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21章 祭りの日
死合の日
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フスカが何かをするたびに、炎熱が巻き起こる。オユキは都度それらを封じるためにと、自身の脳裏に浮かぶ魔術文字へとひたすらにマナを注いではそれらを封じる。いずれどころでは無く、今まさにオユキは己の持つ資源が枯渇しそうになっているのを感じながら、ただひたすらに。繰り返して、繰り返して。
「そろそろ、限界も近そうですね。」
当然、そうした無理というのは相手にもよくわかっているらしい。
所詮は人。下位の生命。土台己には届かぬと、実に分かりやすい慢心があり、オユキに対して攻撃をすることなく、ただただオユキの振る刃だけを弾きいなしている相手から。
それに対して、どうにか返答を等とも考えてはみるオユキだが、既に息が上がる一つ前。随分と長く集中を深めていることもあり、体には汗が流れ、動きに合わせて周囲に散り始めている。オユキの周囲は確かに温度が低いのだが、それでも動き回れば汗をかく。封じたとはいえ、オユキの側を通る炎熱に炙られる。
加熱されては、冷却する。なかなかの無理をこうして押し通している。
このままでは、先がなさそうだと、確かにそれもオユキは理解しているのだが決め手に欠ける。このまま、ただ何事もなく過ごすのだとすれば。
「はい。それは、間違いなく。」
だからこそ、フスカに向ける言葉は彼女の発言を認める物に。
「あなたの想いは理解できました。この私に挑むのです。十分な結果ではあるでしょう。」
そして、フスカから見ても今のオユキは相当無理をしていると見えるらしい。
「心配は無用に願います。」
ただ、そうした侮りについては、オユキから返すものなど決まっている。既にここまで時間を使い、相手はオユキの行動と言えばいいのか、攻撃には色々と限界があるとそう判断している。目には確かな慢心の色、呆れを含んだ声音。随分と集中を深めていたのだが、それとて既に限界に近い。人が集中できる時間には限りがある、それが今更ながらによくわかる。
振るう刃は精度が落ちてはいない、使う魔術にしても十分すぎる程。ただ、持って後数十秒。
こうなるまでに、既に数分経過している。戦闘と、仕合と考えればあまりにも長い。これがトモエ相手であり、刀を振るうだけであればさらに時間は伸びるのだろうが、どうした所で今は他に気にすべきことも多い。自身だけでなく、周囲の者達。舞としての所作を維持するためにも気を払わなければならない。難易度は、元より高いと知っていたのだ。だからこそ、意固地になっているなと自分で自分を評している。
「ですが。」
そう、油断を誘いはした。しかし、相手は随分と目がいい。反応速度にしても、何やら妙に早い。
ならば、どうあがいたところでつけ込む隙は今以上の物は無いだろう。
相変わらず、屋内で少し高い位置に浮いているフスカめがけて飛び掛かる。そのついでに、剣を一本手放して。相手に向かって投げるのも一つではあるが、屋内であり、周りには観客がいる。その手段はとれない。上に向かって投げればという事も考えないでもないが、そうなると今度はオユキの手元にも出ってくるかがわからない。だからこそ、その場に落とすように。そして、身に着ける衣装に仕込んでいた暗器を。
「成程。」
ひらひらとオユキの腕の後をついてくる飾り布。その裾に仕込まれている笹針を手に取りこの機を逃すまいとオユキはフスカとの距離を詰める。それに対応するためか、更に間合いが縮んだと考えたのか、フスカにしても手足や翼を使ってオユキに対して炎を放つことを一度止め、受け止める体勢に。
ならばとばかりに、オユキはそこに切りかかり、相手の想像通りか見事に膠着状態へと。
「そんなに近づいて。」
そして、相手はそれこそ望んでいたことだと。これまでは、フスカの側に留まる事を良しとしなかっただろうと。
「ええ。」
「分かっていたからと考えていましたが。」
