憧れの世界でもう一度

五味

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19章 久しぶりの日々

出かける前には

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「考えあるのは分かったが。」
「後は、段階的にとするのが、流石にまだ良いでしょうから。」

外出を認められなかった日を終えれば、次の日は慣れた顔と連れ立って。

「慣れるまで時間かかるわけだし、先にそっちでもいいんじゃね。」
「差があまりに大きければ、やはり調整には時間がかかりますよ。以前は同じ形の武器で、疲れる程だったでしょう。」
「そんなもんか。」
「ええ。無駄を嫌うという訳ではありませんが、予算の都合が合わなければやむなしとも思いますが。」

一足飛びに、それこそ正式な装備として一般的に使われている物をと考えるのも間違いではない。トモエにしても、それは一つの考えだと認める物でもある。以前の世界でも工業的に作られるのが一般的であったし、いよいよ一点物などあまりに難しかった。しかし、こちらではそれが一般的であり、信頼のできる相手がいるというのであれば、話は変わる。

「いっそ、お前さんがこっちのガキどもに誂えたのを基礎としてもいいとは思うがな。」
「あちらは、まだそれぞれ先に合うものとしていますから。」

それぞれに擁した武器は、いよいよ過去の世界で一般的な作りだ。

「鉄で用意して頂いた部分はともかく、柄は木造りですから直しが簡単でもありますし。」
「負担は変わらんがな。」
「そればかりは道具の定めでしょう。」
「ま、違いないな。」

そして、こうして話している間も長く使い手として行える程度の整備しか行っていなかった武器の検分が終わり、それをそのままウーヴェはトモエとオユキに返すことが無い。つまりは、彼の目から見て、時間を取ってとしなければいけない程度の疲労がたまっているという事らしい。

「お前さんらくらい、負担を掛けずに使えればいいんだがな。」
「流石に、親しんできた歳月が違いますから。」
「あー、あんちゃん、長持ちさせてるもんな。」
「無駄なくというのは、当然武器もですから。長く戦うためには、やはり物も長く使わなければいけませんから。」

さて、そうトモエが言い切れば、以前乱獲を行った際に雑だと、乱れがあると指摘されたオユキとしては耳の痛いものだ。

「で、新顔って訳でもないが、そっちは。」
「私は、一応装備がありますから。」
「シェリア様も、一度見ていただく方が良いと思いますよ。近衛として揃いであることに重きを置くのならばと考えていましたが、そうでもないようですから。」

騎士達は、背丈にしてもそうだが、基本的にそろえて陣形を取る。近衛も騎士としての分類ではあるのだから、こちらも同様かと考えて口出しは控えていたが、二度目に王都に向かい、散々に近衛に囲まれる機会があったため、そうでは無いのだと気が付いた。

「トモエ様が武器を預けるほどの方であるなら、お願いしましょうか。」
「流石に、騎士の正式装備を受けられる規模の工房じゃないからな。お前さんは、どうする。少々窮屈そうだが、そのまま広げればその分薄くなる。」

そして、今回からは、これまでと違いシェリアも魔物の狩猟に参加するために、侍女としての用意だけでなく戦闘用の装備もきちんと持ち込んでいる。
いつもと違う顔ぶれ、というには追加が二人だけではあるが、だからこそ懐かしさを覚える顔ぶれで。

「あんちゃんは、いいのか、武器預けても。」
「はい。そろそろ皆さんにも、少し他の事を見て覚えてもらう予定ですから。」

基本の型は出来ている。いよいよ対人となれば、上中下の三種類だけでなく、それぞれの変形や鶺鴒や居付けといった変則の理合いもと思いはするが、少年たちはそこまで人相手に集中する気が無い。やはり狩りに出て、魔物を打倒し、得た糧を町に、教会に。そう願っている。ならば、細かく、どうした所で時間のかかる手立てよりも、より実践的な物をとトモエとしても考えるものだ。そして、オユキにはいよいよ暗器術に含まれている短刀の扱い方を教えていることもある。

「それは、私が見ても。」
「ええ。やはり触りだけですから。」

そして、久しぶりに顔を合わせたカリンも同行している。名前のよく似た家宰見習いであるカレンは、魔国迄の道中、散々戦闘という意味ではファルコにすら劣るという己をまざまざと見る事になったため、多少の自負があったからこそ興味を示していたが、生憎と彼女は今日も仕事だ。オユキから今日くらいはと、そう声をかける事も出来ないほどに、今の彼女は仕事が立て込んでいる。オユキとトモエが寝ていたそれなりの日数、それで終わるほど生易しい仕事量では無いのだ、他国からの礼品の処理というのは。
トモエがどうにか意識を保っていたためという訳でも無いだろうが、魔国に戻るために使える功績は大いにその力を発揮し、愉快な量の荷物を神国に、始まりの町に持ち替える事に成功した。短い期間ではある、物品の数は流石に少ないとはいえ、魔国の王家に届けた品と同じだけ。それだけの馬車にしっかりと荷物を積み込んだうえで戻ってきたという事であるらしい。そして、王太子妃からの願いにしても、一先ずはオユキへの礼品とした上で、それを王家に献上するといった流れを得る物もあるため、実に手続きや用意が煩雑だ。それを神国の国王と魔国の王妃と、その両名が王都に向かって立つまでの間に用意しなければならないからと、さぞ忙しかった事であろう。

