憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
595 / 1,235
17章 次なる旅は

手は何処まで伸びるのか

しおりを挟む
「正直な所、頼めるのであれば当家からも数人お願いしたいものですな。」
「その辺りは、やはりマリーア公に判断をお任せしていますので。」

食卓に並ぶ料理の数々。そう表現するしかないが、それはあくまでそれぞれの前に並ぶものが異なっているからだ。先代アルゼオ公爵と、その婦人。オユキと、少年達。ついでとばかりに、同席しているアイリスの前にと、それぞれに全く異なる食事が並べられている。レシピはアルノーが責任を持ってというよりも、彼以上に知識のある者がいないため、必然的に彼が組み立て用意されている。そして、結果は非常に分かりやすい。

「かなり堪えると、そのように覚悟していましたが。」
「少々疲労は伺えますが。」
「何、予想していたものより随分と楽な物ですよ。」

そして、この老齢の夫婦以外の者達。初めて急いで遠出をしている少年2人は、這う這うの体で馬車から降りてしばらく休み、今はようやく食卓についている。

「ファルコさんも、やはり加護の差、でしょうか。それ以上に基本的な鍛錬の差も見受けられますが。」
「はい。こちらの二人は騎士学舎ではなく、魔術学と政治学をそれぞれ選んだ者達ですので。」
「そう言えば、学び舎があるとは聞いていましたが、どのような学問をという事は聞いていませんでしたね。」
「御爺様からは、異邦の方が納めた物に比べればあまりに簡単だとそう言われましたが。」
「となると、リベラルアーツの導入までは届いていませんか。」

概念自体は、それこそ古代に成立していたものだが現実として学問の制度に持ち込まれたのは、中世以降。それこそ、オユキ達異邦人の学ぶものとしていよいよ形が決まったのは、そこから発展した形として改めて制度がつくられて行ったのは18世紀頃。

「自由であるために学ぶべきこと、ですか。」
「その辺りは、哲学も大いに関わってくるため、私も完全に理解しているわけではありませんが。」

ただ、封建制の否定、それに連なる流れを加速させるものではあるため、現状に即したものではない。

「制度の理解無く、知識を得たわけですか。」
「はい。私たちのいた場。国に寄っての違いは、変わらずありましたが、強要を身に着ける事、それが義務とされていましたから。」

性格には、与える事が義務なのだが。

「そちらは、まぁ、置いておきましょう。料理、出来ぬ私が語ったところで響かぬ物でしょうが、それは決して軽んじる事が出来ぬものなのです。」
「この齢で、まさか実体験としての得心を得るとは思いませんでしたがな。」
「その、軽んじる訳ではありませんが。」

そして、常とは変わらぬ食事を大量に用意されている少年たちが実に不思議そうにしている。オユキは正直視界に入れないようにと、意識してそうしているのだが、愉快な量の肉を並べられているアイリスほどではないにせよ、量としては変わる物でもない。そして、オユキだけでなく、アルゼオ公爵もアイリスがそこにいると認識しているが、あまり目線をそちらに向ける事は無い。用意されている量、それはあくまでアイリスの食事の一部でしかなく、無くなれば皿が取り換えられる当たり、小食と評される者達は視界に納めるだけで食事がとれなくなるような有様だ。
野菜は難しいのだが、肉の調達に困る事など何一つない。周囲には中型が大量に、そして少し離れた場所では大型の魔物が闊歩するような環境なのだ。護衛の者達が、近寄る側から切り捨てていくのだが、当然そこには大きさに見合った肉が残される。トロフィーという訳でもないのだが、それにしてもという大きさの肉塊が。

「その辺りは、アベルさんや騎士の方々の領分ですね。」
「途中で抜けた事が悔やまれますね。流石に職務の最中、話をねだるのも。」
「何。国境を超えれば、今度は隣国の戦力も糾合できますからな。それからであれば、余裕もある。」
「加えて、皆さんは此度の事、その報告をそれぞれに、いえ、陛下に纏めた物を作らねばなりませんが、そう言った事もあります。」

この道行き、少年たちはそれぞれに勿論あれこれと言い含められている。

「確かに、移動中は難しいですが、こういった時間が終わった後に、進められるのであれば、進めておくのが良いでしょう。その、戻れば、どなたも皆さんの話を聞きたい、それを隠しませんよ。」
「そうでしょうな。誰も彼も隣国との関係、それをどうするかに振舞わされる。僅かでも情報が欲しいと、其方らも随分とせっつかれるであろうな。」

オユキと先代アルゼオ公爵が断言すれば、ここまでの疲労に上乗せされ、げんなりとどころでは無く勘弁してくれとそう言いたげな表情を浮かべている。

「皆さんの大きな失敗、事今回の件ですね。それぞれに信頼に足る人物の同行を頼まなかった事でしょう。」
「しかし、それは。」
「ここまで来てしまえば、確かに間に合う事はありませんか。こればかりは、我らに全員に陛下からの命として確かに伝えられていたのでな。」

