憧れの世界でもう一度

五味

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23章 ようやく少し観光を

公爵夫妻を伴って

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領都で短いながらも観光の時間を取れば、そのまま公爵夫妻を伴って始まりの町に。
勿論馬車の中では、流石に日数がかかることもありしっかりと仕事の話を改めて詰める時間というのも存在していた。基本的には、マリーア公爵と、オユキの二人で。今後の予定と言えばいいのか、今回は一先ずローレンツを頼んだのだが、では次は何処にといった希望から始まり。確かにオユキが流れを作ろうとした機運に乗った公爵からは、ではここから先は何処に向けて如何するのかと。
そうした話を聞きながら、トモエと公爵夫人の方は、同じ馬車とはいえ別に区切られた場所でオユキ用にと用意された衣装の品評であったり、トモエに向けてとされた物の確認であったりとこちらはこちらで色々と忙しない時間を過ごしたものだ。勿論、商人たちを代表して、ホセにしても積み荷の一部は流石にオユキとトモエの馬車に積んだうえで、ローレンツたちに預けた物と違って新しく用意した馬車に載せて。オユキがトモエも好むだろうしと、これまた加減なくまとめて買ったチーズを始め、どうやら公爵から言われていたこともあるのだろう、以前に聞いた期間では間に合うまいと考えていた戦と武技の紋章を、そのままではなく簡略化された武具が飾りとして掘られた銀食器などを相応に積み込んで。
そうして、暫く移動が終われば今度は王都に向かうために始まりの町へ。

「また、随分と買い込んできましたね。」
「差配は、そうですね。まずは大まかに分けた上で食材はアルノーさんに。」

そして、始まりの町にはいれば今度は公爵とも別れて、自分の屋敷に買い込んできた荷物や手土産として持たされている荷物を降ろせばその量にカレンが何処か頬をひきつらせて。

「次は、これよりも増える事になるのでしょうね。」

やっと先の成果が、方々から贈られてくるものをどうにか整理しきったカレンが、何やら遠い目をし始める。

「そう、ですね。」
「どうなのでしょうか。」

但し、カレンの言葉にはオユキとトモエから異なる解答を。

「トモエさん。」
「オユキさん。」

一体、何処に異なる判断をする予想があるのかと、そう互いに目配せなどを。

「あの、一体。」

そして、その空気に慣れぬカレンから戸惑いの声などが上がっているが、今はそちらに構っている場合では無いと。互いに互いのこれまでを考えて、それぞれが想像を巡らすといった時間がわずかに流れる。互いに互いが同じものを見ていると、断言できるだけの時間は確かに無い。見ている物、その感性も違う。特に今回は、トモエが得られるものが多いと判断し、オユキがそうでは無いと考えての事でもある。ただ、何を口に出すでもなく、互いに互いがどういった考えの結果そこに至ったのか、それを探る事こそが相互理解と信じるからこそこうして判断が異なった時に、同じものに対してそれぞれが判断を行ったときに生まれる差異は楽しい物でもある。

「成程。」
「ええ。」

そして、互いに探り合ってみればそれぞれの判断の根拠も漠然と分かり、ただ互いに納得を作る。

「あの、一体。」

そして、それについてこれぬのは、カレンを始めとした周りの者ばかり。シェリアがいれば、多少なりとも理解は得られたのだろうが、生憎と王都での生活を整えなければと息巻いて王都に向かって行った事もある。門を使うのかと尋ねてみれば、既に手配があるとばかりに翼人種の幾人かに送られていた。
彼女たちにしても、分かりやすい部分として食の好みというものが存在しており人里の周囲で自身の能力を振るう事が出来ないというのは理解しているらしい。流石に、普段の事としてマナを使ってというのであれば少々の炎熱をばらまくだけで済むのだが、そうでも無ければそれはそれは愉快な被害を周囲に巻き起こす種族だ。それこそ隣国、この先足を運ぼうと考えている魔国の如き様相をこの町が呈することになるだろう。

「いえ、互いの前提に差があったようですから。」
「確かに、今回は控えめになりそうです。」
「あの、どういった判断かは。」
「少し長い話にもなりますから、中でとしましょうか。荷物の整理が終われば、それから。」

一先ず、おろした荷物にしても今度ばかりはかなり量もかさんでいるのだが、何も今となってはカレンばかりがそれを行う訳でもない。彼女の方でもゲラルドに言われてか、仕事を任せられる相手を決めているようで徐々に己が抱え込まなければいけない仕事というのも減ってきている。それに今回は何も何処そこから贈られた物ではなく、オユキ達が買い込んできた物でもある。

