憧れの世界でもう一度

五味

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22章 祭りを終えて

護衛をしながら

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「そういやさ。」
「何でしょうか。」

狩猟者ギルドでの一件から翌日。
周囲に散る採取者たちの護衛という体裁で、トモエはこうして少年達と連れ立って町の外に出てくることとなった。一体どうした物が足りないのか、その辺りには興味が無かったため、一先ずそう言う話があり依頼としてギルドからと聞けば、必要な事は終わりと切り上げて。
戻ってから、こうした話があったのだと改めてオユキと話してみればオユキの方でもカレンから緊急でと受け取った封書に書かれていたとそう応えた。ならば解消のために力を尽くそうと、一先ずそのように方針は決まったのだが。

「これって、なんで急に集めてんだ。」
「その、授かりものを得た方が多くてですね。」

さて、少年たちに何と説明した物か。
こちらの世界観では、果たして何を言うべきか。このあたりは、トモエにとってもなかなか難問ではある。

「あー、そう言う事か。」
「だとすると、教会も忙しくなるのか。」

しかし、幸いな事に迂遠な表現でもきちんと伝わったようで、少年たちが正しくトモエが何を言わんとしていたのかを理解する。

「ああ、皆さんは流石に理解がありますか。」
「まぁ、しょっちゅうって訳じゃないけどたまに来るしな。」
「だが、そうなるとアドリアーナたちはまた忙しくなりそうだな。」
「それは、まぁ、そうなるのですよね。」

正直な所、月と安息には少年たちにまず向かってもらう事になる。アナは当然行くものとして、残りの人員はまたそれぞれに選んでもらうか、若しくはロザリア司教に任せるか。あちらを立てればこちらが立たず、なかなかに難儀な事にはなっている。これで万が一にももう一つ門を作るための種が得られていたのならば輪をかけて大変な事になっていたには違いない。その辺りは、流石にオユキも欲張りすぎたと反省をしていたのだが。

「ただ、なぁ。」
「ああ。月と安息の神殿には向かう。来月だったか。」
「そこまで、話が進んでいるのですね。」

どうした物かとトモエが考えてみれば、既に決まったことだとパウから。

「あー、司教のばーさんがどうしてもってさ。月と安息の巫女様も、あんちゃん達の馬車があるだろ、あれ借りてって。」
「それは、勿論お願いするわけですからお貸しすることには問題ありませんが。」

この町に、アナに後を任せようと考えて巫女が今も教会で暮らしている。どうにもなかなか厳しい人物であるらしく、たまに会うときにはアナが年に似合わぬ表情で遠くを見ていたりもするのだが、彼女にしてもそろそろ迎えが来ると考えての事なのだろう。これが最期の仕事だと。そう考えているのは当然トモエにも理解はある。

「そっか。なら、そう伝えとくさ。」
「ええ、お願いしますね。」

間に合うだろうか、そうした不安がちらりと脳裏をかすめるが、まぁそればかりは司教と巫女、二人掛でどうにかして見せるだろう。何も巫女はそのまま神殿で息を引き取るような事も無いはずではある。老齢と見るからにそうした様子であり、己の終の棲家を決めているあたり、それを譲りはしないだろう。
後は、避けるべき事態はいよいよ事故となる。

「そうですね、アベルさんは難しいでしょうからルイスさんに率いてもらいましょうか。」
「あー、ルイスのおっさんか。確かに久しぶりっちゃ久しぶりだけどさ。」
「今は、かなり忙しいみたいだぞ。」
「それはそうなのでしょうが、アベルさんとローレンツ様もいますからね。」

ルイスも、いい加減に息抜きがいるだろう。それこそ、月と安息の領域、何やらホラーに分類される領域ではあるらしくそちらに向かう事が何か息抜きになるかと言われれば、トモエはそんな事は無いと言い切るのだが、無視も平気なようではあったし、アイリスと話しているのをちらりと聞いただけなのだが、そこでゾンビに詳しい様子も見せていた。ならば間違いなく経験者ではあるのだろうからと。

「おー。」
「私から、少し話をしておきましょう。」
「なら、そっちは任せるか。」

そうして互いの近況や今後の予定を話しながらも、周りに集まってくる魔物を適宜捌き続ける。一先ずは川沿いに生えているいくらかの素材を集めるとの事らしく、森の中に向かうような事は無い。
このあたりにいる魔物であれば、シグルドとパウにしても手慣れたもの。散々に狩ってきた魔物ばかりが現れる草原であれば、早々後れを取る事も無い。ついでとばかりにトモエとオユキに付けられている護衛も同行しており、また周囲には他の狩猟者の姿も当然ある。

「そう言えば、お久しぶりですね。」
「ああ。まさかとは思っちゃいたが、やっぱりそうだよな。」
「はい。色々と、本当に色々とあったもので。」

こちらに来たばかりの頃、随分と弓の扱いに長けていた狩猟者と並んでトモエが声を掛ける。何度か持ち帰った土産を振舞ったときにも顔を出していた人物ではあるのだが、こうして言葉を交わすとなればまた随分と久しぶり。

