憧れの世界でもう一度

五味

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23章 ようやく少し観光を

為すべきは

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オユキが屋敷の中で商人たちと公爵夫人の監視下で話しているころ。トモエは傭兵ギルドに、過去にそこで一悶着あった場へと足を運んでいる。では、この場で何を為すのかと言えば、昨日トモエに対して随分と熱量の高い視線を送った相手であったり、あれから、さて、どれくらいの事が変わったのかと確かめるために。

「狩猟者ギルドは、場がありませんからね。」
「それも、これから変えていくつもりではいるんだが、生憎とな。」

以前に、トモエに挑発されて激発していた者達、その一部とそれ以外にも幾人かが今はこうしてトモエの前に並んでいる。その相手にしても、名乗りを上げもしない。トモエにしても聞く気が無い。ただ、今はこうして以前も少し縁のあった傭兵ギルドの長、その人物の隣に立って向かい合うだけ。
実際に口にしたように、彼らと相対する場所を何処にすべきかと考えはしたのだ。
公爵から借りた屋敷に招いても良いのではないかと、広い庭もある事だしそれでも構わないではないかとトモエとオユキで話はしたのだが、生憎と時間が不足していることもあって今回はオユキが商人たちを招く場として使っている。では、狩猟者同士なのだから、狩猟者ギルドかと思えば生憎とそちらにそんな場所は存在しない。
確かに十分すぎるほどの敷地は誇っているのだが、訓練所を作るだけの余裕があるのならば倉庫を立てる。

「現状、既に不足は出ているようですからね。」
「ああ。こいつらの努力もその一助だからな。」

懐かしい顔が、トモエの言葉が正しいのだとそれを示す。生憎と今回領都に来てからというものの、町の外に出向く時間はなく、観光としては片手落ちとトモエが思わざるを得ない結果となっているのだが、こうして昨日の川下り、今日の傭兵ギルドの随分と熱が入った訓練、此処に来るまでに、傭兵ギルドの前で見た、これまでは見る事も無かったような明らかに狩猟者とわかる者達の出入りであったり。変化を示すものがあまりに多い。
それも、嬉しい方向に。

「まぁ、あんたらが切欠を作った、それは分かっちゃいるんだがな。」
「ああ。」
「いえ、切欠など所詮は切欠です。継続しなければ、今皆さんが感じる様な、そうした変化は得られ得ていません。」

オユキは、報告としては聞いていた事ではある。少年達からも話を聞いていた。
町の人々が、狩猟者を見る目が変わり始めているのだと。それは、最初はとても小さな変化だったと、そんな事をシグルド達も言っていた。オユキも確かに喜んでいた。だが、それを己の成果と結び付ける事が叶わぬのが、やはりオユキの抱える自己評価の低さと言えばいいのか。
トモエとしては、それを己が口にしたところでではトモエのおかげなのだろうとオユキが認識するのではないかと、これまで口に出してはいなかった。それも一因ではあるのだが、オユキがなした事というのはトモエ以上に多い。広く分け与えようと、少しでも狩猟者の現状を改善しようと考え、手を尽くしたのはオユキだ。トモエとしては、それこそ己の懐にいる者達が、手の届く範囲にいる者達に対してとしか考えない。
見知らぬ誰かなど、やはり知ったことではない。

「正直な所、感謝している。これまでは、どういやいいかもわからんが、まぁ厄介者だったからな。」
「オユキさんは、確かにそのように感じている風でありましたね。」

オユキが考えていた事、それに対して手を打ったこと。

「まぁ、なんかあったってのは分かるさ。魔石の値段も上がった、俺らの生活もかなり余裕が出来た。」
「魔石の値段の高騰ですか。そちらはそちらでまた別の懸念はあるのですが。」

これに関しては、トモエが聞かずともと考える部分はあるのだが、オユキからはそれとなく情報も集めてきてほしいと、そのような事を言われているためこれも後で聞きだしておかねばならないだろう。オユキの下にまで情報が届くころには、またある程度平らになった物が届けられるのだ。
平というのも、何も数字を均してというばかりではない。
担当者が、職務として与えられた物がその職責をもって対応を考え、そのために手を打ったうえで今後どうなるか。そうした部分までを含めての情報だ。元来報告書というのは調査書ではない。オユキが受け取るのは、今後は報告書でしかないというのは流石にトモエにも理解が及ぶからこそ。

「懸念って、なんかあんのか。」
「物価が上がるというのは、その、私も正直詳細は分かりませんが相応に面倒を引き起こしますので。」

インフレが、これから巻き起こる予兆がすでに出始めている。
ただ、此処でわざわざ不安の種を蒔く必要はない。寧ろトモエが彼らと向き合うと決めたのは、それを払う為でもある。

「ですから、まぁ、皆さんの今後が重要でもあるわけです。」
「重要ってのは。」
「魔石の供給量を増やさねばならないわけですね、とにもかくにも。」
「まぁ、値段を下げるってことを考えるなら、それもそうなるか。」

