憧れの世界でもう一度

五味

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21章 祭りの日

夕立の降る日

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「事程左様に、私にとっては。」

さて、オユキは改めて強調を。

「皆大事なのです。こちらで縁を結んだ人々、縁を得たいと考えた人々。」

オユキが周囲を見回せば、そこには今述べた事に当てはまる者達。実に心地よい空間であるし、何時までもこうしていたいと思う程の場だ。そこには柔らかな、それこそトモエと過ごす時間に似た物が存在していて、これもまたオユキにとっては大事にしたい空間。ただ、そこで話すのが、どうした所で気に入らない話題になるのは、宜なるかな。

「それを蔑ろにする方を、さて、どうして好ましいと考える事が出来るでしょうか。」

オユキの本音というのは、それに帰結する。
大事なのだ。トモエとの優先順位ははっきりとついているし、それを変える事は当然今後も無いだろう。だが、そうでないときはやはり。シェリアも実に意外そうな顔をしているのだが、それはまぁ認識を改めて貰うしか無い事だとオユキは考える。そもそも大切でない相手に任せるような事ではない、そういった事柄を預ける事を決めた相手だ。当然信頼はしているし、大事にしたいと考えている相手。

「えっと、うん、その、ありがと。」
「いえ、皆さんが良い人だからですよ。」

てらいなくオユキはそのように語るのだが、少女たちの方では何やら照れがある様子。

「オユキ様。では、間違いなくその信頼に応えられるよう。」
「シェリア様も、どうぞそこまで気負う事がないように。私の方で勝手に行っていますから。」

このあたりは、昔から変わらない。オユキは基本的に押し付けを好まない。トモエは流派を預かっているからこそ、それを行いはするのだが、それ以外の部分ではらしさを尊重する。

「その、オユキちゃんは、国王様が嫌いなのは分かったけど。」

そう、セシリアが。

「でも、言う事は聞くんだよね。」
「それは、流石に公爵様の迷惑にもなりますし、こちらで生きて行くには必要な事でしょうから。」

聞かれたところで、オユキからの答えというのはやはり変わるものではない。どうした所で、ミズキリに向けている警戒と同じだけを国王その人に向けざるを得ない。

「あの、オユキちゃんは、こっちに残るつもりが。」
「それは、はい。」

サキに言われて、オユキは直ぐに応える。それを許しはしないのが、トモエだというあたりなかなか難しいものではあるし、こちらの生活に疲れてそれこそオユキから言い出すかもしれないが。その時は、さてトモエが一体どうするのだろうか。そればかりはその時になってみなければオユキにもわからない。

「残る心算ですよ。色々と、そうですね、色々とありますから。」

預かった手紙がある。残されていた手紙がある。昼間、少し司祭と話をしたときに言われたこともある。
どうにもこちらの世界では、色々と不足があり、あまりにも無駄が多いと言われた物だ。それをオユキに言われたところで、さてどうすれば良いのやらと、そういった事もあるのだが。ただ、まぁ、オユキ自身どうにか出来るのならばどうにかしようと思う程度にはこの世界を好いている。恩義もある。こうして、トモエと共に、再びともに歩く事が出来ているのだからと。

「差し当たっては、方々に運んで頂くわけですが。」
「えっと、私たちが、月と安息の神殿に。」
「そうですね。そちらは一先ずシェリアに引率を任せて、皆さんにもついて行って頂きますが。」

さて、そうオユキが話せば、何やら意外そうな顔がちらほらと。

「おや、話していませんでしたか。」
「えっと、聞いていないかも。」
「では、改めてそう言う事ですから。」

そう言えばシェリアをつけるという話をしていなかったかと、そうオユキが思い出して話してみれば、やはりそうであったらしい。ここで改めてとなったのは、まぁ残念な事ではあるのだがただ既に決めた事として伝えておく。他に適任がいない事もあるし、もしかしたらついでに傭兵を雇用したりもあるかもしれないが、その辺りはいよいよシェリアの裁量の内だろう。

「そう言えば、イマノル卿やクララ嬢はどうなのでしょうか。」
「あの二人は、今はこちらに来ていますが今後は河沿いの町、確か名前が決まったようにも思いますが、そちらの事もあります。」

さて、そちらは今どの程度まで話が進んでいるのか。オユキの下にいくらかの情報は回ってきているのだが、それについても色々と怪しげなものがある。具体的には、このあたりは今後変わるのだろうなと、よくわからぬオユキでも思いつくようなことがあれやこれやと。どういえばいいのか、益体もない話がずらずらと並んでいるものだ。どの程度の事を、フォンタナ公爵が飲むのか分からないし、それこそ国王その人も何か口出しをしてくるだろう事は想像に難くない。いや、王太子が何かを言い出すかもしれないなと。そうあれこれとオユキとしては考えるものだが、今はそれを一度置く。

