憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

身内では

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「アイリスさんも、大分回復されましたね。」
「異邦、その過程を得ていないと、やはり遠いという事だと思うけれど。」
「そもそも、私たちの伝承であったり、そこからの影響をというお話でしたし。」

後二週もあれば国境、勿論明確な物は用意等されていないが、最も新しい拠点、そこにたどり着く。そのような位置で、先代公爵の伝手を頼んでいる屋敷、そこに慣れた顔が集まっている。ここまでの道中、アイリスに至っては、いよいよ馬車から顔を出すことも少なかった。その原因は、先の新年祭で祖霊を単独で降ろしたから。加えて、オユキが早々に辞した後、負担を主に受けたのがアイリスとなったからだ。結果として、以前よりもさらに毛並みがあれ、所々脱毛症と呼んでもいいような有様になっていた。

「なんにせよ、いよいよ国境を超えます。」
「今更、護衛体制の確認か。」
「いえ、勿論、あちらで何を為すのか、その共有をと思いまして。」

領都以降、旅路は実に順調に進んだ。
アルゼオ公爵の仕掛けに対し、観光を邪魔する事については、交渉の材料とする気はない。そうオユキが早々に示したこともある。それを使って、補填をしなければならない事があったとして。優先順位は何処までも定まっているからと。

「また、何か企んでいるのか。」
「企みという程ではありません。アベル様には、既にある程度お話ししていますし。」

それこそ、先代公爵とあれこれと確認した場には、アベルもいたのだ。しかし。

「ああ、それか。アイリスがいなかったからな。一応、俺が説明はしたが。」
「聞いているわよ。ただ、直ぐにという訳でも無いでしょう。」
「いえ、分配などもありますから。」
「任せるわ。」

アイリスの同行は、いよいよ門に関連してというよりも、諸事情によりとしか言えない。だからこそ、本人としてはそこから生まれる利益をどうする気も無いのだろうが。

「では、アベルさんに。」
「そうするしかないってのは、分かっちゃいるが。」
「ニーナさんからは。」
「アベル様も、それなりに慣れた方を今回用意されていますので。」
「では、まぁ、巫女二人。折半としましょう。」

しかし、オユキはそこで只と続ける。

「私どもにしても、正直な所。」
「その辺りはカナリアさんに手を借りるしかありませんね。既に、邸内に相応の魔道具があるとのことでしたから、入れ替えにしても、設置にしても。」

恐らく、ではない。先方から対価として得られる分かりやすいもの、それについては現状、そこまでを求めていない。オユキは確かにそういった技術による産物を好むが、好奇心のままに調べられぬ様な最先端技術をいきなりと言われても困るのだ。そのような物は、流石になにも理解できない。解説を求める人員も、難しいだろう。カナリアにしても、離れて相応の期間と分かるのだ。そして、預けられるであろう人員は、それなりに先の話。そちらばかりに話を願うというのも、また難しい。

「つまるところ、こう手ごろなと言いますか。」
「それこそ公爵か陛下に丸投げかと考えていたが。」
「ある程度の方向性くらいは、決めねばならないでしょうから。ただ、そちらは置いておきまして。」

そう、それを話すにも、前提を詰めなければならない。

「長くとも2週。それ以上の滞在を今回するつもりはありません。」
「一月くらいはと、そうは思うが。ファルコ達にしても、そこまで直ぐにというのは。」
「利点はあります。こちらは、既にそれを当然として組み込むことができるのだと。」
「実際には、荷物の後送があるだろ。いや、そこまでを考えてか。」
「はい。」

いつもの顔に加えて、カレンとファルコもこの場にいる。そして、オユキが頷けば、ただカレンが俯く。

「どうか誤解のなきように。カレンさんが仕事ができる、その状況を整えられない私の問題です。」

オユキが軽視していたという事もある。そして、王都でその辺りが顕在化した。
家長の意向を聞こうと、カレンに対して接触が試みられた結果として、オユキとマリーア公爵に係る負担が増えたのだ。裁量権というのは、確かにカレンにも存在する。しかし、そこから生まれる結果というものを考えたときに、彼女だけで判断していい事など、ほとんどないのだ。何より、使えている家が四年もすればなくなるかもしれない。では、先々を考えてなどという話を持ち込まれたカレンは、どうする事も出来ようはずもない。語れる場は限られていた。恐らく、既に知っている者以外には伝わらない。理由の説明も出来ず、直近での事だけに絞ってカレンが話しをするとなれば、そこでは要らぬ騒ぎが起こる。

「いえ、力、及ばず。」
「いえ、こちらの貴族家の在り方を考えれば、大前提となる部分を共有できないわけです。前提が違うというのに、それが話せぬ。それでは交渉も始まりませんから。」

そして、そう言った始末に追われるカレンは、結局他に時間を割くことが難しくなった。荷物を運ぶ者達として、アマリーアを頼ったと聞いている。一度だけの事になってしまった行商人、ホセが指揮を執って、王都から領都まで荷物を運ぶと、結論だけは聞いている。カレンは王都でその手配に奔走していたのだ。文字通り、王都中を駆けまわって。冗談じみた広さの王都、その移動には数日を要することとてままある。
そんな事をしていれば、現状に対応するだけで手が埋まる。そればかりは仕方が無いと、オユキも納得している。

