憧れの世界でもう一度

五味

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19章 久しぶりの日々

ダンジョンへ

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メイからダンジョンへと向かう許可が出されて翌日。
オユキとしては、先に四阿の設計を行い必要な資材を割り出したりと、先に行うべきことがあるのではないかとそのように話したものだが、生憎とメイとケレスからすぐにでもという話が出た。
何分、現状の資源効率にやはり日程を考えたときに不足があるようで、調べられる、可能性が見つかるのなら直ぐにでもと気がせいている。

「ダンジョン、ですか。先任の者達より話には聞いていましたが。」
「ローレンツ様、本当に河沿いの町を離れても。」
「何、姪の我儘もありましたからな。」

他の理由としても、無視できない物が当然ある。資源の不足を解消するために、ダンジョンへひたすらに通い詰める者達。メイが所持する戦力。日程に余裕はなく、あったとしてもいくらでも欲しい資材。では、限りある戦力でそれを叶えるには。
オユキとしては実に懐かしく、ケレスが間違いなく認めないであろう事実として。騎士達は休みなくただひたすらに働き詰めていた。一応安息の守りの内側、入り口の周囲からは無くなるとはいえ、魔物が湧くとしても始まりの町、その正門に作る以上は、丸兎程度。いよいよどうにでもなるため、問題は無い。夜間であろうと。
それは、さぞ素敵な労働環境であったであろう。肉体労働を、それも命を懸けて。最低限の休憩でひたすらに続けるわけだ。どうした所で、ダンジョンの奥に巣食うのが変異種である以上、対応が可能な戦力は限られる。領主としての戦力以外を使えば、他に支払いが必要となり財政を逼迫する。貴重な戦力を使わなければいけない状況なのだ。そこで出し惜しみをすれば上に立つものとしての資質を問われるし、吝嗇などという実に嬉しくない評価を与えられる事だろう。神から現状この国にだけ与えられた、それも一部の領主としての権能を正しく持っている人間にだけ与えられた奇跡を軽んじているのだと、実に不名誉な疑惑も生むことだろう。
他にも諸々。とにかくオユキとトモエが主導するとして、そちらに与えられた戦力が一部の資材を見返りにダンジョンへ向かうというのは、ここまで散々に疲労をため込んでいた騎士達の休日が用意できる

「もう、伯父さまだって楽しんでいるではありませんか。」
「こうして年を取るとな、不釣り合いな仕事が回ってくるものだ。おかげで、少しの運動をしようにもなかなか難儀する。」

そうして豪放に笑うローレンツは、老兵というにはあまりに分かりやすい圧を周囲に。本人が意図しての物では無いだろう。ただ、これから相応の敵がいる場に行くのだと、それを知っているだけで。

「加護の上限などもありますので。」
「望むところよ。神々からの試練を感じるなど、さて、何年振りか。この老骨の血も滾るというもの。」
「ローレンツ卿、一応調査も兼ねておりますので。」

そして、メイを始めとした始まりの町に根を下ろす管理者たち、貴族たちの戦力は使えない。しかし、気安いオユキとトモエが主導するからこそ、今回は同行者が多い。
メイ側からの監督として、シグルド達。そして、ダンジョンというのは本当に今分かっている以上の事が無いのかと、調査を行う為にファルコ率いる元学生たち。ついでとばかりに、町に加わったばかりの花精に、オユキとしては遠慮をして欲しかった翼人種の長と、疲れを一切隠せていないカナリアが。
騎士達、今回の主要戦力へとファルコが調査したい事柄の説明を行っている間に、オユキとしては数日ぶりに、実際には一週以上顔を見る事が無かった相手に。

「カナリアさんは、随分お疲れの様子ですが。」
「はい。今にも寝たいくらいには。」
「最も年若い娘が、なんと惰弱な事を。私よりも桁二つは若いのだから、この程度何ほどでも無いでしょう。」
「長旅の話を聞きたいからと、あちらこちらに連れ回されては質問攻め。それで疲れないわけがないですよ。」

心なしか、いつもは感情に合わせて動く翼にしても、手入れをきちんと行っていると分かる跳ねにしても何やらアイリスが疲労を隠せていない時の様相を呈している。

「フスカ様は、宜しいのですか。ダンジョン、すなわち閉鎖空間です。」
「そこに留まれと言われれば、諸共に焼き払って穴を開けもしますがそうでないのなら己の心の赴くままに。」
「一応、あちらで説明していますが。」
「ええ。私はただ見て回るだけです。」

長と呼ばれるだけあって、炎の化身の力を実に色濃く持っているのだ。閉鎖環境で振るわれれば、探索に同行する者達の果たして何割が生き残れるのか。同士討ちどころではない。身内に自然災害を抱えているような、そう言った状況なのだ。加護に制限がかかるとはいえ、それはただ上限が決まるというだけ。全てが平たくなるという、都合の良いものではない。

