憧れの世界でもう一度

五味

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24章 王都はいつも

アベル

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簡単に身支度を整えた後は、シェリアからナザレアとカレンに共を変えて客間に向かう。王都で用意された屋敷は、シェリアの手によって始まりの町にある物とほとんど同じように整えられて入るのだが規模が違う。ここは隣国からの人員も受け入れる必要もあるため、相応の規模となっている。それこそ、門前から見える範囲では然したる広さには見えないのだが奥行きが随分と。それに合わせたように屋敷内も広く、トモエとオユキが日々を過ごすための場と言うのは、やはり客間として門からほど近い場所に用意されている場所には少し歩かねばならない。

「待たせてしまいましたか。」
「いや、先触れもなく訪れたこちらにも問題がある。」

相応の時間がかかったと、そうしてオユキがまずは話せばアベルからは己にも非があるのだと。

「正直な所、追い返されるかとも思ったのだがな。」
「いえ、流石にそこまでは。」

確かにトモエとの時間を邪魔された、そうした苛立ちがあったのは確か。ただ、今となっては流石に切り替えている。要は、そういった部分を理解したうえで何か話したいことがあってこうして来たのだろうと。

「アダムさんに関する事、ばかりでは無いようですが。」
「ほう。」
「だとすれば、アベルさんからはまずそちらに対する謝罪からでしょう。許せと言われれば、ええ、私はそうする立場でもあります。アイリスさん、王太子様、はたまたそのどちらもか。」
「まぁ、それも正解だ。」

そうして話しながらも、オユキはそのままアベルの向かいに座る。彼の父であるアダムと共に来た時には他にも二人ほど供回りがいたのだが、今回はあくまでアベル一人。王都にはユニエス家としての屋敷もあり、当然ニーナの家からも他の者がアベルを支えるためにと、身の回りを整える為にと暮らしている者達もいるだろう。それを連れてい無い辺り、オユキとしても思うところがあるのだが。

「流石に、私が他の者達を排するわけにはいきませんが。」
「まぁ、流石にな。私も決まった相手がいるとはいえ、婦女子を相手にそこまでは望まん。」
「風聞は良くないですからね。」

簡単に挨拶を交わして、ついでとばかりにどういった話かを事前に鎌をかけて予想をしておく。今回に関しては、アベルが少々濁している事もあり予想がつかぬ部分もあるがそれは手札として隠しておきたい事なのだろうと。そういった事を考えながら、一先ずナザレアが席を整えるまでの間にと考えて。

「それにしても、随分と急ぎで起こし頂いた様ですが。ああ、その、皮肉という訳ではなく。」
「まぁ、言いたいことはわかる。要はそれだけ急を要するのかと、そう聞きたいのだろう。」

用意が整うまでの間は、本題に入る前に枕として。

「その通りではあるのだが、私の方にも色々と厄介が舞い込んできてな。」
「厄介ですか。それは、アイリスさんあたりかと思いますが。」
「後は、セラフィーナもだな。こちらで生まれた物だとばかり考えていたのだが。」
「ああ。アイリスさんも知っていたようですし。」

どうにも、アベルとアイリスの間で会話がなされていないのではないかとそうした不安も覚えるのだが、その辺りはアイリスの方にも非があるのだろう。ならば、やむなしとオユキとしてはそうも考えるのだが、カレンの視線が若干冷えている以上は、ナザレアが何やら随分といら立ちを帯びているあたりアベルの失態とこちらの者達が考えているらしいのだが。

「正直、想定外と言えばいいのか。」
「おや、何か。」
「アイリスもそうなのだが、セラフィーナもとな。」
「それは、その、おめでとうございます。」

思わず、疑問という訳でもなくオユキの語尾が上がる。正直な所、アベルが実に苦々し気に語るあたり、オユキとしても同情を隠せない。こうした相談か報告か判然とせぬ事をこのように話されるのはミズキリ以来。アベルとミズキリと言うのは、このあたり実によく似ている。

「そう、同情気味に言われるとな。」
「アベルさんが望まぬと言いますか、気後れしているのは分かりますから。アイリスさんに関しては、諦めてと言いますか憎からず思われているのは理解しているのですが。」

セラフィーナに関しては、あまり接点も無かろうと。

「セラフィーナさんは、基本的に私たちの屋敷で暮らしていましたし、いえ、それはアイリスさんも変わらないのですが。」
「言いたいことはわかる。こう、どう言えばいいのだろうな。」

ナザレアが、用意を終えてお茶を持ってくる。本題に移る合図、先ほどまでは間違いなくそうではあったのだが、今はアベルの方がいよいよ止まらぬとそういった様子。

「難しい事は特にないのだが、セラフィーナが父上に問い質された時に、まぁ、そのような事を言い出してな。テトラポダからの客人たちも、今は当家で面倒を見ている事もある。どうにも、そちらからも色々と言われたようで、手近な相手として私の名前を出したようで。」
「まぁ、憎からず思っていなければ、そこで名前を口にすることも無いでしょうが。」
「私としては、トモエ卿に任せたいくらいには考えているのだが。」
「アベルさん。」