「そちらは、今回計上しない方が良いでしょうね。」
「畏まりました。では、アベル殿は。」
「そうですね、そちらは、どうしましょうか。相談してとして頂きたいのですが、私たちの方でも領都に一度足を運んで、それから王都にとも考えていますので。」

一応書面で簡単に報告はしたのだが、一度改めて帰還報告も必要になってくるだろう。後は、王妃が隣国から来ているわけでもあるし、そちらからいくらか話をねだっても良いかもしれない。招かれそうなとも、そういった思いもあるし、改めてトモエとの挙式がどの程度話が進んでいるのか聞いても良いかもしれない。ついでとばかりに招待すべき者達もいる為、それらをどうすればいいのかも聞けばいいだろう。

「えー、そうなんだ。」
「いいんじゃないかな。オユキちゃんも、トモエさんとあっちこっち見て回りたいだろうし。」
「あー、トモエさんもオユキちゃんと一緒に王都歩いたりしたいだろうしね。」

さて、少女たちが実に賑やかに話始めるのだが、生憎とそうとばかりもいきそうには無い。そもそも仕事があるから行くのだ。オユキとしては、やるべきことを頭の中で今からつらつらとリスト化して置き、それをどういった順序でこなしていくのか、はたまた一体どれを誰に任せるのか。

「オユキ様。」
「はい。何でしょうか。」

脳裏であれこれと考えを進めている所、シェリアに名前を呼ばれたためなんだろうかと、改めて意識を向ければ何やら少々不穏な表情を浮かべている。

「よもやとは思いますが、私たちに任せた上で、まだ何かをされるつもりですか。」
「それは、はい。」

そもそも、今日の昼頃にあれやこれやとロザリア司祭から聞かされた話がある。それらを片付ける為には、恐らく時間が足りない。

「やはり時間が足りませんから。」
「えー、オユキちゃん、こっちに残るつもりなんでしょ。」
「それはそうですが、片づけるべきことは片づけないとゆっくり出来ない性分でして。」

どうにも遊ぶ前には、あれやこれやとあるとゆっくり出来ない。一度切り替えてしまえば、それこそトモエが良くそうしていたように、この期間は仕事の事を忘れなさいと、そう言われていればどうにかなるのだ。忘れさせてくれることがあるのならば。どうにも、こちらでは終業時間が決まっているわけでもないし、始業時間が決まっているわけでもない。どうすればいいのだろうかと、それも考えてしまうのだが、管理職に近いと言えばいいのか、貴族家というのは基本的に忙しくしようと思えば何処までも忙しいものでもある。

「オユキ様。」

シェリアに改めて名を呼ばれるのだが、さて、なにか問題がと考えていると、どうやら周囲の少女たちにしても同じことを考えているようで、何やら視線にオユキを責める色が乗っている。一体全体何事かとオユキとしては甚だ疑問を感じるのだが。

「休日を設ける為、では無かったのですか。」
「そういった考えもありましたが、正直日が足りませんから。」
「でも、オユキちゃんは。」
「私がそう考えていたところで、トモエさんはそうではありません。」

オユキがそれを願ったとて、トモエが許しはしない。

「トモエ卿は、オユキ様への負担がなくなるのであればと、そう口にしていたかと思いますが。」
「それは、そう言えばそうでしたか。」

基本的にと言えばいいのか、技と意識から外していたことではある。こちらに残りたいのかと言われれば、当然そうした気持ちはある。だが、わざわざ全てを忘れて、こちらとかつての世界をどうにかするつもりのミズキリという人間がいるのはいるのだが、そちらにも警戒対象である以上そこまで深く係る心算はオユキに無い。ではどうすればいいのか、どうするのかと言われれば、消極的になろうというもの。

「あの、オユキちゃん、こっちに残るつもりなんだよね。」

さて、どうして何度もそのように聞くのだろうかと、オユキとしては甚だ疑問ではある。

「オユキ様が残ることを望まないからこそ、トモエさまはああした態度かと考えていましたが。」
「いえ、トモエさんは。」

そこまで言いかけて、オユキはふと気が付く。

「いえ、そう言えば、そうですね。」

トモエはあくまでオユキの負担になるのであればと、そうとしか言っていない。では、オユキの方に何か問題がるのかと言われれば、まぁ、それが事実でもあるのだろう。改めて、こうして話していればそれに気が付く事も出来るというものだ。何やら周囲から向けられる責められるような視線、その意味がようやく解って来そうなものだ。お前が休むと言わぬから、猶も仕事をするというのだから、トモエがオユキの負担になると考えているのだろうと。
それもまた、一つの事実ではある。
そして、こうして話して、改めて気が付いて。
では、一体どうするのかと言えば、いよいよ変わりはしない。
それでも尚、オユキはただ己がなすべきと定めた事に対して邁進する。それ以外に何があろうはずもない。

「ですが、まぁ、休日を楽しむ位はしてみましょうか。」

さて、こうして何やら不興を買っているようでもあるし、一先ずはそう口の端にあげて。
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