「お、なんか新しいことやんのか。」
「以前に一度見せている事ですね。徒手の扱いも、そろそろ覚えて良い頃合いでしょう。」

そう告げれば、以前トモエが蹴り上げた虎の姿を覚えているパウが特に乗り気になる。一方で、少し間合いを置いた戦いを続けていたセシリアとアドリアーナは、何処か気乗りしない様子ではあるが。

「徒手と言っても、皆さんにはこちらですね。」

そして、今はオユキもトモエから習っている最中の短剣を取り出す。ユリアから渡された物だけあって、造りとしては申し分ない。投げる事を前提とするには、少々重さと厚みのある造りではあるが、そればかりは前提が違う為仕方がない。

「えっと、私は前、今もまだ時々使ってますけど。」
「以前は、短刀の中でも、徒手も交えてという訳ではありませんでしたから。今度は、もう少し近い距離での戦い方ですね。」
「あー、そういや間合いは内側は空いてるって言ってたもんな。」
「ええ。そこを放っておく手はありません。」

ただ、トモエの言葉に対しては、シェリアが難色を示す。

「しかし、トモエ様。あまり魔物相手に近づきすぎるのは。」
「そこは下調べをした上で、ですね。」

こちらの魔物は、それはそれは愉快な生態をしているものも多い。迂闊に近づけば、それだけで毒に侵される物もあれば、斬りつけた刃を溶かすほどの体液が体を満たしている物。素手で触ってよい相手ばかりではない。トモエの言い分としては、ここまでに見た加護という仕組み、それが間違いなくある程度の保護は行うだろうという目算があっての事だというものがあるが。

「ですが、やはり選択肢としては有用ですからね。出来ないことに意味はありませんが、やらない事には意味があります。それに、皆さん、今後も機会があれば参加するのでしょう。王都の大会に。」
「そう、ですね。私たちが出来ないなら、トモエさんもオユキちゃんも。」
「ええ。そこで私たちが容赦をすることはありませんよ。」

シグルドだけかと考えていたが、何やら離れている間にセシリアの方でも色々と整理がついているらしい。その目にはシグルドとはまた方向性が違うが、確かな物が。

「先にも伝えましたが、当流派の振る舞いとして、相手に不利を、己の有利を。それがありますからね。」

そして、トモエの目が届かぬ場所で鍛錬に励んでいるのは承知しているが、それでも想像の範囲から抜けるのは難しい。それこそどう動くのかを見れば、何を意図して、それも透ける。

「でも、そっか。トモエさん私に教えてくれてたんですもんね。」
「ええ。使えますよ。勿論、最も慣れたとは言いませんが。」

そうして話していれば、ウーヴェによる確認も終わり、見積もりを聞いて料金は後程としたうえで連れ立って門へと向かう。

「っていうか、シェリアのねーちゃんは、あんま俺らと一緒に戦ったりしないって思ってたんだけどな。」
「一応まだ籍は残っていますが、ファルコ公爵令息の立ち上げる組織とは、また少し違う形を河沿いの町で試すことになりますから、今はそちらに向けての準備期間と。」
「へー。」
「教会の子供たちは、そのまま残ってくれれば良いのですが。」
「あー、どうだろうな。あいつらもあんちゃんから一応認められてから騎士になりたいって言ってたからな。」
「それは、心強い後押しになるでしょうが。みなさんは特にそうですが、リース伯に使えるというのに、ファンタズマ子爵とマリーア公の紋章だけというのは。」

シェリアが改めて、少年たちがそれぞれに持つ武器、その柄頭から伸びた紐の先を見て、少し難しい顔をする。

「そう言えば、そうですね。メイ様から皆様に話はあったと思いますが。」

ただ、オユキからしてみれば、こちらで色々と要危機をしていたわけでもあるのだから、そう言った話もすでに出ているだろうと、そういった考えが先に立つため、用意が間に合っていないだけかと考えてもいたが、向こうも新興とはいえオユキやトモエよりもよほど慣れているのだ。

「いや、特になんも言われてないぞ。」
「ああ。正式に用事をと飲む必要があるから、衣装をといった話をされたくらいか。」

少年2人も、そんな話は無かったとただ首をかしげる。そして、少女二人も同様に。

「えっと、そう言えば、あれって、その事だったのかも。」

そして気が付くのは、こうしたことに生来の聡さを持っているアドリアーナだけであるらしい。

「リーアは、何か心当たりがあるの。」
「うん。ほら、これまで何回か欲しいものは無いかって、聞かれたじゃない。」
「でも、教会のベッドとか、調理器具とか、色々貰ったろ。」

どうやら武器という分かりやすい品は、戦と武技というそれ以上が無い権威を背景に持つ相手から渡された物があるため使えないと、メイとしても苦心した結果普段使いの物をと考え聞いたのだろう。

「そういや、装飾品とかも聞かれたっけ。」
「うん。狩りにもお仕事にも邪魔だからって断っちゃったけど。」

子供たちと門に向けて歩く中、何やらシェリアとカリンが感じ入ったとばかりに頷いている。
ただ、周囲に散っている護衛からは、少年達ではまだ気が付けない距離にいる相手が、何やら頭を抱えている様子は派手な金属音で分かるというものだ。
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