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23章 ようやく少し観光を
王太子妃と
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離宮に到着した後は、そのまま公爵とも別れてユリアの案内を受けてそのまま中を進む。以前案内された場所と、また異なる離宮なのだろう。進む道はどうにも見覚えが無く、加えて物々しいと言えばいいのだろうか。以前に訪れた場所とはまた違い、武器を携えて通路を行く者達が随分と多い。随分と警戒している事だとそんな感想を抱きながら案内された先では、オユキを呼び出した相手が先に寛いで待っていた。
「随分と、久しぶりですわね。」
「ええ、こうしてお呼び立て頂、今まではご遠慮をさせて頂いておりましたが、此度ばかりは図々しくも。」
「あら、断るほうがとは考えなかったのかしら。」
「憚りながら。」
「全く、こうして話す時には随分と上手く逃げ口上を打つこと。」
随分と明るくなったと言えばいいのだろうか。以前と外見自体は変わらないのだが、纏う空気がやはり違う。既に周囲の誰も彼もを警戒するような、近寄る物に向けて無差別に向けていた警戒心、敵意のような物はすっかりと鳴りを潜めている。
「言葉に関しては、構いません。この場にいるのは、あの場で貴女がなした事を見届けていた者達です。」
「では、お言葉に甘えると致しましょう。」
子供は、流石に部屋の片隅という程でも無い場所に。寝台を誂えた上で、その上で休んでいるのだろう。実にわかりやすい事に、過日運んだ神像が一回りでは聞かないほどに大きくなっており、その前に。どうにも、寝息を立てるでもなく、ぐずるでもなく、何処か存在が朧気にしか分からない、そんな様子に変わらず不安を覚えはするのだが。
「繰り返しますが、本当に久しぶりです事。幾度か出した誘いの文に、少しは応えても良かったのではないかしら。」
「ご令息も、健勝なようで何よりです。私共の為したことが、確かな一助となっているようですから。」
「もう、聞きもしない。」
こうして呼ばれて足を運ぶ、それが大事なのは流石にオユキも理解はしている。だが、やはり色々と片づけたいこともあるのだ。
まずはとばかりに、せっかくの機会でもあるからとあれこれ持ち込んだものを、公爵からも預けられている贈答品を目録という形で渡してしまう。王太子妃にしても、それが当然と出来るだけの相手でもあり、実際に受け取るのは彼女の侍女、ニーナではなくやはりユリアなのだが、そちらにカレンから渡してしまえば後は特にというものだ。
今回、已むをえぬという程では無いのだが、本人は固辞していたのだがせっかくだからそうした経験も積むのがいいだろうと、シェリアとナザレアに加えてカレンもこの場には連れてきている。そんな話をオユキから振ってみた時には、反応が暫く帰ってこなくなる程度には動転していたし、今も随分と顔色が悪いのだがこればかりは今後の慣れを期待しるしかない。どうした所でトモエとオユキが不在である時には、家宰としてある程度此処にいる面々、王太子妃と直接というわけでは無いのだが、この場にいる面々は今後も内々にというばかりではなく王都にある公爵から与えられているファンタズマ子爵邸に顔を出してくることだろう。カレンの去就に関しては、なるべく側にいてもらう心算ではあるのだが、流石に遠くに移動をと、風翼の門を使う事も出来ずそれをしなければならないとすれば、王都の屋敷に誰を残すかと言えばカレンにはなるのだから。
「それと、ユリア様。先は有難う御座いました。いくらか使ってしまったため、少々の摩耗はありますが。」
そうして、シェリアに預けていた剣帯をユリアへと。
「そのままとしても、良いのではないかしら。」
「使い込まれている、それが解る品でしたから。御身を守る者として、やはり手に馴染んだものは必要でしょう。流石に、あの時に投げた物迄は回収しては居りませんが。」
「成程、確かにそう言われれば納得は出来そうなものですが。」
