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19章 久しぶりの日々
許さぬ理由
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トモエが許可を出してしまえば、後は話が早い。止めているのが、そのトモエだけなのだから。
狩猟者、傭兵の両ギルドにしてもシグルド本人は望んでいるが、理由があるから断っていたという事も、まぁ知っているのだろう。であれば、仲裁に入ってくることもない。
「お久しぶりですね。随分とお疲れのご様子ですが。」
「何があったかは、お前も知ってるんだろ。」
「ええ。その席を譲ったアベルさんから。」
場所を何処にするかと言われれば、久しぶりに傭兵ギルドへと足を延ばすことになった。屋敷が用意されてからは、鍛錬は庭で行っていたが流石によく知らぬ相手を、理由もない相手を招くわけにもいかない。そんな事をすれば、他に断っている相手に対してあまりに礼を欠く。
「ま、これまで面倒だつって避けてきた付けが回って来たってこったな。」
「書類仕事は、まぁ個人の適性というのが大きいですからね。」
そして、体を動かすことを好む物たち、己の能力の向上を求める者達にとっては面倒以外の何物でもない。勿論向上する能力はある。組織に重用される。だが、それらを求める人間ばかりという訳ではない。
「にしても、お前等なら断ると思っちゃいたんだがな。」
「いえ、本人同士の納得があればトモエさんは止めませんよ。」
当然、トモエはシグルドにも確認している。己の怪我、その可能性に加えて、相手に負わせる怪我、その覚悟があるのかと。アナとアドリアーナはトモエの言葉に顔色が少し悪くなったが、他の三人にはそれが無い。これについては、トモエの過小評価とオユキは判断している事だが、そもそも一度大会に出ている。そして、そこでセシリアが持った疑問、それをすでに超えて今がある。トモエとしては、己よりも強いもしくは相応に認められている相手だからこそと、そういった考えもあるからではある。だがそれこそが過小評価というものだ。
「ま、腕のいい医者もいる。」
「カナリアさんは、難しいでしょうからマルコさんにお願いすることになるでしょう。」
「で、結果はお前も当然と考えてるわけだ。」
そうして新たに始まりの町の傭兵ギルド、その長の責に収まったルイスと少し離れた位置で眺めている。トモエは少年たちと並び、シグルドの背後に立っている。見極め役はやはりトモエでは中立などと言えるはずもない。新人たちの訓練を見ていたひとりの傭兵が買って出てくれたため、そちらに任せてすっかりと応援に回るつもりであるらしい。
「ええ。」
「ま、そうだな。」
この立ち合いは、シグルドが勝って終わる。それを疑うという事はまずない。既にそれだけの差が、そこに生まれている。それが解る程度の積み重ねは相手もしているが、何かに区切りをつけるためにと選択したのだから、そこは尊重しても良いものだ。負けると分かっていても、負けるつもりは無いとそれだけの気概だけは確かに示して見せている。だからこそ、以前と違ってトモエが見たところで何も学ぶものなど無いと切り捨てていない。
「それにしても、以前と違ってかなり盛況ですね。」
「ああ。」
そして、傭兵ギルドの訓練場。以前はそれこそ見知った顔以外は、仕事に空きのある傭兵達しかいなかったが、今は随分と見知らぬ顔が揃っている。果たして、この町にこれほどの人口がいたのかと思う程の数が、今は一所で励んでいる。これに関しても、ここまで行ってきたことが実によく働いているとそう言っても良いだろう。今後を考えたときに不利益となる事はあるのだと魔国に訪れた際に判明したのだが。
「アベルからも色々と聞いちゃいたがな、リース伯子女から正式にどころか、国王陛下に直々が仰せになったこともある。」
「王都でも動き出してはいるでしょうが。」
「グレイハウンドからとなると、流石にな。」
「丸兎が最弱、それは変わりないという事ですか。隣国迄を見れば、戦うだけならと思う相手もいますが。」
「後は、保存の効く食糧だな。魔道具に魔術があると言った所で、有って困るもんでも無いとな。」
