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19章 久しぶりの日々
事が決まれば
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「オユキさん、大丈夫ですか。」
ブルーノとの話し合いの結果、トモエと詳細までは未だ話す時間が取れていない。ただ、オユキが決めたのだとすれば、トモエもそこに異論はない。だからこそ、こうして王から下賜された軍馬、その能力を存分に活かして翌日早々に河沿いの町に来たは良いものの。肝心のオユキが使い物にならなくなった。
それを間違いなく引き起こしたと分かっているのだろう。カミトキが、オユキの側で何処か悄然としながらも不安げに寄り添っている。他方センヨウも、流石に茶化すのはまずいと分かるからか、今は用意された水と果物を口にしている。
「ま、慣れなきゃそうなるわな。」
「揺れる物ね。馬車とは比べ物にならないくらい。」
目当ての人物二人は、新設された兵舎と呼ぶには豪華な建物、その一室に。ラズリアが到着を知らせれば、何事かと出てきて、そしてトモエの膝の上でうなされるオユキを見てため息などついている。
人が馬車と共に歩いて二日の距離。それを軍馬が、名馬が全力でかければどうなるか。半日とかからずたどり着く事が可能というのが分かった。そして、騎乗している人間にかかる負荷も。付けられた護衛が、平然と走ってついて来ているあたり、トモエとしてもそちらを今後は手段としたくもある。オユキよりもましではあるが、問題が無いわけでは無いのだ、トモエも。
「で、先触れも無しに、どうした。」
「オユキさんが、アイリスさんに用があったのですが。」
「ほう。いや、花精か。」
「ああ。代官からは、シグルド達からオユキとトモエに話がとだけ聞いていたけれど。」
さて、それを説明するべき人間は、後数時間は悪夢にうなされるだろうからと、トモエから用件をかいつまんで話す。
「まぁ、いいわよ。一応こちらで受けるために下地は整えた物。区画の相談もいるでしょうけど、こちら側に伸びる方向であれば、まぁ、問題ないわよ。過剰に吸い上げないのなら。」
「ただ、話してない事がかなりありそうではあるがな。」
アイリスはすっかりとという訳でも無いだろうが、見た目には既に回復している。換毛期が近かったことも幸いしていたのだろう。道中見慣れた豊かな髪が、今はすっきりと流れている。
「そればかりは、オユキさんが考えている事ですから。一応、目的は森に巣食う無法者ども、それになるのでしょうが。」
実際に、オユキもその程度は口にしている。そして、口にしていない理由もある。
「相変わらず、背負い込みすぎかと思うがな。」
「花精は森から来たのだったかしら。」
「オユキさんは、協力を得れば探せるだろうと。それと、狩猟者ギルドからも木材の需要を聞いていますから。」
「ま、居住区を作ろうにも、木材が無きゃ話にならんからな。で、そっちのもの言いたげな目線になるわけか。」
シェリアはオユキと基本的に行動を共にしている。交渉の場にも居た。ただ、そこで話した事以上をトモエが感づいているのだと、アベルにしても思うところがあるのだという素振りに、己に不備があると感じるのは仕方ない事で打ある。そして、オユキが決めた事だからと、その願いを叶えるために行えることもある。色々と、トモエが振り返ることは出来ないが、感情が乗った視線をアベルに向けているのだろう。
「まぁ、分かった。どのみちそろそろ戻る予定ではあったからな。」
「そう。なら、今寝ているのだから、そのまま戻ろうかしら。」
寝ているというか、意識が朦朧としているというか。
「お前も、行軍関連覚えてみるか。子爵なら、一応権利はあるが。」
「いえ、流石にそれは過剰ですから。早々必要になるとも思えませんし。」
そして、移動の計画というよりも、長期的な計画全般はトモエもオユキが出来る状況で手出しをしようとは思わない。あまりにも歴然とした得手不得手の差がある。
「戻るなら、どうするか。こっちの戦力も多少は連れて戻りたくもあるが。」