王太子妃は、そうして話をユリアに向ける。
「確かに、馴染んだものがあればと。」
「そういうものですか。」
「勿論、その場にあるものを使って、あらゆる手段を講じるものではありますが。」
武器に対する思い入れ、それに関してはトモエという人間が実によく理解できるとばかりに頷いている。オユキは生憎、道具にさしてこだわりが無い。
このあたりに関しては、かつて現実で存分に刀を振るっていたトモエと、ゲームに置いて武器等消耗品だと散々に思い知らされる事態に直面していたオユキの差。
「さて、こうして招きに応じたという事は、色々と。」
「はて、何をおっしゃられるのかは、言われてみなければ。」
「成程、成程。」
「一先ずは、先ほど陛下に報告はさせて頂きましたが、隣国、御身の生国ですね。あちらに、先ごろ伺わせて頂きました。」
公爵夫人も、勿論この場に同席している。今の王太子妃の言葉には、惚けなさいとそのように示されているため指示に応えた上でそのまま話題を変える。王太子妃は何処かもの言いたげにはするものだが、此処で己の生まれた国を、異邦から来た者達がどう見ているのかそれも気になるのだろう。視線はそのままに、しかし手振りでそのまま続きを話せと言わんばかりに促される。
「正直な所、先のない国、そういった印象しかありません。」
「ええ、そうでしょうね。」
「だからこそ、この国に王太子妃として嫁がれてきたのだろうなと。」
「ええ。愛情は、勿論確かに私たちの間で育んでいます。しかし、始まりはやはりそれです。」
予想は間違っていないと。
今更、隣国の王妃がこちらに足を運んでからというもの、なかなか難航しているらしい話し合い。それが誰にも隠せないというよりも、案内したオユキに対して隠し遂せるものでは無いと分かっているからこそ、王太子妃も言葉を飾らない。今更隠そうなどとはしない。
「アイリスさん加護にしても、今はどうなっているのかまでは生憎と話を聞いていませんが。」
「あちらにいる者達であれば、ええ、間違いなく食いつぶすでしょう。」
「研究者の性とはいえ、なかなか度し難い状況ではあるようですね。」
「仕方ありません。長くそうあれと、差し向けていたのです。」
王太子妃の溜息は、あまりにも重い。それが事実なのだと、こちらも同じ、この神国もやはり同じ課題を抱えていた。それに常に直面し続けていた国王は、随分と己の摩耗させた。それは外から見てもわかる程に。シグルド達の話を聞けば、何やら始まりの町で随分とのびのびと、ゆったりとした時間を得ていたらしい。それこそ、国王陛下その人の言葉に対して、何を言えるものがいる訳もなく、そうなるはずだったところを怖いもの知らずと言えばいいのか、シグルドがあれこれと言い募っていたりとそんな話では合った。
シグルドの言葉によれば、彼なりに気を遣った結果ではあるらしいのだが、それこそはたで見ていた少女達というのはそれはそれは気が気では無かったのだとか。
「既に、ある程度の戦力は隣国に向けて出発しているとは思いますし、私達が戻る時に残した者達もいるはずですが。」
「確かに、そうした報告は受けています。勿論、既に活動をしている事でしょう。」
「その口ぶりでは、報告が得られていないと、そう聞こえますが。」
「ええ。私はそう話しているのです。」
余りに意外と言えばいいのだろうか。王太子妃がはっきりと口にした言葉、それがどうにも理解が出来ない。こちらでは、国王その人、ともすれば王妃がこちらに来たことに合わせて散々に先方と往来が既に生まれている事だろう。だというのに、一体どういった理屈があっての事かと。オユキは、実際に己の目で確認したのだ。確かに、こちらにある見慣れているわけでは無い風翼の門が、確かにあちらにも置かれたのだと。
「ミズキリの言葉では、丸兎の魔石で五千もあればという事でしたし、その翼人種の方であれば、それこそ単独で。」
「ええ。間違いなく、有用です。しかし、あの国に生きる者達は、己のマナを他が移動するために使いたいなどとは考えません。」
