憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

早々と

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「まぁ、予定通りではありますから。」

現アルゼオ公爵とは、遺恨を残す形にはなるが早々に領都を後にした。明けて翌日、朝から出立という形で。
それこそ布告や多少の準備、根回しを行っていただろうが、そう言った一切を気にかけずに。

「それはそうなのでしょうが。」

そして、少々強硬なその姿勢に、ファルコから思うところがとばかりに、こうして昼食の席で意図の確認をされている。他の多くの者は理解しているため、そちらから説明があるだろうと、オユキは踏んでいたが、齟齬があってはと考えての事でもあるのだろう。

「端的に申し上げれば、今回の事が今後の前提となるから、ですね。」
「今後の前提ですか。」
「はい。」

少々後回しになっている彼の同行者二人に、オユキから視線を投げるがそちらも思い当たらぬとそういった様子でもある。

「ですが、先に。」
「ああ。これは失礼を。」

事前に同行者としての紹介は受けている。しかし本人たちからというのは、未だに受けていない。

「改めて、今回陛下より私同様に任を頂いた二人です。
 マリアーノ・カマラ・ヒメネス。それと、フアン・ホアキン・ロハス。
 マリアーノ、フアン。こちらがオユキ・ファンタズマ子爵だ。」

ファルコの紹介に合わせて少年2人が頭を下げるのを、オユキはただ鷹揚に受ける。今となっては家督を持っている身でもある。流石に、それを持たぬ相手に対しての振る舞いというのも変えなければならない。トモエはアルノー、サキと並んで簡易に作られた炊事場に立っているため、この場にはいない。しかし、そう言った物を気にする相手、ファルコも含めた3人と、オユキの評価をしっかりと持ち帰るための人員の目というのもある。

「お二人は、道中機会があればとはしましょう。すっかりと話が変わったため、戸惑う事も多いでしょうが。」
「いいえ、オユキ子爵。有難くも陛下より直接頂いた任です。」
「戸惑いが無いと言えば、まぁ嘘になりますが。」
「そればかりは、そういうものでしょうとも。」

本来であれば、今頃は始まりの町に向かって移動している頃ではあったのだ。それが、国から、それぞれの家から散々に含みを持たされ、何となれば手紙の類も預けられて隣国へと。大人達ですら、何が起こっているのかと慌てふためいているのだ。より経験に乏しい相手であれば、猶の事ではあろう。

「昼食の後にでも、少し体を動かせればと思いますが。」

生憎と、既に相応に人里から離れているため、魔物の相手などという事はさせられないが。

「さて、話を戻しますが。私共は、今後も移動を繰り返すわけです。そして、今回アルゼオ公爵領で使った時間、それ以下と他の領をしたときに、どのようにとられる物でしょう。」
「それは、良い気はしないでしょう。」
「既に何某かの関係性があれば、話も変わっては来ますが、現在はそうではありませんから。」

そして、それをさして、マリーア公爵の配慮とオユキは呼んでいる。
どうした所で、手紙のやり取り程度はある程度生まれているし、レジス侯爵、ラスト子爵家を始め、他にもいくつか断れぬと判断した所は、顔を合わせて位の事は行っている。しかし、それ以上が無い。オユキにしても、今後の移動の際にと相手がそのような話と取れるようなところを持ち出せば、それに応える事は無い。オユキが気が付かぬものは、公爵夫人が全てあしらっている。

「今後の移動の日程、相応に急がねばならぬ訳です。やはり、あまり各地で時間は取れません。」

そもそも移動に期限が存在する。選択の機会を打ち捨てれば、話は変わるが、オユキとトモエにそのつもりが無い。仮にそのような物があれば、ミズキリが見逃してなどいない。前倒し、それを決める前に話し合いの場をと、必ずそう言い出している。既に動かない事であるからこそ、計画を新しくしているのだ。

「しかし、簡単にしか聞いていませんが。」
「いえ、今後については、また別の方法でとなります。今回の事は、アルゼオ公爵に対して配慮を行う、その余地を残すためにとしたことですから。」
「配慮、ですか。」
「門だけであればともかく、橋もありますから。」

ミズキリという人間が意に介さない。だからこそ、オユキが。昔と変わらぬものがそこにある。

「それこそ門だけであれば、釣り合いの取り方はまだあるのです。どうした所で、多くの者を運ぶためには費用がかさむわけですから。しかし、隣国との間をつなぐ橋は違います。地理関係は今一つ理解が及んでいませんが、これまで占有できていたものに選択肢が生まれたわけです。」

そして、ここまでの話の中で、より隣国の王都に近いのが橋だと、それは嫌でも理解が及んでいる。
王都でも、公爵家の本邸とされている場所には、連日人が足を運んでいたのだ。

「失われる物。流石にそればかりはどうにもなりませんが、補填が叶うのなら。その程度は考えますから。」
「それは、わざわざファンタズマ子爵が行わずとも。」

フアンから、そのように言われる。他の多くの者にしても、こうしてオユキが話すのを聞いている相手の多くが、それは抱え込みすぎではと、そのように考えている事だろう。

「では、他にどなたが行うのでしょうか。」
「それこそ、御爺様が。」
「マリーア公は、それを行いません。理由がありませんから。」
「では、陛下が。」
「先の宣言があります。」