「後から、というのは。」
「そこまで急いで呼びに来たんだ。そいつは早々に片を付ける心算だろ。」
アベルがため息交じりにそう口にするが、正鵠を得ている。
「ええ。」
「なら、直ぐに戻る。正直、森の魔物が変わっちゃいるが、それでも大した事は無い。何なら切り開くための手間の方がというもんだからな。」
「また、代官が頭を抱えそうね。」
森を切り開く、それ自体には賛同が得られるだろう。しかし、付随する問題については、確かに頭を悩ませることだろう。木材の需要はある。しかし、それを解消するだけの大量の木材を一度に手に入れ、何処に保管しておくのかとかなり困った事になるのは想像に容易い。資材置き場を大いに占拠する事だろう。ただ、そう言った諸々を差し引いても、メイは今回のオユキの提案は受け入れざるを得ない。それが彼女が確かに与えられた役目なのだから。
後は、それをどう円滑に、生まれるかもしれない損失、かかる手間、そういった物をオユキがどう補填するか。それだけだ。
「オユキさんは、どうしましょうか。」
「お前がそのまま担いで、いや、そういやまだ二人乗りの訓練まではしていなかったか。」
「その、単に前にオユキさんをという訳では。」
「んなわけあるか。」
そんな簡単な物ではないと、アベルに一蹴される。では、それが出来る人々は実に微笑ましい練習の器官を得たという事だろうが。
「練習が必要って訳でもない。要はバランスのとり方がいきなり変わるからな。」
「ああ、成程。」
であれば、どうにかなるかもしれないと思うが、それは意識が無い人間を抱えて行う等という危険を冒してまでやるものではない。オユキに意識があれば、万が一の時にも、安全性は上がるが、そうでないのなら事故は安易に死に繋がる。
「俺が抱えて走るか。」
「では、そのようにお願いします。普段であれば、相応に危険ですがこのまま移動を行えばそれも無いでしょう。」
「あー、縛って荷物にするか。」
「アベル様、流石にそれは認められません。」
ただ持っているだけの状態であれば、オユキが意識を取り戻せばその場ですぐにトモエでは無い気配を感じて、直ぐに抜けだすだろう。周囲の状況を確認することなく。そうなってしまえば、馬がどうのと言えない事故が起きる。しかし、人が走れば馬より、四足歩行よりは未だ馴染みのある揺れとはいえ、立て続けであれば負担は、実にわかりやすい。
「その辺りは、見目相応なのよね。後は、好と。」
「可愛らしいでしょう。」
見た目相応と言われれば、トモエとしても、そもそも鍛えようのない分野ではないかと言いたいものではある。ではなぜオユキはこうして倒れ伏し、トモエは未だ無事化と言えば、乗り方にある。トモエは鐙を使い、時に腰を浮かして揺れを殺してと出来る。しかしオユキは馬の背に誂えられた輿に乗っているため、それが出来ない。馬車に使うような衝撃吸収機構などを取りつけようという話もあったが、未だにそれは間に合っていない。
「惚気はそっちで勝手にやっといてくれ。なんにせよ、急ぎたい理由はあるようだからな、さっさと戻るぞ。」
「オユキさんは、結局どうしましょう。」
「一応相手る馬車を買い上げて、そこにシェリアと一緒に積んでおけばどうにでもなるだろ。」
「ありがとうございます。では、そのように。」
馬が一頭空くことになるが、そちらは十分賢い馬だ。主が積まれて移動となれば、問題なく後ろをついてくるだろう。後は誰をという話になるが、その辺りはいよいよトモエが口出しできるような内容ではない。
「諸々、任せます。」
「ああ。ま、今度も参加できない人間から、後々言われそうなもんだが。」
「その辺りは、タイミングの問題ですから。」
さて、その辺りは、いよいよどうなる物でもない。大々的に布告などしてしまえば、より一層面倒な事になる。そうすれば、トモエが避けようと考えている事、それも出来なくなる。
「で、今度もそいつとメイの嬢ちゃんが旗か。」
「ええ。そうなるでしょう。」
そう、戦力を糾合する分かりやすい記号として、分かりやすい二つ。
「今度は、前に出ないで欲しいもんだがな。」
「はい。そうなります。」