森も近く、川も今となっては町のすぐそばを流れている。食料という点で見れば、非常に豊かな土地だ。足の遅い者達に配慮をしなければ、王都まで半月もあれば積み荷を届けられる。今後王都の人口は極端に増えると予想が出ている。ならば、集めれるところから、いくらでもと考えるものだ。
「それはまた、昨日お会いした時は、かなり加減をして頂いた様ですね。」
「坊主たちも何回か聞かれたらしいからな。お前がいつ戻ってくるかはっきり聞いていないのかと。」
「魔国には一月も滞在する予定が無い、そのようにメイ様にもお伝えしていたのですが。」
まぁ、それがあったところで国王の襲撃があり、そこからあれこれと話を振られ経験語り無いからこそ気が付けば取り付けられた形になったことも、ままある事だろう。側にゲラルドは付けていたには違いないが、彼が割って入ることができる事ばかりではない。あくまで、今は一使用人。
「おや、始まりますね。」
そうして積もる話を順に片づけていれば、状況も進む。既に互いに練習用の武器を手に持ってにらみ合いは始まっていたが、何やら行われていた門どうにも方が付いたらしい。
「ほう。」
「おや、そちらを選びましたか。ならば、上手くいけば怪我は軽度な物で済みそうですね。」
名前も知らぬ相手は、両手剣を盾としても使う心算があるというように、己の前に立てて構えている。対してシグルドは普段使いではない八双。
「自分よりも背が高い相手には、正直向かぬ構えなのですが。」
「お前がアイリス相手に使ってたろ。」
「あれは、アイリスさんの流派に合わせてとしただけですから。」
ルイスの知らぬところで、トモエ相手にも使って、いまオユキが口にしたのとまったく同じ評価を返された物だ。その時にはオユキとしては振り下ろす勢いに乗って懐にもぐりこむ、加えてトモエが下段に構えるからこそ上から抑え込むことで腕力と体格の差を潰すと、そうした考えもあっての事だが。
「さて、この後はシグルド君への説教が待っていますから。」
「ま、まだまだガキだ。一応こっちで選んだ相手に見極めをさせる。」
トモエがシグルドに許可なく立ち合いを許さない理由。怪我をする覚悟よりも、怪我をさせる覚悟を強く問う理由。それが今目の前で。
教えている通りという訳でもないが、シグルドの知っている流れとして相手の出方を伺った結果、やはり無駄の多い動きで若い狩猟者が手に持つ両手剣を振るう。そもそも騎士もするような儀礼としての構え。剣を体の前で立てて構えては、中段よりもさらに遅い動きを作る事になる。不意打ちという訳でもなく、その状態から早くという手もあるにはあるが、それはどうした所で力の乗らぬ動きとなる。そして、その遅さでは、今のシグルド程度にも届くものではない。いつかオユキがそうしたように、相手の持つ両手剣を力任せに上段から地面にたたきつける。十分すぎるほどに力の乗った刃は、確かに対戦相手の手から力任せに武器をはぎ取り、地面にたたきつける。
そして、オユキでも、トモエでもこういった場であればそこで止める。ないしは、切り返して首元で刃を止める。しかし、シグルドにそれは出来ない。
「そこまでだ、坊主。」
「あ、ああ。」
切り返して、更に体を入れ替えながら踏み込みを。威力の乗った刃が走り、相手の胴を強かに打とうとした所を見極め役の傭兵が当然とばかりに踏み込んでその体で止める。相も変わらず、オユキの目から見てもまずまずと思える一刀を体に受けて、痛がるどころか木でできたそこそこ以上の厚みがある剣をへし折っているあたり、加護のある場ではどうにもならない相手だと、まざまざと見せつけられるものだ。
「シグルド君、そこまでですよ。」
そして、トモエが後ろから声を掛けながらシグルドの方を叩けば、ようやく少年の肩から力が抜ける。
「俺が、勝った、で良いんだよな。」
「ええ。流石に手首と指が折れては剣を握るのもままならないでしょうから。」
対戦相手は、うずくまりトモエの口にした場所を抑えている。強く握り込みすぎていたから、そうなる。そちらに対して声をかける前に。
「ああ、お前の勝ちだよ。まさか、本当に高々狩猟者になって一年程度のガキにな。」
