憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

手は何処まで伸びるのか

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「正直な所、頼めるのであれば当家からも数人お願いしたいものですな。」
「その辺りは、やはりマリーア公に判断をお任せしていますので。」

食卓に並ぶ料理の数々。そう表現するしかないが、それはあくまでそれぞれの前に並ぶものが異なっているからだ。先代アルゼオ公爵と、その婦人。オユキと、少年達。ついでとばかりに、同席しているアイリスの前にと、それぞれに全く異なる食事が並べられている。レシピはアルノーが責任を持ってというよりも、彼以上に知識のある者がいないため、必然的に彼が組み立て用意されている。そして、結果は非常に分かりやすい。

「かなり堪えると、そのように覚悟していましたが。」
「少々疲労は伺えますが。」
「何、予想していたものより随分と楽な物ですよ。」

そして、この老齢の夫婦以外の者達。初めて急いで遠出をしている少年2人は、這う這うの体で馬車から降りてしばらく休み、今はようやく食卓についている。

「ファルコさんも、やはり加護の差、でしょうか。それ以上に基本的な鍛錬の差も見受けられますが。」
「はい。こちらの二人は騎士学舎ではなく、魔術学と政治学をそれぞれ選んだ者達ですので。」
「そう言えば、学び舎があるとは聞いていましたが、どのような学問をという事は聞いていませんでしたね。」
「御爺様からは、異邦の方が納めた物に比べればあまりに簡単だとそう言われましたが。」
「となると、リベラルアーツの導入までは届いていませんか。」

概念自体は、それこそ古代に成立していたものだが現実として学問の制度に持ち込まれたのは、中世以降。それこそ、オユキ達異邦人の学ぶものとしていよいよ形が決まったのは、そこから発展した形として改めて制度がつくられて行ったのは18世紀頃。

「自由であるために学ぶべきこと、ですか。」
「その辺りは、哲学も大いに関わってくるため、私も完全に理解しているわけではありませんが。」

ただ、封建制の否定、それに連なる流れを加速させるものではあるため、現状に即したものではない。

「制度の理解無く、知識を得たわけですか。」
「はい。私たちのいた場。国に寄っての違いは、変わらずありましたが、強要を身に着ける事、それが義務とされていましたから。」

性格には、与える事が義務なのだが。

「そちらは、まぁ、置いておきましょう。料理、出来ぬ私が語ったところで響かぬ物でしょうが、それは決して軽んじる事が出来ぬものなのです。」
「この齢で、まさか実体験としての得心を得るとは思いませんでしたがな。」
「その、軽んじる訳ではありませんが。」

そして、常とは変わらぬ食事を大量に用意されている少年たちが実に不思議そうにしている。オユキは正直視界に入れないようにと、意識してそうしているのだが、愉快な量の肉を並べられているアイリスほどではないにせよ、量としては変わる物でもない。そして、オユキだけでなく、アルゼオ公爵もアイリスがそこにいると認識しているが、あまり目線をそちらに向ける事は無い。用意されている量、それはあくまでアイリスの食事の一部でしかなく、無くなれば皿が取り換えられる当たり、小食と評される者達は視界に納めるだけで食事がとれなくなるような有様だ。
野菜は難しいのだが、肉の調達に困る事など何一つない。周囲には中型が大量に、そして少し離れた場所では大型の魔物が闊歩するような環境なのだ。護衛の者達が、近寄る側から切り捨てていくのだが、当然そこには大きさに見合った肉が残される。トロフィーという訳でもないのだが、それにしてもという大きさの肉塊が。

「その辺りは、アベルさんや騎士の方々の領分ですね。」
「途中で抜けた事が悔やまれますね。流石に職務の最中、話をねだるのも。」
「何。国境を超えれば、今度は隣国の戦力も糾合できますからな。それからであれば、余裕もある。」
「加えて、皆さんは此度の事、その報告をそれぞれに、いえ、陛下に纏めた物を作らねばなりませんが、そう言った事もあります。」

この道行き、少年たちはそれぞれに勿論あれこれと言い含められている。

「確かに、移動中は難しいですが、こういった時間が終わった後に、進められるのであれば、進めておくのが良いでしょう。その、戻れば、どなたも皆さんの話を聞きたい、それを隠しませんよ。」
「そうでしょうな。誰も彼も隣国との関係、それをどうするかに振舞わされる。僅かでも情報が欲しいと、其方らも随分とせっつかれるであろうな。」

オユキと先代アルゼオ公爵が断言すれば、ここまでの疲労に上乗せされ、げんなりとどころでは無く勘弁してくれとそう言いたげな表情を浮かべている。

「皆さんの大きな失敗、事今回の件ですね。それぞれに信頼に足る人物の同行を頼まなかった事でしょう。」
「しかし、それは。」
「ここまで来てしまえば、確かに間に合う事はありませんか。こればかりは、我らに全員に陛下からの命として確かに伝えられていたのでな。」