「それでも、届かせるためにやらねばなりませんから。」
フスカの側は、オユキが周囲に対して氷雪をばらまくように、ただただ炎の熱が。太陽の如き目を焼く光が零れている。近づけば、オユキは被害を受ける。しかし、フスカにオユキの技術は、借り物の暫く己の内に留めていた氷だけでは到底及ぶはずもない。祖霊その物であればまだしも、場を作る者達に合わせて大いに劣化した存在。その力の一部。そんなものが、当然このフスカという翼人種の長、祖霊であるかつて存在した世界の創造神から認められ連れてこられた存在に届くはずもない。そう、そんな事は分かり切っている。
ふっと息を吐くように、近づいたからこそ事前に口に含んでいた針を吐いて飛ばす。狙いは生き物であれば鍛えようもないだろう眼球へ。フスカにしても、目を使って色々と見ている以上は、そこに向かって含み針を飛ばせば、多少なりとも反応が、避けるなり目を閉じるなりするだろうと。
こうして言葉を交わす余裕がある、それが出来る程度にはオユキもなんだかんだとこういった武器に馴染んでいる。義父から習い始めた頃には、正直無理だろうなどと考えていたのだが、要は長さと口内の何処に位置させるか。慣れるまでは、時折口内で刺さって怪我などもしたものだが。
そして、狙い通りの事が起こる。
フスカが、ここに来て目を閉じ、そして体を大きく捩じるような動きを。
「ここですね。」
そして、オユキは手にした笹針を、フスカの掌に向けて。狙いは過たず、捩じるからだ、相手の力も利用して、確かに肉を抉る感触がオユキの手に返ってくる。ただし、その結果としてオユキの方も相応に。
笹針を突き刺すために、オユキの方もそれなりに力を入れてフスカの掌に向けて突き込んだ。それこそ、直ぐに次につながる動きが取れなくなるほどに。その結果が、刺さった反射としてだろう。容赦なくオユキの腕をフスカのかぎづめが掴み、肉に食い込む。
「本当に、まさかと言えばいいのか。」
フスカが、オユキの腕をつかんで地面に向けてたたきつける。オユキはそれに逆らう事も出来ずに、肉が抉られ笹針を握っていた腕は最早役に立ちそうもない程度には派手に怪我を。加えて、本来であれば派手に出血をしそうなものだが、肉が焼け傷口も早々に燃やされているために出血は止まっている。
「私が、あなた程度に。」
「侮りましたね。」
そして、どちらがより被害を受けているかと言えば、それはオユキに他ならないのだが、それでもただ笑って。
「繰り返しますが、トモエさんをあなたは傷つけました。私は、それを許す気はありません。」
「あなたにこれ以上を行ったのなら、今度はそのトモエが、ですか。」
「それこそ、比翼の理でしょう。ただ、まぁ。流石にトモエさんには隠しますが。」
オユキがトモエの為に怪我をする、酷い結果を得る。それを当然トモエは望まない。そんな事はオユキも分かっているからこそ、今度の事はトモエがいない場で行う必要があったのだ。
「成程。まさにその通りなのでしょうね。己の番を、対の羽を傷つけたというのなら、残された羽は確かにそれを。」
「ええ。後は、胸元、でしたか。」
掌は、これでまぁ五分としてもいい。オユキの方ではもはや片腕は使い物にならない。掴まれ、たたきつけられた結果として。右手に飾られていた袖は既に引きちぎられて、そこらに落ちているし、オユキの腕もまぁ、しっかりと火傷どころか黒く炭化している。抉られた肉が、何処に跳んだか迄は分からないし、知りたくもないが。加えて、集中力はとうに使い果たし、今となっては無理に痛みを無視するために随分と意識を向けているために周囲はすっかりと色を取り戻している。フスカ以外の声も、耳に届き始めている。
最早、先ほどまでの性能は己に望めはしまい。
既に、自身の内に確かに感じていた他の力というのもすっかりと使い果たしている。だが、その程度で諦める気など、やはりオユキには無い。
昨夜、少女たちに話した。シェリアにも、頼んだ。
トモエを傷つけたのだから、同じだけを相手にも間違いなく。
「果たして見せましょう。」
「全く、いよいよ度し難い。」
