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24章 王都はいつも
目標は、遠く
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とにかく時間が無い。その事実が、無意味に動きを雑な物にさせる。
オユキに至っては、確実に炎熱が身を焦がし、その痛みもあってはっきりと動きが鈍る。
つまりは、アベルの望みは、オユキが叶えて見せようと考えるものが、それほどの物であるとただその事実がのしかかる。アベルにしても、オユキにしても、結局は明日の結果をもって風翼の門を作るための種を得る心算などないのだ。そこで得てしまえば、あまりに多くの眼に触れる。政治的な判断を、参加者も多い以上はそこで生まれる意見というものをそれぞれに斟酌する必要とて出て来る。それは、どうにかなるのだとしても、ただただ面倒なのだ。話し合いが必要になる。明日参加する者達からは、それぞれに、それぞれの家の判断も併せて伝えられる事だろう。
一応は、定められた事として、他国の要人たちも参加した以上は、それぞれが来ている国に配慮をすると言えば納得はするだろう。だが、間違いなく今この国で求められている場所と言うのは、華と恋の神殿に繋がる門を置く事だ。
「焦りは、剣を鈍らせる。言わずとも分かっているだろう。」
「ええ。勿論ですとも。」
そんな焦燥に突き動かされる愚かな二人に向けて、神としての実に超然とした視座を持つ相手からは揶揄うようにそんな言葉をかけられる。振るう刃は相も変わらず無造作に見えて、その実計算しつくされた刃。躱しても、防いでも。どちらの結果を出したところで相手はその超常の膂力と技の冴えをもって切り返しを叶えて来る。本来であれば無理だろう。人体の構造的には可能だが、耐久度がとてもではないが。そうしたオユキの経験から来る間隙を実に容赦なくついてくる。全力で振った剣を、それも幅広い長大な両手剣を躱されたと分かるや否や同じ速度でもって切り返すなど、肘も手首も持つはずが無いのだ。良くて筋断裂、そうした技術であるというのに。
「よもや、これほどとは。」
「トモエに与えた奇跡、我も使えぬ事は無いのだが。」
どうやら、トモエが魔物を狩る事で得られる奇跡を打ち消せるのは、この神由来の物であるらしい。正直、魔術と奇跡の違いなどオユキは陸に分からぬのだが。
「我の与えた加護を頼みに、我に向かう。その意味を思い知るがよい。」
「我が鍛錬は、そこから得た加護は。」
「その方程度の鍛錬で、一体どの神が評価をするというのだ。それをローレンツとその方、そこにある差として思い知っただろう。」
「く。」
トモエの言葉を思い返せば、然も有りなんと言った所。
オユキの方は、腕に走る痛みをどうにか無視しながら、今となっては両手で刃を振るう事等当然できるはずもなく、片手に持った今となっては懐かしい幅広剣を振るっては実に軽々と弾かれ手を繰り返している。今のオユキの目的は、至極単純。どうにか隙を作り、アベルの手によって決着を。正直な所、片手打ち程度ではオユキの膂力ではこの相手はどうにもならないと、それが解っているからこそ。
「それにしても、御身は見る度に。」
「ふむ。この身か。まぁ、信仰が集まった証拠でもある。無論、望むままにとすることもできるがな。」
これまでは、トモエとオユキに合わせてアベルよりも高い程度であったはずが、今となっては優にオユキの倍はある身の丈となっている。当然、その身を支える筋力と言うのもそれに合わせて作り上げられており、古い石像が、美術館に飾られた美しい彫像が動いているように見える。まさに英雄の如き体躯が、実に生き生きとして踊るのだ。美術品を眺める時の、何処か陶然とした圧倒されるような、そうした感覚がオユキの胸に去来はするが、ただそれでも今は届けと。
「一年の成果、その程度ではこれですか。」
「何、其の方は今まさにそうして腕を焼かれておる故な。両手が無事であれば、もう少しどうにかなったであろうとも。」
