憧れの世界でもう一度

五味

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21章 祭りの日

願いを歌う

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そう、そもそも性別が生前と入れ替わっている。
トモエにしても己を持て余すことはままあるのだが、それでも今の在り方を気に入っているという事もある。オユキの方は、今の在り方に対して色々と不服を貯めているのも知っている。そればかりは、生前にあった不満が解消されたトモエとの差異というしかあるまい。勿論、オユキにも今の在り方を好んでほしい、そうした欲求もあるにはあるが、そればかりは難しいものでもあるだろう。

「既にご存知と思いますが、ええ、とにかく私たちは性別を入れ替えてこちらに。」

そうするだけの理由は確かにあった。そして、今のオユキの様子を見ていれば選択が間違っていなかったようにもトモエは考えている。どうにも生前から思うところがあったのだが、今の姿の方がオユキには似合っているとトモエはそのように思うものだし、己の姿にしても、こちらの方があっているとそう感じるのだ。
何時かに話した事もある。そんな他愛もない夢。そうした物を、今になって望めるというのであれば。
トモエとしては、色々と思いを込めての事ではある。

「どうした所で、かつての世界で培った価値観と言いましょうか。いえ、また話がずれていますね。」

どうやら、トモエの方でも少々酒が回り始めているらしい。

「話を戻しまして、オユキさんの事ですが。」

さて、それを何処まで話しただろうかと。

「オユキさんは、ああ見えて難しい人というのはご理解頂けたように思いますが。」

そもそも性自認にしても、今は少々体の影響で、神々の手によって変わってきているだろうが、それでも過去の己に誇りを持っているに違いは無い。どうしてもトモエがと聞かなかったために、こういった形になった。

「一応、本人の望むこととしては、こちらの世界を今後も大丈夫なようにするのだと、そう考えている事でしょう。」

そう、そのあまりにも遠大な思慮というのをオユキは行っている。

「いくつか、そうですね。既に目に見えているものとしては、門と祭りでしょうか。」
「それなんだが、正直どの程度まで分かってる。」
「私の方では何とも言えませんが、いえ、聞かれて答えた事は確かにありますが。」

オユキがトモエを頼るのは、トモエとしてもうれしいのだ。だからこそ、それに応えるために色々と考えてはみる。ただ、やはり聞かれねばという事もままある。昔から好んで手に取ってはいたのだが、何も学術的な興味や、こうして使うためにとしたものではないのだ。そんな事が、こうなると分かっていたのならば、もっと色々と学んだだろうし。

「こう、どう言えば良いのでしょうね。オユキさんの両親が、間違いなくこちらに関わっていますし。」

後は、どの程度、何処に対してとなるのだが。

「その、オユキさんの家にあった蔵書を考えれば、間違いなく神々に関わる事ですね。」

そういった部分を、恐らくはオユキの両親のどちらかが、若しくはどちらもが担当していたのだろう。
オユキは興味を示しはしていなかったのだが、オユキの住んでいた家、少し広い一軒家には実に多くの書物があった。そして、その中には明らかにこの世界を作るために参考にしたのだと分かる物も。中には、確かにあったのだ。簡単なメモ書き程度、若しくはこれが気になるからと傍線が引かれているものが。
読み込んでいけば、所々にメモ書きと言えばいいのだろうか。そうした物も確かにあったのだ。そうした物をオユキに見せてみれば、ああ、成程と。そうした、今一つ納得がいかないと言えばいいのか、他に気になる事があるとか、そうした反応が返ってくるばかり。これなどは核心に触れるのではないかと、そうトモエが思った物にしてもそうであったのだ。オユキが気にしていたのは、かつての典仁が探していたのはもっと違う物。両親が一体何処にいるのか、今何をしているのか、そうした物であったのだろう。終生大切にしていた物というのが、両親が残した研究資料のような、それこそ同じくメモ書きのような、そうした物であった。

「オユキさんの方では、こう、システム面と言えば良いのでしょうか。」

システム周り、如何にソフトウェアを設計するのか。また、どうすれば相応しいものが用意できるのか。そうした部分に関わる資料を集めていたし、大事にしていた。恐らく、それらを多少なりとも補強が出来る形ではあったのだろうが、核心に触れるものではなかったという事なのだろう。特に両親と思しき人物とあった後には、そういった一切を諦めていたこともある。
その時には、随分と無理に飲んでいたものだ。翌日は休みを取っていたし、そこからしばらくは気を遣ってもらっていたようではあるのだが、それでも日常を早く取り戻さなければと、周囲がそう考えていてもおかしくはない。

「ミズキリさんは、気が付いていたようですが。その辺りは、実際どうなのでしょうか。」

あのミズキリという男は、一体全体何を知っていたというのか。父が一目置いているようでもあったし、あまり会話を頻繁に行う事もなかったが、恐らくは彼にしても親戚縁者の類。本来の、それこそ生前の姿にしても、数度どころでは無くあったこともあるのだが、彼の容貌はどう言えばいいのか。運動はそれなりにしているようではあった、ただそれだけ。