「あー、あれだ、この前とか荷物の整理で手伝ってもらったし、あんたの方が出来る事も多いしな。」
「いや、運べるものなんて限られてんだから、ま、いいさ。」
オユキもトモエも、己であまり大量の荷物を持ち運ぶ気が無い。まずもって戦場において、戦闘の邪魔になるほどの荷物など、認める気もない。だからこそ、早々に荷運びようの人員であったりを頼むと決めた。それについて回っていた少年たちが詳しくないのは、まぁ、どうしようもない。何となれば、今は教会で手伝いに励む子供たちの方が、ルイスにあれこれと習っていたこともあって、色々と知っているだろう。馬車への荷物の積み込み方などは、オユキやトモエよりもシグルドたちの方がよほど詳しいだろうが。
「これが、あんたの言っていた時間の使い方の差か。」
「ええ。ただ漫然と剣を振り、それで身を成すことができる方など、余程頭抜けた才覚でも無ければというものです。目的意識を持っていたところで、難しいのですから。」
「ああ、そうみたいだな。」
シグルドが相手を引き起こそうと手を伸ばすが、その相手は残念ながらそれを掴むことが出来る状態ではない。
「危なっかしいガキだな、まだまだ。」
「ええ。まだまだ子供です。」
「いや、これでも成人してるぞ。狩猟者になれてんだから。」
「そう言い返してるうちは、まだまだガキだよ。少し前の俺みたいにな。」
そうして苦笑いして返してくる青年が傭兵に肩を掴んで立ち上がらされる。その表情が何やら微笑ましげなのを見る限り、成程、この人物が徹底的に搾り上げた相手という事なのだろう。
「次は、俺が勝つな、このままなら。」
「それまでには、俺ももっと強くなってるさ。」
「だろうな。」
要は、次に臨むだけの気概があり、それに向けて弛まぬ鍛錬を改めて決めたのだろう。
「ま、ありがとな。つまらない意地に付き合わせた。」
「あんたにとって大事なんだろ。なら、つまらないなんてことは無かったさ。こっちも、悪かったな。止められなきゃ、怪我がひどくなってた。」
「ああ。止められてた理由がよくわかったよ。」
それが解消できないうちは、お互い子ども扱いされるだろうな。そうして痛みを堪えて笑う青年は、恐らくもう大丈夫なのだとそう思えるだけの相手になった。
狩猟者、傭兵の両ギルドにしてもシグルド本人は望んでいるが、理由があるから断っていたという事も、まぁ知っているのだろう。であれば、仲裁に入ってくることもない。
「お久しぶりですね。随分とお疲れのご様子ですが。」
「何があったかは、お前も知ってるんだろ。」
「ええ。その席を譲ったアベルさんから。」
場所を何処にするかと言われれば、久しぶりに傭兵ギルドへと足を延ばすことになった。屋敷が用意されてからは、鍛錬は庭で行っていたが流石によく知らぬ相手を、理由もない相手を招くわけにもいかない。そんな事をすれば、他に断っている相手に対してあまりに礼を欠く。
「ま、これまで面倒だつって避けてきた付けが回って来たってこったな。」
「書類仕事は、まぁ個人の適性というのが大きいですからね。」
そして、体を動かすことを好む物たち、己の能力の向上を求める者達にとっては面倒以外の何物でもない。勿論向上する能力はある。組織に重用される。だが、それらを求める人間ばかりという訳ではない。
「にしても、お前等なら断ると思っちゃいたんだがな。」
「いえ、本人同士の納得があればトモエさんは止めませんよ。」
当然、トモエはシグルドにも確認している。己の怪我、その可能性に加えて、相手に負わせる怪我、その覚悟があるのかと。アナとアドリアーナはトモエの言葉に顔色が少し悪くなったが、他の三人にはそれが無い。これについては、トモエの過小評価とオユキは判断している事だが、そもそも一度大会に出ている。そして、そこでセシリアが持った疑問、それをすでに超えて今がある。トモエとしては、己よりも強いもしくは相応に認められている相手だからこそと、そういった考えもあるからではある。だがそれこそが過小評価というものだ。
「ま、腕のいい医者もいる。」
「カナリアさんは、難しいでしょうからマルコさんにお願いすることになるでしょう。」
「で、結果はお前も当然と考えてるわけだ。」
