憧れの世界でもう一度

五味

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18章 魔国の下見

裏話

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その後はオユキだけでなく、それぞれにしっかりと場の維持の為に徴収された結果としての疲労が襲ってきたため、これまでに何度となく有ったように、賑やかな周囲を突っ切って王城に。そして、離宮の一つを与えられてその日はしっかりと身を休める事となった。
オユキに至ってはなれぬ魔術の行使の結果、何やら歯止めが上手く効かなくなり相も変わらず早々に襲われた風邪の症状、咳やくしゃみの度に、周囲に影響を与える羽目となった。

「無理をした結果、それ以上の事はいえませぬな。」

そして、王城付きの魔術師の一人の手を借りて、カナリアも同席しての診断の結果はそのように。

「自覚はありますが。」
「慣れぬ技を、無理に使い続けるからですよ。試すのは構いませんが、それ以上はと何度も言ったはずですよ。」
「それでも、無理を通さねばならぬ時もありますから。」

トモエの言い分は、師として過去から何度も繰り返したもの。
オユキの言い分は、挑戦者として過去から幾度も示し続けたもの。
シグルドたちに向ける時と同様に、仕方がない、そう言った諦観と淡い喜びと。そういった物をトモエが隠していない以上は、オユキとしても今更改める気は無いのだと。

「いいですか、ただでさえマナの不足は日常の加護にも関わるんです。オユキさんは発言形質が人の者が強いというだけで、未だによくわからない部分もあるんですから。」
「ほう。成程。となると、種族の特性がこの度の魔術の無理な使用で励起されたのか。」
「いえ、流石にそこまでは。今はどちらかと言えばアイリスさんの祖霊ですね、あの場で行使された氷に関わる力を取り込んでしまったせいで過剰なマナが溜まってしまっています。」

王城から紹介されるだけの知識と経験、それを確かに伺わせる魔術師に対して、カナリアから。人では見る事が出来ぬものを、確かに見る事が出来る種族からは、別の見解が。

「瞑想で過剰にため込むものはまま居るが、それと同様という事かね。」
「ええと、生憎私がそちらに詳しくないので。ただ、起動されている魔術行使用の回路、それがはっきり見える程に固着してしまっています。無理に解消するのも良くないと思うのですが。」
「見える程となると、常にそこにマナを消費しているのであろう。ならば、そのまま自然に解消するのが良かろう。無理に他に元するよりは、現状問題が、なに健康上の問題はあるのかもしれんが、生命の危機が無いのであれば。」
「オユキさんはすぐに無理して、怪我をしたりしますから。」
「であるなら、見るからに苦手な属性で囲って、相殺という手段も無いではないが。」

少々望まぬ方向に話が転がりそうだと、そのような気配を感じたためオユキがいい加減に研究者たちの好奇心のままに進む話に割ってはいる。他に止める事が出来るであろうニーナ、ナザレア、トモエにしてもオユキの状態が回復するのであればと、止める気は全くないのだから。

「いえ、それでは私自身さらに消耗することになるでしょうから。それに、この余剰は直ぐに無くなります。」
「ええと、オユキさん、でも自覚もないですよね。」
「それは、はい。しかし、試しで得られるものは、奇跡として。であれば、直近で大きくマナを使う予定もありますから。」
「それは。」

カナリアが言いよどむことは、魔国に宙を尽くす相手が直ぐに引き取る。

「成程。聞いていた話と聊か趣が違うとは思いましたが、そう言った形で釣り合いを取ることとなりましたか。」
「恐らく、でしかありませんが。」

では、なぜ今回の場が前回を純粋に強化した物にならなかったのか。
勿論、白い毛並みを持つ狐、それに対しての祖霊たる務めもあるのだろうが、近しく、融通が利く者を経由して、それが一つの分かりやすい理由でもある。二国を繋ぐ橋。物理的な物だけではなく、何やらあれこれと機能を持つ予定の橋。そんなものを新しくこの世界にもたらすと神々は決め、その負担は引き受けるとまで言葉にしている。しかし、そこに変わらぬ制限があるには違いないのだ。

「恐らく、此度の事、その負担を行って頂くための物、今私が取り込んだものが全てではなく、目印と言いますか、まぁ、そういった物として残っている出のでしょうから。」

そのために、極地の狐、白々とした雪原に煙のように溶ける毛並みを持つ狐、それに改めて自覚を促すためにという口実と合わせてとなったのだろう。そういった背景を考えながら、根深い疲労に体を起こすことも叶わぬオユキがぼんやりと考えながら言葉を返していれば来客を告げる音が部屋に響く。
トモエが早々に返答を返せば、一先ずの診察を終え、とにかく安静と言いつけた二人は次なる患者、アイリスの様子を三うために戸連れ立って部屋を出ていく。ここまでの日々では、どうにか毛並みが有れる程度で済んでいたのだが、今度ばかりはアイリスも相応に祖霊からの反撃を受けている。修めた技が、どうしても先の先を取るための術理という事もあるのだが、氷柱から現れる現身に対応しきれなかった。そこは本来であればアベルが補助に回るのだが、生憎アベルは祖霊と違って氷に映った己を現実のものとするような真似は出来ない。囲まれれば、何処かの方向は無理が出る。そして、獣同士の遊びとして、互いに食らいつこうと振舞っていたため、祖霊本体からの爪や牙とて、僅かに届いてはいたのだ。致命傷とならない、その程度に加減されたのだと、終わった後にアイリスは実に不本意と、そういった様子を隠すこともなかったが、それ以上に回復に専念しなければと、そう居た様子でもあったのだ。
アイリスの祖霊から得ている加護は、豊饒に含まれるモノ。そしてそれに係る祭りに始まりの町で参加しようと、それhあもはや既定路線になっている。そして、いまこうして部屋に訪れた者達は、何故オユキがそれを決めたのか、確認のためにとずれたのだろう。