「アベルさん相手には、随分と力を込めているのに、私に対してはかなりの加減があるので。」
「それも、当然であろう。試練とは、超えられるだろうとそうして与えるものだ。しかし、アベル、其の方に対してはやはり違う。」
オユキに与えるのは、超えるべき試練である。しかし、アベルに対してはこの神は違うのだと。
「その方の思い違いをただそう。」
「私が、ですか。」
「うむ。幾度となく繰り返すのだがな、我が名は戦と武技。技を磨くのは当然。しかし、そればかりという訳でもない。」
「戦、戦ですか。」
そこに、オユキとしても疑念を覚えている。人同士が集団で争う事が早々無いのがこの世界。だというのに、戦と言う明らかに対人を前提とした言葉を冠に持つ神が存在している。それこそ、これが魔物相手であればそれは戦ではない。軍勢を率いて行う事をそう呼ぶのだと言われてしまえば、確かにと納得が出来るものではある。しかし、この神の在り様を考えれば、個人同士の競い合いに重きを置いていると分かる。今にしても、アベルに対してはオユキに向けるのと全く違う苛烈さをもって刃を振るっている。そして、オユキに対してもアベル以上に加減をした上で。
「我が名の意味を、考えるか。我が巫女よ。」
「ええ。この世界にそれが無いと分かっています。だというのに、何故と。」
「今はない。ただそれだけだな。」
「まさか、今後はそれを許すおつもりか。」
そして、その疑念を正そうとかけた神の言葉に、アベルが真っ先に食って掛かる。それもその筈。アベルと言う人間は、騎士であることを誇りとして、そこに己が立脚している事を是としている。彼の反応を見る限り、戦と言う言葉の中に人同士での想定があるらしいと、此処でオユキもようやくそれを確かな物として飲み込む。
「それは、近々ある物ではなく、ですか。」
「うむ。我らはそれを否定するものではない。」
「それは起こらぬと、起こさせぬと。」
「それこそ、其の方らの努力次第だ。」
つまり、神々の基本として人同士の争いと言うのは、認めるという事であるらしい。確かに、そうでも無ければこれまで陸に議論など、口論など成立しよう筈も無い。国同士、国家間での不和が、言葉だけで解決するのであれば良い。しかし、互いに戦力を、これをと頼む存在がいて口論でだけ押し込まれてしまえば、勿論不満が溜まる事だろう。そんなものを磨いたわけでは無い。己らが磨いた、より優れた力があるのだと。それを示してくれと。
「つまり、御身がそうである以上、武国が最も危険という事ですか。」
こうして話している間にも、やはりオユキは足を止めず、手も止めず。振られる刃をどうにかかいくぐり己の刃を添えて逸らして。距離が近づけば、習ったばかりの技術も使いながら。一度己を焼く炎がこの柱相手に少しでも効果があればと、痛む腕をどうにかたたきつけたりなどもしてみたが、やはり一切の痛痒を覚えぬといった様子。それこそフスカであったり、異空と流離が手加減なく放てばこの神にも届くのだろうが、所詮は残り火程度のオユキではどうにもならぬという事だろう。
「そうか、父上は。」
「ええ。理解しての事でしょう。そして、戦力をそぐために、平均化するためにと考えておられることでしょう。」
「それで、魔国にも、か。」
「生憎とそちらはそちらで、我よりも知識と魔の領分でな。早々あちらからの移動を望む物も居るまいよ。」
「故に私にお鉢が回って来たのでしょう。」
オユキとしても、王太子、王太子妃の考えは理解できる。魔国には無い潤沢な素材。運ぶにしても、一応は限度があり上澄みの戦力を使わなければならない以上は、これまでに比べて値段が下がるとはいえ、それでも高額にならざるを得ない。そんなものを気軽に実験に、どうなるとも知れぬ、勿論失敗することを確かめる事を計画としてそこで何を実証したかったのかが明確であれば意義はあるのだが、そこに対価を支払えるほどの余力もあの国に残っているかと言えば怪しい所だ。
「その方が、この国を離れあちらに向かえば、まぁ我を始めまた色々と手を入れる事も出来る。」
「是非とも加減をして欲しいものですが。」