「何と言われようとも、私はそれをやり遂せましょう。」
「では、あなたを私の炎は容赦なく焼く事でしょう。トモエも同様。」
あらゆる煩悩を、一切の酌量なく焼き捨てる炎。それを司る存在に使えるのだからと。オユキの放つ氷雪、足元は氷で覆われ、オユキの周囲、他の観客がいる場所にも氷の結晶が降り積もっているようではあるが既にフスカの周囲にはオユキがとらえきれぬ炎が塊としていくつも浮いている。
「煩悩を焼くのでしょう。ですが、私に向ける物、トモエさんが己であるために持つ物。それらを焼くというのであれば、私はそれを認める気はありません。」
「いいでしょう。ならば我が祖、その力を確かに受ける者としてあなたの欲をも裁きましょう。」
フスカの宣言と共に、オユキに向けて炎が飛ぶ。それらをどうにか片手で剣を振り、変わらず中空にも足場を作り。それでも足りぬ炎にどうにか魔術で造った氷をぶつけ。既に立場は逆転している。フスカは最早オユキを追い詰めようと、容赦なく焼き捨てようと力を放ち始めている。これまでは、何処か楽し気に届くかどうかを試そうと考えているかのように受けの姿勢を取っていたフスカが、今度は容赦なく攻撃をオユキに向けている。
「良く逃げますね。」
「ええ。」
しかし、集中は最早限界。生きは既に上がっているし、フスカの放つ熱というのは、容赦なくオユキから体力も奪っていく。オユキの願いを、トモエに付けられた傷をフスカにも与えようというのならば、もはや然したる猶予もない。燃料が、オユキ自身に存在する資源が枯渇すれば、立っている事もままならずただ地に伏せることになるだろう。そして、フスカはその隙を見逃しはしないだろう。疲れ、足を止めたオユキを、もはやオユキを敵とみなしたフスカは容赦なく彼女の力で、炎で包んで見せるだろう。その結果は、まぁ考えたくもない。全身やけどで済めばいい。それほどの差が、確かに此処には存在している。
「オユキ様、僭越ですが。」
だが、此処にはオユキだけではないのだ。宙を舞うフスカがオユキを追い詰める様に炎を放つ。フスカはただオユキだけを見ている。だからこそ、飛び込んでくるシェリアに対応できない。
「主の望みを、今は私が叶えましょう。」
オユキが既に置いておいた剣を、シェリアが握ってフスカを切り裂く。
「そろそろ、限界も近そうですね。」
当然、そうした無理というのは相手にもよくわかっているらしい。
所詮は人。下位の生命。土台己には届かぬと、実に分かりやすい慢心があり、オユキに対して攻撃をすることなく、ただただオユキの振る刃だけを弾きいなしている相手から。
それに対して、どうにか返答を等とも考えてはみるオユキだが、既に息が上がる一つ前。随分と長く集中を深めていることもあり、体には汗が流れ、動きに合わせて周囲に散り始めている。オユキの周囲は確かに温度が低いのだが、それでも動き回れば汗をかく。封じたとはいえ、オユキの側を通る炎熱に炙られる。
加熱されては、冷却する。なかなかの無理をこうして押し通している。
このままでは、先がなさそうだと、確かにそれもオユキは理解しているのだが決め手に欠ける。このまま、ただ何事もなく過ごすのだとすれば。
「はい。それは、間違いなく。」
だからこそ、フスカに向ける言葉は彼女の発言を認める物に。
「あなたの想いは理解できました。この私に挑むのです。十分な結果ではあるでしょう。」
そして、フスカから見ても今のオユキは相当無理をしていると見えるらしい。
「心配は無用に願います。」
ただ、そうした侮りについては、オユキから返すものなど決まっている。既にここまで時間を使い、相手はオユキの行動と言えばいいのか、攻撃には色々と限界があるとそう判断している。目には確かな慢心の色、呆れを含んだ声音。随分と集中を深めていたのだが、それとて既に限界に近い。人が集中できる時間には限りがある、それが今更ながらによくわかる。
振るう刃は精度が落ちてはいない、使う魔術にしても十分すぎる程。ただ、持って後数十秒。