「正直、取るに足りない人物だと考えていたのですが。」

あれこれと考えながらも、どうにか話を続けなければと思い、周囲を見回してみるが何やらアルノーが既に酒を片手に舟をこいでいる。気が付いていなかったのだが、随分と彼も深酒を過ごしたのだろう。そろそろ宴もたけなわという状況になりつつあるのだが、それよりも。

「ミズキリか。」
「あの男もな。」

ただ、同席している二人にしても、そちらが気になっているらしい。
一人が沈みかけている状況で、残りの三人も程よく酔いが回っている。本来であれば、トモエからオユキのあれこれを聞き出そうとしていたのだろうが、今はそれにしても既に何処か。まぁ、聞かれればトモエに応える心算があると、それが分かっただけでも良しとなったのか。

「お二方からは、どのように。」
「どのようにと言われてもな。」
「しいて言えば、凡庸な男と言った所か。いや、勿論治世の手腕が非凡であるところは認めるのだが。」

それを認められて、確かにミズキリという人物は喜ぶのだろうし、示す為にと今も動いているのだろう。ルーリエラにしても、一体今どこで何をしているのやら。一時期は町中で見かける事もあったらしいのだが、今はまた見当たらない。全くもって謎の多い相手なのだ。

「ルーリエラさんも、見つかっていないのですか。」
「いや、足取りはつかめちゃいるんだが、話をしても何やら分からぬといった様子でな。」
「確かに、話を聞いてみたのだが、いよいよ分からぬ事が多くてな。」
「お二人でも、ですか。」

加護をトモエ以上に得ているだろう二人にしても、分からない物であるらしい。

「ああ。どう言えばいいのか、俺にしてもこの大陸にある言語は一通り習い覚えちゃいるんだが。」
「ほう。生憎とこの老骨はこの国で使う言葉だけなのだが。」
「私は、そうですね。母国語とかつての世界の公用語、その二つくらいでしょうか。」

どうにも、この世界で生きている者達は勤勉であるらしいのだが。

「いや、お前にしても色々と知ってそうなもんだが。」
「確かに簡単な固有名詞くらいは覚えていますし、知ってはいますが。」
「それはそれは。」
「ただ、それだけですから。」

そう、料理に使う食材であったり、旅行で行った先の料理であったり。もしくは、頼む為に使う言葉であったりと、そうした物は覚えている。覚えていた。ただ、それだけ。

「オユキさんは色々とご存知でしょうが、いえ、そちらはひとまず置いておきましょう。」

また、どうにも話が逸れていると。

「何処まで話しましたか。オユキさんの考えと言いますか、思考の根底については話したように思うのですが。」
「まぁ、確かに聞いたな。それだけじゃ説明がつかない事もありそうなもんだが。」
「そればかりは、また聞いていただかなければ分からないのですが。」

では、そのように語る相手が何を考えているのかと言われても、やはりトモエにはわからない。これがオユキであれば、相手の望む物を考えて応えるのだろうが。

「いや、自罰的なと言えばいいのか、それについては納得がいったのだがな。」
「ええ、そうであれば有難く。」
「だが、どうなのだろうな。あそこまで信心深いと言えばいいのか、神々に尽くすと言えばいいのか。」
「ああ、それですか。」

どうやらかつての世界には神がいなかった、若しくはそう考えるものが大半であったとそう伝わっているのだろう。

「どう言えばいいのでしょうか。オユキさんにとってはこの世界、いえ、この世界の神々ですね。」

そう。それについてはトモエの責任でもあるのだが。

「どうやら兄弟のように考えているらしく。」

使徒である両親、それが生み出したと言えばいいのか、作る事に関わった世界なのだ。ならばオユキにとっては両親の子供も同じ。言ってしまえば兄弟と呼んでも良いのだ、この世界は。かつての世界で失った両親が、それから散々に愛情を注いだ世界。それに対して持つ感情というのは、やはり重く。

「そうなるか。だが、先ほど聞いた話だと。」
「恨みつらみを持つ段階は、すでに超えたのでしょう。」

実際には、当然そうした感情もあるだろう。ただ、やはりそれにとらわれぬようにと。

「色々と、考えていますからね。オユキさんも。」
「ああ見えてってのは、分かっちゃいるんだがな。」
「オユキ様も、確かに色々と思うところはあるのであろうな。」

それも事実ではある。

「ただ、大切にしたいものというのは、オユキさんも決めていますからね。」
「ほう。」
「それは、なんだか聞いても。」
「自分で言うのも恥ずかしいのですが、私ですね。」

さて、それは前提として。

「次に、私に勝つための術理。それから、こちらで縁を結んだ人たち。」

特にオユキが気に入っている相手というのが、今この場にいる二人。そして、そばに置いているシェリアと。

「オユキさんが側にいても構わないと考えている相手は、やはり気に入っていると言いますか。」
「それは、まぁ、嬉しいんだが。」
「うむ。光栄な事だ。」

後は、何かと手間をかけるメイだろうか。どうにも子供たち、シグルド達やティファニア達に関してはまぁ、トモエが抱え込むと決めたから気にしている程度。
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