「それは、その、そこまでですか。」
フォンタナ公爵にしても、随分とその独善が鼻につく振る舞いをしていた。研究者というのは、まぁそうした部分が大きいというのも事実。しかし、そんな人間ばかりでは無いだろうと、少なくとも人々が暮らす為、そのために求められる事があり、それが無ければ国として成り立ちはしないはずなのだ。
「私が離れて、それで変わったかと言えば、勿論そんな事は無いでしょう。」
「ああ、あの方ですか。しかし、求心力はなさそうでしたが。」
「貴女が煩わされることがないように、そうした配慮を求める手紙を用意していましたから。」
「フォンタナ公爵は、成程、最大派閥となりますか。」
神国との交易を恣にしている家、成程、随分と悪辣なとまではいわないが確かに賢しらな振る舞いをしていたものだが。
「排除を望みますか。」
「貴女も、そうなのでしょう。」
「流石に、先代アルゼオ公爵に恩義もありますが。」
「そちらへの補填は、王太子様が。」
なかなか、王太子妃にしても強かなと言えばいいのか。
「そこまで決まっているという事は、そうですか。」
だからこそ、先代アルゼオ公爵は河沿いの町に早々に居ついたのだろう。フォンタナ公爵と会い、彼の人物と最も時間を使ったのは先代アルゼオ公爵その人なのだ。己がこれまでの人生を費やして築き上げた関係性、それを食い物にする相手に対して、あの好々爺然とした人物が何を思うのか。そんなものは、想像するまでもない。
「先代アルゼオ公も、決めましたか。」
「良い返事は貰ったと、そう聞いています。勿論、それに伴って。」
「マリーア公爵が、また譲歩をすることになりましたか。しかし、アルゼオ公爵領に組み込むにしても、随分と飛び地になるでしょうに。」
「特区、そう呼ぶべき場所、そうした案を出したのは、貴女方ではありませんか。」
公爵夫人に、本当に公爵その人がそんな無理難題を飲んだのかと、そう視線だけでオユキが尋ねてみれば、返ってくる言葉は実に明快。既に先代マリーア公爵も逗留しているはずなのだが、その辺り一帯どういった体制を作る心算なのかと。
「正直な所を話しましょう。レジス侯爵家と、ラスト子爵家、やはりどちらもあの場を任せるには不足があります。」
「現状は、では無いのですか。」
「ええ。現状は難しい。しかし、直ぐに稼働させねばなりません。」
「随分と、久しぶりですわね。」
「ええ、こうしてお呼び立て頂、今まではご遠慮をさせて頂いておりましたが、此度ばかりは図々しくも。」
「あら、断るほうがとは考えなかったのかしら。」
「憚りながら。」
「全く、こうして話す時には随分と上手く逃げ口上を打つこと。」
随分と明るくなったと言えばいいのだろうか。以前と外見自体は変わらないのだが、纏う空気がやはり違う。既に周囲の誰も彼もを警戒するような、近寄る物に向けて無差別に向けていた警戒心、敵意のような物はすっかりと鳴りを潜めている。
「言葉に関しては、構いません。この場にいるのは、あの場で貴女がなした事を見届けていた者達です。」
「では、お言葉に甘えると致しましょう。」
子供は、流石に部屋の片隅という程でも無い場所に。寝台を誂えた上で、その上で休んでいるのだろう。実にわかりやすい事に、過日運んだ神像が一回りでは聞かないほどに大きくなっており、その前に。どうにも、寝息を立てるでもなく、ぐずるでもなく、何処か存在が朧気にしか分からない、そんな様子に変わらず不安を覚えはするのだが。
「繰り返しますが、本当に久しぶりです事。幾度か出した誘いの文に、少しは応えても良かったのではないかしら。」
「ご令息も、健勝なようで何よりです。私共の為したことが、確かな一助となっているようですから。」
「もう、聞きもしない。」
こうして呼ばれて足を運ぶ、それが大事なのは流石にオユキも理解はしている。だが、やはり色々と片づけたいこともあるのだ。
まずはとばかりに、せっかくの機会でもあるからとあれこれ持ち込んだものを、公爵からも預けられている贈答品を目録という形で渡してしまう。王太子妃にしても、それが当然と出来るだけの相手でもあり、実際に受け取るのは彼女の侍女、ニーナではなくやはりユリアなのだが、そちらにカレンから渡してしまえば後は特にというものだ。
