憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

足を延ばし

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アンツォフェルモ辺境伯の領地は、比較するのもなかなか難しいものではあるが、それこそ直前。神国を後にする折に立ち寄った拠点と、大きく変わる場所ではない。あくまで辺境伯の領地の一つ、それもいよいよ端。これから拡大をという、そう言った所であるため国としての特色などこれから出る様な、そう言った状況である事に違いは無い。
ただ、旅行慣れしている者にとっては、初めて足を踏み入れた場所が直前までとさして変わらぬ。そう言った状況に首をかしげ位はするだろう。正直な所、危険域と呼ばれる場所を3日かけて抜け。その間人里に泊まることが無かったから。トモエにしても、そう言った部分からしか、違う国にと実感を得られるものではない。

「アベルさんは、以前に訪れた事は。」
「今更な質問だが、無いな。俺が他国にって言うのは、どうした所で厄介の類でしかないからな。」
「アイリスさんも地理を考えれば、そうなるでしょうし、少しは見て回る時間があればよいのですが。」
「オユキは早々に帰るつもりじゃなかったか。」

そう、オユキとして既にそれは決めていると周知している。

「それも駆け引きですよ。」

仕事を終えれば取って返すつもりなのだと、それを周知している。では、そんな人間の興味関心を引き、滞在を伸ばすことに意味を見出す相手が、次に足を運ばせたいと考えるものが、行うべきことは何かといえば。

「頼むから、国事に迄個人の都合を持ち込んでくれるなよ。」
「ええ、そこはオユキさんも動かしはしませんとも。」
「それはそうなんだが。」

トモエが観光を楽しみにしている、それは既に広く知られている事だろう。実際にはオユキの要望と見て取れるかもしれないが。王家に珍しく頼んだ事、そして、広く目がある中で叶えられた事というのは、王都内の史跡を王妃の案内付きで少し巡ったこと位しかない。マリーア公爵からも、それこそそれを叶えた物からも、ささやかにすぎる等という話はされているが、確かに叶えられた要望はそれだけだ。
内実を知っている者達からしてみれば、他にも実に色々とあったりはするのだが。
どうした所でオユキは乗り気ではない衣装の数々、それはトモエが相談しての事であったりもする。
トモエからオユキに対して贈り物、そうするのであれば、やはり本人が好まぬものはそうとしたくない。トモエが用意すれば、贈り物とすればそこにある好意にオユキはただ感謝をする。それ自体を喜ぶ。品については、それが何であれ特に構わず。何となれば華やかな和装など、衣桁にかけて飾りとして楽しむこともできるのだ。そのような使い道を知っているオユキであれば、贈り物を魔物のいる中で、戦闘で破損や汚れが出るかもしれぬ中で着るよりも、トモエとの生活の場や、オユキ個人の場所で飾り眺めると、そう言い出すに決まっている。
それを避けるには、過去そうであったように本人殊更何も言うことなく用意しておくか、他から押し付けられたとそういった体を取るのが何かと早い。トモエからという事でも無ければ、オユキにしても消耗品と早々に割り切るし、贈られた相手の顔を立てようと、場面を選んで使う事に一切抵抗を覚えない。その辺り非常に分かりやすい部分が、今の見た目として出ている。

「流石に、実用とそれ以外に評価は難しいですね。」
「まぁ、お前らだと流石にそうか。」

ここまででも、なんだかんだと回数を熟しているからと。今はトモエも騎乗してアベルと轡を並べて先導などをしている。最も、先頭という訳でもなく、案内される者達の中で、そう言った事に向いた人員としてでしかないため、過去の数度に比べればいよいよ気楽な物だ。手綱を握って乗せられていれば、後はセンヨウが良くしてくれるという事もある。

「違いが、ありますか。」
「壁に使われている魔術も少しな。後は、道の脇に並んでいるだろ。」

言われて、流石に壁は見ただけで分からぬとトモエは早々に諦めて、道に沿って並んでいる物に目を向ける。

「言われてみれば、こちらにはありませんでしたか。」
「そう言うってことは。」
「街灯でしょう。そう言った言葉がすでにあるかは分かりませんが。しかし、魔石の不足は神国よりもとそのように聞いていましたが。」
「魔石はな。こっちが騎士の教育にある程度国力を割いているのに比べて。」
「こちらは、魔術師ですか。」

カナリアは例外として。というよりも、カナリアが総評として向いていないと、そう言い切る種族がそのように向かう、そこにある効率、合理性と行った物についてトモエにしても首をかしげてしまうものだが。そもそも、マナの保有量がすくない。そして、ここまでで分かったことでもあるが、生命の維持にすらマナが必要になる。魔物を狩るために使えば、そこから淀みへと変わり、魔物が増える、強化される。そう言った構造的な欠陥を国として抱えている。

「オユキさんは、ローレンツ様を頼むつもりでいますが。」
「先の功績もあるからな。本人も二つ返事で受けるだろ。出来れば、そっちだけで話を纏めないでほしくはあるが。」
「その辺り、シェリアさんが働きかけを行っていませんか。」
「あー、そっちを期待してか。そういや、王都じゃまともに時間も取れずに、後任に引き継ぐことになったからな。」