そうして新たに始まりの町の傭兵ギルド、その長の責に収まったルイスと少し離れた位置で眺めている。トモエは少年たちと並び、シグルドの背後に立っている。見極め役はやはりトモエでは中立などと言えるはずもない。新人たちの訓練を見ていたひとりの傭兵が買って出てくれたため、そちらに任せてすっかりと応援に回るつもりであるらしい。
「ええ。」
「ま、そうだな。」
この立ち合いは、シグルドが勝って終わる。それを疑うという事はまずない。既にそれだけの差が、そこに生まれている。それが解る程度の積み重ねは相手もしているが、何かに区切りをつけるためにと選択したのだから、そこは尊重しても良いものだ。負けると分かっていても、負けるつもりは無いとそれだけの気概だけは確かに示して見せている。だからこそ、以前と違ってトモエが見たところで何も学ぶものなど無いと切り捨てていない。
「それにしても、以前と違ってかなり盛況ですね。」
「ああ。」
そして、傭兵ギルドの訓練場。以前はそれこそ見知った顔以外は、仕事に空きのある傭兵達しかいなかったが、今は随分と見知らぬ顔が揃っている。果たして、この町にこれほどの人口がいたのかと思う程の数が、今は一所で励んでいる。これに関しても、ここまで行ってきたことが実によく働いているとそう言っても良いだろう。今後を考えたときに不利益となる事はあるのだと魔国に訪れた際に判明したのだが。
「アベルからも色々と聞いちゃいたがな、リース伯子女から正式にどころか、国王陛下に直々が仰せになったこともある。」
「王都でも動き出してはいるでしょうが。」
「グレイハウンドからとなると、流石にな。」
「丸兎が最弱、それは変わりないという事ですか。隣国迄を見れば、戦うだけならと思う相手もいますが。」
「後は、保存の効く食糧だな。魔道具に魔術があると言った所で、有って困るもんでも無いとな。」
森も近く、川も今となっては町のすぐそばを流れている。食料という点で見れば、非常に豊かな土地だ。足の遅い者達に配慮をしなければ、王都まで半月もあれば積み荷を届けられる。今後王都の人口は極端に増えると予想が出ている。ならば、集めれるところから、いくらでもと考えるものだ。
「それはまた、昨日お会いした時は、かなり加減をして頂いた様ですね。」
「坊主たちも何回か聞かれたらしいからな。お前がいつ戻ってくるかはっきり聞いていないのかと。」
「魔国には一月も滞在する予定が無い、そのようにメイ様にもお伝えしていたのですが。」
まぁ、それがあったところで国王の襲撃があり、そこからあれこれと話を振られ経験語り無いからこそ気が付けば取り付けられた形になったことも、ままある事だろう。側にゲラルドは付けていたには違いないが、彼が割って入ることができる事ばかりではない。あくまで、今は一使用人。
「おや、始まりますね。」
そうして積もる話を順に片づけていれば、状況も進む。既に互いに練習用の武器を手に持ってにらみ合いは始まっていたが、何やら行われていた門どうにも方が付いたらしい。
「ほう。」
「おや、そちらを選びましたか。ならば、上手くいけば怪我は軽度な物で済みそうですね。」
名前も知らぬ相手は、両手剣を盾としても使う心算があるというように、己の前に立てて構えている。対してシグルドは普段使いではない八双。
「自分よりも背が高い相手には、正直向かぬ構えなのですが。」
「お前がアイリス相手に使ってたろ。」
「あれは、アイリスさんの流派に合わせてとしただけですから。」
ルイスの知らぬところで、トモエ相手にも使って、いまオユキが口にしたのとまったく同じ評価を返された物だ。その時にはオユキとしては振り下ろす勢いに乗って懐にもぐりこむ、加えてトモエが下段に構えるからこそ上から抑え込むことで腕力と体格の差を潰すと、そうした考えもあっての事だが。
「さて、この後はシグルド君への説教が待っていますから。」
「ま、まだまだガキだ。一応こっちで選んだ相手に見極めをさせる。」
トモエがシグルドに許可なく立ち合いを許さない理由。怪我をする覚悟よりも、怪我をさせる覚悟を強く問う理由。それが今目の前で。