今回、已むをえぬという程では無いのだが、本人は固辞していたのだがせっかくだからそうした経験も積むのがいいだろうと、シェリアとナザレアに加えてカレンもこの場には連れてきている。そんな話をオユキから振ってみた時には、反応が暫く帰ってこなくなる程度には動転していたし、今も随分と顔色が悪いのだがこればかりは今後の慣れを期待しるしかない。どうした所でトモエとオユキが不在である時には、家宰としてある程度此処にいる面々、王太子妃と直接というわけでは無いのだが、この場にいる面々は今後も内々にというばかりではなく王都にある公爵から与えられているファンタズマ子爵邸に顔を出してくることだろう。カレンの去就に関しては、なるべく側にいてもらう心算ではあるのだが、流石に遠くに移動をと、風翼の門を使う事も出来ずそれをしなければならないとすれば、王都の屋敷に誰を残すかと言えばカレンにはなるのだから。
「それと、ユリア様。先は有難う御座いました。いくらか使ってしまったため、少々の摩耗はありますが。」
そうして、シェリアに預けていた剣帯をユリアへと。
「そのままとしても、良いのではないかしら。」
「使い込まれている、それが解る品でしたから。御身を守る者として、やはり手に馴染んだものは必要でしょう。流石に、あの時に投げた物迄は回収しては居りませんが。」
「成程、確かにそう言われれば納得は出来そうなものですが。」
王太子妃は、そうして話をユリアに向ける。
「確かに、馴染んだものがあればと。」
「そういうものですか。」
「勿論、その場にあるものを使って、あらゆる手段を講じるものではありますが。」
武器に対する思い入れ、それに関してはトモエという人間が実によく理解できるとばかりに頷いている。オユキは生憎、道具にさしてこだわりが無い。
このあたりに関しては、かつて現実で存分に刀を振るっていたトモエと、ゲームに置いて武器等消耗品だと散々に思い知らされる事態に直面していたオユキの差。
「さて、こうして招きに応じたという事は、色々と。」
「はて、何をおっしゃられるのかは、言われてみなければ。」
「成程、成程。」
「一先ずは、先ほど陛下に報告はさせて頂きましたが、隣国、御身の生国ですね。あちらに、先ごろ伺わせて頂きました。」
公爵夫人も、勿論この場に同席している。今の王太子妃の言葉には、惚けなさいとそのように示されているため指示に応えた上でそのまま話題を変える。王太子妃は何処かもの言いたげにはするものだが、此処で己の生まれた国を、異邦から来た者達がどう見ているのかそれも気になるのだろう。視線はそのままに、しかし手振りでそのまま続きを話せと言わんばかりに促される。
「正直な所、先のない国、そういった印象しかありません。」
「ええ、そうでしょうね。」
「だからこそ、この国に王太子妃として嫁がれてきたのだろうなと。」
「ええ。愛情は、勿論確かに私たちの間で育んでいます。しかし、始まりはやはりそれです。」
予想は間違っていないと。
今更、隣国の王妃がこちらに足を運んでからというもの、なかなか難航しているらしい話し合い。それが誰にも隠せないというよりも、案内したオユキに対して隠し遂せるものでは無いと分かっているからこそ、王太子妃も言葉を飾らない。今更隠そうなどとはしない。
「アイリスさん加護にしても、今はどうなっているのかまでは生憎と話を聞いていませんが。」
「あちらにいる者達であれば、ええ、間違いなく食いつぶすでしょう。」
「研究者の性とはいえ、なかなか度し難い状況ではあるようですね。」
「仕方ありません。長くそうあれと、差し向けていたのです。」