「何より、妙に贈り物の類が多かったので。」
「あのな。」
「こっちに戻ってきた騎士達と、それから祝祷もしたじゃない。」
「前者は職務に対して、後者は纏めてと、お披露目でしかありませんでしたが。」
「面子があるんだよ。」

アベルのため息交じりの言葉に、しかしオユキとしては首をかしげてしまう。

「いえ、簡単に目は通しましたが。」
「騎士として家から出ている、忠誠は王家に。それはそうなんだが。」
「礼品にしては、あまりに過剰ではないかと。」
「功績なんて、生涯得られないものがほとんどだからな、言っとくが。」
「あの子たちにしても、如何に扱うかを知っていましたし。」
「持祭の位を持ってるだろ、あいつらにしても。」

どうにも、話の風向きが良くないと、オユキは一度咳払いをして話を切る。

「事程左様に、私どもに由のある事であり、お力添えを頂いている、それが事実。不足があれど、やむなしと。」

どうした所で人手が足りていない。

「ですので、一先ずの選択を。それと、今後を考えてある程度有利な立場というのを作らねばなりませんし。」
「まぁ、言いたいことはわかるが。」
「少なくとも、隣国から、こちらに。それだけは確約を得なければなりませんからね。」

どちらが先に、相手を訪うのか。それが実際に意味を持つ状況でもある。そして、これについてはアルゼオ公爵の協力は積極的に得られるものではない。事これに関しては、アルゼオ公爵は隣国からこれまでの経験をもとに、交渉を、配慮を求められる。オユキ達がそう振舞うと分かれば、バランスを取るために向こうに回る事だろう。

「ただ、そうなるとなぁ。」

そして、アベルが随分と難しい顔を。

「アイリスさんについては、流石に交渉に使う気はありませんが。いえ、本人がというのなら。」
「流石に私も次は間を空けたいわよ。次の祭りは、社も置いた以上、始まりの町は整えなければいけないもの。」
「であれば、そのように。」
「いや、そっちじゃなくてな。」

オユキが、大きな懸念はそれくらいではないのかと話を進めていると、それにアベルがため息交じりに。

「陛下が門を使う時期がな。」
「ああ。」

試しとして、始まりの町に戻る少年たちがまずはと使ったが。そこで安全が確保されれば、次は国王陛下その人が使って見せなければならない。

「そう言えば、当初は。」
「それこそ魔国に、そんな話があったんだがな。」
「私としては、てっきり始まりの町に行かれるものと。」

橋も出来る訳ではある。視察の理由には実にちょうどいいだろうと。

「そうなると、嬢ちゃんの負担が過剰になるし、マリーア公爵へ特にとなるからな。」
「そればかりは、どうにもならないかと思いますが。今後は各地の教会で、恐らく門が置かれていくかとは思いますが。」
「今回の事があれば、それで各地に陛下がとなる。それは流石に。」
「行幸とすれば、良い気分転換になるかと。」

仕事を押し付けようとばかりしているわけでは無く、多少の配慮はそこにあるのだぞと。

「それに、私たちが居らず連絡も難しい状況です。ミズキリが働きかけて、河沿いの町の視察には向かう流れを作っているはずですから。」
「お前らは、本当に。」

現状はまだミズキリが領を得るのに、この国の中であれば承認を得ておいて損はない。

「実際には、大河にかかる橋、その中程をミズキリが求めるでしょうが。」
「それ、実際にはどんなもんだと考えてるんだ。橋の上では、不足が多すぎるだろ。」
「正直、心当たりがありません。実際の川幅も正確に把握できていませんし。恐らく島と言いましょうか。中洲のような物が出来るだろうとは考えているのですが。」

橋を架けるにしても、現状では海を超える様なそれを作らなければならないような有様だ。それではやはり負担が過剰になる。避けようと思えば、川の中にいくつかの陸地が新たに出来たほうが、何かと楽になる。

「複数とするのか、一つの大きな物となるのか。ミズキリの望み次第、そうなるでしょう。」
「本当に、あいつもあいつで好き放題。」
「いえ、そうなるのは実際にミズキリの拠点が出来てからでしょう。」
「おい。」
「その、基本的にそれぞれ好きに動いているでしょうが。」
「元々の取りまとめ役が拠点を創れば、顔を出すし、そこに根を下ろすことも考えるか。」

アベルの溜息は、ただただ重い。

「ええと、また話が逸れましたね。とにもかくにも、私たちの目標は、早々に暇を乞う。あちらの陛下と王妃様を、神国にお招きする、その二点です。」
「後者はアルゼオ公も間違いなくそう動くだろう。成程、そっちに交渉用の札を渡すためにも早々にか。」

そう、為すべきを為し、その後は休暇と嘯いて。

「ですが、それではオユキ様の能力を不安視する者達が。」
「それはそれで構いません。他の方が出来るのであれば、願っても無い事です。」

いくら不安視しようが、他にいないからオユキとトモエに鉢が回ってきているに過ぎない。
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