少年達が、己の不足を自覚して人を頼めば良し。しかし、それに気が付いていないと助言をすることは許さないと。何となれば、人員の枠は決まっており、追加を加える事は許さないと、そう言った方向に誘導しろと。少年たちが、彼らの他の友人たちが動いたときに、そう言った指示があるというのはオユキに取っては便利な状況であったため、ただそれを良しとした。カナリアの選んだ同行者、メリル。その存在がある事から、ファルコが気が付くだけの素地は十分だろうと。何となれば、アイリスの側にも二人ほど増えている。王都での狩猟祭、そこでちらりと遠目に見た色は違うが同じ種族と見える相手。そこに幾種類かの獣の特徴を持つ者達。

「ヒントは出しましたよ。」

ファルコから、案とも言えない視線が寄せられるが、それに対してはオユキがにべもなく応える。
準備をしている、忙殺しているファルコにそれとなく、と行った物ではあったが。そもそも、期限前に気が付いてしまい、それを当然とファルコが振舞えばまた話が変わるのだ。ファルコがそれを置こうなうのならと、他の二人もそれを当然と考える可能性がある。今回の事に対すするヒントというのは、彼一人に収まらない。公爵の麾下であるオユキが良しとしない結果が生じる。一応は王命でもある。

「ヒント、ですか。」
「ええ。幾度かお尋ねしましたね。此度の事、本当にファルコ様達だけで、問題はありませんかと。」
「確かに聞かれましたが、しかし、既に私が手を頼んだ二人は。他の者達にしても。」
「ほう。最低限の考えはあったか。」
「幾度か聞かれれば、私とて周りから見て不安があるのだと理解が出来ます。オユキ殿から言われたこともあります。しかし、頼める手は既に他を頼んでいましたから。」

ファルコとしては気が付いていた。そのように言葉が返ってくる。

「現状足りない、不足がある。ならば他で補填をせねばと、そのような話もしましたね。」
「しかし、こうした難しい事に同行を頼むのであれば。」
「マリーア公爵に頼めば、それで解決しましたよ。」

そして、オユキからはこの少年の頭から抜けていたあまりに当然の選択肢を投げかける。
確かに国王陛下その人から、思惑と共に勅命を与えられている。それを受けて、ファルコと他の二人も家から指示をされている。そして、その前提があるからこそ、勅命を軽んじない、背後にあるものが理解できると考えられている者達が選ばれた結果として、自主性に任せた。国王から、本来であればこれまでは声をかけられるもなかった年ごろの者達が、変わる情勢に合わせて仕事を任されている。その栄誉を思えばこそ、それに瑕疵は作れぬと縛られた者達からは言い出せない。しかし、頼まれたのなら、そこで言い訳が出来る。勅命を与えた者達が、己の不足を理解したうえで、その補填を頼んだのだと。未だ経験の少ない者達が、勅命という言葉の重さに耐えられず助けを求めてきたと。手をとり合う事を否定せぬ世界であればこそ、そこには簡単な言い訳が作れる。ましてや、家の中。外部に情報が漏れる様な分かりやすい失敗もそこには存在しない。

「しかし、御爺様は、私が行うようにと。」
「ええ。ですから、ファルコさんが助けが必要だと決め、それを頼めば。」

そう話せば、ファルコだけでなく、少年二人そろって頭を抱えるものだ。

「お三方とも、こうして話せば理解できるだけの素地があるようで、重畳。」
「どうにも。」
「ええ。その辺りの部分を、先代アルゼオ公爵の縁者の方に頼むことになります。」

そして、可能な事を行えなかった結果は、勿論これまで散々準備を、下積みを続けてきた人物が一切を引き受ける事になる。オユキのその言葉を実に楽し気に聞いているその姿で分かるように、その程度では揺るぎもしないと、実に分かりやす自身が伺える。そうしてこのあたりの結果も踏まえた上で、アルゼオ公爵という名がより盤石となるのだ。

「それはそれとして。」

それぞれに疲労を貯めていることもあり、食事を勧める手は遅い。

「アイリスさんも、体調がも出られたようですし、改めてご紹介を頂きたいものですが。」

始まりの町に戻れば、ここまでの道中、離れる気はないと、側にいるのが当然とそういった振る舞いを見せている相手がいるのだ。アイリス用の屋敷はどうした所で用意が遅れると聞いていることもあり、一つ屋根の下で暮らすオユキとしては、増える顔ぶれの話くらいは聞きたいとそう考えはするのだが。

「落ち着いてから、其の方があなたにもいいでしょう。」
「つまり、そう言った素性の相手ですか。」
「同じ部族からの二人はそうね。他の二人は、貴方の側についている相手がある程度知っているわよ。」
「角の形状が違いましたが。」

アモン角と呼ばれる、実に分かりやすい特徴を持つ相手が一人。そして螺旋角を持つ者が。

「私たちよりも詳しいと思うわよ。どうした所で、私たちからしてみれば別の種族だもの。」
「その、そばに置く相手と話をしたりは。」
「どういえばいいのかしら。」

オユキの疑念についてはアイリスも首をかしげるばかり。

「何と言いますか、それが種族の特性なのでしょうか。」
「それ以外、言いようが無いわね。」

そもそも、オユキと同じく。それ以上に気を遣うべき相手がアイリスだ。その側にふらりと現れた相手を、当然として受け入れる。その異常性というのは、こうして確認してみれば、誰もが認識するのだが。

「まぁ、いいんじゃないかしら。」
「食料の消費、位ではありますが。」
「何といえばよいのか。難しい種族なのですよ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

処理中です...