憧れの世界でもう一度

五味

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24章 王都はいつも

翌日には

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人を盛大に呼びつけての話し合いと言えばいいのか、公爵と最低限の合意を得るための行為と言えばいいのか。そのような物であった話し合いというのは、乱入者も現れ、そちらから少しの後押しを得る形でなし崩しで決まったこともあり、一応は有意義に決まったとそう言っても良い物であったとオユキはそのように考えていた。

「それがどうして、私は此処にいるのでしょうか。」
「本来は、こちらの話をするために一昨日に呼んだのですよ。」
「なるほど。」

さて、一応は方向性が決まった、そちらに向けてでは早速今日からという訳でも無いのだが、一先ずアルノーに向けて手紙を昨夜のうちに用意しフスカが自分がと言い出したこともありそちらに預けたのが今朝。そして、何やら仰々しく王城からの遣いが来たのが、その少し後。
そして、今は公爵夫人に案内されて王城内にある一区画に連れてこられた上で、用意されていた衣装をあれこれと。
実際にオユキの世話をする役は、今はナザレアとなっておりシェリアは同じく王城に呼びつけられたトモエの方に。オユキは既に散々に顔やら体やらにあれこれと塗りたくられた上で、仮縫いと呼べるような物でもない衣装に袖を通しては王妃と王太子妃、次いで公爵夫人に値踏みされている。

「どれもそうなのですが、流石に私の役職を考えた時に装飾が足りないように思えますが。」
「そちらは、戦と武技の教会に頼むこととなりますので。」
「それで、今は空いている部分があるという事ですか。」

どうにも、今迄に着た物とこれからだと分かる並べられているもので、揃って胸元周りに飾り気が無いのはそこに功績が来るのかと考えていたのだがそういう訳でもないらしい。

「位置はどのあたりでしょうか。流石に当日は功績を身に着けてとなるでしょうが。」
「貴女が得た物は、基本は指輪の形と聞いていますが。」
「そうですが、新しく得た余剰の功績を示すものなどもありますし。」
「そう言えば、詳しくは聞いていませんし、常は服の下にと聞いていますが現在はどの程度頂いたのですか。」

言われて、そう言えば全てを身に着ける事はなかなか無かったなと。

「ナザレア。」
「お持ちしていない物も含めて、でしょうか。」
「功績を、常に身に着けないのですか。」
「オユキ様が得た物は、流石に王城に持ち込むには難しいものもありますので。」

戦と武技の神から与えられた物には、当然武器の類があり流石にオユキも王城にまで持ち込んでいない。短刀くらいであれば、等とは思うのだが生憎とシェリアの理解は得られてもナザレアの理解は得られなかった。トモエはきちんと帯刀したうえで王城に上がっており、流石に外周部の門ではなく城門をくぐる時には預けているのだがその辺り性別というよりも、呼びつけられた理由の違いに由来するのは理解しているのだが。

「短刀くらいでしょうか、後は衣装も今回には合わない物ですので。」
「そう言えば、時折着ている物も神授の品でしたか。そうなると、あれを使わぬというのも。」
「いえ、流石に婚礼には向かぬものですから。一応、形は合わせて頂けている様なので。」

用意されている物、それらにしても基本的には以前王都での催しに合わせて授かった衣装に準えてというところはよくわかる。こういった部分で配慮を貰えるのは確かに嬉しいのだが。

「以前、これまであまりに蔑ろにした部分を含めてと、そのように提案させて頂いた様に思うのですが。」
「確かにそうした話は聞きましたが、流石に日が足りません。」
「それでは、今回はどの様な。」

実際に使う衣装ではなく、既に頼んでいた物をこうして合わせてとなるのなら、果たして意味があるのかと。

「今回の物の内、いくつかはこれまでの事として下賜を。今こうして合わせているのは、改めて作る衣装を考えての事です。」
「その、一応今も体形は変わってもいるのですが。」
「衣装の形を決め、後は色も。流石に、当人も居らず肖像画も無いとなれば難しいものですから。」
「オユキ、当日は髪を纏めるのかしら。」

言われて少し考えるのだが、こちらの貴人は基本的に神にしても細かく括っているし、そこにあれこれと飾り付けを行っている。生前であれば、閉口するしかないようなものと、こうしてこちらでしばらく暮らした今になっても流石にオユキとしても好はしないのだが。

「以前、教会で色々と役を頂いた折に、基本的に髪は纏めるのもとそう伺ったのですが。」

そんな話を聞いたことがあるとオユキが返せば、忘れていたとばかりに揃って扇を広げる。こちらの事に配慮をする、政治として使うと言った所でやはり貴族にばかり合わせる訳にもいかない。オユキの身分を保証しているのは、この国ばかりという訳ではない。巫女としての役職を持っている、それを知らしめる場でもなければならない。