「その、私たちにとっては、窮屈に感じる場ですから。」

そして、同族からは、くれぐれも振り払うような真似はしてくれるなと。

「ここ暫くは心地よい風が近くで生まれています。この世界で慢性的に感じた死んだ風ではなく。ならば、ええ、構いませんよ。」

今後余裕があるのなら、我らの風を生む起源とそのダンジョンとやら。そこで言葉は区切られたが、何やら非常に物騒な事を考えているらしい翼人の長は一度視界から外し、オユキは改めて花精に向きなおる。

「リリア様も、その、少々苦手な気配の方に同行することとなりはしますが。」

炎を友とする植物など、あまりにも限られている。

「ええ。その。はい。」

そして、ローレンツもそうだが、何よりこのフスカが既に放っている熱気にあてられているのだろう。何やら目を白黒させているリリアはオユキが尋ねたところで戸惑ったようにそう返すだけ。オユキとしても、フスカが側にいるとやはり体調がすぐれないと言えばいいのか、やけに疲労を感じると言えばいいのか。とにかく、存在として共存が難しいだろうと、そう感じるものがあるのだ。人としての性質が基本となっているオユキですらそのように感じるのだから、正しく種族としての性質を持つ相手は、如何程のものか。
元となった文化に合わせて、母音の形は変わっているが身に着けている花の形を見れば元となった、由来としている植物も実にわかりやすい相手だ。夏咲く花であろうとも、炎熱にあぶられて問題が無いという訳では当然ない。

「あの、私たちは、あまりこうした事は得意でなく。」
「戦闘をお願いするわけではありませんから。」

ダンジョンの内部には、資源と回収すべき素材が多い。何も魔物ばかりが与えられた奇跡ではない。採取者ギルドが、騎士達に同行するものを先取してはあれこれと調査しているらしいが、そちらも色々と手詰まりになってきているとオユキは昨日聞いたばかり。どうにも誤差と呼ぶにははっきりと傾向がみられる差異があり、それを追求するにはサンプルが足りないのだと。

「こちらで暮らす方々は、私たちから流れたヒトも多いですし。」
「ええ。それは間違いないのでしょう。しかし。」

そして、発現形質、人にしか見えない者達にしても、この世界が改めて成立してから大いに他種族と混ざっているらしい。同じ採取者、同じ程度の実績を積んでいるはずの者達。そこに差異があるというのなら、それは己が実際に何処に帰属しているのかに他ならないだろうと。そもそも、祭主が可能だと最初に見出したのが、木精だと一目見たルーリエラが断言するほどの相手であったのだ。ならば、多少なりとも過多というのはあってもおかしくはない。そして、リリアにしても、この町で暮らす者達は、人に見えるだけの者達が多いのだと。

「それを判断することも、やはり私たちだけでは難しいですから。」
「ヒト種の性質が強いと、どうしても視界が狭いですから。」
「それは、成程。面白い表現ですね。」

言われた言葉に、オユキとしては実にあれこれと思いを馳せる事がある。

「オユキさん。思索も構いませんが、そろそろ。」

正面にリリアを置き、さてどれだけの時間だろうか。すっかりと己の思考に没頭していたオユキが、トモエに呼ばれてようやく。

「失礼しました。ファルコ君の説明も終わっているようですし、では、そろそろ参りましょうか。」

何時までも、門から出てすぐそばの場を占拠しているわけにもいかない。未だに朝の早い時間であるため、往来は多くないとはいえ、それでも気の早い子供が練習用として囲われている狩場が空くのは今かと待っていることもある。そして、その姿を何とも言えない表情で見守っている姿もある。家の手伝いという、生産力の低い現状であるからこそ、許された時間があまりないという現状も確かに此処にあるのだろう。

「オユキ殿。リリア殿とフスカ殿に今回の作戦目標の共有は。」
「基本的に見学であり、同行というのはお伝えさせて頂いたかと。」

勿論細かく見れば他にも色々とある。ただ、それを説明するための時間を、ファルコが騎士達に今回の調査の責任者として説明していた時間の大半を、すっかりと己の思考に費やしてしまったという事であるらしい。どうにも、己以外に明確な指導者がいるという事もあり、戦力がはっきりと過剰とわかる現状だ。各々好きにしたところでどうなるという事もない。オユキの目的である資材の確保についても、何一つ問題が無いと分かるだけの戦力もある。すっかりと気が抜けていたらしい。

「ファルコ。あんちゃんは大丈夫だけど、オユキは浮かれてる時は駄目だからな。」
「浮かれている、のか。」
「みりゃ分かんだろ。今日はあんちゃんが嬉しそうじゃなくても分かる位には、オユキ浮かれてんぞ。」

シグルドからの評価は、オユキとしても心底不本意ではあるのだが、何やらトモエが珍しく遅れて口元を抑える程度にはそのような様子であるらしい。

「今回に関しては、既に指揮権をファルコ様に預けていますから。」

己としても、言い訳に過ぎない言葉とは分かっている。だが、まぁ、そうして取り繕う事にもやはりオユキはなれている。責任転嫁と言われそうなものではあるが、理屈だけは通っている言葉を投げて、本来であれば、それぞれの集団の長に向けてファルコが説明しなければならなかったのだと。そう場を濁しておく。
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