少年達が、己の不足を自覚して人を頼めば良し。しかし、それに気が付いていないと助言をすることは許さないと。何となれば、人員の枠は決まっており、追加を加える事は許さないと、そう言った方向に誘導しろと。少年たちが、彼らの他の友人たちが動いたときに、そう言った指示があるというのはオユキに取っては便利な状況であったため、ただそれを良しとした。カナリアの選んだ同行者、メリル。その存在がある事から、ファルコが気が付くだけの素地は十分だろうと。何となれば、アイリスの側にも二人ほど増えている。王都での狩猟祭、そこでちらりと遠目に見た色は違うが同じ種族と見える相手。そこに幾種類かの獣の特徴を持つ者達。

「ヒントは出しましたよ。」

ファルコから、案とも言えない視線が寄せられるが、それに対してはオユキがにべもなく応える。
準備をしている、忙殺しているファルコにそれとなく、と行った物ではあったが。そもそも、期限前に気が付いてしまい、それを当然とファルコが振舞えばまた話が変わるのだ。ファルコがそれを置こうなうのならと、他の二人もそれを当然と考える可能性がある。今回の事に対すするヒントというのは、彼一人に収まらない。公爵の麾下であるオユキが良しとしない結果が生じる。一応は王命でもある。

「ヒント、ですか。」
「ええ。幾度かお尋ねしましたね。此度の事、本当にファルコ様達だけで、問題はありませんかと。」
「確かに聞かれましたが、しかし、既に私が手を頼んだ二人は。他の者達にしても。」
「ほう。最低限の考えはあったか。」
「幾度か聞かれれば、私とて周りから見て不安があるのだと理解が出来ます。オユキ殿から言われたこともあります。しかし、頼める手は既に他を頼んでいましたから。」

ファルコとしては気が付いていた。そのように言葉が返ってくる。

「現状足りない、不足がある。ならば他で補填をせねばと、そのような話もしましたね。」
「しかし、こうした難しい事に同行を頼むのであれば。」
「マリーア公爵に頼めば、それで解決しましたよ。」

そして、オユキからはこの少年の頭から抜けていたあまりに当然の選択肢を投げかける。
確かに国王陛下その人から、思惑と共に勅命を与えられている。それを受けて、ファルコと他の二人も家から指示をされている。そして、その前提があるからこそ、勅命を軽んじない、背後にあるものが理解できると考えられている者達が選ばれた結果として、自主性に任せた。国王から、本来であればこれまでは声をかけられるもなかった年ごろの者達が、変わる情勢に合わせて仕事を任されている。その栄誉を思えばこそ、それに瑕疵は作れぬと縛られた者達からは言い出せない。しかし、頼まれたのなら、そこで言い訳が出来る。勅命を与えた者達が、己の不足を理解したうえで、その補填を頼んだのだと。未だ経験の少ない者達が、勅命という言葉の重さに耐えられず助けを求めてきたと。手をとり合う事を否定せぬ世界であればこそ、そこには簡単な言い訳が作れる。ましてや、家の中。外部に情報が漏れる様な分かりやすい失敗もそこには存在しない。

「しかし、御爺様は、私が行うようにと。」
「ええ。ですから、ファルコさんが助けが必要だと決め、それを頼めば。」

そう話せば、ファルコだけでなく、少年二人そろって頭を抱えるものだ。

「お三方とも、こうして話せば理解できるだけの素地があるようで、重畳。」
「どうにも。」
「ええ。その辺りの部分を、先代アルゼオ公爵の縁者の方に頼むことになります。」

そして、可能な事を行えなかった結果は、勿論これまで散々準備を、下積みを続けてきた人物が一切を引き受ける事になる。オユキのその言葉を実に楽し気に聞いているその姿で分かるように、その程度では揺るぎもしないと、実に分かりやす自身が伺える。そうしてこのあたりの結果も踏まえた上で、アルゼオ公爵という名がより盤石となるのだ。

「それはそれとして。」

それぞれに疲労を貯めていることもあり、食事を勧める手は遅い。

「アイリスさんも、体調がも出られたようですし、改めてご紹介を頂きたいものですが。」

始まりの町に戻れば、ここまでの道中、離れる気はないと、側にいるのが当然とそういった振る舞いを見せている相手がいるのだ。アイリス用の屋敷はどうした所で用意が遅れると聞いていることもあり、一つ屋根の下で暮らすオユキとしては、増える顔ぶれの話くらいは聞きたいとそう考えはするのだが。

「落ち着いてから、其の方があなたにもいいでしょう。」
「つまり、そう言った素性の相手ですか。」
「同じ部族からの二人はそうね。他の二人は、貴方の側についている相手がある程度知っているわよ。」
「角の形状が違いましたが。」

アモン角と呼ばれる、実に分かりやすい特徴を持つ相手が一人。そして螺旋角を持つ者が。

「私たちよりも詳しいと思うわよ。どうした所で、私たちからしてみれば別の種族だもの。」
「その、そばに置く相手と話をしたりは。」
「どういえばいいのかしら。」

オユキの疑念についてはアイリスも首をかしげるばかり。

「何と言いますか、それが種族の特性なのでしょうか。」
「それ以外、言いようが無いわね。」

そもそも、オユキと同じく。それ以上に気を遣うべき相手がアイリスだ。その側にふらりと現れた相手を、当然として受け入れる。その異常性というのは、こうして確認してみれば、誰もが認識するのだが。

「まぁ、いいんじゃないかしら。」
「食料の消費、位ではありますが。」
「何といえばよいのか。難しい種族なのですよ。」
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