憧れの世界でもう一度

五味

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23章 ようやく少し観光を

デザートを食べながら

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色々と、そう色々と話をしながら食事を進めていけばいよいよ食事もデザートに。並べられた物は、流石に常日頃カナリアとアルノーによって用意される一部を氷菓にされている物とも違い、名産だろうチーズが主体となっているクリーム状の物。クレマカタラーナ、カタラーナ地方のクリームと呼ばれる物の亜種にはなるのだろうそれを、ゆっくりとスプーンで口へとオユキは運ぶ。
フルコースというのは、やはりオユキにとっては重たい。
脂がどうこうという話ではなく、単に量がどうしても多く全てを食べきろうと思うとかなりの無理をしなければならない。他者の目が、一応使用人の目はあるものの常日頃の事であるため、オユキからトモエにとあれこれ回してようやくと言った所なのだ。

「もう少し、食べられるようになればとそう考えてしまうものですが。」
「そうですね。」

そんなオユキの様子をつぶさに見ているトモエとしても、過去と比べてやはり不安を覚えるものがある。小食にもほどがある。それで現状問題が起きていない以上は、恐らく大丈夫だとトモエとしても判断しているしアルノーも同様。ただ、オユキ本人がもう少しではなく、もっと身長や体重が欲しいというのであれば、やはりこの程度ではというものなのだ。体の成長を望むので有れば。

「一応、カナリアさんとアルノーさんがマルコさんに相談したそうなのですが。」
「それですか。私も結論だけは現状聞いていますが。」

マルコから見ても、オユキの食事量は少ないと感じる物であったらしい。彼の瞳に映るオユキの姿、そこにマナの不足は一仕事を終えた時には欠落を感じるらしいのだが常の事では無いというのが、また難しいものであるとか。いよいよもって原因が分からないのだが、とにかく成長するには、体に対して更なる変化を求めるのであれば少なくとも日々の活動に十分以上の栄養をため込まねばならない。
かつての事ではあるのだが、成長するころには当然のように食欲が増していたものだ。しかし、オユキにしても日々極僅かならも成長が、それこそ久しぶりに袖を通した服が、繊維が縮んだという事が無ければ確かに成長しているはずなのだ。この流れが、多少なりとも加速してくれとそう願わずにはいられないのだ。

「以前は、ラズリア様に頼みましたが、今回のような事があるのならばやはり私が主体となるでしょうし。」

どうにもオユキとしては今の己の格好、背丈は低く華奢な作りの体躯で盛装を着込んでいるとやはり不似合いだなとそんな感想ばかりが脳裏をよぎる。これで単独で、巫女として単独での振る舞いが基本となるのであれば少しは、それこそこういった格好は己だけであるというのであれば納得も行く。しかし、現実と言えばいいのかやはり基本はアイリスとセットで扱われることが多いのだ。

「アイリスさんと並ぶとなると、どうしても比較の目にさらされるでしょうから。」

これでアイリスの方も相応の見た目であれば良かったのだが、やはり並ぶとなれば親子ほども差があるのだから。

「アイリスさんは、確かにあの隣に並ぶとなれば。」
「ええ。」
「その、オユキ様も十分以上に愛らしいお姿かと思いますが。」
「その言葉が、事実そのままでなければまだ良かったのですが。」

オユキからはただため息が。
トモエとしても、どんな言葉も慰めになりはしないだろうと、そんな面持ちで。生前から、自身に対してオユキはそれなりの自負はあったのだ。見目が良いかと言われたのなら評価は難しいのだが、清潔感はあったし上背もあった。誰かと礼装で並んで見劣りすることがあったのかと言われれば、当然そんな事は無かった。散々にトモエの下で、トモエの父の下で鍛錬で絞られていたこともあり長身痩躯でも中肉中背でもない、程よく引き締まった体でスーツを着込めばやはり相応以上に見るべき相手とそう見えるものなのだから。

「衣装とは合っていないのかと言われれば、アイリス様よりはお似合いかと。」
「それは、確かにそうかもしれませんが。」

カレンの言葉には、見た目、今のオユキの見た目にはよく似合っているそうした色が含まれている事がやはり気になるのだ。

「と、言いますか。オユキ様は意外と己の見た目という部分を気にかけられているのですね。」

ただ、それに対してカレンが追加で放つ言葉というのは、そうしたことを気にする割には服装であったり装飾であったり。そうした物を一切気にしないではないかと。それは、流石に筋が通らないのではないかとそうした言葉。

「どう言えばいいのでしょうか、職務として比較が発生するのであれば、それは流石に気にしますとも。」
「あの、違いが良く。」
「説明というのは、また難しい概念となってくるので。そうですね。」

極端な話、職務として着るのは制服だ。それを着た上であまり差が出るというのは、オユキとしても望むところではない。勿論、アイリスの用紙が特別優れていると感じるのは確かなのだが、それと並んでみすぼらしさを強調されると言えばいいのか、いよいよ引き立て役としかならないのはなかなか忸怩たるものがある。特にこの見た目は生まれながらに得た物ではなく、トモエが思いを込めてつくったものなのだ。
それを、他者から見た時にというのは、やはりオユキとしても認めがたい。