そして、先頭の指揮と護衛の指揮と。そのどちらもの責任を預けられるだろうアベルが、面倒を減らしたいと口にすれば、トモエがただそれに頷く。そんな簡単に、言い出した以上は先頭に立つと、オユキならそう言い出すだろうと、そう考えての言葉だろう。ただ、トモエはそれは起こりえないと断言する。
「そうか。」
「ええ。繰り返しになりますが、負担が過剰です。」
オユキがこうして言い出した理由は、トモエも分かっている。難しいからと置いておいただけに過ぎない問題。それを解決できるかもしれない方法を見出したから、早々に動いたのだという事も理解に容易い。サキから受けた報告は、トモエも当然目を通している。では、それが今も繰り広げられているだろう場所に、過剰に思いを寄せるオユキを連れていけばどうなるかなど、考えるまでもない。
トモエは何ら痛痒を感じていない、王都での出来事。それを今も時折夢に見てはうなされる程度には、割り切れないのだ。
「オユキさんは、お留守番です。号令だけはかけてもらえるようにしておきますが。」
「納得するのか。」
「言葉で無理なら、両足を折るだけです。」
そうすれば、戦いの場に立つなど口には出来まいと、トモエからはただそう告げるだけ。
「貴方は、オユキを傷つけたりしないと思っていたけれど。」
「比較の問題です。そうしなければ、よりひどいのであれば、ええ、軽度な傷で済むように。」
護衛の任を得ているシェリアから、トモエに対して少々思うところがあるという視線が向けられるが、そればかりはどうしようもない。
オユキもトモエも、基本として話し合いで解決を試みる。そして、譲れないとなった時には順序をと決めてもいる。しかし、それすらも超えてという事が無いわけでは無い。
「ええ、それに過去一度似た事はやっていますから。」
オユキもトモエに再びそれはさせたくないとは考えるだろう。
「オユキさんは、頑固なところがありますから。」
トモエにだけ押し付けるのだと、そう考えるからこそ、それを嫌うからこそというのも分かってはいるのだ、トモエにしても。
「お前等揃って、て訳にはいかないのがな。」
「ええ。汚染を防ぐことができる、少なくともそう考えられている人間は必要でしょう。」
ブルーノとの話し合いの結果、トモエと詳細までは未だ話す時間が取れていない。ただ、オユキが決めたのだとすれば、トモエもそこに異論はない。だからこそ、こうして王から下賜された軍馬、その能力を存分に活かして翌日早々に河沿いの町に来たは良いものの。肝心のオユキが使い物にならなくなった。
それを間違いなく引き起こしたと分かっているのだろう。カミトキが、オユキの側で何処か悄然としながらも不安げに寄り添っている。他方センヨウも、流石に茶化すのはまずいと分かるからか、今は用意された水と果物を口にしている。
「ま、慣れなきゃそうなるわな。」
「揺れる物ね。馬車とは比べ物にならないくらい。」
目当ての人物二人は、新設された兵舎と呼ぶには豪華な建物、その一室に。ラズリアが到着を知らせれば、何事かと出てきて、そしてトモエの膝の上でうなされるオユキを見てため息などついている。
人が馬車と共に歩いて二日の距離。それを軍馬が、名馬が全力でかければどうなるか。半日とかからずたどり着く事が可能というのが分かった。そして、騎乗している人間にかかる負荷も。付けられた護衛が、平然と走ってついて来ているあたり、トモエとしてもそちらを今後は手段としたくもある。オユキよりもましではあるが、問題が無いわけでは無いのだ、トモエも。
「で、先触れも無しに、どうした。」
「オユキさんが、アイリスさんに用があったのですが。」
「ほう。いや、花精か。」
「ああ。代官からは、シグルド達からオユキとトモエに話がとだけ聞いていたけれど。」
さて、それを説明するべき人間は、後数時間は悪夢にうなされるだろうからと、トモエから用件をかいつまんで話す。
「まぁ、いいわよ。一応こちらで受けるために下地は整えた物。区画の相談もいるでしょうけど、こちら側に伸びる方向であれば、まぁ、問題ないわよ。過剰に吸い上げないのなら。」