「王都でも、中座される姿を見て過日の不足を思わずにはいられませんでしたが。」
「こいつは、どうだろうな。もっと簡単に済ます方法もあったんじゃないかと、どうしても俺は疑ってしまう訳だが。」

今は先代アルゼオ公爵の培った縁を辿る形で頼んだ、フォンタナ公爵家の手の及ばぬ場所。知識と魔の国の王城、その敷地に含まれる敷地の一つで今は安全だと、そう判断ができるだけの状況が得られている。

「ま、それは置いておこう。いつからだ。」
「基本的に、常にですから。結論付けたのは、王太子妃様から紹介の合った方々、その方々を招かなかった事です。」

先代アルゼオ公爵は、オユキの言葉にただただ額を抑えて空を仰ぐ。

「先代アルゼオ公爵への評価が変わる事はありませんよ。影響力としか、私が思いつく言葉はありませんが、それには限度というものもありますから。」

フォンタナ公爵の色が濃くなる前、その道中は実に良い環境であったのだ。案内役の先代アルゼオ公爵本人が気安く接する相手でもあり、実に分かりやすい配慮が、今後を願う気配りが見受けられた。しかし、フォンタナ公爵領、その領都に入って以降は途端に気配が変わったものだ。旅の道中、オユキがそれを好むから、今後を考えたときに、育むべきものがある事を隠さないからと、配慮を見せていた先代アルゼオ公爵が他に手を取られることになった。そうした細かい部分を超えて、先の廃嫡された王族、その顛末で確信に変わる。

「廃嫡された王族、それを未だに師事しているのでしょうね。現公爵は。」

だからこそ、王太子妃から渡された紹介状、それに書かれた家名に対してフォンタナ公爵は一切の配慮を行わない。自国の王族でもあり。今となっては他国の王族。そして、嫁いだ成果としてあまりにもわかりやすい奇跡を持ち込む切欠を作った人物。そんな人物が自国に対して助成を求める書状でもあるというのに、それに対する配慮をフォンタナ公爵は見せなかった。

「廃嫡された相手と、王族として地位が確かであった御方。政治闘争の余地など無いと、来る前は考えていたのですが。」
「ファンタズマ子爵。この度の事は、苦難を前提とし、正しく道を整える事が出来なかった私の責に。」
「流石に、そこで責任の追及は。」

既に半分思考は眠気に負けているため、己の考えをぼんやりと喋るだけのオユキに代わり、トモエがオユキへ確認を行う。

「ええ。想定の範囲内です。だからカレンを連れてきました。手紙は、カレンを経由して、確かに届けられています。返事も、預かっていますし。」
「オユキさん、結果ではなく。」
「ええと、そうですね。元々、想定はありましたから。王太子妃様にしても。アベルさんも聞いた、他の予定があったでしょう。そこで少々状況は変わっても、決定的な亀裂にならない、そう言う事です。」

どうにも、眠気に負けているため、トモエ以外の言葉はいよいよ届きにくいどころでは無いと、そういった様子を見せるオユキ。

「明日、そうですね、早ければ明日の昼過ぎには、橋を架けに出立することになるでしょう。その際は、王妃様でしょうか。同行を願えるとは思いますから、そこでより詳細を。」
「ああ、わかったわかった。考えがあったってのは良い。お前がフォンタナ公爵を適当な相手だと判断できないというのも、まぁ構わない。だが、それならば、どうする。アルゼオ公爵領に対する補填、それがあっただろう。」

アベルから見ても、どうにも舟をこいでいる今のオユキは見た目通り、それ以上の物ではないらしい。加えてナザレアとニーナから過剰な負担は認めぬとばかりに、圧が増してきていることもある。
アベルの言葉を、トモエが己の解釈に任せてオユキに話せば、その返答は実にわかりやすい。

「それですか。私が神殿に運ぶものとは別、それが魔国で得られますから。現状、魔石の輸送は門で行えない、その理解はあるのでしょう。」

そして、それは橋で得られる利益、そことは別の場所に対して。そういった補填を行う予定が恐らくはあるだろうと、オユキが聞き取りにくい声でどうにか答えたところで、いよいよ訪問者たちが部屋を追い出されることになる。次は、オユキの考えが正しければ、架橋に向かう道行き、そこでさらに細かく話すことになるのだろう。
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