王太子妃の溜息は、あまりにも重い。それが事実なのだと、こちらも同じ、この神国もやはり同じ課題を抱えていた。それに常に直面し続けていた国王は、随分と己の摩耗させた。それは外から見てもわかる程に。シグルド達の話を聞けば、何やら始まりの町で随分とのびのびと、ゆったりとした時間を得ていたらしい。それこそ、国王陛下その人の言葉に対して、何を言えるものがいる訳もなく、そうなるはずだったところを怖いもの知らずと言えばいいのか、シグルドがあれこれと言い募っていたりとそんな話では合った。
シグルドの言葉によれば、彼なりに気を遣った結果ではあるらしいのだが、それこそはたで見ていた少女達というのはそれはそれは気が気では無かったのだとか。
「既に、ある程度の戦力は隣国に向けて出発しているとは思いますし、私達が戻る時に残した者達もいるはずですが。」
「確かに、そうした報告は受けています。勿論、既に活動をしている事でしょう。」
「その口ぶりでは、報告が得られていないと、そう聞こえますが。」
「ええ。私はそう話しているのです。」
余りに意外と言えばいいのだろうか。王太子妃がはっきりと口にした言葉、それがどうにも理解が出来ない。こちらでは、国王その人、ともすれば王妃がこちらに来たことに合わせて散々に先方と往来が既に生まれている事だろう。だというのに、一体どういった理屈があっての事かと。オユキは、実際に己の目で確認したのだ。確かに、こちらにある見慣れているわけでは無い風翼の門が、確かにあちらにも置かれたのだと。
「ミズキリの言葉では、丸兎の魔石で五千もあればという事でしたし、その翼人種の方であれば、それこそ単独で。」
「ええ。間違いなく、有用です。しかし、あの国に生きる者達は、己のマナを他が移動するために使いたいなどとは考えません。」
「それは、その、そこまでですか。」
フォンタナ公爵にしても、随分とその独善が鼻につく振る舞いをしていた。研究者というのは、まぁそうした部分が大きいというのも事実。しかし、そんな人間ばかりでは無いだろうと、少なくとも人々が暮らす為、そのために求められる事があり、それが無ければ国として成り立ちはしないはずなのだ。
「私が離れて、それで変わったかと言えば、勿論そんな事は無いでしょう。」
「ああ、あの方ですか。しかし、求心力はなさそうでしたが。」
「貴女が煩わされることがないように、そうした配慮を求める手紙を用意していましたから。」
「フォンタナ公爵は、成程、最大派閥となりますか。」
神国との交易を恣にしている家、成程、随分と悪辣なとまではいわないが確かに賢しらな振る舞いをしていたものだが。
「排除を望みますか。」
「貴女も、そうなのでしょう。」
「流石に、先代アルゼオ公爵に恩義もありますが。」
「そちらへの補填は、王太子様が。」
なかなか、王太子妃にしても強かなと言えばいいのか。
「そこまで決まっているという事は、そうですか。」
だからこそ、先代アルゼオ公爵は河沿いの町に早々に居ついたのだろう。フォンタナ公爵と会い、彼の人物と最も時間を使ったのは先代アルゼオ公爵その人なのだ。己がこれまでの人生を費やして築き上げた関係性、それを食い物にする相手に対して、あの好々爺然とした人物が何を思うのか。そんなものは、想像するまでもない。
「先代アルゼオ公も、決めましたか。」
「良い返事は貰ったと、そう聞いています。勿論、それに伴って。」
「マリーア公爵が、また譲歩をすることになりましたか。しかし、アルゼオ公爵領に組み込むにしても、随分と飛び地になるでしょうに。」
「特区、そう呼ぶべき場所、そうした案を出したのは、貴女方ではありませんか。」
公爵夫人に、本当に公爵その人がそんな無理難題を飲んだのかと、そう視線だけでオユキが尋ねてみれば、返ってくる言葉は実に明快。既に先代マリーア公爵も逗留しているはずなのだが、その辺り一帯どういった体制を作る心算なのかと。
「正直な所を話しましょう。レジス侯爵家と、ラスト子爵家、やはりどちらもあの場を任せるには不足があります。」
「現状は、では無いのですか。」
「ええ。現状は難しい。しかし、直ぐに稼働させねばなりません。」
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