極一部でしかない三狐神が振るう戦と武技の与えただろう刃ですら僅かに欠させる程度。その程度ではと。
「まぁ、そちらは置いておきましょう。時間は十分とは言えませんが、少なくともアベルさん程度が為しえたようです。私も、どうにかして見せましょうとも。」
「ああ、そうですか。アベルさんはどうにか。」
「ええ。オユキさんも望んだのでしょう。風翼の門を作るための箱が、今は客間に二つしっかりと置かれていますよ。」
トモエが、だから安心をとそうして語り掛ければ不安があったのだろう、恐らく最後の方は意識も朦朧とした状態で、己の刃は届かぬ以上はとアベルに任せて無理をしたのだろう。漸く少しの笑顔が、無理な、作った物でなく。sの様子を見て、トモエは改めてオユキの腕を覆う裾を軽くめくる。これまでそこは覗く事も無かったのだが、昨夜の内に己の腕に合った違和感の原因を確かめるためにと見ていた場所でもある。
「やはり、まだ少し腫れていますね。」
そうしてトモエが持ち上げた腕は、皮膚が少し赤くなっている。目立つかどうかと言われれば、抜ける様な白さを持つ肌に差すその赤は本当に良く目立つ。
「この程度で済んだことを、良しとしましょうか。都合よくは仕えませんでしたが、視界を遮る程度は叶えてくれましたから。」
「ああ、そうした手段を選びましたか。」
「ええ。正直、急な事でしたし他の手段も余り思いつきませんでしたから。」
そして、オユキが誰かを探すように首を巡らせるのを見て。
「マルコさんは、昨日の内にフスカ様が。」
「手配が終わり、直ぐに戻るとしましたか。まぁ、それが良いでしょう。」
「こちらに残れば、マルコさんも面倒に巻き込んでしまうから、ですか。」
本当に、あれこれと気を回す事だとトモエが少し呆れたように。久しぶりにオユキの頬を、軽く指で突いて見せれば、オユキの緊張の糸も切れたのだろう。少し甘えるように、トモエに頭を預けて。
「巻き込むとはまた違いますが、王都でも始まりの町のように実に多くの方がマルコさんの薬を求めるでしょうから。」
「それは、また、ありそうな話ですね。」
「ええ。恐らく調合に必要な物などは引き渡しているのでしょうが、それにしてもこちらである程度の実証がなされてから広く渡されるでしょう。」
「始まりの町では疑われることなく。」
その辺りは、さてどういった理屈か分からない物だが、確かにトモエの言うようにあの町で暮らす者達は特に疑うことなくマルコから処方された物を飲んでいた。それよりも、彼の診断にしても疑う事が無かった。
「その辺りは、神に与えられたという眼に重きが置かれているのでしょうか。」
「いえ、私としても見て分かる物ではありませんが。」
「ですが、私達はカナリアさんに対して症状の説明は求めますが、マルコさんの診断に関しては疑う事がありませんでした。」
思い返してみれば、彼の言葉は自然と正しいものとそう扱われていた。
「言われてみれば、と言うところですか。」
「精神に作用する物か、眼を使った結果として神々からの何某かの後押しを得るのか。そうですね、また時間があれば、お伺いしましょう。」
「ええ。そうですね。後は、カナリアさんから魔国に一度と、そうした相談を。」
「でしたら、都合が良いものでしょう。私達も少しすれば、魔国で暫く生活をすることになりますから。」
トモエがカナリアから聞いたとそう話せば、オユキは特に何を言うでもなくアベルから頼まれたことをそのまま口にする。
「オユキさん。」
「相談もなく決めた事については、申し訳なく思いますが。」
「いえ、それが良いと、本当に考えての事であれば良いのです。ですが。」
無理に飲み込んだと、そう分かるだけの言葉はトモエにとって分かりやすい。本当にそれでいいのかと、それが良いのかと問いただすくらいは、やはりしたくなる物でもある。
「辛うじて、と言った所でしょうか。」
「苦渋の決断と、まさにその様子ですね。」
「はい。」
そして、トモエにやはりオユキは頭を預けたまま。
「これからしばらく、そうですね、私達の挙式を行うまでこの国はどうした所で少々荒れます。」
「それは、譲位があるからですね。」
「やはり、そうした節目には色々とある物ですから。王太子様からは、強いて言うならば温情として、どうしても側にいれば頼る気持ちが生まれるからとそうした部分もあっての事でしょう。」
「他にも、分かりやすい理屈は用意されている、そう言う事ですね。」
そちらは、アベルから説明された物を、ただオユキはそのままに並べ立てる。付け加える事、オユキの決断の最たるものとしてやはり王都と始まりの町、この二つが門で結ばれ、魔国にまでも。そして、王都ではダンジョンの運用も一応は考えているらしいのだが、得られた物を現状存在する物を加工するだけで手いっぱいとなっているこの王都の現状では、賄いきれぬからと。
トモエとオユキの為した事、マリーア公爵も乗って作り上げた一つの流れの結果として、王都では魔石の供給がかなり増えており、何となれば余剰も生まれ始めているという話だ。ここで魔石の価格が下がれば、また色々と面倒が生まれる。王都以外では、相も変わらず値段が下がらず、始まりの町では高騰の気配すらある。国の中で物価が違う、それに関しては生前からあったん序のには違いないが、冗談では済まない差が生まれ、それを防ぐためにはとそうした話に行きつくのだ。
「魔国では、オユキさんに楽しみはありますか。」
「どう、でしょうか。あちらには書籍も多く有るでしょうし、私の知らなかった魔道具と言うのもかなり研究がなされているようですから。」
「そうですか。なら、良いのです。」
「トモエさんは、そうですね、あちらにいるのは神国とはまたかなり趣の違う魔物ばかりですが。」
オユキの言うように、先の旅路の間で魔国にいる魔物と言うのは散々に見てきた。神国に多い、過去の世界の動物を大型化したような物だけではなく明らかに幻想的な生き物と言うしかない魔物がそれは実に多くいたものだ。ただ、それらの大部分は、物理的な物にめっぽう弱く、トモエとしては正直な所物足りないとそう感じる魔物であるには違いない。
「おや。」
「あら。」
そんな二人の時間を楽しんでいる所に、シェリアが部屋の戸を叩く音が響く。
これまでであれば、それこそ声を掛けるまでは外でただ静かに、気配だけはトモエとオユキに分かるようにとしながらもたたずんでいることが多いのだが。
「申し訳ございません。」
「いえ、構いません。なにか、ありましたか。」
部屋の外からは、謝罪の言葉が。しかし、それを遮ってオユキが尋ねれば。
「当家に、魔国の王妃様が足を運んでくださると先触れが。」
さて、本当につくづく色々とある物だと。
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