お前も、挑発をする気かと。ここ暫くで、色々と自制の効かなくなっているオユキの心が揺れる。その結果として、実にわかりやすいものが部屋に現れる。

「随分と馴染んだなと、そう思いはするのだが、トモエ卿は実際のところどうなのだ。」
「それは、トモエさんが望むのなら私は止められませんが。」
「いや、詮無い事を言ったな。」

揺れる心が、室内に雪を降らせる。この程度の寒さで、流石にどうこう言うものは傍にはいないのだが、アベルから謝罪が入る程度には、なかなかの惨状を作り上げてはいる。

「それにしても、もう少し隠すのが上手いと、そう考えていたのだがな。」
「私も、確かに己をそのように評価していましたとも。」

明確な切欠などというものは、流石に無かったとオユキも考えている。生前から面白い仮説もあった。人の心と言うのは、肉体に引っ張られる物ではないかと。勿論多くの反論はあった。実際の所実例とされる物も多く有り、実際にはどういったものかというのも定かでは無かった。しかし、こうしてこちらに来て、全く異なる姿を持ったオユキとしては、ああ成程とそう思うところもある。トモエの様子を観察していても、やはりと感じる部分はあるのだ。そこに他の手が入っているのだとして、しかし、入っていないだろう部分に関してもやはり細かな違いというものは存在している。

「生前の姿がどうであれば、やはりこうして今いる己、その影響はどうしてもあるようです。」
「生憎と経験は無いのだが、そういうものか。」
「ええ、そういうものなのでしょう。」

特にここ暫くは、己の姿を鏡を見る事も多かった。そこに映る己が、まさに問いかけて来るような、そんな圧を感じた物だ。

「お前が、まぁ今はいいか。ともかく、俺の方はそうした状況でな。なんと言えばいいのか、いよいよ避けられぬというのは理解しているのだが、やはりあまりに急に変わる状況に驚くばかりだ。」
「そういう物でしょうとも。ええ、私たちがそうであるように。」

アベルにそれを言われたところで、同情する事しかやはりできない。
同類相哀れむ、それ以上の物はやはり存在しない。

「となると、トモエさんと私、そこと合同でと言う事ですか。」
「ああ。お前が王都で行う物は、政治色を強めても良いとそういったらしいからな。」
「いえ、その利用方法を考えたのは私では無いので、そこで責めるのはお門違いと言うしかありません。」
「八つ当たりと分かっちゃいるが、まぁ、それも今はするものでもないか。」

自覚があるようで何より。そんな事をオユキは考えるのだが、反面そこで翻って己はどうなのかと省みもする。自覚があっての八つ当たり、派手な物はつい先ごろ行ったばかり。トモエ自身が納得していた事、本来であればより一層厄介だったはずだというのに、手を貸してくれたのだとそれは分かっているのだが。

「まずは、確認なのだがな。明日、アイリスと共に王都の外で派手に狩猟を行うと聞いてな。」
「ああ。その事ですか。護衛の手配などは、既にシェリアが行っているかと思いますが。」

問題ないかと、そうシェリアに目線で尋ねればカレンを示される。確かにその辺りの差配は家宰としての役職を持っているカレンの仕事であるらしい。他に人員がいないのかと考えるのだが、まぁ、流石にたまにしか来ない屋敷にその辺りの気を回せる人物を置いておくわけにもいかないだろう。シェリアの視線につられて、そのままカレンの方を見れば何処か疲れた表情で頷きが返ってくるあたり、任せても良いものだろう。

「と言うか、いい加減にカレンに補佐を付ける気はないのか。」
「本来であれば、ゲラルドさんがという形だったのですが。」

今となってはすっかりとメイに貸し出してしまっている。実際には、オユキ達に貸されていた人物であったはずが、それを取り上げる形になっているとメイ本人、リース伯爵からも謝罪は受けているのだが、あの町の今後を整える為にはその方が良いとオユキも考えている。

「カレンは、誰かこれはと思う相手はいますか。」
「正直、止められていないのであれば。」
「アマリーア様はやめておきましょう。流石に私も、公爵様を敵に回したくないので。」

カレンが名前を出さぬ相手、それについては元々オユキも考えた上で公爵から本気で、軽い言葉ではあったが、言われた事。いよいよ最後の手段として、そういった選択を行うかもしれないのだが、高々カレンの為にという訳ではなく、オユキが手伝えば良い事でその選択は選べない。

「一先ず、カレンでも探しておいてください。私から紹介する予定というのは、恐らく王太子妃様を経由してくる隣国の人員となるでしょう。」
「ああ、そのあたりで当てはあるのか。」
「口約束ですらない事ではありますが、まぁ、そうなるでしょうと。ああ、カレン、流石に私の事を良く知らぬ相手を側に付けようとは思いません。基本的に異動は無い物と考えておいてください。」

何やら何処か安心したような様子を見せるカレンに対しては、その席は今暫くお前に任せるのだと釘を刺しておいて。
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