憧れの世界でもう一度

五味

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18章 魔国の下見

繋ぐもの

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よたりよたりと、千鳥足で。
流石にいくら疲労が重なっているとはいえ、オユキとしてもそのような無様は見せられない。先に用意された席までは、己の足でしっかりと歩いて、その程度は流石に行うというものだ。

「砦、と呼ぶのがしっくりきそうなものですね。」

町とは比べるべくもなく、こちらで見た城と比べても小規模な物。そして、居住性というのは最低限しか考えられていないと分かる施設。その門の前を魔国では非常に少ない近接戦闘を行う者と、魔術師達が固めている。そんな様子を眺めながら、教会から手を頼んだものたちが忙しなく動き回るのを見守りながら差し当たって行うべきことがない物たちでのんびりと話を楽しむ。

「拠点とだけ伺っていましたから、もう少し頼りないものと思っていましたが、確かに魔術師が主体となれば拠点の中から、そう言った選択肢もありますか。」
「ま、それもありそうだな。」
「神国では、そう言った戦術の研究は。」
「騎士団だと遠征が主体になるからな。ヒト種の魔術師では、大規模な魔術を使えば一週間は戦力として期待が出来なくなる。それを考えれば、どうにもな。」

それなり以上の期間を作戦に費やすことを主体とする相手からは、確かにそのような評価が下されるだろう。

「確か、マナを回復させるための薬剤があるとか。」

所謂ゲーム的な回復薬。そういった物があるのではないかと、トモエからはそのように。

「一応、あるにはあるんだがな。」
「揮発性が高いので、基本的に一日しか持たないのですよね。」
「それでですか。」

オユキが散々にマナの枯渇による不調を抱えているというのに、そうした処置が行われなかったのは何故か。そこには、当然あれこれと理由がある。

「材料が神国ではほとんど取れない事もあってな。その辺りは他に期待もしちゃいるんだが。」
「保存を可能にしようと思えば、かなり高価な容器も必要になったはずですし。」
「そうなんだよな。正直、そこまで考えると予算がな。」

結果として、神国では魔術師は研究職や、それこそ溢れ、王種といった魔物に対して広域殲滅を行ういよいよ戦術兵器としての意味合いを持って行ったという事なのだろう。

「それこそ、翼人種や、他の。」
「戦闘を好む種族ばかりじゃなくてなぁ。」

花精に、タルヤに関しては、そもそも攻撃というものにとにかく相性が悪いという自己申告もあった。

「あと、以前トモエさんにもお話ししましたが、素材の採取も難しいのですよね。」
「採取を行うには、専門知識と道具がと、そう言う話でしたか。」
「以前と同じであれば、始まりの町の近くにある森、少し奥まったところに行けば、素材があるにはあるのですが。」

そう、採取の候補地は勿論ある。植生も豊かである以上、枯れ果てているなどという事も無いだろう。であれば、等とは思うのだが。

「確かに、現在のあの町の戦力では難しいですか。」

戦力として十分な者たち。傭兵が森に入れば、その場が一気に荒れる。そして、採取を仕事とする者達は、荷物や道具で手が塞がるため戦闘は避ける事に重きを置いている。何度か少年たちと共に、森の浅い位置を護衛の練習も兼ねて冷やかしに行きはしたが、大量の荷物を抱えて平然と動き回る身体能力はあるのだが、それは必要に応じてきた得られたものに過ぎない。彼らの日々の鍛錬というのは、素材の鑑定や知識を深める事に重きを置かれるため、やはり戦闘にまでは手が回らないのだ。己で倒すことも難しい魔物の素材、部位による細かな使用法や評価基準までを空で応えられる所には、頭を下げるしかないのだが。

「狩猟者連中が、こう、なぁ。」
「まぁ、そこは追々とするしか無いでしょう。」

そして、狩猟者になる手合いというのは、基本的にそういった細かい面倒を嫌う傾向が強い。

「川を引き込んで、植生が変わったという話もありましたが。」
「そっちは、俺らが出る前は調査中だったからな。」
「戻るころには進展があると良いのですが。」

降って湧いた資源、そちらについては継続して採取が出来るのか、そう言った部分から細かい調査がいる。

「後は、地面を掘ってだったか、そっちも行っちゃいるだろうから、どうだかな。」
「手が足りませんか。」

そして、調べるべき項目が一度に増えた事もあり、情報を集める物も、精査する人間も。そしてそれらを取り求める者達も、とにかく頭数が足りない。

「魔国に供出を求めましょうか。」
「俺も少ししか聞いてないが、魔国の陛下が今頭を抱えているらしいぞ。」

アイリスの持ち込んだ祖霊の加護。それは魔国の王都に、その周辺に劇的な変化をもたらした。行ったアイリスにしても、まさか森が生まれるとは考えていなかったと、話を聞いて珍しく何を言い返すでもなく、よくわからないとばかりに数度報告を聞き返したりしていたのだ。それだけのマナが何処からと言われれば、実にわかりやすい。魔術師が、当然神国に比べて多いのだ。そして、願いを捧げたのは、そう言った者達も。だからこそ、人々からも分け隔てなく徴収されるというものだ。そして、何やら魔術師が大挙して体調不良を、マナの不足を訴えるという事件を聞けば、オユキとしてもこれまで散々にマナの扱いに興味を持てと言われた理由にも思い至る。要は範を示せと。