「仕方あるまい。かねてより巫女とはそうした勤めを持つ故な。」
「でしたら、確かに仕方ありませんね。」
色々と、言いたいことは確かにある。望んで得た物では無いのだが、散々に好きに使っているのだ。ならば、己がその肩書きを使った分くらいは飲み込もうとそれくらいの矜持はある。
「しかし、一個人を。」
「異邦人です。そして、私の両親が使徒であったようですから。」
「その様な理屈で、認めてなる物か。」
「であれば、力を示せ。我が信仰者よ。我の好む気質を持つ者よ。我らの願いは原初より変わらぬ。その方らが自由に歩む事こそ我らの喜び、其の方らから得る対価と言うのは常にある。確かに感謝と祈りを、我らは受けているとも。」
トモエの願いを受けて、オユキが可能な限りと力を尽くした。その計画に多くの者が乗った。結果として、この国は、少なくともトモエとオユキが活動している範囲では随分と狩猟者の在り方が変わり、彼らにしてもオユキが、トモエが繰り返して語る様に日々の鍛錬に精を出し、確かに神々に対して日々の感謝を口にしている事だろう。
特にダンジョンの糧を讃える祭り、生憎とトモエとオユキは参加できていないのだが、そちらにしても随分盛況だとそうした話は聞いている。
「さて、そろそろ時間もいよいよ尽きそうです。」
「ああ。」
「巫女も、よく鍛錬をしている。過日に比べれば、確かに随分と長く遊べるほどにな。」
「お褒め頂き、恐悦至極。されど、今は。」
オユキは既に視界が怪しい。明日とは言わず、今日この後にしてももはや戻ったところで起きてはいられないだろう。こうして三十分にも満たぬ時間だというのに、己の腕を焼く炎がいよいよ腕に火傷の痕を。爛れたわけでは無く、それこそ赤くなり低温火傷のような物ではある。重度の火傷のように寧ろ寒さを感じる程では無く、ただただ熱と痛みだけを感じる物ではあるのだが。
「アベルさん。これが、最後です。」
「分かった。」
そして、そんな中でもどうにかオユキは己がこれまで手に持っていた武器を投げ、己の身を半ば盾にして戦と武技に躍りかかる。腕に巻き付く炎で、せめて相手の視界を防ごうと。
オユキに至っては、確実に炎熱が身を焦がし、その痛みもあってはっきりと動きが鈍る。
つまりは、アベルの望みは、オユキが叶えて見せようと考えるものが、それほどの物であるとただその事実がのしかかる。アベルにしても、オユキにしても、結局は明日の結果をもって風翼の門を作るための種を得る心算などないのだ。そこで得てしまえば、あまりに多くの眼に触れる。政治的な判断を、参加者も多い以上はそこで生まれる意見というものをそれぞれに斟酌する必要とて出て来る。それは、どうにかなるのだとしても、ただただ面倒なのだ。話し合いが必要になる。明日参加する者達からは、それぞれに、それぞれの家の判断も併せて伝えられる事だろう。
一応は、定められた事として、他国の要人たちも参加した以上は、それぞれが来ている国に配慮をすると言えば納得はするだろう。だが、間違いなく今この国で求められている場所と言うのは、華と恋の神殿に繋がる門を置く事だ。
「焦りは、剣を鈍らせる。言わずとも分かっているだろう。」
「ええ。勿論ですとも。」
そんな焦燥に突き動かされる愚かな二人に向けて、神としての実に超然とした視座を持つ相手からは揶揄うようにそんな言葉をかけられる。振るう刃は相も変わらず無造作に見えて、その実計算しつくされた刃。躱しても、防いでも。どちらの結果を出したところで相手はその超常の膂力と技の冴えをもって切り返しを叶えて来る。本来であれば無理だろう。人体の構造的には可能だが、耐久度がとてもではないが。そうしたオユキの経験から来る間隙を実に容赦なくついてくる。全力で振った剣を、それも幅広い長大な両手剣を躱されたと分かるや否や同じ速度でもって切り返すなど、肘も手首も持つはずが無いのだ。良くて筋断裂、そうした技術であるというのに。
「よもや、これほどとは。」
「トモエに与えた奇跡、我も使えぬ事は無いのだが。」