トモエにしても、オユキとトモエの好むやり方を知っている物として、大いに不興を買った者達の監督をする責務を与えられていると、そう言った話も聞いている。今後、河沿いの町にシェリアも居つくつもりだろうと、そう言った予想があるのだと、そう言う話も聞いているとトモエがアベルに話せば。

「それに関連して、だな。お前らも知ってるらしいが、ローレンツとシェリアは。」
「そう言えば伯父と呼んでいましたね。アルゼオ公爵の寄子だとも。」
「ああ。それもあって、お前らがマリーア公の麾下でもあるため、得た恩恵に対しては用意しなきゃならん。あの二人については、疑う余地もないと、そう示せたこともあるからな。で、その辺りの整理もあるんだが、ローレンツ卿がな。」

そこで問題になったのが、侍女として働いていたシェリアに対してトモエがした相談と、ローレンツが補填として差し出すと決めた物が問題になったらしい。

「木々と狩猟の神の功績、これが得られたことに対してだけでも、ローレンツ卿がこれまで集めていた書籍だけでは。」
「その、下に見てという訳でもありませんが、相応に高価な物だと。」
「それでも値が付くものだからな。」

要は、高価だと言い切れるものと、いくら積んだところで得られるかもわからないもの。そのバランスをどうやってとるのかと、大いに頭を悩ませているらしい。

「あの二人の去就、それを考えれば。」
「ああ。寧ろ巫女様からの温情としか言えないものだからな。」
「他にオユキさんが好むものというのは、正直かなり難しいですよ。」
「まぁ、想像は出来ちゃいるんだがな。」

オユキの好む物。それはあまりにも少ない。そして、そのどれもが用意をするという事に何処までも困難が存在する。それはこの世界だからという訳でもなく。

「よく、愛想をつかさないもんだと、お前じゃなきゃそう言うんだがな。」
「割れ鍋に綴じ蓋、私どものいた場所ではええ、古くからこの言葉が使われた物ですとも。」
「どっちもどっちだ。春を嫌う花も多い、そう言う事だろ。」

オユキの好む物、それは何処までも物ではない。分かりやすい物質として用意できるものではないのだ。トモエは、そもそもその道に大いに傾倒していたこともあり、武にまつわる物、それにどうした所で魅力を感じる。何となれば、トモエとオユキの過去で最も大きな額の散財というのは、実は一振りの刀剣であったりもする。旅先で偶然に出会った物。随分と、トモエが熱を入れた事を感づいたつまらぬ相手と交渉するのが面倒だと、そうかつてのオユキが判断したため、下品な相手に下品な手法を使って手に入れた一振り。生憎と手元に置くようなものではなく、早々に博物館に預ける事を選ぶと、涙ながらにかつてのトモエが決めた物。それにしても、オユキがそうした方が良いだろうと、そうトモエに諭したのだ。
トモエは、物品に執着する。衣服、装飾にしても。しかし、オユキは何処まで行ってもそれらを無価値とする。
世間一般に対してという訳でもない。何となれば、トモエよりもよほど経済活動の中枢にいたのがオユキだ。理解はある。実感もある。ただ、その結果として力の一つの側面、それ以外の価値を見出していない。そこについては、トモエの父と、トモエ自身が流派の思想が如何なるものか、それを語って聞かせたのが原因でもあるのだが。

「シグルドたちが、側に住めば、喜ぶだろうがなぁ。」
「ええ。それは間違いなく。」
「この道中は、まぁ難しいわな。」
「ええ。側にいて下さるニーナさんにしても、ナザレアさんにしても。」
「ナザレアは、本人も望めば問題ないんだが。」
「おや、そうなのですか。」

どうした所で、王家から借りている人材というのは、先を考えぬ者達が使っていいものではない。だからこそ、定期的な入れ替えにも納得してというものであったのだが。
その前提を大いに崩すだろう言葉にしても、報告されたのだろう。

「オユキは、変える気もないみたいだが。」
「私は、そうですね。先の言葉と変わりません。」
「あいつが巫女でなければ、それも随分簡単になるんだが。使徒と友人てのも、どうした所でな。」

トモエにとっての大事は、やはりオユキだ。現状にしても、オユキが抱え込まざるを得ない事、それが過剰だとそう判断している。日々、それを表に出すこともないし、トモエが誘うという形をとって、最低限発散する時間を持っていることもある。ただ、この世界の問題、難しさは、オユキがかつて憧れていたものに、影しか落とさない。
結局のところ、今現在のオユキの差異たる望というのは、かつて話だけでしかなかった事、それを現実としてトモエと共に。それでしかない。だからこそ、トモエが誘えば話し合いが立て込んでいるというのに言言い訳を見つけたとばかりにいそいそと席を立つ。そして、そう言った様子に気が付いているニーナとナザレア。それを好むアイリスが周りを固めれば、もはやどうにもならない。そして、現状オユキがストレス解消と出来る時間はそこだけだ。
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