「食材は、分けてありますし。」
「ああ、このあたりの印がそうですか。」

そして、食材の管理は最早この屋敷の厨房の支配者と言えばいいのか、一切を取り仕切っているアルノーに。彼にしても、色々と道具を魔国から持ち帰ったこともあるので、何処かに彼自身の店を構えてもいいのではないかとそうした話もしてみてはいるのだが、生憎と今は流石に色々と難しいだろうと言われてもいる。
それこそ、魔国との間でもっと国交がまともになれば、少なくとも気軽に追加を頼めるか修理が出来る環境が整うまではその選択も難しいだろうと彼も判断しての事。今となっては、空間拡張の魔術にしてもトモエとオユキの屋敷では各所に使われており、その辺りの便利から離れられないという事もあるらしい。
カナリアであったり、翼人種であったりが気軽に行使する魔術はさて、今後どの程度の期間があればより一般的になるのかと言われれば、やはりかなり先だろうとそうしたことを言うしかない。

「では、オユキ様。後程お伺いします。」
「ええ、お待ちしておりますね。」
「流石に私たちも旅の埃を先に落としておきましょうか。」

とにもかくにも投げられる事は早々に人に投げて、トモエとオユキはそのまま連れ立って浴室へ。
そこで俎上に上がるのは、先ほどまでの旅に対する感想かと言えば。

「本当に、色々と変わっていましたね。」
「ええ。」

オユキの方は、トモエに髪を洗われて。トモエは流石に自分でとしているが、それでも互いに軽く流す程度は行った上で湯船でくつろぐ。

「トモエさんは、見るべきところがある相手は増えていましたか。」
「なかなか難しい質問ですね。」

トモエが領都で改めて出会った者達に挑発をして、そこから先は随分と愉快な事にはなった。ちょっとした祭りと言えばいいのか、そう言うには随分と粗暴と言えばいいのか。それでも、確かな研鑽は見て取れたものだがやはり程度は知れている。時折、彼らを改めて教導した相手だろう、そんな人物からこう動けとそんな悲鳴にも似た叫び声が上がったりしたものだが、聞こえてしまえば当然トモエはつけ込む。結局は以前よりも時間がかかったのは事実だが、見事に全員を床に転がしたうえで、個別に対峙する時間を取ってと充実した時間であったことには違いない。

「楽しい時間は得ましたが、見どころがある者達かと言われれば。」
「セシリアさんと比べて、という事であれば。」
「彼女を超えるだけの才はありませんでしたね。あの方々と比べれば、シグルド君ファルコ君の方が年若い事もあって、早々に抜けるでしょう。パウ君辺りと、同じ程度というところでしょうか。」
「それは、かなり恵まれているのでは。」

才覚という意味では、技への嗅覚という意味でセシリアを先にあげたのだが、トモエの評価項目はともかくオユキの評価という意味ではパウにしても才あるものなのだ。特に肉体という面では、少年たちの中でも抜けている。

「こちらの方の平均からは、やはり抜けているには違いないのですが、それに甘えがあるのが良くありませんね。」
「それは、また。」
「オユキさんの方でも、懐かしい顔と会ってという事もあったようですが。」
「そう、ですね。特にホセさんは今回始まりの町まで同行して頂きましたし、ホセさんの方でも前に銀食器を買ったお店ですね、その店主の方も誘っているようです。」

ホセにとっては残念と言ってもいいだろう。やはり馬車に関しては譲歩が出来ぬと、言質を与えることは出来ぬとオユキからこたと割ることになった。では、他に何かないかと考えた時にせっかく王都に向かうのだから、ついて来てはどうだろうかと。望むのであれば、門を使うときに同行してはどうかとそんな話を振ってみた。
勿論、彼らが運んでも良い物、与えられる僅かなものとして馬車一台分という制限は付くのだが、それでも一月かけなければならない所を、往復で始まりの町へと行く機関だけで済むのだ。
道中に関しても、公爵と同道できるのだ。安全度という意味では、彼らだけで整えるよりも遥かに保証された場でとなる。

「オユキさんが買い物を楽しむのは、魔国まで待たねばなりませんね。」
「いえ、トモエさんが喜ぶだろう、そう考えて物を選べたのなら楽しい時間だったかとは思うのですが。」
「その、各々見本を持ってきたりは。」
「残念ながら。時間があれば、ご用意いただけた物でしょうが、急な誘いとなってしまいましたから。」

許されるのであれば、色々と。それこそ、トモエの為に用意するのだから、拘りたいところではあったのだ。戦と武技の意匠ばかりではなく、過去間違いなくトモエが好んでいたと覚えている図案もある。そういった物の用意を頼んでみるのも良いかもしれないと、金銭に関しては、随分と余裕もあるのだから。そうした思考は、確かにオユキとしてもどうかと思うのだが。

「せっかくこうして整えたわけですし、使いどころがあるのならと考えていたのですが。」
「それこそ、王都に向かうまでの間に、いえ、それも日がありませんか。王都で時間を取ってというのは。」
「取れればいいのですが。いえ、用意を頂いている屋敷に、案内してしまえば。」
「あの、オユキさん。そこは言ってくだされば私が行いますからね。」

流石に信仰の子爵家が、連れ回す商人を誘って屋敷に止めて。挙句の果てには、それが見た目には異性である。それが良くないのは、オユキが解らずとも流石にトモエは分かるのだから。
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