どうやら、トモエが魔物を狩る事で得られる奇跡を打ち消せるのは、この神由来の物であるらしい。正直、魔術と奇跡の違いなどオユキは陸に分からぬのだが。
「我の与えた加護を頼みに、我に向かう。その意味を思い知るがよい。」
「我が鍛錬は、そこから得た加護は。」
「その方程度の鍛錬で、一体どの神が評価をするというのだ。それをローレンツとその方、そこにある差として思い知っただろう。」
「く。」
トモエの言葉を思い返せば、然も有りなんと言った所。
オユキの方は、腕に走る痛みをどうにか無視しながら、今となっては両手で刃を振るう事等当然できるはずもなく、片手に持った今となっては懐かしい幅広剣を振るっては実に軽々と弾かれ手を繰り返している。今のオユキの目的は、至極単純。どうにか隙を作り、アベルの手によって決着を。正直な所、片手打ち程度ではオユキの膂力ではこの相手はどうにもならないと、それが解っているからこそ。
「それにしても、御身は見る度に。」
「ふむ。この身か。まぁ、信仰が集まった証拠でもある。無論、望むままにとすることもできるがな。」
これまでは、トモエとオユキに合わせてアベルよりも高い程度であったはずが、今となっては優にオユキの倍はある身の丈となっている。当然、その身を支える筋力と言うのもそれに合わせて作り上げられており、古い石像が、美術館に飾られた美しい彫像が動いているように見える。まさに英雄の如き体躯が、実に生き生きとして踊るのだ。美術品を眺める時の、何処か陶然とした圧倒されるような、そうした感覚がオユキの胸に去来はするが、ただそれでも今は届けと。
「一年の成果、その程度ではこれですか。」
「何、其の方は今まさにそうして腕を焼かれておる故な。両手が無事であれば、もう少しどうにかなったであろうとも。」
「アベルさん相手には、随分と力を込めているのに、私に対してはかなりの加減があるので。」
「それも、当然であろう。試練とは、超えられるだろうとそうして与えるものだ。しかし、アベル、其の方に対してはやはり違う。」
オユキに与えるのは、超えるべき試練である。しかし、アベルに対してはこの神は違うのだと。
「その方の思い違いをただそう。」
「私が、ですか。」
「うむ。幾度となく繰り返すのだがな、我が名は戦と武技。技を磨くのは当然。しかし、そればかりという訳でもない。」
「戦、戦ですか。」
そこに、オユキとしても疑念を覚えている。人同士が集団で争う事が早々無いのがこの世界。だというのに、戦と言う明らかに対人を前提とした言葉を冠に持つ神が存在している。それこそ、これが魔物相手であればそれは戦ではない。軍勢を率いて行う事をそう呼ぶのだと言われてしまえば、確かにと納得が出来るものではある。しかし、この神の在り様を考えれば、個人同士の競い合いに重きを置いていると分かる。今にしても、アベルに対してはオユキに向けるのと全く違う苛烈さをもって刃を振るっている。そして、オユキに対してもアベル以上に加減をした上で。
「我が名の意味を、考えるか。我が巫女よ。」
「ええ。この世界にそれが無いと分かっています。だというのに、何故と。」
「今はない。ただそれだけだな。」
「まさか、今後はそれを許すおつもりか。」
そして、その疑念を正そうとかけた神の言葉に、アベルが真っ先に食って掛かる。それもその筈。アベルと言う人間は、騎士であることを誇りとして、そこに己が立脚している事を是としている。彼の反応を見る限り、戦と言う言葉の中に人同士での想定があるらしいと、此処でオユキもようやくそれを確かな物として飲み込む。
「それは、近々ある物ではなく、ですか。」
「うむ。我らはそれを否定するものではない。」
「それは起こらぬと、起こさせぬと。」
「それこそ、其の方らの努力次第だ。」
つまり、神々の基本として人同士の争いと言うのは、認めるという事であるらしい。確かに、そうでも無ければこれまで陸に議論など、口論など成立しよう筈も無い。国同士、国家間での不和が、言葉だけで解決するのであれば良い。しかし、互いに戦力を、これをと頼む存在がいて口論でだけ押し込まれてしまえば、勿論不満が溜まる事だろう。そんなものを磨いたわけでは無い。己らが磨いた、より優れた力があるのだと。それを示してくれと。