「まぁ、こっちも色々聞いちゃいるんだがな。」
「そういや、おっさん中級何だっけ。」
「ああ。一応な。」

そうして今も遠間にいる魔物を弓を使って適宜間引く彼は、護衛にしても随分とて慣れているように見える。的確に近寄る魔物の内、彼以外では対処が出来そうにいない物を選んでは矢を射かけていく。空から襲って来る魔物、それから少々遠くからこちらを伺うそぶりを見せた少々サイズの大きな魔物相手にしても。

「あの時も、新人たちを任される立場にある方なのだとは考えていましたが。」
「正直、お前らは新人って言う枠でも無かったがな。」

それこそ、下手な動きを見せれば後ろから打つ役割も持っていたのかもしれないが。

「とりあえず、そろそろですね。」

採取者は、既にそれなりの素材を集めている。正確な時間は分からないが、それでもそろそろ昼時。トモエとしても、屋敷に戻ってオユキと一緒に食事をしながらオユキを休ませなければいけない。間違いなく、トモエが戻らなければ、これ幸いと仕事を続ける事だろう。カレンでは流石に止める事も出来ないし、オユキも言葉を弄してなんだかんだと煙に巻く。医師のは二人は、それこそ今こうして持ち込む素材の処理の為に、今頃は忙しくしている事だろう。それ以前に、マルコとカナリアに相談に訪れる者達も多いと聞いているため時間が取れない。
アイリスはオユキに対してある程度は強く出られるのだが、やはりどこか一歩引いているしアベルに関してはいよいよ落ち込んでいるらしく。引きこもってなどという事は無いが、トモエ相手とローレンツが己が出来なかったことを成し遂げたため、今は人目を避けて鍛錬に励んでいる。近々開かれると聞いている、戦と武技の神の名のもとに行われる大会、競技会と呼んでも良いかもしれないが、それに向けて。今のままでは、彼がかなう相手というのは非常に少ないとそれをアベルにしてもようやく理解したのだろう。
次の大会は、隣国からも人が来る。広く民衆にも門を開くと聞いている。
国の威信をかけて、高々そこらの相手に負ける訳にはいかない。技を示すと言い切っているトモエとてそれは変わらないように見えるのだろうが、正直な所トモエは別に負けたところで構いはしない。この世界に対して、技を示すとそのために用意を願った場なのだ。アイリスだけではなく、トモエの願いもそこに。しかし、人の力を示す為の場で万が一トモエが負けたところで、それはトモエよりも優れた技を持つ者がいたとそれだけの話。

「ああ。そろそろ戻るか。」
「あー、もう戻んのか。」
「おう、どうした坊主。」

シグルドが、トモエの言葉に対して少し言いたげな事があるというそぶりを見せれば、直ぐに年かさの狩猟者が彼に水を向ける。

「いや、久しぶりだからさ。」
「あのな、護衛に来た人間が自分の都合を優先してどうするよ。」
「そうですね。」

そもそも今回はこうした仕事として出てきている。トモエとしても己の武器の為の素材をと考えないでも無いのだが、流石にそうした私欲に走らないようにと己を戒めている。ここには守るべき者達がいる。少なくとも仕事として引き受けている事がある。

「分かっちゃいるんだけどな。」
「その、また改めてというのは。」
「あー、なんか、それも違うって言うかさ。」

シグルドの方でも、何やら色々と考えている事があるらしく、それが何かとトモエがそれとなく別の方法もあるのだと話してみても、どうにも気乗りがしないといった様子。
彼にとっては、今この時間で行う事に何かしらの意義を感じてはいるのだろう。

「仕方ありませんね。」

一度取って返せば、トモエは屋敷に戻ると考えているのだろう。確かに、シグルドやパウと連れ立ってこうして狩りに出るのは久しぶりでもある。隣国から戻って暫く、少しの時間を確かに彼らと過ごしはしたのだがやはりそこに不足を感じているという事なのだろう。特に、次に向かう時期が彼らも近い。そこまでの間に、出来る事はと考えての発言であるには違いない。

「一度採取者の方を町まで送って、引き返してきましょう。」
「あー、いいのか。」
「ええ。」

護衛が終われば、そこから先は狩猟者として、個人としての振る舞いを取っても問題は無い、はずだ。
どうにも、ブルーノ相手はよくわからなかったのだが、こうして子供相手であれば何を考え、何を望んでいるのかというのは分かりやすい。これまで触れ合ってきた相手、その経験が生かせる相手とそうでは無い相手という事なのだろう。

「ただ、月と安息の領域の魔物はこのあたりの魔物とも違うのでしょうが。」
「あー、そういやそうらしいんだよな。」

護衛をしている最中も、何処か集中できていないとそのような顔ではあったのだが、トモエが一先ず約束したからだろう。シグルドも今となってはきっちりと周囲に意識を向け始めている。手癖で倒せる相手で良かったと言えばいいのか、そうした振る舞いが出来るほどに成長したと言えばいいのか。
一先ず、この後の時間で、戦場に立つための心構えは改めて叩き込んでおこうとトモエは考える。
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