「さて、同行を願う方がどれほどいるのかは、私の分かるところではありませんが。」

そうして話しているうちに、オユキは見覚えのある相手が、置かれた神域の種、その横に並ぶ。一体どうやって、等とオユキも考えはするが、それこそ与えられた役割というものがあるからだろう。当然のようにこの砦の中で暮らしていた相手。かつてともにミズキリがゲーム内で興した一団で活動していた相手が。

「まぁ、挨拶は後程、でしょうか。」
「トモエは、お前が次に目を覚ますのは、始まりの町と考えていたがな。」
「まぁ、そう言う事もあるでしょう。寧ろ、私を戻すには良い言い訳にもなりますし。」

大々的な事が行われてしまえば、それが明確に国に利益をもたらすというのであれば、国としてもただ黙って返すという訳にもいかない。勿論、あれこれと既にこちらにいる者達から誘いや挨拶の願いなどは山と届いているらしいが、それはフォンタナ公爵が間に入った事もあり、それなりの数が握りつぶされている。そして、離宮に身を預けたのは、つい数日前。既に貴族の統率を行う立場にある相手に対して、伝手のある者達からはそちらに情報が回ったりなどもしていたようで、その中から紹介があったと、アルゼオ公爵が己の係累を預けている相手であったりから手紙がようやくカレンに届いたりもしている。預かった紹介状を、どうにか渡したこともあり相手も動きやすくなったという事だろう。

「こちらの派閥の力関係は、王太子妃様を信じるしかありませんが、現状は。」
「ま、お前の方で決まってる事もあるんだろ。そんで、事前に名前が挙がらなかった。なら、後は其処は除いたうえで調整だな。」
「おや、始まりましたか。」

そして、暢気に話していれば、いよいよ架橋が始まる。
とはいってもかつての世界であったように、まずは地面を掘り、そこに土台を固めるためのなどと悠長な物ではない。ワイヤーフレームがそれが当然とばかりに中空に煌めく線として走り、まずは外観を。そして、周囲に何もないというのに、徐々にその内側に向けて実際の素材が埋められていく。まるで、テクスチャを張り付けていくのだと、そう言わんばかりに。端の見えぬ大河にかかるだけの巨大な建造物だ。当然、相応の高さを持つことにもなるし、陸地に対しても、相応しいだけの基礎が積まれていく。
川沿いの町における神域の種は、新年祭の折に開くなどと聞いていたが、こちらに関してはこの機会に合わせてとなるようで、以前門で見たように箱が上部から徐々に地面に向けて流れるようにほどけていき、そこから徐々に教会が立ち上がっていく。この場に作られる教会も、すでにあった砦にしても、橋を中心としてここに町を作る、それを前提とした形に組み込まれていく。そして、その風景を眺める者達の中で、一人、また一人と、立つことも出来なくなるものたちが現れる。

「流石に、こうなりますか。」
「ま、後の事はこっちで引き取る。今度ばかりはトモエも負担が大きいみたいだからな。」

一応は正式な祭事でもある。揃って得た功績は一通り身に着けている。アベルの持つ余剰の功績、それはこれまでの行いに応じた物であり、騎士としての日々では既に伸びる物が無い、そうなるだけに相応しい輝きを放つ物。しかし折に触れて、得た物も全て無くなるまだまだ新参と呼ぶしかない、毎度の如く大事を引き起こす者達からは、早々にそれが無くなっている。
唯一誇れるとすれば、こちらで暮らしていた者達、その一部よりは長く意識を保てたとその程度であろうか。

「そうですね、では、後の事は頼みましょう。起きてからは、先と同じく。」
「ま、次に向けた用意もある。暫くは休むと良い。」

そして、結局は前回休むと決めたオユキとしては、色々と考える事もある。トモエが不安視している、不満を抱えているという事も分かるのだから。

「それと、次ですね。」

既に、立っていられないどころでは無く、倒れ伏す者達も出始めている。戦闘を、分かりやすい功績を貯める機会の多い者達よりも神職の方がよほど平然としている。そういった様子を見れば、オユキとしても己の選択は正しかったのだと、そう自負を持てるものだ。

「次は、月と安息と決めています。しかし、同行者は色々と思惑もあるでしょう。」

恐らく次の旅路、それの同行者は随分と仰々しい肩書きを持つ者達が並ぶことだろう。

「ですから、一切の計画は任せます。決まったことだけを私たちには。」
「そうか。まぁ、それもいいだろう。」
「オユキさんも、少しは自分がやりたいことを行う時間を持つのがいいでしょう。」
「そう、ですね。かつての憧れ、それを確かめるばかり。不足があったから、陰りが見えたから補ってばかり。」

そして、オユキに比べて、功績も、体力も勝るトモエが今回もまた言葉に不足があると。

「やはり、心ばかりは、年を重ねた老いを感じる物です。少し、疲れました。」

はっきりと口にするのは、これで二度目だろう。そんな言葉を告げて、オユキはいよいよ意識を手放すことになる。直前までに確認できたのは、8台の馬車程度であれば、全く問題なく並走できそうな幅を持つ長大な橋。その前には恐らく、そこに仕組みが用意されているのだろう巨大な門。周囲を囲むいくつかの柱や、恐らくそこにどこかから門番が配置されるのであろう小屋であったりが立ち並ぶ姿。
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