こうなるまでに、既に数分経過している。戦闘と、仕合と考えればあまりにも長い。これがトモエ相手であり、刀を振るうだけであればさらに時間は伸びるのだろうが、どうした所で今は他に気にすべきことも多い。自身だけでなく、周囲の者達。舞としての所作を維持するためにも気を払わなければならない。難易度は、元より高いと知っていたのだ。だからこそ、意固地になっているなと自分で自分を評している。
「ですが。」
そう、油断を誘いはした。しかし、相手は随分と目がいい。反応速度にしても、何やら妙に早い。
ならば、どうあがいたところでつけ込む隙は今以上の物は無いだろう。
相変わらず、屋内で少し高い位置に浮いているフスカめがけて飛び掛かる。そのついでに、剣を一本手放して。相手に向かって投げるのも一つではあるが、屋内であり、周りには観客がいる。その手段はとれない。上に向かって投げればという事も考えないでもないが、そうなると今度はオユキの手元にも出ってくるかがわからない。だからこそ、その場に落とすように。そして、身に着ける衣装に仕込んでいた暗器を。
「成程。」
ひらひらとオユキの腕の後をついてくる飾り布。その裾に仕込まれている笹針を手に取りこの機を逃すまいとオユキはフスカとの距離を詰める。それに対応するためか、更に間合いが縮んだと考えたのか、フスカにしても手足や翼を使ってオユキに対して炎を放つことを一度止め、受け止める体勢に。
ならばとばかりに、オユキはそこに切りかかり、相手の想像通りか見事に膠着状態へと。
「そんなに近づいて。」
そして、相手はそれこそ望んでいたことだと。これまでは、フスカの側に留まる事を良しとしなかっただろうと。
「ええ。」
「分かっていたからと考えていましたが。」
「それでも、届かせるためにやらねばなりませんから。」
フスカの側は、オユキが周囲に対して氷雪をばらまくように、ただただ炎の熱が。太陽の如き目を焼く光が零れている。近づけば、オユキは被害を受ける。しかし、フスカにオユキの技術は、借り物の暫く己の内に留めていた氷だけでは到底及ぶはずもない。祖霊その物であればまだしも、場を作る者達に合わせて大いに劣化した存在。その力の一部。そんなものが、当然このフスカという翼人種の長、祖霊であるかつて存在した世界の創造神から認められ連れてこられた存在に届くはずもない。そう、そんな事は分かり切っている。
ふっと息を吐くように、近づいたからこそ事前に口に含んでいた針を吐いて飛ばす。狙いは生き物であれば鍛えようもないだろう眼球へ。フスカにしても、目を使って色々と見ている以上は、そこに向かって含み針を飛ばせば、多少なりとも反応が、避けるなり目を閉じるなりするだろうと。
こうして言葉を交わす余裕がある、それが出来る程度にはオユキもなんだかんだとこういった武器に馴染んでいる。義父から習い始めた頃には、正直無理だろうなどと考えていたのだが、要は長さと口内の何処に位置させるか。慣れるまでは、時折口内で刺さって怪我などもしたものだが。
そして、狙い通りの事が起こる。
フスカが、ここに来て目を閉じ、そして体を大きく捩じるような動きを。
「ここですね。」
そして、オユキは手にした笹針を、フスカの掌に向けて。狙いは過たず、捩じるからだ、相手の力も利用して、確かに肉を抉る感触がオユキの手に返ってくる。ただし、その結果としてオユキの方も相応に。
笹針を突き刺すために、オユキの方もそれなりに力を入れてフスカの掌に向けて突き込んだ。それこそ、直ぐに次につながる動きが取れなくなるほどに。その結果が、刺さった反射としてだろう。容赦なくオユキの腕をフスカのかぎづめが掴み、肉に食い込む。
「本当に、まさかと言えばいいのか。」
フスカが、オユキの腕をつかんで地面に向けてたたきつける。オユキはそれに逆らう事も出来ずに、肉が抉られ笹針を握っていた腕は最早役に立ちそうもない程度には派手に怪我を。加えて、本来であれば派手に出血をしそうなものだが、肉が焼け傷口も早々に燃やされているために出血は止まっている。
「私が、あなた程度に。」
「侮りましたね。」
そして、どちらがより被害を受けているかと言えば、それはオユキに他ならないのだが、それでもただ笑って。
