憧れの世界でもう一度

五味

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19章 久しぶりの日々

狩猟者ギルドで

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トモエは何くれとなく顔を出す機会もあったのだが、オユキはいよいよ足を踏み入れるのは久しぶりとなる。正式に家督を持っているオユキと、配偶者でしかないトモエ。扱いに差を設けるのは当然として、それ以上に個人として巫女という役職を明確に持っているのがオユキだからというのもある。建前として。

「お久しぶりです。あまり顔を出さぬ私から見ても、忙しいと分かる様子。このように歓待を頂くのは恐縮ではあるのですが。」

実際の話。狩猟という面ではトモエが、事務の部分はオユキがという分担であるため、オユキが足を運べばこうして一室に直ぐに案内されてそこで話すべきことが山積している。あくまで事前折衝の類がほとんどではあるのだが、オユキとしてもその補佐を頼める人員がいない所で安請け合いなどできるはずもなく。話だけ聞き、結局全ては保留とするのが結論となるだろうからと避けていた。だが、どうにもシェリアが再度訪れたり、河沿いの町には頼もしい老騎士もいるようではある。ならばやはり任せられる事は多いからと、こうして顔なじみが多く、融通の利くこの町でならと顔を出している。

「まずは、こちらをお納めください。」

トモエがシグルド達を絞っている間に人を使い、魔国であれこれと集めてきた情報を纏めた資料をまずは初代マリーア公爵、ブルーノに。

「ふむ。我の経歴に気が付いたと聞いては居るが、既に譲って久しい。今はただのギルドの長。」
「日々の糧を集めて下さる方々の取りまとめ、生活に直結する組織の長たる方をただのなどと呼べはしませんよ。」
「何、長としてもこうして忙しない折にだけ出張る楽隠居。位としても当主と今の我では、其の方が上であるしな。」
「では、公の場では、そのように。」

そうして話しながらも、ブルーノとミリアムがオユキが渡した資料に目を通している。詳細はいよいよ両者とも手を付けるつもりは見せていないが、オユキの方で簡単にまとめたものがある。差し当たっての話をするには、それにだけ目を通してもらえれば十分だというのもある。

「成程。あちらでは潰えて、立ち上げは出来なかったか。」
「元々の国が持つ文化、その土壌故でしょうか。」

子供たちは久しぶりの鍛錬の時間という事もあり、熱の入ったトモエにきっちりと絞られ、若干受け答えが怪しくなったため、オユキの判断で話し合いには参加させない事とした。魔物から得た収集品のやり取りもあれば、オユキとトモエから教会やシグルド達へのお土産というものもある。それらを言い訳に、今頃は教会に荷馬車に積まれた色々と共に戻っている頃だろう。トモエとしては、一緒に行動してそれらをきちんと渡したくもあるのだが、それをしてしまえば互いに一日が潰れる様な量でもある。何分、門があるのだ。それを今後も利用する予定のある魔国側からの品も併せてとなっているため、荷物の上げ下ろしだけで愉快な時間がかかる。そして、そこに送り主がいれば、急かす形にもなるからと改めて後日足を向ける約束をしている。トモエとしても、シグルドたちに比べれば面倒を見ていた期間が短いティファニア達の様子も気になる。オユキも勿論。ただ、そちらに足を運ぶのに、始まりの町の教会に一度も足を向けずにという訳にはいかない。
予定としては、トモエとオユキの望む形。それでも移動を含めてとなれば、休むと決め込んでいるが相も変わらず少々忙しい日々になりそうだ。その忙しさも、休日らしいものになるには違いないのだが。

「その方は、どう考える。」
「国交の正常化、と言えば良いのでしょうか。国同士の交流の形として、互いが進んでいる部分、それを交換するところからというのが分かりやすいでしょうか。」

幸いと言えばよいのか、不幸にもと言えばよいのか。狩猟者ギルドというこちらで過去の世界からまた違うものとして立ち上がった組織は、国営だ。

「河沿いの町から、ええ、これについては既に意見が纏まっていますが。」
「戦力を求めるであろうな、この様子であれば確かに。そして、それを統括する仕組みも。」

人手の不足に困窮しているのは、あちらもこちらも。そして、避けられぬ流れだと理解しているからこそ、ただため息が。

「食料も持ち込む必要があるでしょうから、後は橋を使った移動時間、難易度と言った所でしょうか。」
「うむ。それについてはミズキリから話がいくらかあった。」

共有すべき相手には、きっちりと現状最も問い詰めなければならない相手が誰であるのか、それが正しく共有されているようで、何よりではある。

「曰く、積み荷が難易度となるとな。」
「人員ではなく、積み荷となりますか。」
「確かに理にはかなっておる。」
「門と同様、そう考えれば確かに。ですが、他は当然あるようにも。」
「それこそ、試すしかなかろう。」

ブルーノの言葉は至極もっとも。

「流石に、現状の河沿いの町の職員では運用できませんね。」

そして、更なる問題をミリアムが。

「増員は。いくらかのギルドは撤退することになると考えていましたが。」
「そちらは生憎と主要拠点へと動くであろうな。どうした所で、我らがいま最も働かねばならん。」
「採取者、ダンジョン。一応どちらも。」
「魔国との関係には使えぬ。」