「つまり、御身がそうである以上、武国が最も危険という事ですか。」
こうして話している間にも、やはりオユキは足を止めず、手も止めず。振られる刃をどうにかかいくぐり己の刃を添えて逸らして。距離が近づけば、習ったばかりの技術も使いながら。一度己を焼く炎がこの柱相手に少しでも効果があればと、痛む腕をどうにかたたきつけたりなどもしてみたが、やはり一切の痛痒を覚えぬといった様子。それこそフスカであったり、異空と流離が手加減なく放てばこの神にも届くのだろうが、所詮は残り火程度のオユキではどうにもならぬという事だろう。
「そうか、父上は。」
「ええ。理解しての事でしょう。そして、戦力をそぐために、平均化するためにと考えておられることでしょう。」
「それで、魔国にも、か。」
「生憎とそちらはそちらで、我よりも知識と魔の領分でな。早々あちらからの移動を望む物も居るまいよ。」
「故に私にお鉢が回って来たのでしょう。」
オユキとしても、王太子、王太子妃の考えは理解できる。魔国には無い潤沢な素材。運ぶにしても、一応は限度があり上澄みの戦力を使わなければならない以上は、これまでに比べて値段が下がるとはいえ、それでも高額にならざるを得ない。そんなものを気軽に実験に、どうなるとも知れぬ、勿論失敗することを確かめる事を計画としてそこで何を実証したかったのかが明確であれば意義はあるのだが、そこに対価を支払えるほどの余力もあの国に残っているかと言えば怪しい所だ。
「その方が、この国を離れあちらに向かえば、まぁ我を始めまた色々と手を入れる事も出来る。」
「是非とも加減をして欲しいものですが。」
「仕方あるまい。かねてより巫女とはそうした勤めを持つ故な。」
「でしたら、確かに仕方ありませんね。」
色々と、言いたいことは確かにある。望んで得た物では無いのだが、散々に好きに使っているのだ。ならば、己がその肩書きを使った分くらいは飲み込もうとそれくらいの矜持はある。
「しかし、一個人を。」
「異邦人です。そして、私の両親が使徒であったようですから。」
「その様な理屈で、認めてなる物か。」
「であれば、力を示せ。我が信仰者よ。我の好む気質を持つ者よ。我らの願いは原初より変わらぬ。その方らが自由に歩む事こそ我らの喜び、其の方らから得る対価と言うのは常にある。確かに感謝と祈りを、我らは受けているとも。」
トモエの願いを受けて、オユキが可能な限りと力を尽くした。その計画に多くの者が乗った。結果として、この国は、少なくともトモエとオユキが活動している範囲では随分と狩猟者の在り方が変わり、彼らにしてもオユキが、トモエが繰り返して語る様に日々の鍛錬に精を出し、確かに神々に対して日々の感謝を口にしている事だろう。
特にダンジョンの糧を讃える祭り、生憎とトモエとオユキは参加できていないのだが、そちらにしても随分盛況だとそうした話は聞いている。
「さて、そろそろ時間もいよいよ尽きそうです。」
「ああ。」
「巫女も、よく鍛錬をしている。過日に比べれば、確かに随分と長く遊べるほどにな。」
「お褒め頂き、恐悦至極。されど、今は。」
オユキは既に視界が怪しい。明日とは言わず、今日この後にしてももはや戻ったところで起きてはいられないだろう。こうして三十分にも満たぬ時間だというのに、己の腕を焼く炎がいよいよ腕に火傷の痕を。爛れたわけでは無く、それこそ赤くなり低温火傷のような物ではある。重度の火傷のように寧ろ寒さを感じる程では無く、ただただ熱と痛みだけを感じる物ではあるのだが。
「アベルさん。これが、最後です。」
「分かった。」
そして、そんな中でもどうにかオユキは己がこれまで手に持っていた武器を投げ、己の身を半ば盾にして戦と武技に躍りかかる。腕に巻き付く炎で、せめて相手の視界を防ごうと。
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