「ただ、話してない事がかなりありそうではあるがな。」
アイリスはすっかりとという訳でも無いだろうが、見た目には既に回復している。換毛期が近かったことも幸いしていたのだろう。道中見慣れた豊かな髪が、今はすっきりと流れている。
「そればかりは、オユキさんが考えている事ですから。一応、目的は森に巣食う無法者ども、それになるのでしょうが。」
実際に、オユキもその程度は口にしている。そして、口にしていない理由もある。
「相変わらず、背負い込みすぎかと思うがな。」
「花精は森から来たのだったかしら。」
「オユキさんは、協力を得れば探せるだろうと。それと、狩猟者ギルドからも木材の需要を聞いていますから。」
「ま、居住区を作ろうにも、木材が無きゃ話にならんからな。で、そっちのもの言いたげな目線になるわけか。」
シェリアはオユキと基本的に行動を共にしている。交渉の場にも居た。ただ、そこで話した事以上をトモエが感づいているのだと、アベルにしても思うところがあるのだという素振りに、己に不備があると感じるのは仕方ない事で打ある。そして、オユキが決めた事だからと、その願いを叶えるために行えることもある。色々と、トモエが振り返ることは出来ないが、感情が乗った視線をアベルに向けているのだろう。
「まぁ、分かった。どのみちそろそろ戻る予定ではあったからな。」
「そう。なら、今寝ているのだから、そのまま戻ろうかしら。」
寝ているというか、意識が朦朧としているというか。
「お前も、行軍関連覚えてみるか。子爵なら、一応権利はあるが。」
「いえ、流石にそれは過剰ですから。早々必要になるとも思えませんし。」
そして、移動の計画というよりも、長期的な計画全般はトモエもオユキが出来る状況で手出しをしようとは思わない。あまりにも歴然とした得手不得手の差がある。
「戻るなら、どうするか。こっちの戦力も多少は連れて戻りたくもあるが。」
「後から、というのは。」
「そこまで急いで呼びに来たんだ。そいつは早々に片を付ける心算だろ。」
アベルがため息交じりにそう口にするが、正鵠を得ている。
「ええ。」
「なら、直ぐに戻る。正直、森の魔物が変わっちゃいるが、それでも大した事は無い。何なら切り開くための手間の方がというもんだからな。」
「また、代官が頭を抱えそうね。」
森を切り開く、それ自体には賛同が得られるだろう。しかし、付随する問題については、確かに頭を悩ませることだろう。木材の需要はある。しかし、それを解消するだけの大量の木材を一度に手に入れ、何処に保管しておくのかとかなり困った事になるのは想像に容易い。資材置き場を大いに占拠する事だろう。ただ、そう言った諸々を差し引いても、メイは今回のオユキの提案は受け入れざるを得ない。それが彼女が確かに与えられた役目なのだから。
後は、それをどう円滑に、生まれるかもしれない損失、かかる手間、そういった物をオユキがどう補填するか。それだけだ。
「オユキさんは、どうしましょうか。」
「お前がそのまま担いで、いや、そういやまだ二人乗りの訓練まではしていなかったか。」
「その、単に前にオユキさんをという訳では。」
「んなわけあるか。」
そんな簡単な物ではないと、アベルに一蹴される。では、それが出来る人々は実に微笑ましい練習の器官を得たという事だろうが。
「練習が必要って訳でもない。要はバランスのとり方がいきなり変わるからな。」
「ああ、成程。」
であれば、どうにかなるかもしれないと思うが、それは意識が無い人間を抱えて行う等という危険を冒してまでやるものではない。オユキに意識があれば、万が一の時にも、安全性は上がるが、そうでないのなら事故は安易に死に繋がる。
「俺が抱えて走るか。」
「では、そのようにお願いします。普段であれば、相応に危険ですがこのまま移動を行えばそれも無いでしょう。」
「あー、縛って荷物にするか。」
「アベル様、流石にそれは認められません。」
ただ持っているだけの状態であれば、オユキが意識を取り戻せばその場ですぐにトモエでは無い気配を感じて、直ぐに抜けだすだろう。周囲の状況を確認することなく。そうなってしまえば、馬がどうのと言えない事故が起きる。しかし、人が走れば馬より、四足歩行よりは未だ馴染みのある揺れとはいえ、立て続けであれば負担は、実にわかりやすい。