ブルーノの否定に、そう言えばそうだったとオユキとしては納得せざるを得ない。採取が可能な物は国内でも場所によって種々様々。それが他国ともなれば、猶の事。ダンジョンは、現状神国にだけ与えられている奇跡だ。魔国が利用できるようになるのがいつの事か、それはまさに神のみぞ知るとしか言いようがない。

「ですが、情報を集める為にもある程度の事は必要では。」
「うむ。それは否定せぬとも。しかしながら組織をそのままというのは、やはり難しい。狩猟者、騎士、どちらかに同行させる形として、緩やかな物となるであろう。」
「採取に関しての情報が少なすぎますから、まずはそちらを集めていただかねば、狩猟者ギルドとしても計画を立てられませんから。」

ブルーノとミリアムがそれぞれにトモエの疑問に回答する。

「流石に、その辺りは私どもでは難しい事ですから。」

採取を生業とするものは、今のところオユキとトモエの身近にいない。どうした所で、集められる情報からその観点が抜けるのはやむを得ない。そして、訪れた先が魔国というのも問題に拍車をかけている。魔術師という広域殲滅を行った後は護衛が必要な存在が主戦力である国。そこでは、神国とは違って傭兵や騎士が護衛すべき対象に確かに採取を行うものも含まれるのだろうが、戦力をそこまでさける物ではない。魔術が主体ではない神国ですら、オユキが梃入れを大々的に行って流れを作らなければどうした所で下火であったのだから。

「その、採取者の方々は。」

狩猟者ほど下に見られているわけでは無い。薬の重要性はこちらも変わらない。だというのに、何故そこまでし旅なのかとトモエが疑問を呈すれば。

「我から応える事も出来るが、それこ採取者ギルドの責任者に聞くのが良かろう。」
「そうですね。理由はあります。ですが、私たちではやはり外から見た物だけですから。」

期待半分、そのように狩猟者ギルドの重鎮から揃って。

「魔国と神国では状況も違いますから、先に足を運んで頂いてまとめていただくのが良いでしょう。流石に私どもでそこまでは難しいですから。」

トモエはあくまで己の疑問を口にしただけであるし、問題があるとそうした方向に話を向けられているので、対応策を考えようとその程度に過ぎない。だからこそ、オユキとしても優先順位を低く位置付ける。一先ずの手はすでに打っており町の外に今日出た限りでは、結界の際、新しい川辺、そう言った所で野草や花を摘んではそれを確認し、同行者に説明している姿もあった。森の側でも、似たような光景は繰り広げられていたのだろう。周囲に魔物が増えた事もあり、狩猟者の仕事、日々の糧を得るという最低限であれば、かなり簡単になった。鍛冶を行う設備も町中にできたため、武器についても長持ちするようになっているだろう。ならば、非戦闘員を連れて、簡単な護衛であれば狩猟者でも行える。

「魔国は採取が出来る物がどの程度あるのか、その調査を行って頂かねば制度を作る事もままならないでしょう。つまるところは、まずは王太子妃様、その存在と釣り合うだけの人員供出、そこに含める以上は今のところ難しいですから。」
「ふむ。では、其の方からも。」
「ええ。意見を求められれば、そうして話を収める心算はあります。」

実利、直近の部分だけを見れば、確かに神国の負担が大きく見える物だが、魔国は既に危険を承知の上で王族の身柄を神国に渡している。ならば今こそ王太子妃がその存在を大いに発揮することだろう。行き過ぎれば、過去の国を優先するのかと不況も買うだろうが、その辺りのかじ取りはよほど上手に違いは無い。

「それにしても、門前の体験所ですが。」
「うむ。想定以上の成果を出しておる。己の不明を恥じいるばかりよ。」
「過去の動機があり、それを後押しされる流れがあったのでしょう。受け入れられず、思いつかぬのも当然かと。」
「魔物は命を脅かすだけの物ではなく、神々が我らに与えて下さった恩恵。久しく原初より語られる言葉を忘れていたものだ。」

ブルーノがそう自嘲するが、それを責めるのはやはり難しい。
異邦人が、ゲームのプレイヤーがいるという前提があって成立した世界。そこからその前提が大いにかけた。ではその結果生まれる負担は何処に向かうのか。考えるまでもない事実がただそこに。

「結果として、食料の需要がまた、随分と。」
「加護の定着に必要である。加えて、やはり動けば空腹を覚えるのが人である。」

そして、オユキが渡した資料だけでなく、ここ暫くの狩猟者ギルドが商人たちに店舗を構える者達に対して販売した物の統計がオユキの手元にある。魔石はメイがただただあるだけ買い上げているため、検討するも何もないが、食料の需要が以上と言っても良いほどに伸びている。

「人口の変化は。」
「少しは増えているが、今後を考えれば。」

其処はアイリスの祖霊、そこから得た加護でどうにかと考えたいものではある。しかし、食肉はやはり家畜を殖やす段階にある始まりの町では狩猟者に頼るしかないのだ。そして、大いに魔物を狩った者達は、更に糧を求める。良い循環ではあるのだ、舞台を支える者達の労働が増える事を除けば。
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