公爵麾下であるオユキが持ち込んだ出来事、上役でもある、寄り親でもあるマリーア公爵が第一の交渉相手と見える。それについては間違いがない。しかし、今度ばかりはそのマリーア公爵領が隣国との新たな道を得るのだ。隣国との関係については、そもそも決定権は国にある。国同士でしか交渉が出来ぬ事などいくらでもあるのだから。そこにマリーア公爵が割って入れない以上、配慮を行う等とは言えない。そして、間違いなく自領の利益になる事柄を、手放す理由もない。
国王その人にしても、一度関係性の整理をすると、そう言った決定を下している以上、概要が決まるだろう期間。手を加えるのなら、此処しかないという時期に、舵が取れない。まずは立場を決めよと、良く年以降の在り方を定めよと、どうなるともわからぬ中でまずは決めさせ、その決定を待った上で関係性の構築を考えていくことだろう。

「あくまで予想ではありますが、そうずれているわけでもないでしょう。事実として、こういった状況であれば取るだろう、そう言った選択をされましたからね。」
「先代アルゼオ公爵は。」
「予想の上で止めていないだけでしょう。」

そうするだけの理由がある。親子の情などというものより、後任に対してよりも優先すべき事柄が。

「それは、切り捨てたと。」
「いえ、そればかりという訳でもありません。」

一つの側面としての事実は、それだ。

「試し半分、というところです。」
「この状況下で、ですか。」
「この状況下だからこそ、ですね。先代アルゼオ公爵も交えて、答え合わせと参りましょうか。」

そして、食事を待つ者達の場となれば、そこには合流してくる顔もある。

「先に紹介をお願いしたいものですな。」
「これは、失礼いたしました。」

オユキがかけた声に、今気が付いたと言わんばかりに声のする方向に少年たちが顔を動かす。そんな様子を見ながらも、一先ず紹介すれば先代公爵が夫人を伴って席に着く。では早速とオユキはそうしたいものではあるが、まずは少年たちに向けて。

「今は壁の外です。如何に信頼できる守りが有ろうとも、周囲への警戒を怠ってよいわけもありません。」
「それは、その、申し訳なく。」
「任せたからと、己がやらなくても良い。その差異は各々聞かされてもいるでしょう。」

仕事を任せた。己が出来ぬ事を他人に。だからと言って、それを行った人間が、確認をしなくても良いという訳でもない。勿論、それでは結局任せたところで仕事が減らないと、そう言う事になるがそれを避けるには、今度は完全に任せても良い人員を自分で置いたのかと、そう言う話になる。仮にそこに不足があり、己の責任となるとして。それでも任せても良いという人材がいるのかと。

「後は、やはりこういった場でどのように振舞うのか、それを学ぶように共言われているでしょうから。休む時間としては、常と変わらず、夜、眠る時間とそう考えておくのが良いでしょう。」
「なかなか、厳しい教えですな。そのようにはとても。」
「この場は、それぞれの命がかかっています。私たちの大きな判断の誤りがあれば、怪我を負われる可能性があります。」
「そうでしたね。守られる以上は、守りやすいように。」
「ええ、ファルコ様は、数度の経験もありますから。」
「確かに、完全に気を抜かれている状況というのも、困りはしますね。」

王都、始まりの町、そこでいよいよ初めて町の外に出る相手を伴った事があるファルコに向けて。

「さて、話が逸れてしまいましたね。」

そして、少年たちがそれぞれに納得が出来たように頷いたところで。

「王都で、私どもから先代アルゼオ公爵には時間を頂きました。つまり、交渉が可能な場は既にあるわけです。特にマリーア公爵領、川沿いの町にこれから配置する人員を考えるときには有効な。」
「卿等も、含みを持たされているのではないかな。」

アルゼオ公爵が余所は正しい、そう取ってもらっても問題が無いとオユキの意見を後押しする。
ただ、今一つ要領を得ないといった様子ではあるが。

「現アルゼオ公爵。この人物に対して能力に私が不安を覚えれば、先代アルゼオ公爵を頼みます。不安が無ければ、では、既に話が進んだものを、そのように。」
「しかし、決裂という事も。」
「隣国との関係を語るうえで、アルゼオ公爵家は外せません。勿論、他にも、特に現在最も近い領もそうではありますが。」

どちらに転んだとして、先代アルゼオ公爵としては損がない。

「皆さんに向けた物と変わりません。練習の場があるから、それを使って。それだけですよ。」
「そうですな。仮にこちらの思う以上があれば良し、無いのなら、それまでの用意で対応を。」
「これ一つという訳でもありませんが、アルゼオ公爵領として最も優先するべきは、やはりこれまで培ってきた物、それをどのように使うか、ですから。現アルゼオ公爵にしても、他に方法が思いつかないから、そうしただけですし。」
「お気づきでしたか。」
「私どもはともかく、本気でという事であれば、近衛の方が許しませんよ。」

本音というのも、一つの事実ではあるが。そこでオユキとトモエからさらなる譲歩を引き出せれば良し、それが出来なければ、当初の予定通りの結果として。
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