「その辺りは、見目相応なのよね。後は、好と。」
「可愛らしいでしょう。」
見た目相応と言われれば、トモエとしても、そもそも鍛えようのない分野ではないかと言いたいものではある。ではなぜオユキはこうして倒れ伏し、トモエは未だ無事化と言えば、乗り方にある。トモエは鐙を使い、時に腰を浮かして揺れを殺してと出来る。しかしオユキは馬の背に誂えられた輿に乗っているため、それが出来ない。馬車に使うような衝撃吸収機構などを取りつけようという話もあったが、未だにそれは間に合っていない。
「惚気はそっちで勝手にやっといてくれ。なんにせよ、急ぎたい理由はあるようだからな、さっさと戻るぞ。」
「オユキさんは、結局どうしましょう。」
「一応相手る馬車を買い上げて、そこにシェリアと一緒に積んでおけばどうにでもなるだろ。」
「ありがとうございます。では、そのように。」
馬が一頭空くことになるが、そちらは十分賢い馬だ。主が積まれて移動となれば、問題なく後ろをついてくるだろう。後は誰をという話になるが、その辺りはいよいよトモエが口出しできるような内容ではない。
「諸々、任せます。」
「ああ。ま、今度も参加できない人間から、後々言われそうなもんだが。」
「その辺りは、タイミングの問題ですから。」
さて、その辺りは、いよいよどうなる物でもない。大々的に布告などしてしまえば、より一層面倒な事になる。そうすれば、トモエが避けようと考えている事、それも出来なくなる。
「で、今度もそいつとメイの嬢ちゃんが旗か。」
「ええ。そうなるでしょう。」
そう、戦力を糾合する分かりやすい記号として、分かりやすい二つ。
「今度は、前に出ないで欲しいもんだがな。」
「はい。そうなります。」
そして、先頭の指揮と護衛の指揮と。そのどちらもの責任を預けられるだろうアベルが、面倒を減らしたいと口にすれば、トモエがただそれに頷く。そんな簡単に、言い出した以上は先頭に立つと、オユキならそう言い出すだろうと、そう考えての言葉だろう。ただ、トモエはそれは起こりえないと断言する。
「そうか。」
「ええ。繰り返しになりますが、負担が過剰です。」
オユキがこうして言い出した理由は、トモエも分かっている。難しいからと置いておいただけに過ぎない問題。それを解決できるかもしれない方法を見出したから、早々に動いたのだという事も理解に容易い。サキから受けた報告は、トモエも当然目を通している。では、それが今も繰り広げられているだろう場所に、過剰に思いを寄せるオユキを連れていけばどうなるかなど、考えるまでもない。
トモエは何ら痛痒を感じていない、王都での出来事。それを今も時折夢に見てはうなされる程度には、割り切れないのだ。
「オユキさんは、お留守番です。号令だけはかけてもらえるようにしておきますが。」
「納得するのか。」
「言葉で無理なら、両足を折るだけです。」
そうすれば、戦いの場に立つなど口には出来まいと、トモエからはただそう告げるだけ。
「貴方は、オユキを傷つけたりしないと思っていたけれど。」
「比較の問題です。そうしなければ、よりひどいのであれば、ええ、軽度な傷で済むように。」
護衛の任を得ているシェリアから、トモエに対して少々思うところがあるという視線が向けられるが、そればかりはどうしようもない。
オユキもトモエも、基本として話し合いで解決を試みる。そして、譲れないとなった時には順序をと決めてもいる。しかし、それすらも超えてという事が無いわけでは無い。
「ええ、それに過去一度似た事はやっていますから。」
オユキもトモエに再びそれはさせたくないとは考えるだろう。
「オユキさんは、頑固なところがありますから。」
トモエにだけ押し付けるのだと、そう考えるからこそ、それを嫌うからこそというのも分かってはいるのだ、トモエにしても。
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