教えている通りという訳でもないが、シグルドの知っている流れとして相手の出方を伺った結果、やはり無駄の多い動きで若い狩猟者が手に持つ両手剣を振るう。そもそも騎士もするような儀礼としての構え。剣を体の前で立てて構えては、中段よりもさらに遅い動きを作る事になる。不意打ちという訳でもなく、その状態から早くという手もあるにはあるが、それはどうした所で力の乗らぬ動きとなる。そして、その遅さでは、今のシグルド程度にも届くものではない。いつかオユキがそうしたように、相手の持つ両手剣を力任せに上段から地面にたたきつける。十分すぎるほどに力の乗った刃は、確かに対戦相手の手から力任せに武器をはぎ取り、地面にたたきつける。
そして、オユキでも、トモエでもこういった場であればそこで止める。ないしは、切り返して首元で刃を止める。しかし、シグルドにそれは出来ない。
「そこまでだ、坊主。」
「あ、ああ。」
切り返して、更に体を入れ替えながら踏み込みを。威力の乗った刃が走り、相手の胴を強かに打とうとした所を見極め役の傭兵が当然とばかりに踏み込んでその体で止める。相も変わらず、オユキの目から見てもまずまずと思える一刀を体に受けて、痛がるどころか木でできたそこそこ以上の厚みがある剣をへし折っているあたり、加護のある場ではどうにもならない相手だと、まざまざと見せつけられるものだ。
「シグルド君、そこまでですよ。」
そして、トモエが後ろから声を掛けながらシグルドの方を叩けば、ようやく少年の肩から力が抜ける。
「俺が、勝った、で良いんだよな。」
「ええ。流石に手首と指が折れては剣を握るのもままならないでしょうから。」
対戦相手は、うずくまりトモエの口にした場所を抑えている。強く握り込みすぎていたから、そうなる。そちらに対して声をかける前に。
「ああ、お前の勝ちだよ。まさか、本当に高々狩猟者になって一年程度のガキにな。」
「あー、あれだ、この前とか荷物の整理で手伝ってもらったし、あんたの方が出来る事も多いしな。」
「いや、運べるものなんて限られてんだから、ま、いいさ。」
オユキもトモエも、己であまり大量の荷物を持ち運ぶ気が無い。まずもって戦場において、戦闘の邪魔になるほどの荷物など、認める気もない。だからこそ、早々に荷運びようの人員であったりを頼むと決めた。それについて回っていた少年たちが詳しくないのは、まぁ、どうしようもない。何となれば、今は教会で手伝いに励む子供たちの方が、ルイスにあれこれと習っていたこともあって、色々と知っているだろう。馬車への荷物の積み込み方などは、オユキやトモエよりもシグルドたちの方がよほど詳しいだろうが。
「これが、あんたの言っていた時間の使い方の差か。」
「ええ。ただ漫然と剣を振り、それで身を成すことができる方など、余程頭抜けた才覚でも無ければというものです。目的意識を持っていたところで、難しいのですから。」
「ああ、そうみたいだな。」
シグルドが相手を引き起こそうと手を伸ばすが、その相手は残念ながらそれを掴むことが出来る状態ではない。
「危なっかしいガキだな、まだまだ。」
「ええ。まだまだ子供です。」
「いや、これでも成人してるぞ。狩猟者になれてんだから。」
「そう言い返してるうちは、まだまだガキだよ。少し前の俺みたいにな。」
そうして苦笑いして返してくる青年が傭兵に肩を掴んで立ち上がらされる。その表情が何やら微笑ましげなのを見る限り、成程、この人物が徹底的に搾り上げた相手という事なのだろう。
「次は、俺が勝つな、このままなら。」
「それまでには、俺ももっと強くなってるさ。」
「だろうな。」
要は、次に臨むだけの気概があり、それに向けて弛まぬ鍛錬を改めて決めたのだろう。
「ま、ありがとな。つまらない意地に付き合わせた。」
「あんたにとって大事なんだろ。なら、つまらないなんてことは無かったさ。こっちも、悪かったな。止められなきゃ、怪我がひどくなってた。」
「ああ。止められてた理由がよくわかったよ。」
それが解消できないうちは、お互い子ども扱いされるだろうな。そうして痛みを堪えて笑う青年は、恐らくもう大丈夫なのだとそう思えるだけの相手になった。
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