「繰り返しますが、トモエさんをあなたは傷つけました。私は、それを許す気はありません。」
「あなたにこれ以上を行ったのなら、今度はそのトモエが、ですか。」
「それこそ、比翼の理でしょう。ただ、まぁ。流石にトモエさんには隠しますが。」
オユキがトモエの為に怪我をする、酷い結果を得る。それを当然トモエは望まない。そんな事はオユキも分かっているからこそ、今度の事はトモエがいない場で行う必要があったのだ。
「成程。まさにその通りなのでしょうね。己の番を、対の羽を傷つけたというのなら、残された羽は確かにそれを。」
「ええ。後は、胸元、でしたか。」
掌は、これでまぁ五分としてもいい。オユキの方ではもはや片腕は使い物にならない。掴まれ、たたきつけられた結果として。右手に飾られていた袖は既に引きちぎられて、そこらに落ちているし、オユキの腕もまぁ、しっかりと火傷どころか黒く炭化している。抉られた肉が、何処に跳んだか迄は分からないし、知りたくもないが。加えて、集中力はとうに使い果たし、今となっては無理に痛みを無視するために随分と意識を向けているために周囲はすっかりと色を取り戻している。フスカ以外の声も、耳に届き始めている。
最早、先ほどまでの性能は己に望めはしまい。
既に、自身の内に確かに感じていた他の力というのもすっかりと使い果たしている。だが、その程度で諦める気など、やはりオユキには無い。
昨夜、少女たちに話した。シェリアにも、頼んだ。
トモエを傷つけたのだから、同じだけを相手にも間違いなく。
「果たして見せましょう。」
「全く、いよいよ度し難い。」
「何と言われようとも、私はそれをやり遂せましょう。」
「では、あなたを私の炎は容赦なく焼く事でしょう。トモエも同様。」
あらゆる煩悩を、一切の酌量なく焼き捨てる炎。それを司る存在に使えるのだからと。オユキの放つ氷雪、足元は氷で覆われ、オユキの周囲、他の観客がいる場所にも氷の結晶が降り積もっているようではあるが既にフスカの周囲にはオユキがとらえきれぬ炎が塊としていくつも浮いている。
「煩悩を焼くのでしょう。ですが、私に向ける物、トモエさんが己であるために持つ物。それらを焼くというのであれば、私はそれを認める気はありません。」
「いいでしょう。ならば我が祖、その力を確かに受ける者としてあなたの欲をも裁きましょう。」
フスカの宣言と共に、オユキに向けて炎が飛ぶ。それらをどうにか片手で剣を振り、変わらず中空にも足場を作り。それでも足りぬ炎にどうにか魔術で造った氷をぶつけ。既に立場は逆転している。フスカは最早オユキを追い詰めようと、容赦なく焼き捨てようと力を放ち始めている。これまでは、何処か楽し気に届くかどうかを試そうと考えているかのように受けの姿勢を取っていたフスカが、今度は容赦なく攻撃をオユキに向けている。
「良く逃げますね。」
「ええ。」
しかし、集中は最早限界。生きは既に上がっているし、フスカの放つ熱というのは、容赦なくオユキから体力も奪っていく。オユキの願いを、トモエに付けられた傷をフスカにも与えようというのならば、もはや然したる猶予もない。燃料が、オユキ自身に存在する資源が枯渇すれば、立っている事もままならずただ地に伏せることになるだろう。そして、フスカはその隙を見逃しはしないだろう。疲れ、足を止めたオユキを、もはやオユキを敵とみなしたフスカは容赦なく彼女の力で、炎で包んで見せるだろう。その結果は、まぁ考えたくもない。全身やけどで済めばいい。それほどの差が、確かに此処には存在している。
「オユキ様、僭越ですが。」
だが、此処にはオユキだけではないのだ。宙を舞うフスカがオユキを追い詰める様に炎を放つ。フスカはただオユキだけを見ている。だからこそ、飛び込んでくるシェリアに対応できない。
「主の望みを、今は私が叶えましょう。」
オユキが既に置いておいた剣を、シェリアが握ってフスカを切り裂く。
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