「衣装をこちらに合わせるのか、髪形を合わせるのか。選ぶとすればどちらかになるかと。」
「それは、成程、確かにそうなりますか。」

どちらを取るのか、そこは流石にオユキから何か口を差し挟むような真似はしないが、少なくともその選択だけは正しく行ってくれるようにとそうした思いを込めて話せば、相手はそれを正しく受け取ってくれたらしい。随分と、これまでは何処か楽し気に、微笑まし気な様子が今となっては少々厳しい視線でオユキを見ている。
そうして値踏みされている間にも、侍女たちがお構いなしにあれこれとオユキの世話を焼くものではあるし、オユキも特段抵抗することなくなされるがままになってはいるのだが、その様子もきちんと見ているには違いないのだが。

「これは、悪くないように思えますね。」

そして、いくつか着せられた中で、随分と肌触りの良いものがあり、仕立てが良いのはどれも変わらないのだが珍しく落ち着いた装飾という事もあって、オユキが思わずそんな事をぽつりとこぼす。これまでとは違い、勿論公爵夫人によって場が用意された時には当然あったのだが、王城の中こうして王妃や王太子妃も参加して衣装を試す場には姿見も用意されている。そちらに映る己の姿を見ても、これまでの物よりは随分と似合っているように思えるのだ。長く伸びた黒髪、何処か冷たい印象を与える青い瞳。白磁のような肌には、確かに髪色に合わせた布の色が良く似合う。何処か、髪との境も曖昧になるような、そうした布地であるには違いないのだが、要所に、差し色として朱の刺繍がされているため、それを動くたびに隠すような髪は猶の事目立つことになる。鏡越しに見る己、それが自分の動きに合わせて動くのを眺めてみれば成程、確かにこれは悪くないなと。和装に近い、前に合わせが見えるようには作られているのだが、実際にはドレスとして作られておりどう言えばいいのか、オユキとしては自分で着る事は出来ないだろうとそういった服であるには違いない。

「あら、気に入ったのかしら。」

そして、そんなオユキの様子に目ざとく気が付いた王妃から声がかかる。

「そうですね。これまでの物も似合っていましたが、確かにこの服はより一層というものですね。ですが。」

何やら気に入らない所があるらしく、簡単に手振りで示せばそれを受けた侍女たちが今度はまたオユキをこうして着せ替え人形になる前に連れていかれた場所にまた。そちらで一度顔を拭われて、何やらまた別の物を塗りたくられる。くすぐったさも覚えるし、当然慣れぬ感触、急所が多すぎる部分に触れられる嫌悪感なども大いにあるのだがそれらをしばらく我慢すれば、出来上がったと言わんばかりにまた鏡の前に。

「少々、険の強い印象になりすぎているようにも。」

元々の瞳の色も相まって、今度は己の姿というのが非常に冷淡な印象を感じる。怜悧であることに、オユキ自身も己の評価は、その程度は流石に自負もあるのだが。

「そこは、表情でどうにでもなる物でしょう。」
「表情、ですか。」

基本的に、愛想笑いと言えばいいのだろうか。客先に出向くことも多かったため、表情の基本とはしているはずなのだがと。そう考えて、オユキは改めて鏡に映る己の様子を観察する。そこに映る己は、此処までの事が積み重なっているからだろうか。表情に疲れは出ていない、はず。しかし、愛想笑いももはや浮かんでいない。底冷えするような、そうした色を瞳に浮かべて、ただただ己の見返してくる。
今の己が、今のオユキが浮かべる表情はこれだと。トモエが、そうしたオユキの姿を見て、過去にもオユキがこうなったことを思い返してどれほどの感情を抱えているのかを思い知れと。そう、己が告げているような。

「何を考えているのか、それも分かりはしますが疲労も隠せていませんよ。」
「ええ。だからこそ、少々厚めにと指示を出しているのですから。」

告げられる言葉には、はっきりと苦笑いが乗っている。苦い思いが、己もそれをせねばならない事が、今もあるのだとそうした思いが感じられるほどに、分かりやすいものが確かにある。

「そう、ですか。私は、此処まででしたか。」
「ええ。しばらく前から。」

その暫くというのは、何時頃であったのだろうか。それこそ、トモエに尋ねればはっきりとはぐらかされることだろう。己がこうして隠せぬほどに重たいものを討ちに抱えたのは、オユキとしても自覚があるのは随分と前からなのだから。それが、これまではどうにか覆い隠していたものが、ここ暫くの事でもはや表に出てき始めたという事なのだおる。

「通りで、あの子たちにも心配されてしまう訳です。」

気が付いたのは、今ここにいる者達ばかりという訳でもない。
こうしたオユキの様子に気が付いているからこそ、苦難があると、如何に守られているとはいえ相応に大変な事であるにもあるにも関わらず何も言わずに受け入れた子供たちがいたのだろう。

「情けない事です。」

鏡に映る己に対して、オユキはただそう告げる。年長としての矜持は何処に行ったのだと。あの子供たちに対して、賢しらに語った己の、見せると決めた背は、最初にあったものは何処に行ったのかと。
この世界に来て暫く、歩くと決めた道が目の前にある。ならば、少なくとも。
そう考えるオユキに対して、やはり周囲にいる者達は、オユキの世話を指示に従って行っている侍女たちではなく、年若いまだ先がある物ではなく、見守る者達はただ同じ境遇の物を見る、そんな色を目に乗せて。
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