おや、今こうして話している相手は思いのほか話が分かるのかと、トモエとしてはそんな感想を。ただ、考えてみれば、要は個人事業主として生きているわけでもあるのだから、そうした感覚は確かに持ち合わせるものだろう。トモエにしても、己の道場の運営という部分に父が亡くなってからは目を向けざるを得ず。それまでの間に、かつてのオユキがどれだけの事を為していたのかそれが良く分かった。

「さて、それでは。話してばかりというのも、退屈でしょう。」

こうして、此処に集まったのは、トモエに向けて挑む意思がある者達ばかり。かつて腕をへし折る事となった相手が、今も変わらず好戦的な表情を崩しもしない。それでいて名乗らぬ当たり、品が無いと感じ無い辺り、未だに存在する明確な差を既に理解しているだろうに。
本当に、懐かしい気風だ。
シグルド達にしても、そうした部分を持ってはいるのだがそちらはどうした所でまだまだ幼い感情だ。迷いも多分にある。シグルドだけは、ただただ純粋に、かつてのオユキがそうであったようにトモエに届けと、その背を超えて見せるとばかりに励んでいるのだが、この場に集まっている者達は叶わぬと分かっていながらも、やはり一泡吹かせて見せようという者達ばかり。己の成長を示そうと、そうした気配を隠しもしない者達ばかり。

「前回と同じ流れとしてもかまいませんが。」
「それは、流石に舐めすぎじゃないか。」
「そんな事はありませんよ。皆さんがそうであったように、私の方でもそれは得た物が多くありましたから。」

この者達を相手に武技を使えば、凄惨な場が此処に現れる事は想像するまでもない。
今のところトモエの一太刀を、武技を使って叶えた物を防ぐことが出来たのはアイリスの祖霊三狐神とアベルだけ。勿論それ以外の相手に振るって試してなどという事は無いのだが、それでも前者の剣を掛けさせることには成功しているし、アベルの立てにも相応の斬撃痕を付ける事が適った。後者とて武技を使っていたにもかかわらず。

「話には聞いちゃいるんだけどな。」
「話だけしか聞いていない、そちらが正しいものでしょう。どうした所で、距離がありますからね。」
「それなんだが、なぁ。」

正直、観光としてももう少し時間が取れるのならば此処領都でも久しぶりに魔物を狩ってみたりと、そうしたことも考えていた。始まりの町では、どうしても少し町から離れなければ、既に歯ごたえがあると言えばよいのか、片手間に相手をしてどうとでもなる魔物以外がいない。領都であれば、やはり少しの距離を移動すればまた変わってくる。このあたりが、魔物の強度が、試練として与えられる物の強度というのがやはり色々と違う。

「聞いた話だと、王都で迫る魔物を撫で斬りにして、始まりの町でもいよいよ一振りで纏めてとか、そんな話らしいが。」
「そうですね。流石にそれだけでは誇張かどうかわかりませんが、ええ、そう評してよい事は行いました。一応前者は私だけではなく、アベルさん、始まりの町の傭兵ギルドで長をされていた方も伴っての事でしたが。」

加えて、領都でも試し切りなどと嘯いて、それはそれは乱獲などもしていたのだが。

「こっちでも、なんかやったとかは聞いちゃいるんだがな。」
「ええ。少々はしゃいだことがありました。お恥ずかしい。」
「あの頃も、それを聞いてりゃとは思ったがな。ま、多分変わって無かったろうな。聞いたところで見ても無けりゃ信じなかったろうさ。」

それが出来るだけの、明確な何かが彼らには無かった。
どうした所で、初めて会ったころのシグルドと同じように薄い魂ではまともな判断が難しかったのだろう。以前は、彼らにしてもどこか茫洋とした視線であったのが、ここに来て何やら随分と熱が籠っている。そうした状況を、オユキは刷り込みに近いのではなどと評していたが、確かに此処まで真っ直ぐな視線を向けられれば、確かにそれに応えようとそんな感情もトモエは持つ。

「だから、今回はそれぞれでも構わないか。今となっちゃ、あんたにしてもかなり忙しいってのは分かっちゃいるが。」
「ええ、構いませんよ。そのために時間を取ると、場を用意してもと考えましたので。ですが、そうですね。」

一対一でも構わない。彼らがそれを望むのであれば。だが、その前にトモエとしても示しておくべきと考えるものがある。こうして会話をする中で気分が変わったと言っても良い。
随分と懐かしい熱を、感じさせてくれるものだと。少年達では、やはり不足が多い。それは見た目という部分も含めて。まだまだ成長期の子供たちだ、それを相手に流石に怪我をしてもいいなどという前提が存在する訓練を行ったりは、トモエも考えていない。

「前回と同じ流れとしましょうか。いえ、同じ流れでは、ありませんね。」

そう一言呟いて、トモエが気楽に見える様に前に踏み出す。そこで経過が出来たのは、トモエの隣に立っていた傭兵ギルドの長、それと護衛として付けられている物の一人。以前は公爵の護衛をしていた人物であり、こちらもこの機会にと考えての事もあるのだろうが。

「それを望むというのに、全く。何を待っているのです。」

合図を待つというのならば、これがそうだと。
とりあえず、トモエは己の前に立つ相手に容赦なく前蹴りをたたき込んで後ろにそのまま転がす。
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