「オユキさん、私を気にして頂けるのは嬉しいのですが、流石にこちらの方々と比べてとなると。そもそも生前からして、私達の地方で暮らしている者達は。」
「それは、そうかもしれませんが。」
「良いではありませんか。あるがままで。」

トモエが分かっていないとは、オユキもやはり考えていない。しかし本人がそれでも構わないと、そう言うのであれば。オユキとしても、確かに此処までのトモエの行動を思い返してみれば、心当たりというものもある。ならば、馬子として振舞って見せるのも悪くは無いだろうとここに来て漸く。
ただ、それでも。

「今のままだと、色々と不利が多いのですよね。」
「そればかりは、仕方が無い物でしょう。」

だからと言って、戦いの場でこのままでよいのかと言われればやはりそうでは無いのだ。

「その、オユキ様にしても今のままでもかなり優れていると、そのようにお見受けしていますが。」
「いえ、どう言えばいいのでしょうか。流石に生前に培った技を全てなどというのは望みすぎと分かる物ですが、それでも不足を感じる事は多いのです。」
「そうですね。天凛であるとはいえ、だからこそ明確な有利不利がそこには生まれますから。」

生来の物、そればかりは流石にどうにもならぬ。

「有利不利、ですか。」

ただ、シェリアがひっそりと頷きを作るのに対して、カレンがどうにも納得がいかぬとそのような様子を見せている。

「私の体躯では、出せる力というのは何処まで行っても限られます。」
「そうですね。やはり体重を使うと考えた時には、抑え込む側とされる側、そこにはあまりに分かりやすいものがありますから。」
「ですが、こちらでは加護もありますが。」
「では、同じ程度の加護を得ていたとすれば、どうでしょうか。もしも、加護が全く得られぬ状況を得たのならば、どうでしょうか。」

加護に頼り切る気など、さらさらない者達からカレンに対して。そう口々に募られれば、彼女も何も言い返す言葉が思いつかないようであるらしい。確かにこちらで暮らす者達にとってみれば、加護というのは間違いなく己のこれまでが神々に見泊まられての物である。それに対して感謝を覚えこそすれトモエとオユキのように露骨に疑うといった事など在りはしまい。こうした世界に対して、確かに独特と言えばいいのか、受け入れにくい精神性ではあるのだろう。

「極端な話をすれば、私にしてもトモエさんにしても、こちらで騎士として、間違いなく上澄みとされる方々に対しても加護の無い状態で有れば負ける事がありません。」

少なくとも、それに関しては既に大会という大舞台で示して見せた。

「また、同程度の加護、生憎とそれに関しては計る術もない身としては難しいのですが、大量のトロフィーをこれまで得たのだと、未だに魔物を選べば得る事が出来るのだという事実を鑑みて頂けば、如何程のものかというのも分かるでしょう。」

そして、常の事であるのならばそれこそここまでの狩猟の成果というのがそれを示している。
明確に差が生まれるのだ。加護を与える、その立場の者達から見てもそうせざるを得ないだけのものが存在している。それこそ、既に戦と武技の神より確かな言葉を得ているのだ。その結果というのが、この公爵の領都でも簡単に見て取れる。

「この領都に入って来る時にも、少し通りを歩いた時にも見えた物がありますから。」
「それは、その、狩猟者の方たちばかりといううわけでは無く。」
「はい。やはり機を見るに敏と言えばいいのでしょうか。統治者、管理を行う立場の方々というのは、聡いものです。」

そこにはこれまで見る事も無かったものたちが、明らかに狩猟者という訳ではない、随分と仕立ての良い服装に過分なと言っても差し支えない装備を身に着けた者とて、町の外で魔物を追いかけまわしていた。周囲にそれなり以上の護衛が散り、そういった者達の為に魔物の数を調整し、そして不足しているところに向けて追い込んでいく。どうにもトモエとオユキに付けられている相手に比べれば、やはりその辺りの技術に差は見て取れるのだが、それでも十分すぎるほどの結果をそれぞれにもたらしている。
トモエとオユキのようにトロフィーが散乱するといった事は無さそうではあったし、まだまだ体力も足りないのだろう。側に置いた荷車や馬車にそれなりに積み荷を積み上げて、随分と意気が上がっている様子なども見て取れた。

「今後は、加護を得るための術がこうして広まったこともあり、より流れは加速していくことでしょう。」

トモエにしても、オユキにしても。それを確かに願った上で、此処までの日々を過ごしてきたのだから。

「私たちに過剰な加護が、そう見えるのは流れを作ったこと、それに対してなのでしょうね。」

随分と会話は最初から見ればそれてしまってはいるのだが、一先ずオユキは残った一掬いを口に運びながら。
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